朝のテレビ番組で、自分の星座が最下位だった。
占い師は無機質な笑顔で「今日は再会に注意。過去の落とし物に足元を掬われます」と告げ、ラッキーアイテムに『古い鍵』という、わけのわからない代物を挙げた。
多くの人は、そういうのを笑って受け流すんだろうが、僕は少しだけ嫌な予感がした。予感は、雨雲が広がるよりも早く、昼下がりのカフェで的中する。
「……|渉《わたる》?」
聞き覚えのある声に、コーヒーを啜る喉が止まった。
三年前、理由らしい理由も告げずに僕の前から消えた、ユキだった。
彼女は当時と変わらない、少し癖のあるショートヘアを揺らして、僕の向かいの席に断りもなく座った。
「本当に会うなんて。占いの再会って当たるのね」
「見てたのか、あの占い」
「ええ。再会に注意、でしょう? 私は一位だったの。『懐かしい人に幸運あり』って」
不公平だな、と思う。こちらは動悸を抑えるのに必死なのに、彼女は使い古した手帳を取り出し、懐かしそうに眺めている。
再会に注意。その言葉の真意は、相手が嫌な奴だからではない。むしろ逆だ。忘れたふりをして積み上げてきた三年間が、たった一言の「元気?」でガラガラと崩れてしまうことへの警告だったのだ。
「これ、ずっと返せてなかったんだけど」
ユキがテーブルに置いたのは、小さなキーホルダーのついた鍵だった。
僕が昔住んでいたアパートのスペアキー。二人で合鍵を作ったあの日、彼女に預けたものだ。
年月を経て、キーホルダーは茶色く変色していた。
「……色落ちしたんだなあ」
「ごめんね。ずっと鞄の底に入ってたから」
今日のラッキーアイテム。
手渡された鍵は冷たくて、ほんの少しだけ金属のにおいがした。
彼女にとって、この鍵は「整理すべき過去」でしかないから、今日という日が一位なのだ。僕にとっては、まだ捨てられずにいた感情を突きつけられる「最下位」の再会。
「私、来月結婚するの。だから、ちゃんとしておきたくて」
ユキは晴れやかな顔で席を立った。
僕はただ「おめでとう」と、鍵を握りしめて答えるしかなかった。
彼女が去った後のカフェで、僕は冷めきったコーヒーを飲み干した。
最下位の運勢は、確かに正しかった。
再会して、僕は自分の心の底に沈んでいた「未練」という落とし物を、ようやく拾い上げたのだから。