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最高のスピーチ

ー/ー



 祝福の拍手が、天井のシャンデリアを震わせる。グラスの触れ合う音が、やわらかな波のように広がっていく。


司会者に名前を呼ばれ、私はゆっくりと立ち上がった。



 新郎は、誰よりも晴れやかな顔でこちらを見ている。昔からそうだ。欲しいものを手に入れたとき、彼は決して悪びれない。無邪気ですらある。



「本日はおめでとうございます」

 マイク越しの自分の声は、思ったよりも穏やかだった。胸の奥では、古い扉がきしむような音がしているのに。



 私たちは大学で出会った。彼は陽の当たる場所に立つ人間で、私はその隣で笑っていた。

彼が失敗すれば励まし、成功すれば心から喜んだ。そういう役割を、疑いもなく引き受けてきた。



 やがて、ひとりの女性が現れた。
春の風のような人だった。私は彼女に恋をし、彼に打ち明けた。あいつなら応援してくれると、信じていた。



 数か月後、彼は彼女の手を握っていた。すまなそうに笑いながら、「好きになっちゃった」と言った。悪気のない声で。


 拍手が起こる。新婦が照れたようにうつむく。その横顔は、あの頃と変わらない。


「彼は、誰よりもまっすぐな人です。人を好きになるときも、全力です」


 会場が笑う。冗談だと思っているのだろう。私は続ける。


「だからこそ、彼の選んだ人は幸せです。彼は決して手を離さない。誰かの想いを受け取ったら、それを最後まで抱えていく人です」


 それは祈りだった。私が持ちきれなかった想いを、彼がどうか大切にするようにという。



 言葉を結ぶと、視界が少し揺れた。けれど涙は落ちない。私は拍手の中で頭を下げる。役目は終わった。



 席に戻ると、新郎が力強く肩を抱いた。「最高のスピーチだった」と耳元でささやく。
 私は笑う。親友として、完璧に。



 祝福の音に紛れて、かつて愛した人が小さく「ありがとう」と言った気がした。


それが誰に向けられた言葉なのか、もう確かめる必要はない。


私は静かにグラスを掲げた。二人の未来が、私の知らない場所でまぶしく続いていくように。







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 祝福の拍手が、天井のシャンデリアを震わせる。グラスの触れ合う音が、やわらかな波のように広がっていく。
司会者に名前を呼ばれ、私はゆっくりと立ち上がった。
 新郎は、誰よりも晴れやかな顔でこちらを見ている。昔からそうだ。欲しいものを手に入れたとき、彼は決して悪びれない。無邪気ですらある。
「本日はおめでとうございます」
 マイク越しの自分の声は、思ったよりも穏やかだった。胸の奥では、古い扉がきしむような音がしているのに。
 私たちは大学で出会った。彼は陽の当たる場所に立つ人間で、私はその隣で笑っていた。
彼が失敗すれば励まし、成功すれば心から喜んだ。そういう役割を、疑いもなく引き受けてきた。
 やがて、ひとりの女性が現れた。
春の風のような人だった。私は彼女に恋をし、彼に打ち明けた。あいつなら応援してくれると、信じていた。
 数か月後、彼は彼女の手を握っていた。すまなそうに笑いながら、「好きになっちゃった」と言った。悪気のない声で。
 拍手が起こる。新婦が照れたようにうつむく。その横顔は、あの頃と変わらない。
「彼は、誰よりもまっすぐな人です。人を好きになるときも、全力です」
 会場が笑う。冗談だと思っているのだろう。私は続ける。
「だからこそ、彼の選んだ人は幸せです。彼は決して手を離さない。誰かの想いを受け取ったら、それを最後まで抱えていく人です」
 それは祈りだった。私が持ちきれなかった想いを、彼がどうか大切にするようにという。
 言葉を結ぶと、視界が少し揺れた。けれど涙は落ちない。私は拍手の中で頭を下げる。役目は終わった。
 席に戻ると、新郎が力強く肩を抱いた。「最高のスピーチだった」と耳元でささやく。
 私は笑う。親友として、完璧に。
 祝福の音に紛れて、かつて愛した人が小さく「ありがとう」と言った気がした。
それが誰に向けられた言葉なのか、もう確かめる必要はない。
私は静かにグラスを掲げた。二人の未来が、私の知らない場所でまぶしく続いていくように。