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「報復の始まり」第三節

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 数週間後の寒さも幾分か、和らいだ春の日である。湊は小学校の基準服に着替えて、朝食を食べようと一階のリビングに降りた。普段ならいる都と奈美の姿がない。

 荷物も残っている。

 玄関に向かって建物出入り口のセキュリティを確認する。普段、ついている電源は、オフになっていた。湊が思っていたとおりだった。 奈美と都は命がけで、逃げたのだ。  

 床に一枚の紙が落ちていた。
 紙を拾い上げる。

『湊兄さん、大好き』

 都の文字で書いてあった。

――また、勉強しようって、約束したじゃないか。
――嘘だ。

 悪い夢だ。
 現実ではない。

 ――誰か嘘だと、二人でただいまと、戻って来ると言ってよ。

  湊は声がかれるまで絶叫して、膝から崩れ落ちた。泣き声が響いて、瞳から大粒の涙がつたっていく。

  ドンと床を殴る。
  思い当たるのは、一人だけだった。

  父親の原田孝だ。

 ――許せない。

 都と血のつながりはない。つながりがなくても、 湊にとって弟に間違いなかった。

 ――あいつは僕から家族を奪った。
 ――報復してやる。

  混乱をしている今だったら、抜け出しても何も言われない。あの場所に行ったら、報復への糸口をつかめる可能性も、見えてくるかもしれない。小さな情報でもよかった。

 湊はふらふらと歩き出す。向かった先は、少し離れた場所にある奈美の祖父母たちの、研究所兼療養所だった。体の弱い子供たちのために、薬を開発していたと聞いている。

 周囲の人から信頼も厚かったみたいだった。周囲の人たちを、助けたい。

 気持ちが滲み出ている。

 ある程度研究に、めどが付いたからのか、祖父母はひっそりと姿を消して引退をした。

 行方不明になっている、遺伝子研究室前室長兼元警視総監だったのではないかとの話題もある。祖母を連れて日本を、離れたのではないかとそんな噂も聞いていた。

 祖父母の顔を見た記憶もないし、声を聞いた経験もなかった。今、どこで何をしているのかまでは知らない。

 大人の事情もある。秘密は秘密のままで、いい時もある。その様な関係もおもしろい。湊はあえて介入はせずに、深追いまでは考えていなかった。

 その痕跡を湊が引き継ぐのも、不思議な縁でもあった。扉に手をかけると、鍵は開いている。
 
 研究所に足を踏み入れて、電気を点けた。荒れているだろうと思っていた中は、手入れされていた。

 誰か手入れしている気配がする。

 湊はもしかして、期待が膨らんでいく。孝の報復への糸口を突破できそう予感がした。

 湊は祈る気持ちで、研究所内装置全体のスイッチをオンにした。 音がして機械が作動する。

  確かめてから、電源を切った。

 ――よかった。
 ――これで、実験はできる。

 デザインズ・ベイビーの短命を防ぐ、薬は作れそうだ。まずは、一歩前へは進めた。湊が息を吐き出していると、扉の開く音がする。誰だ、と振り向いた。
 
 後ろに立っていたのは、二十歳前半の青年だった。灰色の瞳は気だるげに湊を見ている。髪の毛は癖っ毛で真っ黒だった。

  青年が落ち着いているからだろうか。

 怖さを感じなかった。先ほどまで荒ぶっていた感情も引いている。つかず離れずで、性格的にも合いそうなタイプだった。



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 数週間後の寒さも幾分か、和らいだ春の日である。湊は小学校の基準服に着替えて、朝食を食べようと一階のリビングに降りた。普段ならいる都と奈美の姿がない。
 荷物も残っている。
 玄関に向かって建物出入り口のセキュリティを確認する。普段、ついている電源は、オフになっていた。湊が思っていたとおりだった。 奈美と都は命がけで、逃げたのだ。  
 床に一枚の紙が落ちていた。
 紙を拾い上げる。
『湊兄さん、大好き』
 都の文字で書いてあった。
――また、勉強しようって、約束したじゃないか。
――嘘だ。
 悪い夢だ。
 現実ではない。
 ――誰か嘘だと、二人でただいまと、戻って来ると言ってよ。
  湊は声がかれるまで絶叫して、膝から崩れ落ちた。泣き声が響いて、瞳から大粒の涙がつたっていく。
  ドンと床を殴る。
  思い当たるのは、一人だけだった。
  父親の原田孝だ。
 ――許せない。
 都と血のつながりはない。つながりがなくても、 湊にとって弟に間違いなかった。
 ――あいつは僕から家族を奪った。
 ――報復してやる。
  混乱をしている今だったら、抜け出しても何も言われない。あの場所に行ったら、報復への糸口をつかめる可能性も、見えてくるかもしれない。小さな情報でもよかった。
 湊はふらふらと歩き出す。向かった先は、少し離れた場所にある奈美の祖父母たちの、研究所兼療養所だった。体の弱い子供たちのために、薬を開発していたと聞いている。
 周囲の人から信頼も厚かったみたいだった。周囲の人たちを、助けたい。
 気持ちが滲み出ている。
 ある程度研究に、めどが付いたからのか、祖父母はひっそりと姿を消して引退をした。
 行方不明になっている、遺伝子研究室前室長兼元警視総監だったのではないかとの話題もある。祖母を連れて日本を、離れたのではないかとそんな噂も聞いていた。
 祖父母の顔を見た記憶もないし、声を聞いた経験もなかった。今、どこで何をしているのかまでは知らない。
 大人の事情もある。秘密は秘密のままで、いい時もある。その様な関係もおもしろい。湊はあえて介入はせずに、深追いまでは考えていなかった。
 その痕跡を湊が引き継ぐのも、不思議な縁でもあった。扉に手をかけると、鍵は開いている。
 研究所に足を踏み入れて、電気を点けた。荒れているだろうと思っていた中は、手入れされていた。
 誰か手入れしている気配がする。
 湊はもしかして、期待が膨らんでいく。孝の報復への糸口を突破できそう予感がした。
 湊は祈る気持ちで、研究所内装置全体のスイッチをオンにした。 音がして機械が作動する。
  確かめてから、電源を切った。
 ――よかった。
 ――これで、実験はできる。
 デザインズ・ベイビーの短命を防ぐ、薬は作れそうだ。まずは、一歩前へは進めた。湊が息を吐き出していると、扉の開く音がする。誰だ、と振り向いた。
 後ろに立っていたのは、二十歳前半の青年だった。灰色の瞳は気だるげに湊を見ている。髪の毛は癖っ毛で真っ黒だった。
  青年が落ち着いているからだろうか。
 怖さを感じなかった。先ほどまで荒ぶっていた感情も引いている。つかず離れずで、性格的にも合いそうなタイプだった。