第8話
ー/ー「それが、この帳面とどう関係するんだ」
「えっと……なんて言っていいのかな」
笠木はしばし黙って考えてから、続けた。
「サイコロの話、続けるんだけど。数学の問題と、私たちが実際にサイコロを振る状況っていうのは、全然違う。それでも、実際に何回も振っていると六分の一っていう確率に近い数字が得られるんだって」
「ふうん……」
「サイコロなんかよりも複雑な人間の行動を完全に予測してしまうなんて、不可能だと思う。できるのかもしれないけど。でも、できる予測……こうなるって言いきれるギリギリのラインが、この人はこの日に死ぬ、っていうところまでなんじゃないかって。それも、その人が当初の予測通り、特別なことをせずに過ごした場合の予測で」
「ギリギリのライン、か」
俺は自分の名前が書かれたページを開いた。俺たちをその気にさせてしまっている、憎らしい死の予言だ。
「俺は……いや、俺だけじゃなくて、林間学校に行く俺たちの学年の連中は、このまま七月の二十六日を迎えたら、死ぬ確率が極めて高い、って言いたいんだな? 笠木は、そう思うんだよな?」
「うん。……これに書いてあることが、本当なら」
「本当なら、な」
今更なことではあるが、それがもっとも単純かつ重要なことだった。この帳面に書かれている死の予言を信じるのかどうか。
この数字通りに鈴木が死んだのは偶然で、俺たちは大袈裟になりすぎているのかもしれない。俺たちの名前が書いてあるのは、誰かの手の込んだいたずらで、まんまと躍らされているのかもしれない。そういう可能性だってある。
考えていると、虚しくなってきた。これは全て偶然の出来事だ、そういうことも起こるかもしれない、と考えることは、この帳面の肯定にしか繋がらない。
人の寿命を告げる謎の帳面だって、存在しない可能性がないとは言いきれないのだから。
「でも、どうすればいいんだ。これがあるってことは俺と笠木と……肝試しに行った連中しか知らない。お前は真面目に聞いてくれたけど、他のヤツが信じるわけない。山田や佐藤だって、俺たちが鈴木の死を利用して悪ふざけしてるようにしか聞こえないだろ」
「うん。……そうだろうね。だから、これについては、私たちだけの話にしておいたほうがいいと思う」
そう言ってから、笠木は顔を曇らせた。
「北くんは、どうするの……?」
「どうするって?」
「……私は、林間学校に行かないほうがいいと思うんだけど」
「そうだろうな。死ぬかもしれないんだから」
「そうだよ」
「笠木が俺の立場だったら、行くの止める? みんなが死ぬかもしれないわけだけど、自分だけは生きられるかもしれないってのに賭ける?」
「ずるいよ、そういう聞き方。じゃあ、北くんは? ひとりだけでも生き残れるかもしれない、そういう可能性があるのに、引き留めたりしないでいられるの?」
言われて、黙るしかなかった。笠木の言う通りだった。
しかし、自分だけが生き残るというのも、違和感がある。周囲を出し抜くような感じがして、気持ちはよくない。
「俺が、わざと集合に遅刻して出発時間を遅らせるとか。そうすれば予定はズレて、事故を回避できたりしないか?」
「うーん……。この帳簿に書いてあることが、北くんのそういう行動も踏まえたことかもしれない可能性はあるから……」
「そうだよな。……そもそも、バスが事故るとも決まってないし、分からないんだ」
「うん。……一番確実なのは、サボっちゃうとか、行かないことだと思うけど。ここに書かれている人と行動を共にする限り、危険じゃないかな」
「でも。俺が休んだとしてもさ、みんなが死んだときに、俺もなにか同時に事故に遭って死ぬかもしれないわけだろう?」
「そうだとしても、なにもしないよりはマシじゃない? 死なない――助かるかもしれないんだから」
俺は頷いた。それから、考えた。
佐藤や山田にも教えられない。友人たちを見殺しにして、俺だけが生き残る。それがどういうことか、想像しようとした。
考えても、分からない。いいことなのか、悪いことなのかも。都合よく全員が死なずに済む方法は、恐らくないだろう。
俺は言った。
「一応、林間学校までは時間あるし。それまでにどうするか、考えるよ」
「えっと……なんて言っていいのかな」
笠木はしばし黙って考えてから、続けた。
「サイコロの話、続けるんだけど。数学の問題と、私たちが実際にサイコロを振る状況っていうのは、全然違う。それでも、実際に何回も振っていると六分の一っていう確率に近い数字が得られるんだって」
「ふうん……」
「サイコロなんかよりも複雑な人間の行動を完全に予測してしまうなんて、不可能だと思う。できるのかもしれないけど。でも、できる予測……こうなるって言いきれるギリギリのラインが、この人はこの日に死ぬ、っていうところまでなんじゃないかって。それも、その人が当初の予測通り、特別なことをせずに過ごした場合の予測で」
「ギリギリのライン、か」
俺は自分の名前が書かれたページを開いた。俺たちをその気にさせてしまっている、憎らしい死の予言だ。
「俺は……いや、俺だけじゃなくて、林間学校に行く俺たちの学年の連中は、このまま七月の二十六日を迎えたら、死ぬ確率が極めて高い、って言いたいんだな? 笠木は、そう思うんだよな?」
「うん。……これに書いてあることが、本当なら」
「本当なら、な」
今更なことではあるが、それがもっとも単純かつ重要なことだった。この帳面に書かれている死の予言を信じるのかどうか。
この数字通りに鈴木が死んだのは偶然で、俺たちは大袈裟になりすぎているのかもしれない。俺たちの名前が書いてあるのは、誰かの手の込んだいたずらで、まんまと躍らされているのかもしれない。そういう可能性だってある。
考えていると、虚しくなってきた。これは全て偶然の出来事だ、そういうことも起こるかもしれない、と考えることは、この帳面の肯定にしか繋がらない。
人の寿命を告げる謎の帳面だって、存在しない可能性がないとは言いきれないのだから。
「でも、どうすればいいんだ。これがあるってことは俺と笠木と……肝試しに行った連中しか知らない。お前は真面目に聞いてくれたけど、他のヤツが信じるわけない。山田や佐藤だって、俺たちが鈴木の死を利用して悪ふざけしてるようにしか聞こえないだろ」
「うん。……そうだろうね。だから、これについては、私たちだけの話にしておいたほうがいいと思う」
そう言ってから、笠木は顔を曇らせた。
「北くんは、どうするの……?」
「どうするって?」
「……私は、林間学校に行かないほうがいいと思うんだけど」
「そうだろうな。死ぬかもしれないんだから」
「そうだよ」
「笠木が俺の立場だったら、行くの止める? みんなが死ぬかもしれないわけだけど、自分だけは生きられるかもしれないってのに賭ける?」
「ずるいよ、そういう聞き方。じゃあ、北くんは? ひとりだけでも生き残れるかもしれない、そういう可能性があるのに、引き留めたりしないでいられるの?」
言われて、黙るしかなかった。笠木の言う通りだった。
しかし、自分だけが生き残るというのも、違和感がある。周囲を出し抜くような感じがして、気持ちはよくない。
「俺が、わざと集合に遅刻して出発時間を遅らせるとか。そうすれば予定はズレて、事故を回避できたりしないか?」
「うーん……。この帳簿に書いてあることが、北くんのそういう行動も踏まえたことかもしれない可能性はあるから……」
「そうだよな。……そもそも、バスが事故るとも決まってないし、分からないんだ」
「うん。……一番確実なのは、サボっちゃうとか、行かないことだと思うけど。ここに書かれている人と行動を共にする限り、危険じゃないかな」
「でも。俺が休んだとしてもさ、みんなが死んだときに、俺もなにか同時に事故に遭って死ぬかもしれないわけだろう?」
「そうだとしても、なにもしないよりはマシじゃない? 死なない――助かるかもしれないんだから」
俺は頷いた。それから、考えた。
佐藤や山田にも教えられない。友人たちを見殺しにして、俺だけが生き残る。それがどういうことか、想像しようとした。
考えても、分からない。いいことなのか、悪いことなのかも。都合よく全員が死なずに済む方法は、恐らくないだろう。
俺は言った。
「一応、林間学校までは時間あるし。それまでにどうするか、考えるよ」
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