真珠座の出口 後編
ー/ー 今の観客は、泣きながら足元を気にしている。どれだけ大粒の真珠が作れるか、どのタイミングで流せば「照り」が良くなるか。
映画を観ているのか、それとも自分の体内で宝石を養殖しているのか、分かったものではない。
「先生、でも背に腹は代えられませんよ。真珠の回収益があるから、この劇場も潰れずに済んでいるんですから」
若いスタッフの言葉は正しい。今や映画産業は、コンテンツの質よりも「真珠の生産効率」で語られるようになっていた。
その時、一人の少年が扉から出てきた。
彼は他の観客のように換金所へは向かわず、じっと自分の手のひらを見つめていた。その掌には、一粒の小さな、本当に小さな真珠が乗っている。
形は歪で、色もくすんだ灰色。お世辞にも宝石としての価値はなさそうだった。
回収員が少年に近づき、「そんなゴミ、こっちで捨てといてやるよ」と手を伸ばした。
だが、少年はそれを拒むように手を握りしめた。
「……これは、僕の宝物なんだ」
少年は静かに言った。
「映画の中で、お父さんが笑ったんだ。その時、なんだか胸が熱くなって、これが出たんだ。売ったりなんかしない」
少年は、歪な真珠を大切にポケットにしまい、スキップしながら去っていった。
その光景を見ていた滝川の目から、一筋の雫がこぼれ落ちた。
それは床に落ちる前に、パチンと小さな音を立てて弾けた。
滝川の足元に転がったのは、これまでに誰も見たことがないほど、透き通った虹色の輝きを放つ真珠だった。
「……おい、今のを見たか!」
回収員たちが色めき立って駆け寄ってくる。
だが滝川は、彼らが手を伸ばすよりも早く、自らの手でその珠を拾い上げた。
「これは非売品だよ。私の人生で、一番高いチケット代だ」
老監督は、少年と同じようにそれをポケットに隠すと、西日の差し込む出口へと歩き出した。
背後では、また次の「泣ける映画」が始まり、真珠拾いたちが掃除機のスイッチを入れる音が響いていた。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。