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◽️プチストーリー【六角形な気持ち】(作品No_22)

ー/ー



 僕はベッドの掛け布団の上に体を放っていた。
眠るにはまだ早くて、気持ち的にもまだ明日を迎えるには早いというか。
僕は天井を見たままで、左手をカクッ、カクッとワイパーのように動かして、紙が当たる感触を探していた。左手の甲に、人が触れてくれたような・・紙の感触があった。その感触を頼りに、魚が食事を瞬間の素早さでパクッとするように紙を掴んで、天井を見たままの僕の視界にカットインさせた。
紙は長方形の対角の2つだけがカットされた・・六角形に折りたたまれていた。学校でなぜかみんな使っていてよく見かける、見慣れたノートを切り取って出来ていた。見えている平らな面には何も書かれていないし、手を捻って裏の折り目が見える少し複雑な形の面を見ても何も書かれていない。じっと目を凝らしても何も見えやしない。透視できないのわかっているけど見てしまう。
僕は何度も開けて柔らかくなったその紙の折り目に指を入れて紙を開いた。
僕も使っているノートのページにの真ん中には
鉛筆で太さをもった文字で書かれていた。
「春都君は、春都君なんだね。
 知らなかったよ。
        野仲ひとみ」
僕は野仲さんの文字をじっと見つめた。
アルファベットのシンプルさと違って複雑な形な漢字とひらがな。
形の良さを感じて、日本語っていいなと感じさせてくれた。
手書きの文字から抱く印象を空気を吸うように、体の中に溜め込んだあと、僕はまぶたをゆっくりと閉じて、僕の中にある野仲さんを記憶の海から探し始めた。
 野仲さんは学校一年生のときに同じクラスだった。僕は学校カーストの中では真ん中の真ん中。話に出ることはない感じ。自覚してるからいいけど。野仲さんは運動部に所属していて、クラスの目立つ運動部の人気者と一緒にいつもいる感じだった。
学校にもまだ慣れてない、1学年が始まった頃に隣の席になった。僕が席に座っていたら、初めて、野仲さんが席に着いたとき、僕の方をすぐ向いて
「春都くんだよね。一年間よろしくね」
って表情でも同時に伝えてくれている笑顔をしていた。
「あ、う、うん。よろしく」
僕はこういうのが精一杯だった。学期が変わり席替えをする前まで、野仲さんは、多くはないけど、共通の話題である授業のことをたびたび僕に話しかけていた。
席替えをした後も、登校時、下校時、昼休み、教室の外で、僕を見かけると、廊下の反対側からも野仲さんはいつも一緒に居る男女のグループの中から
「春都くーん、おはよ-!」
「春都くーん、またね!」
同じ笑顔で僕との距離が遠くても聞こえる声を届けてくれていた。野仲さんの友人は僕は話したこともなくて、誰?みたいなハテナが頭に浮かんでいるのが一目瞭然だった。野仲さんはそんなことは一切気にしていないようだった。
僕はただただ戸惑うだけだった。何なのだろうと。
 1学年が終わる最後の日の朝、僕がクラスルームに入って席に座ったら、野仲さんが僕の席に来た。
「はい」って一言いって、僕の机に紙を置いていった。紙は長方形の対角を2つ切ったような形になっていた。なんだかすぐに開けるものではない気がして、鞄にしまった。
いつもより味を感じなかった夕食の後に、自分の部屋に戻り、椅子に座り、横にある鞄を持ち上げて野仲さんから初めてもらった六角形の手紙を手に持った。開け方がわからなくて、変に力を入れて破りはしないかと指で様子を見ながら試行錯誤。紙が徐々に展開されて元のサイズに戻っていく。なんだか富士山にいるように息がしづらい。富士山の山頂についたくらいのとき、文字が目に飛び込んでくる。
「春都君は、春都君なんだね。
 知らなかったよ。
        野仲ひとみ」
僕は手紙を持ったまま、硬直した。
そのままベッドに横になった。ここがいまというわけだ。
辞書で書かれているような文字の意味はわかる。
だけど・・・。
なんだか経験したことのない感じでいる。
いやこの感覚、日々にもわずかにあった気もする。
言葉でいうと・・ドキドキという感じかな・・?
ワクワク?
ふいに自分のこれまで感じたことのある感覚と照らしていた。
ドキドキは、自分とお構いなしに心臓の鼓動が不規則にリズムを刻み、感じているといてもたってもいられなくなる。
学校の試験の前とか、初対面の人と話すとき、授業中に突然回答を求められたとき、あとは、卒業式で名前を呼ばれたときもか。
ワクワクは、自分のペースに寄り添って心臓の鼓動が規則的にリズムを刻む、高揚してくる。
明日、何を食べよう。明日、お気に入りの漫画の最新話が読める。
あのアーティストの次の新曲はどんなのだろう。今度、僕たちの地方にもライブきてくれるんだった。
そうそう、毎年我が家恒例の夏のイベント。九州にいるおばあじゃんとおじいちゃんに会いに新幹線に乗るときのあの安心感と高揚感。
知りたい、この手紙で感じた、自分の気持ちを。
知りたい、この手紙の野仲さんのメッセージを。
ドキドキ、わからないものの目の前にいる感覚。
ワクワク、自分の好きなものの目の前にいる感覚。
野仲さんからもらった、六角形の手紙をもらってメッセージを読んだとき・・・
僕は、そうドキドキしている。だけど、それだけじゃない。ワクワクもしている。僕の中で、割り切れない異なる拍子の二つの鼓動のリズムが同時に重なり、別のリズムになって単独では感じられない複雑で独特の浮遊感、高揚感が生まれてる。あ、学校の音楽の先生が言ってた、これはポリリズムというものかもしれない。
「こんな気持ちになれるの。人生であと何回あるんだろ。いや、また来るのかな」
その言葉がふと浮かんだとき、
僕はふいにベットから起き上がって、端に腰掛けた。
視界は天井から変わり、いつも生活している様子が目に入る。
SNSを使わずに届けてくれた六角形のメッセージ。
明日、野仲さんに会って僕から聞いてみよう。
自分の部屋を出て、歯を磨くために洗面台に向かった。
ワクワクとドキドキしていた。
(了)


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 僕はベッドの掛け布団の上に体を放っていた。
眠るにはまだ早くて、気持ち的にもまだ明日を迎えるには早いというか。
僕は天井を見たままで、左手をカクッ、カクッとワイパーのように動かして、紙が当たる感触を探していた。左手の甲に、人が触れてくれたような・・紙の感触があった。その感触を頼りに、魚が食事を瞬間の素早さでパクッとするように紙を掴んで、天井を見たままの僕の視界にカットインさせた。
紙は長方形の対角の2つだけがカットされた・・六角形に折りたたまれていた。学校でなぜかみんな使っていてよく見かける、見慣れたノートを切り取って出来ていた。見えている平らな面には何も書かれていないし、手を捻って裏の折り目が見える少し複雑な形の面を見ても何も書かれていない。じっと目を凝らしても何も見えやしない。透視できないのわかっているけど見てしまう。
僕は何度も開けて柔らかくなったその紙の折り目に指を入れて紙を開いた。
僕も使っているノートのページにの真ん中には
鉛筆で太さをもった文字で書かれていた。
「春都君は、春都君なんだね。
 知らなかったよ。
        野仲ひとみ」
僕は野仲さんの文字をじっと見つめた。
アルファベットのシンプルさと違って複雑な形な漢字とひらがな。
形の良さを感じて、日本語っていいなと感じさせてくれた。
手書きの文字から抱く印象を空気を吸うように、体の中に溜め込んだあと、僕はまぶたをゆっくりと閉じて、僕の中にある野仲さんを記憶の海から探し始めた。
 野仲さんは学校一年生のときに同じクラスだった。僕は学校カーストの中では真ん中の真ん中。話に出ることはない感じ。自覚してるからいいけど。野仲さんは運動部に所属していて、クラスの目立つ運動部の人気者と一緒にいつもいる感じだった。
学校にもまだ慣れてない、1学年が始まった頃に隣の席になった。僕が席に座っていたら、初めて、野仲さんが席に着いたとき、僕の方をすぐ向いて
「春都くんだよね。一年間よろしくね」
って表情でも同時に伝えてくれている笑顔をしていた。
「あ、う、うん。よろしく」
僕はこういうのが精一杯だった。学期が変わり席替えをする前まで、野仲さんは、多くはないけど、共通の話題である授業のことをたびたび僕に話しかけていた。
席替えをした後も、登校時、下校時、昼休み、教室の外で、僕を見かけると、廊下の反対側からも野仲さんはいつも一緒に居る男女のグループの中から
「春都くーん、おはよ-!」
「春都くーん、またね!」
同じ笑顔で僕との距離が遠くても聞こえる声を届けてくれていた。野仲さんの友人は僕は話したこともなくて、誰?みたいなハテナが頭に浮かんでいるのが一目瞭然だった。野仲さんはそんなことは一切気にしていないようだった。
僕はただただ戸惑うだけだった。何なのだろうと。
 1学年が終わる最後の日の朝、僕がクラスルームに入って席に座ったら、野仲さんが僕の席に来た。
「はい」って一言いって、僕の机に紙を置いていった。紙は長方形の対角を2つ切ったような形になっていた。なんだかすぐに開けるものではない気がして、鞄にしまった。
いつもより味を感じなかった夕食の後に、自分の部屋に戻り、椅子に座り、横にある鞄を持ち上げて野仲さんから初めてもらった六角形の手紙を手に持った。開け方がわからなくて、変に力を入れて破りはしないかと指で様子を見ながら試行錯誤。紙が徐々に展開されて元のサイズに戻っていく。なんだか富士山にいるように息がしづらい。富士山の山頂についたくらいのとき、文字が目に飛び込んでくる。
「春都君は、春都君なんだね。
 知らなかったよ。
        野仲ひとみ」
僕は手紙を持ったまま、硬直した。
そのままベッドに横になった。ここがいまというわけだ。
辞書で書かれているような文字の意味はわかる。
だけど・・・。
なんだか経験したことのない感じでいる。
いやこの感覚、日々にもわずかにあった気もする。
言葉でいうと・・ドキドキという感じかな・・?
ワクワク?
ふいに自分のこれまで感じたことのある感覚と照らしていた。
ドキドキは、自分とお構いなしに心臓の鼓動が不規則にリズムを刻み、感じているといてもたってもいられなくなる。
学校の試験の前とか、初対面の人と話すとき、授業中に突然回答を求められたとき、あとは、卒業式で名前を呼ばれたときもか。
ワクワクは、自分のペースに寄り添って心臓の鼓動が規則的にリズムを刻む、高揚してくる。
明日、何を食べよう。明日、お気に入りの漫画の最新話が読める。
あのアーティストの次の新曲はどんなのだろう。今度、僕たちの地方にもライブきてくれるんだった。
そうそう、毎年我が家恒例の夏のイベント。九州にいるおばあじゃんとおじいちゃんに会いに新幹線に乗るときのあの安心感と高揚感。
知りたい、この手紙で感じた、自分の気持ちを。
知りたい、この手紙の野仲さんのメッセージを。
ドキドキ、わからないものの目の前にいる感覚。
ワクワク、自分の好きなものの目の前にいる感覚。
野仲さんからもらった、六角形の手紙をもらってメッセージを読んだとき・・・
僕は、そうドキドキしている。だけど、それだけじゃない。ワクワクもしている。僕の中で、割り切れない異なる拍子の二つの鼓動のリズムが同時に重なり、別のリズムになって単独では感じられない複雑で独特の浮遊感、高揚感が生まれてる。あ、学校の音楽の先生が言ってた、これはポリリズムというものかもしれない。
「こんな気持ちになれるの。人生であと何回あるんだろ。いや、また来るのかな」
その言葉がふと浮かんだとき、
僕はふいにベットから起き上がって、端に腰掛けた。
視界は天井から変わり、いつも生活している様子が目に入る。
SNSを使わずに届けてくれた六角形のメッセージ。
明日、野仲さんに会って僕から聞いてみよう。
自分の部屋を出て、歯を磨くために洗面台に向かった。
ワクワクとドキドキしていた。
(了)