表示設定
表示設定
目次 目次




第八章「再会」第一節

ー/ー



 都はガクリと膝をついた。撃たれた傷はある程度まで、修復されたとはいえジリジリと痛む。孝の本音を引き出すためとはいえ不安定の中である。

 これが、強引に精神世界を開いた代償なのか。
 
 体全体が重かった。

「かっ――はっ、ぅ」

 息もできない。 血を吐いていると、都を中心にして光に囲まれた。体も軽くなる。怪我をした部分の痛みもなくなっていた。

 ――誰?
 ――誰が僕を呼んでいる?
 
 遠くから呼ぶ声がする。優しい声だった。自分をこんな風に呼べるのは、湊ともう一人だけだ。

 ――こ。
 ――や……こ。

何度も何度も呼びかけてくる。

 ――都。

 今度ははっきりと聞こえた。聞き取れた。ぼんやりとしていた形は、奈美の姿になる。

「かあ……さん」

 年齢としては都と別れたの頃である。触れて確かめようとした。奈美の体を手が突き抜けていく。

 彼女の姿がゆがむ。

 魂だけであり、肉体ではない。会えただけでも奇跡に近いものがある。会話ができているだけでも、都の大きな支えになっていた。

 長年、会いたかった人物である。
 心配して奈美が呼んだのだ。

「都。無理しないと言っても無理するわよね。私は都の母親よ。考えなんてお見通しだわ」

 都は背筋を伸ばす。 孝とぶつかり合った事実は、奈美にはしられていた。家族ならではの共鳴でもあるのかもしれない。都がいる空間は彼女の作った世界だ。

 何でもありなのである。
 ならば、少しぐらいわがままを言ってもいいだろうか。

 湊に会いたいと、都は出てきそうになった言葉をどうしても、音にはできなかった。

 心の中にそっとしまい込む。

 ひるんでいる暇はない。
 都は口を開く。

「母さん。聞いて。無理をしないと和江さんと美和は守れない。また、手からこぼれおちるのは嫌だ」

 「家族」の誰かがかけるのは嫌だった。いなくなってほしくなかった。不器用すぎてなかなか言えず、すれ違ってしまっている。

「あなたは一人じゃないわ。新しい家族がいるじゃない。素直になりなさい」
「今更、素直になんてなれない」

 弱さなんて見せられない。見せてしまえば、和江と美和を守りきれない。大切な人たちを、死なせるわけにはいかなかった。 二人の心に傷つけたくない。

「聞いてあげるから、ゆっくり話してごらん」
「僕のめざす道は、間違っているのかな?」

「大丈夫。間違っていても、道は一本道になるわ。同じ道を歩けているはずよ」
「同じ道、か。いい言葉だね。母さんは僕が教授に会いに行くのを、止めないの?」

「あら?止めてほしいの?」
「母さんは止めると思っていた」
「あなたはあなたのできる役目をやりなさい」

「やってみる」

 都にできる最後の役目は、孝を倒すために力を注ぐべきだ。報復は終わっておらず、与えられる役割を果たすしかない。終わるまで駆け抜けていくべきだった。

「都の気持ちは受け取った」
「母さん。僕は母さんの子供でいれて、幸せだったよ。ありがとう」

 都は奈美の姿を、目に焼き付ける。彼の目の前で、彼女の幻は徐々に薄くなっていく。 光の粒子が弾けるようにして消えていった。

『あなたはあなたのできる役目をやりなさい』

 都を奈美は応援してくれていた。 背中を押してくれていた。 嫌われ役なら、買って出る。 誰にも文句は言わせない。

 短い命だ。

 燃え尽きてしまえばよかった。
 都は顔をあげた。

 曲がりながら一本道になっていく。
 都は一本道に踏み込んだ。

 ――戻ってきたのか。

 目を開ければ、自分の部屋のベッドに座っていた。一日すぎたと思っていたら、時計を見て半日しか時間経過していなかったのである。 ベッドに倒れ込む。

 ――孝には負けない。
 ――負けたくない。

 都にとって再認識できる出来事だった。




スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 「再会」第二節


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 都はガクリと膝をついた。撃たれた傷はある程度まで、修復されたとはいえジリジリと痛む。孝の本音を引き出すためとはいえ不安定の中である。
 これが、強引に精神世界を開いた代償なのか。
 体全体が重かった。
「かっ――はっ、ぅ」
 息もできない。 血を吐いていると、都を中心にして光に囲まれた。体も軽くなる。怪我をした部分の痛みもなくなっていた。
 ――誰?
 ――誰が僕を呼んでいる?
 遠くから呼ぶ声がする。優しい声だった。自分をこんな風に呼べるのは、湊ともう一人だけだ。
 ――こ。
 ――や……こ。
何度も何度も呼びかけてくる。
 ――都。
 今度ははっきりと聞こえた。聞き取れた。ぼんやりとしていた形は、奈美の姿になる。
「かあ……さん」
 年齢としては都と別れたの頃である。触れて確かめようとした。奈美の体を手が突き抜けていく。
 彼女の姿がゆがむ。
 魂だけであり、肉体ではない。会えただけでも奇跡に近いものがある。会話ができているだけでも、都の大きな支えになっていた。
 長年、会いたかった人物である。
 心配して奈美が呼んだのだ。
「都。無理しないと言っても無理するわよね。私は都の母親よ。考えなんてお見通しだわ」
 都は背筋を伸ばす。 孝とぶつかり合った事実は、奈美にはしられていた。家族ならではの共鳴でもあるのかもしれない。都がいる空間は彼女の作った世界だ。
 何でもありなのである。
 ならば、少しぐらいわがままを言ってもいいだろうか。
 湊に会いたいと、都は出てきそうになった言葉をどうしても、音にはできなかった。
 心の中にそっとしまい込む。
 ひるんでいる暇はない。
 都は口を開く。
「母さん。聞いて。無理をしないと和江さんと美和は守れない。また、手からこぼれおちるのは嫌だ」
 「家族」の誰かがかけるのは嫌だった。いなくなってほしくなかった。不器用すぎてなかなか言えず、すれ違ってしまっている。
「あなたは一人じゃないわ。新しい家族がいるじゃない。素直になりなさい」
「今更、素直になんてなれない」
 弱さなんて見せられない。見せてしまえば、和江と美和を守りきれない。大切な人たちを、死なせるわけにはいかなかった。 二人の心に傷つけたくない。
「聞いてあげるから、ゆっくり話してごらん」
「僕のめざす道は、間違っているのかな?」
「大丈夫。間違っていても、道は一本道になるわ。同じ道を歩けているはずよ」
「同じ道、か。いい言葉だね。母さんは僕が教授に会いに行くのを、止めないの?」
「あら?止めてほしいの?」
「母さんは止めると思っていた」
「あなたはあなたのできる役目をやりなさい」
「やってみる」
 都にできる最後の役目は、孝を倒すために力を注ぐべきだ。報復は終わっておらず、与えられる役割を果たすしかない。終わるまで駆け抜けていくべきだった。
「都の気持ちは受け取った」
「母さん。僕は母さんの子供でいれて、幸せだったよ。ありがとう」
 都は奈美の姿を、目に焼き付ける。彼の目の前で、彼女の幻は徐々に薄くなっていく。 光の粒子が弾けるようにして消えていった。
『あなたはあなたのできる役目をやりなさい』
 都を奈美は応援してくれていた。 背中を押してくれていた。 嫌われ役なら、買って出る。 誰にも文句は言わせない。
 短い命だ。
 燃え尽きてしまえばよかった。
 都は顔をあげた。
 曲がりながら一本道になっていく。
 都は一本道に踏み込んだ。
 ――戻ってきたのか。
 目を開ければ、自分の部屋のベッドに座っていた。一日すぎたと思っていたら、時計を見て半日しか時間経過していなかったのである。 ベッドに倒れ込む。
 ――孝には負けない。
 ――負けたくない。
 都にとって再認識できる出来事だった。