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最終章「未来へ」第一節

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 鈴の学校が終わって外に出ると湊が立っていた。検診以外で、会うのは久しぶりである。慕っている後輩や同級生たちも多くて、一般人の中に溶け込んでいた。

 受け身になるのではなく、鈴から話かけることを意識した。引っ張られて態度も軟化していく。しっかりとした友情が育まれていった。

 周囲の同級生たちからは、かっこいい、山口さんの彼氏さん? 大人になったらいずれ結婚をするの? と囲まれた。
 話が弾む。

 ようやく、鈴は和の中から抜け出せた。ごめん、お待たせと声をかける。鈴の手に大丈夫と手をおいた。手を握って、額に口づけを落とすと、くすぐったそうに笑う。

 その様子に、同級生たちからは黄色い悲鳴があがった。 そういえば、学校の前だったと、ほんのりと鈴の顔が赤くなった。

 甘やかしてくれる手に、つい普段している行動をとってしまった。

 鈴はてれを隠すために、続きの話はまた明日ね、と湊の背中を押す。明日は覚悟をしておきなさいよ、二人のなれそめを話してもらうからねと、同級生たちから声が飛んだ。

  明日はきっと、離してくれない。質問攻めがくるはずである。それはそれで、青春の一ページとして楽しいかもしれない。

 かけがえのない時間になるはずである。鈴が築き上げてきた温かさがそこにはあった。

 居場所は確かにここにあった。

「一緒に着いて来てほしい場所がある。乗って」

  鈴にヘルメットを渡して、オートバイを指さした。オートバイに乗るのもいいかもしれない。鈴は湊の服を引っ張った。

 行動に気づいた湊から、ヘルメットを受け取る。

「着いたよ」
 
ヘルメットを取ると、一面コバルトブルーの海が広がっていた。波の音を聞いていたら、先ほどの熱くなった体も落ち着てくる。

「海、だよね?」
「うん、都の遺骨を見送ろうと思ってね」

「傍においていなくても大丈夫なの?」
「大丈夫」

 都の遺骨を二人で手に取った。
 風に乗って流れていく。

 静かに黙とうをする。
 奈美と一緒に年老いて亡くなるまで、見届けてくれるはずである。

「私を誘ってくれたのは?」
「都を知っている人と来たくてね」

「相田さんたちを呼べばよかったじゃない。 呼ばなかった理由でも?」
「勇気がなかった。僕は弱いよね」

「私は湊が弱いとは思っていないよ」
「相田さんたちも、覚悟を持って都を送り出したのだろうとは思っている」

「なら、今日、海に来たのは?」
「都に静かに眠ってもらいたかったのと、気持ちの整理をするためだよ」

「湊なりの思いがあったのね」
「なぁ、鈴」

「なぁに?」
「僕は鈴と出会えてよかったと思う」

「私も同じよ」

 今回は鈴の状態を見せてほしいと、湊が宣言してきてくれた。猛勉強をして、有名大学の薬学部に入学したとの報告を、湊からラインで見ていた。

 鈴を思ってくれる存在は、後にも先にも現れない。愛情を体全身で感受していた。行きつく先が天国でも地獄であろうと、時を共有すると決めていた。

 誓っていた。

 鈴が大学を卒業したら、結婚しようと、膝をついて指輪を出した。意味を理解して、白い左手薬指を差し出した。指に婚約指輪をはめる。白い薬指によく似あっている。

 鈴は湊の正式な婚約者になったのである。太陽の光を浴びて指輪がキラリと光った。桜の木の下で会った時から十年の月日が流れていた。

「湊。お返しとはいえないかもしれないけれど、預かっているものがあるの」

「――ん?」
「十河――いえ、相田君からの手紙を預かっているの」

 鈴から手紙を受け取った。

  湊兄さんへ
 手紙を受け取っている頃には、僕は生きていないと思う 支えてくれて苦しかった時に、寄り添ってくれてありがとう 。
 本当の家族みたいで嬉しかった。
 
 血がつながっていなくても、つながっているとしていなくても、僕たちは一つの家族だ。
 誰が何と言おうが、三人で生きてきた証明でもある。

 ほどくことのできない絆がある。
 湊兄さんに出会わなければ、今の僕はいないと思う。

 湊兄さんには、僕の分まで生きてほしい 。
 ともに戦ってくれて嬉しかった。
 
 戦った日々は心の中で覚えている。
 
 湊兄さんは静かに支えてくれる、暗闇に輝いている星みたいな存在だった。   
 これからも、照らし続けてくれる星であってほしい。
 
 皆の道標となってほしい。
 
 それが、僕の願いで希望でもある。
 湊兄さんの強さと力を信じている。

 たくさんの愛を込めて。
 大好きだよ。

 どうか、幸せになって――。
 ありがとう

             相田都

 鈴も手紙を読ませてもらった。都の呼吸や声が今にも、聞こえてきそうだった。

「会いに行こうかな」
「相田さんたちに? 私たちを認めてくれるかな?」

「相田家の人たちを信じるしかないね。鈴は無理をしなくてもいい」
「渡す物もあるし、私も行くわ」

 鈴を乗せるとオートバイのエンジンをかけた。



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 鈴の学校が終わって外に出ると湊が立っていた。検診以外で、会うのは久しぶりである。慕っている後輩や同級生たちも多くて、一般人の中に溶け込んでいた。
 受け身になるのではなく、鈴から話かけることを意識した。引っ張られて態度も軟化していく。しっかりとした友情が育まれていった。
 周囲の同級生たちからは、かっこいい、山口さんの彼氏さん? 大人になったらいずれ結婚をするの? と囲まれた。
 話が弾む。
 ようやく、鈴は和の中から抜け出せた。ごめん、お待たせと声をかける。鈴の手に大丈夫と手をおいた。手を握って、額に口づけを落とすと、くすぐったそうに笑う。
 その様子に、同級生たちからは黄色い悲鳴があがった。 そういえば、学校の前だったと、ほんのりと鈴の顔が赤くなった。
 甘やかしてくれる手に、つい普段している行動をとってしまった。
 鈴はてれを隠すために、続きの話はまた明日ね、と湊の背中を押す。明日は覚悟をしておきなさいよ、二人のなれそめを話してもらうからねと、同級生たちから声が飛んだ。
  明日はきっと、離してくれない。質問攻めがくるはずである。それはそれで、青春の一ページとして楽しいかもしれない。
 かけがえのない時間になるはずである。鈴が築き上げてきた温かさがそこにはあった。
 居場所は確かにここにあった。
「一緒に着いて来てほしい場所がある。乗って」
  鈴にヘルメットを渡して、オートバイを指さした。オートバイに乗るのもいいかもしれない。鈴は湊の服を引っ張った。
 行動に気づいた湊から、ヘルメットを受け取る。
「着いたよ」
ヘルメットを取ると、一面コバルトブルーの海が広がっていた。波の音を聞いていたら、先ほどの熱くなった体も落ち着てくる。
「海、だよね?」
「うん、都の遺骨を見送ろうと思ってね」
「傍においていなくても大丈夫なの?」
「大丈夫」
 都の遺骨を二人で手に取った。
 風に乗って流れていく。
 静かに黙とうをする。
 奈美と一緒に年老いて亡くなるまで、見届けてくれるはずである。
「私を誘ってくれたのは?」
「都を知っている人と来たくてね」
「相田さんたちを呼べばよかったじゃない。 呼ばなかった理由でも?」
「勇気がなかった。僕は弱いよね」
「私は湊が弱いとは思っていないよ」
「相田さんたちも、覚悟を持って都を送り出したのだろうとは思っている」
「なら、今日、海に来たのは?」
「都に静かに眠ってもらいたかったのと、気持ちの整理をするためだよ」
「湊なりの思いがあったのね」
「なぁ、鈴」
「なぁに?」
「僕は鈴と出会えてよかったと思う」
「私も同じよ」
 今回は鈴の状態を見せてほしいと、湊が宣言してきてくれた。猛勉強をして、有名大学の薬学部に入学したとの報告を、湊からラインで見ていた。
 鈴を思ってくれる存在は、後にも先にも現れない。愛情を体全身で感受していた。行きつく先が天国でも地獄であろうと、時を共有すると決めていた。
 誓っていた。
 鈴が大学を卒業したら、結婚しようと、膝をついて指輪を出した。意味を理解して、白い左手薬指を差し出した。指に婚約指輪をはめる。白い薬指によく似あっている。
 鈴は湊の正式な婚約者になったのである。太陽の光を浴びて指輪がキラリと光った。桜の木の下で会った時から十年の月日が流れていた。
「湊。お返しとはいえないかもしれないけれど、預かっているものがあるの」
「――ん?」
「十河――いえ、相田君からの手紙を預かっているの」
 鈴から手紙を受け取った。
  湊兄さんへ
 手紙を受け取っている頃には、僕は生きていないと思う 支えてくれて苦しかった時に、寄り添ってくれてありがとう 。
 本当の家族みたいで嬉しかった。
 血がつながっていなくても、つながっているとしていなくても、僕たちは一つの家族だ。
 誰が何と言おうが、三人で生きてきた証明でもある。
 ほどくことのできない絆がある。
 湊兄さんに出会わなければ、今の僕はいないと思う。
 湊兄さんには、僕の分まで生きてほしい 。
 ともに戦ってくれて嬉しかった。
 戦った日々は心の中で覚えている。
 湊兄さんは静かに支えてくれる、暗闇に輝いている星みたいな存在だった。   
 これからも、照らし続けてくれる星であってほしい。
 皆の道標となってほしい。
 それが、僕の願いで希望でもある。
 湊兄さんの強さと力を信じている。
 たくさんの愛を込めて。
 大好きだよ。
 どうか、幸せになって――。
 ありがとう
             相田都
 鈴も手紙を読ませてもらった。都の呼吸や声が今にも、聞こえてきそうだった。
「会いに行こうかな」
「相田さんたちに? 私たちを認めてくれるかな?」
「相田家の人たちを信じるしかないね。鈴は無理をしなくてもいい」
「渡す物もあるし、私も行くわ」
 鈴を乗せるとオートバイのエンジンをかけた。