第1話
ー/ー
友人がひとり、不慮の事故で亡くなった。
友達を亡くす、ということそのものは、珍しいことでもないのだろう。日本だけでもそれを体験した人はいくらでも――とは言わずとも、それなりにいるはずだ。治安の悪い海外の国なんかでは、それこそもっと頻度は高いんじゃないだろうか。いきなり車に撥ねられて死ぬどころか、銃で撃たれたりすることだってあり得る。
その友人の葬式は数日前に終わった。だが、頭の中にあるのは、友人の死ではなく、もっと別のものだった。
俺はベッドから身体を起こして、学習机の上に置いてあるボロボロの冊子を見た。
あれは、友人が死ぬさらに数日前、肝試しに行った廃神社で見つけ、ふざけて持って帰ってきたものだ。黒い綴じ紐で束ねられた、手製の帳面である。
立ち上がって机に近づき、俺はその帳面を手に取った。触れば崩れそうなほどに紙は古い。慎重に、最後のほうのページを開いた。
この手製の冊子が、一体なんであるのか、発見したときその正体は掴めずにいた。一緒に見つけて中を見た友人は、参拝客の名前を記入する台帳じゃないかと言った。自分も最初はそう思った。
予想は外れていた。持って帰ったのち、家で開いていて分かった。
友人たちについては知らないが、俺はあの神社に一度も行ったことがない。にもかかわらず、この冊子の最後のページに、自分の名が記されていた。
『北 八郎 一九九〇 二〇〇六 七 二十六』
墨ではっきりと書かれている。専門家でなくとも、ずいぶん昔に書かれた文字だと分かるほどに古い。
驚くべきことは、まだまだあった。自分の名が書かれている後の行、そして前の数ページには、通っている高校のクラスメイトの名がずらりと並んでいた。恐らく、別のクラスの人の名も、数ページに渡って書き込まれている。
誰にも言っていないが、先日亡くなった友人の名も、この帳簿の中に入っていた。彼の名を見つけるのには時間が掛かった。それは、俺の名前よりも八ページは手前に書かれていたからだった。
いったい、この帳面はなんのために存在して、誰が作ったのだろう? 数十年前に潰れた神社の帳面に、その時に生まれてもいなかった俺や友人たちの名が連ねられているのはなぜなのか?
そして、名前の後に必ず記入されている数字は、どういう意味なのか。
想像すると、指先が震える。
自然と、この帳面を見つけた晩のことが、脳裏に蘇ってくる。
日付は七月の十日。近所の公園で小さな祭りがあり、クラスの連中と一緒に出かけたのが始まりだった。
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その友人の葬式は数日前に終わった。だが、頭の中にあるのは、友人の死ではなく、もっと別のものだった。
俺はベッドから身体を起こして、学習机の上に置いてあるボロボロの冊子を見た。
あれは、友人が死ぬさらに数日前、肝試しに行った廃神社で見つけ、ふざけて持って帰ってきたものだ。黒い綴《と》じ紐で束ねられた、手製の帳面である。
立ち上がって机に近づき、俺はその帳面を手に取った。触れば崩れそうなほどに紙は古い。慎重に、最後のほうのページを開いた。
この手製の冊子が、一体なんであるのか、発見したときその正体は掴めずにいた。一緒に見つけて中を見た友人は、参拝客の名前を記入する台帳じゃないかと言った。自分も最初はそう思った。
予想は外れていた。持って帰ったのち、家で開いていて分かった。
友人たちについては知らないが、俺はあの神社に一度も行ったことがない。にもかかわらず、この冊子の最後のページに、自分の名が記されていた。
『北 八郎 一九九〇 二〇〇六 七 二十六』
墨ではっきりと書かれている。専門家でなくとも、ずいぶん昔に書かれた文字だと分かるほどに古い。
驚くべきことは、まだまだあった。自分の名が書かれている後の行、そして前の数ページには、通っている高校のクラスメイトの名がずらりと並んでいた。恐らく、別のクラスの人の名も、数ページに渡って書き込まれている。
誰にも言っていないが、先日亡くなった友人の名も、この帳簿の中に入っていた。彼の名を見つけるのには時間が掛かった。それは、俺の名前よりも八ページは手前に書かれていたからだった。
いったい、この帳面はなんのために存在して、誰が作ったのだろう? 数十年前に潰れた神社の帳面に、その時に生まれてもいなかった俺や友人たちの名が連ねられているのはなぜなのか?
そして、名前の後に必ず記入されている数字は、どういう意味なのか。
想像すると、指先が震える。
自然と、この帳面を見つけた晩のことが、脳裏に蘇ってくる。
日付は七月の十日。近所の公園で小さな祭りがあり、クラスの連中と一緒に出かけたのが始まりだった。