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「断罪」第二節

ー/ー



 ――信じない!
 ――誰が信じるか!
 ――私は死なない!

 ――信じないのなら、それでいいだろう。

 孝は急に踊りと記憶から解放された。膝からドサリと崩れ落ちる。続いて、どこからともなく、パンパンと銃声が響いた。血が流れる。傷のある場所は都や奈美が、受けた場所でもあった。

 ただ、何と重なるかまでは分からない。
 はっ、はっと荒い呼吸をする。

 痛さにのたうち回った。体の震えも止まらない。 急激に体温が低下していく。全身に鳥肌が立った。

 意識が混濁していく。
 ――これぐらいで、痛がって意識を失いかけるなんて情けない。
 生きるために、手を伸ばした。受け止める人は誰もいない。むなしく空をきった。耐えきれず意識を手放しそうになったその時――精神世界の中の世界も、途切れ途切れになっていく。
 ――さぁ、現実に戻る時間だ。
 
 孝は鳥の泣き声で目覚めた。じっとりと背中にかいている汗が、夢ではないとはっきりしていた。

 まずは、生きているのかどうかを確かめる。銃で撃たれた形跡も 痛みもない。

  体も自由に動く。

 孝の目は血走っていた。机の上にあるランプを、床に叩きつけた。パリンと音を立てて、ガラスは割れ点いていた灯りは点滅して消える。 もう、今は何時とか関係ない。

 時間の感覚も狂っている。
 日にちの感覚もない。

 このまま、突っ走ればいいだけだ。
 ――続き……研究の続きして、都や鈴よりも上のデザインズ・ベイビーを完成させなければ。
 ――それが、私の使命だ。

 孝は再びペンを手に取った。
 
 午後の七時。日も沈もうとしている時間でもあった。茶色の髪が夕日で、金色に輝く。湊は破れた窓から、孝の様子を見つめていた。

 孝は存在に気付いていないみたいだった。立場上、冷静に見極める必要があった。

 とはいっても、これ以上、見るに見かねない。

 扉に手をかけた。
 かたり、と扉を開けて中に入った。
 
「逃げきれると思いましたか?」

 湊の存在を認知して、ものすごい勢いで振り返る。

「どうして、お前が?」
 孝は動揺していた。それはですね、あなたのポケットに発信機をつけさせてもらいました、とスマートフォンを取り出した。画面には赤い点――現在の地図と場所が示されていた。
「見つからないとでも思いましたか?」

  湊は笑う。笑顔は冷たく孝でさえも身震いをした。
「お前には私の血が流れている、私に縛られている限り、居場所はない」
「そうでしょうか?」

「何だと?」
「教授の言葉をそっくりお返しします」

 湊と孝の間にバチバチと火花が散る。

「自信がありそうだな?」
「いずれ、分かります」

「お前は奈美と都と同じで、私を苛立たせる」 「僕を殺すつもりですか? 殺しても何も変わりませんよ? 都と母さんを殺したのも立派な殺人です」

「何だ! 何がしたい! 何が望みだ!」

 湊に対して拳を振り上げた。拳を受け止めて、力を入れて押し上げる。勢いのまま孝の腕を捻り上げた。湊にしては痛い! 暴力だ! と騒ぐ孝の声は、雑音でしかない。

 喉にナイフを突き立ててやりたい。腕をきつく握りしめたままダンッ! と足を踏み鳴らして威嚇をした。湊のあまりの圧力に、孝はびくりと体を震わせた。

『十河さん。落ち着いてください。手を出すのは止めましょう。あなたが負けを認める行動になってしまいます』

  騒動が聞こえていたのか、湊がつけているイヤホンマイクから穏やかな警察官の声が流れてきた。

 感情はスッと引いていく。
 それがなければ、暴走していた。
「止めてくれて助かりました」
『でも、十河さんも人間なんですね』

「人間でなければ、僕は何なのでしょうか? 超能力者とでも言いたいのですか?」
『申し訳ない。言葉不足でしたね。聞いてください。十河さんの弟さんもお母様も強い人だったと思います。
お母様と弟さん。二人分の家族の絆を――強さを、十河教授に見せつけてやりましょう』


「家族としての証明、か。やはり、あなたに資料を託す決心をしたのは間違いではなかった。感謝します」

 湊は掴んでいた孝の腕から手を離した。自己防衛だったとはいえ、触ってしまった。触れただけなのに、鳥肌が立つ。

 本能と体が拒否をしていた。

『まずは、十河教授との戦いを終わらせてください。十河さんを見捨てるつもりはありません。一緒に恨みを晴らしましょう』

 警察官との会話を終了する。一度だけ、手伝ってくれた理由を問いかけた時があった。

 退職が近いおじさんの余計なお世話だと、許しておくれと笑って答えてくれた。彼みたいに穏やかで、威厳がある人間になりたい。 話が逸れて途切れてしまった。 元に戻そうかと再び孝と向き合った。

「何が望みか、でしたよね? そうですね。まずは、僕の前からいなくなってもらいましょう。目障りです」
「お前に何ができる!」

 湊は呆れてため息をついた。
 息を吸って音量をあげる。

 言葉を返していく。
 孝を追い詰めていく。

 制圧したたみかけるために一歩前に出た。



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 ――信じない! ――誰が信じるか!
 ――私は死なない!
 ――信じないのなら、それでいいだろう。
 孝は急に踊りと記憶から解放された。膝からドサリと崩れ落ちる。続いて、どこからともなく、パンパンと銃声が響いた。血が流れる。傷のある場所は都や奈美が、受けた場所でもあった。
 ただ、何と重なるかまでは分からない。
 はっ、はっと荒い呼吸をする。
 痛さにのたうち回った。体の震えも止まらない。 急激に体温が低下していく。全身に鳥肌が立った。
 意識が混濁していく。
 ――これぐらいで、痛がって意識を失いかけるなんて情けない。
 生きるために、手を伸ばした。受け止める人は誰もいない。むなしく空をきった。耐えきれず意識を手放しそうになったその時――精神世界の中の世界も、途切れ途切れになっていく。
 ――さぁ、現実に戻る時間だ。
 孝は鳥の泣き声で目覚めた。じっとりと背中にかいている汗が、夢ではないとはっきりしていた。
 まずは、生きているのかどうかを確かめる。銃で撃たれた形跡も 痛みもない。
  体も自由に動く。
 孝の目は血走っていた。机の上にあるランプを、床に叩きつけた。パリンと音を立てて、ガラスは割れ点いていた灯りは点滅して消える。 もう、今は何時とか関係ない。
 時間の感覚も狂っている。
 日にちの感覚もない。
 このまま、突っ走ればいいだけだ。
 ――続き……研究の続きして、都や鈴よりも上のデザインズ・ベイビーを完成させなければ。
 ――それが、私の使命だ。
 孝は再びペンを手に取った。
 午後の七時。日も沈もうとしている時間でもあった。茶色の髪が夕日で、金色に輝く。湊は破れた窓から、孝の様子を見つめていた。
 孝は存在に気付いていないみたいだった。立場上、冷静に見極める必要があった。
 とはいっても、これ以上、見るに見かねない。
 扉に手をかけた。
 かたり、と扉を開けて中に入った。
「逃げきれると思いましたか?」
 湊の存在を認知して、ものすごい勢いで振り返る。
「どうして、お前が?」
 孝は動揺していた。それはですね、あなたのポケットに発信機をつけさせてもらいました、とスマートフォンを取り出した。画面には赤い点――現在の地図と場所が示されていた。
「見つからないとでも思いましたか?」
  湊は笑う。笑顔は冷たく孝でさえも身震いをした。
「お前には私の血が流れている、私に縛られている限り、居場所はない」
「そうでしょうか?」
「何だと?」
「教授の言葉をそっくりお返しします」
 湊と孝の間にバチバチと火花が散る。
「自信がありそうだな?」
「いずれ、分かります」
「お前は奈美と都と同じで、私を苛立たせる」 「僕を殺すつもりですか? 殺しても何も変わりませんよ? 都と母さんを殺したのも立派な殺人です」
「何だ! 何がしたい! 何が望みだ!」
 湊に対して拳を振り上げた。拳を受け止めて、力を入れて押し上げる。勢いのまま孝の腕を捻り上げた。湊にしては痛い! 暴力だ! と騒ぐ孝の声は、雑音でしかない。
 喉にナイフを突き立ててやりたい。腕をきつく握りしめたままダンッ! と足を踏み鳴らして威嚇をした。湊のあまりの圧力に、孝はびくりと体を震わせた。
『十河さん。落ち着いてください。手を出すのは止めましょう。あなたが負けを認める行動になってしまいます』
  騒動が聞こえていたのか、湊がつけているイヤホンマイクから穏やかな警察官の声が流れてきた。
 感情はスッと引いていく。
 それがなければ、暴走していた。
「止めてくれて助かりました」
『でも、十河さんも人間なんですね』
「人間でなければ、僕は何なのでしょうか? 超能力者とでも言いたいのですか?」
『申し訳ない。言葉不足でしたね。聞いてください。十河さんの弟さんもお母様も強い人だったと思います。
お母様と弟さん。二人分の家族の絆を――強さを、十河教授に見せつけてやりましょう』
「家族としての証明、か。やはり、あなたに資料を託す決心をしたのは間違いではなかった。感謝します」
 湊は掴んでいた孝の腕から手を離した。自己防衛だったとはいえ、触ってしまった。触れただけなのに、鳥肌が立つ。
 本能と体が拒否をしていた。
『まずは、十河教授との戦いを終わらせてください。十河さんを見捨てるつもりはありません。一緒に恨みを晴らしましょう』
 警察官との会話を終了する。一度だけ、手伝ってくれた理由を問いかけた時があった。
 退職が近いおじさんの余計なお世話だと、許しておくれと笑って答えてくれた。彼みたいに穏やかで、威厳がある人間になりたい。 話が逸れて途切れてしまった。 元に戻そうかと再び孝と向き合った。
「何が望みか、でしたよね? そうですね。まずは、僕の前からいなくなってもらいましょう。目障りです」
「お前に何ができる!」
 湊は呆れてため息をついた。
 息を吸って音量をあげる。
 言葉を返していく。
 孝を追い詰めていく。
 制圧したたみかけるために一歩前に出た。