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第2話

ー/ー



 俺たちは六人一塊になって、歩道をのんびり歩いていた。振り返ると、公園の提灯飾りがもう見えないところまでやってきている。

「つか、もう一学期終わりとか、あり得ねえって! 早すぎじゃね!?」

 夜の道は、よく声が響く。それでも構わずにずっと口を動かしているのは、お調子者の鈴木だ。それに適当に合わせて喋っているのが佐藤と山田。そしてなぜかついてきた女子の伊藤。女子はもうひとり、伊藤と一緒に祭に来ていた笠木というのがいる。彼女は伊藤から離れ、俺の後ろを歩いていた。

 高校生の男四人、女二人。だがまだ時刻は夜の八時を過ぎたくらいで、警察に補導されるような時間ではない。

 あくびを噛み殺しながら歩いていると、不意に鈴木がこちらを振り向いて言ってきた。

「ハッチャン知らねーの? 裏山の廃神社がどんなのか」
「知らないよ」

 首を振る。それから、道の先に見える竹藪を認めた。俺たちはこれから、そこに入っていくことになっている。せっかく六人もメンツがあってそのまま帰るんじゃつまらないから、肝試しでもしよう、という鈴木の提案だった。

 意外にも女子二人はあっさりオーケーして、ほいほいついてきた。むしろ、近くの山の中に廃神社があり、有名な心霊スポットだという情報をくれたのが伊藤だった。
 と、その伊藤が言う。

「有名だよ? 隣のクラスの子とか、彼氏と行って幽霊見たって! なんか賽銭箱が呪われてて、お金入れると死んじゃうんだって」
「嘘くせえー! なんで金入れたのに死ぬんだよ」

 鈴木はケラケラと笑っていた。確かに、呪われた賽銭箱というのはなんだか笑える。
 後ろを振り返ると、笠木も笑っていた。それを見て、なんとなく声を掛けてしまった。

「賽銭が安すぎると死ぬってことか?」
「そうかも。心の狭い神さまなのかな」

 だとすれば、いくら以下なら死ぬ羽目になるのか。行ってみて賽銭箱があれば、各自で適当に試してみるのも面白いかもしれない。

 そんなことを考えていると、竹藪の前まで来ていた。全く道がないかと言えばそうでもなく、一列になれば通れそうなくらいに草むらが開けている場所がある。恐らく、多くの先客たちが切り拓いた道だろう。
 人目がないか周囲を確認して、金網のフェンスに空いている穴を順番にくぐる。道から目が届かないくらいに奥へ少し進んでから、鈴木が言った。

「誰か懐中電灯とかねえの?」
「あ、私、こういうのなら持ってるけど」

 言って、笠木が取り出したのはペンライトだった。点けてみると、一歩先くらいは照らすぐらいの光量がある。
 竹藪の中は月の光も届かず、当然他の明かりもない。ほとんど真っ暗だ。一メートルも離れれば、互いの顔もぼんやりとしか確認できない。

「じゃあ、それハッチャンが持ってよ。で、ハッチャン先頭な」
「なんで俺?」
「言わせんなって空手部期待の星! なんか出てもぶっ倒してくれよ」
「別にいいけど。ライトは俺、いらないわ。目慣れてきたら結構見えるし」

 答えてから、伊藤に聞いた。

「どこにあんの? 神社って」
「普通に進んでいったらあるみたいだよ。道になってるって」
「そうか。じゃあ、行くか」

 と、一歩を踏み出した、その時だった。

「ぎゃあ!」

 佐藤が悲鳴を上げた。なにごとかと皆が彼のほうを見ると、

「クモ! クモの巣が!」

 顔の周りを手で払いながら、まだ悲鳴を上げている。それを見て、山田がくすくす笑いながら言った。

「あんまり大声出すなって。大人とかに見つかったら面倒だろ」
「分かってるけど! ちょ、マジどっかクモ止まってない? ヤバいって」
「いないいない。早く行こうぜ。呪いの賽銭箱見に」

 そして今度こそ歩き出した。
 目が慣れると、竹藪は単なる竹藪でないことがところどころに見えるようになった。石垣が崩れたようなものがあったり、緩やかな斜面には石と木で階段のようなものの残骸が残っていたりと、今歩いている敷地がすでに神社の敷地内であることを窺わせた。

 竹藪の中は静かで、たまにさらさらと風にそよぐ葉の音が聞こえるくらいだ。人の気配は感じず、他に肝試しに来た人というのもいないらしい。

 と、急な斜面に差し掛かった。周囲の竹藪に木が混じりはじめ、どうやらこれを上った先に廃神社がありそうな予感がある。
 俺は振り向いた。

「この先っぽいな。行く?」
「ここまで来たんだから当然っしょ? つか、ハッチャン止まると蚊がヤバいから」

 鈴木は手足を叩きながら言う。女子二人は、最後尾でライトを持っていた。鈴木が渡したのか、案外優しいところがある。
 言われた通り、立ち止まるとヤブ蚊が襲撃してくる。結局鈴木以外の返事を待たず、俺は前に進んだ。



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 俺たちは六人一塊になって、歩道をのんびり歩いていた。振り返ると、公園の提灯飾りがもう見えないところまでやってきている。
「つか、もう一学期終わりとか、あり得ねえって! 早すぎじゃね!?」
 夜の道は、よく声が響く。それでも構わずにずっと口を動かしているのは、お調子者の鈴木だ。それに適当に合わせて喋っているのが佐藤と山田。そしてなぜかついてきた女子の伊藤。女子はもうひとり、伊藤と一緒に祭に来ていた笠木というのがいる。彼女は伊藤から離れ、俺の後ろを歩いていた。
 高校生の男四人、女二人。だがまだ時刻は夜の八時を過ぎたくらいで、警察に補導されるような時間ではない。
 あくびを噛み殺しながら歩いていると、不意に鈴木がこちらを振り向いて言ってきた。
「ハッチャン知らねーの? 裏山の廃神社がどんなのか」
「知らないよ」
 首を振る。それから、道の先に見える竹藪を認めた。俺たちはこれから、そこに入っていくことになっている。せっかく六人もメンツがあってそのまま帰るんじゃつまらないから、肝試しでもしよう、という鈴木の提案だった。
 意外にも女子二人はあっさりオーケーして、ほいほいついてきた。むしろ、近くの山の中に廃神社があり、有名な心霊スポットだという情報をくれたのが伊藤だった。
 と、その伊藤が言う。
「有名だよ? 隣のクラスの子とか、彼氏と行って幽霊見たって! なんか賽銭箱が呪われてて、お金入れると死んじゃうんだって」
「嘘くせえー! なんで金入れたのに死ぬんだよ」
 鈴木はケラケラと笑っていた。確かに、呪われた賽銭箱というのはなんだか笑える。
 後ろを振り返ると、笠木も笑っていた。それを見て、なんとなく声を掛けてしまった。
「賽銭が安すぎると死ぬってことか?」
「そうかも。心の狭い神さまなのかな」
 だとすれば、いくら以下なら死ぬ羽目になるのか。行ってみて賽銭箱があれば、各自で適当に試してみるのも面白いかもしれない。
 そんなことを考えていると、竹藪の前まで来ていた。全く道がないかと言えばそうでもなく、一列になれば通れそうなくらいに草むらが開けている場所がある。恐らく、多くの先客たちが切り拓いた道だろう。
 人目がないか周囲を確認して、金網のフェンスに空いている穴を順番にくぐる。道から目が届かないくらいに奥へ少し進んでから、鈴木が言った。
「誰か懐中電灯とかねえの?」
「あ、私、こういうのなら持ってるけど」
 言って、笠木が取り出したのはペンライトだった。点けてみると、一歩先くらいは照らすぐらいの光量がある。
 竹藪の中は月の光も届かず、当然他の明かりもない。ほとんど真っ暗だ。一メートルも離れれば、互いの顔もぼんやりとしか確認できない。
「じゃあ、それハッチャンが持ってよ。で、ハッチャン先頭な」
「なんで俺?」
「言わせんなって空手部期待の星! なんか出てもぶっ倒してくれよ」
「別にいいけど。ライトは俺、いらないわ。目慣れてきたら結構見えるし」
 答えてから、伊藤に聞いた。
「どこにあんの? 神社って」
「普通に進んでいったらあるみたいだよ。道になってるって」
「そうか。じゃあ、行くか」
 と、一歩を踏み出した、その時だった。
「ぎゃあ!」
 佐藤が悲鳴を上げた。なにごとかと皆が彼のほうを見ると、
「クモ! クモの巣が!」
 顔の周りを手で払いながら、まだ悲鳴を上げている。それを見て、山田がくすくす笑いながら言った。
「あんまり大声出すなって。大人とかに見つかったら面倒だろ」
「分かってるけど! ちょ、マジどっかクモ止まってない? ヤバいって」
「いないいない。早く行こうぜ。呪いの賽銭箱見に」
 そして今度こそ歩き出した。
 目が慣れると、竹藪は単なる竹藪でないことがところどころに見えるようになった。石垣が崩れたようなものがあったり、緩やかな斜面には石と木で階段のようなものの残骸が残っていたりと、今歩いている敷地がすでに神社の敷地内であることを窺わせた。
 竹藪の中は静かで、たまにさらさらと風にそよぐ葉の音が聞こえるくらいだ。人の気配は感じず、他に肝試しに来た人というのもいないらしい。
 と、急な斜面に差し掛かった。周囲の竹藪に木が混じりはじめ、どうやらこれを上った先に廃神社がありそうな予感がある。
 俺は振り向いた。
「この先っぽいな。行く?」
「ここまで来たんだから当然っしょ? つか、ハッチャン止まると蚊がヤバいから」
 鈴木は手足を叩きながら言う。女子二人は、最後尾でライトを持っていた。鈴木が渡したのか、案外優しいところがある。
 言われた通り、立ち止まるとヤブ蚊が襲撃してくる。結局鈴木以外の返事を待たず、俺は前に進んだ。