第三百八十話
ー/ー 裏切り者の正体――渡部は、唇を噛んでいた。どこで、そこまで疑われていたのか。それを問おうとした矢先に、信一郎は不敵な表情のまま腕を組み、後ろの全景が眺められるガラスにもたれかかる。
「――どこのタイミングで気付いていたか、って言いたいのは察しが付くよ。あの一組から六組に落とした生徒……渡部正人が繋がっていることを知ってからだ。君と彼は栃木の出だし、立身の中等部を途中で抜けて、教会の指示に従った状態でこちらに入学。面接官は基本的にそういった話題には疎い面子だから、ラッキーだったよね。私相手だったら一発でバレるもん」
「――なら、何故今の今まで泳がせたんですか、私と正人を」
その問いに対して、すっかり冷めてしまったコーヒーカップの残りを一気飲みして、これまでにないほど優しい目を向けたのだ。
「……確かに、渡部正人に関しては、文字通り『持っている』奴らへの復讐心で動いている。どこまでも報われない現状に嫌気がさして、貪れるほどの力が欲しいと願った上での行動ってのは十分に理解しているんだ。でも……君は違うだろう?」
その瞬間に、全てを見通されたような錯覚に陥る渡部……否、かな。どこまで『歪んで』いようと、その行動原理の核を理解していたからこそ、信一郎は泳がせていたのだ。
「――君、透ちゃんに一目惚れしたから、教会も英雄学園も全てダシにした上で……透ちゃんのためにあろうとしたんだろう? そうじゃあなかったら、何もかもしっちゃかめっちゃかにした上で、透ちゃんに恨まれるような行動を取るだろうと思ってね」
だが、実際は違った。多少なり自分の身を粉にしようと、透のためにあろうとした。これまでの行いは、偽りの彼女によって行われた、本当の愛故の行動であった。
透の小食を知っていながら必要以上に料理を作ったことも、
透に心配されようと義弟妹の世話をしようとしたことも。
それら全てが空回りしたように見せかけ、同情を誘ったことも。
全てが全て、透を想った故の行動であったのだ。
「――本当、君が透ちゃんから『嫌われてしまうかもしれない』だなんて可能性を考えながらも、彼女の力になりたいがゆえに、教会に入信しておきながら英雄側に付くだなんて。どこまで愛が重かろうとそこまではやらんよ。英雄側でもない、教会側でもない、どっちつかずの宙ぶらりんな状態で教会を相手取ろうだなんて……死にたがりでしかない大馬鹿者の思考だからさ」
「――それで、どうしようって言うんです? 私を……作戦から除外しますか?」
そんな彼女の問いに対し、これまでの真剣な振る舞いを捨てたような、あっけらかんとした表情で言い放つのだった。
「? いや、君にももちろん英雄側で戦ってもらうけれど??」
これまでの裏切り行為、そして全て透が行動原理であった渡部は、思わず呆けてしまった。
「いや、いやいやいや! 少なくとも、私にとっては大衆がどうなろうと知ったことではないですし、教会側がどうなろうと知ったことではないですし……自暴自棄になる可能性だってあるんですよ!?」
「ああ、十分に理解している。さんざ嘘ついてきた君だが、『過去に関しては偽りがないこと』ぐらい知っている。だから――君の配置は透ちゃんの近くである……『ここ』なんだよ」
先ほどの作戦を伝えるホログラムを再度表示する信一郎。その場所は、実に分かりやすく学生寮エリア。そこには、透の義弟妹達が地下シェルター内で遊んでいることだろう。透が彼らに対し「今日はお姉ちゃんが頑張る日だから、この地下で遊びながら音楽フェスを楽しんでいてくれ」と誘導しておいたのだ。
そこに信一郎の意思は一切関係なし、ただ透が『義理のお姉ちゃん』として接した結果がそこにあるのだ。
ある意味、『形を変えた脅し』である。透のためを想えるなら、透のために身を粉に出来るのなら――一度だけではなく何度も接した、透の義弟妹を守ることが出来るだろうという、愛の証明問題。その愛がいくら歪んでいようと、当人の『大切』を傷付けることは、かなにとって『本当の愛』なのかどうか、それを示すための戦いを画策したのだ。
「君が、大元は礼安たちのような真っ当な正義感を持っていたことはリサーチ済み。あの子……確か、苗字は……守屋、名前は加奈とか言ったかな。君と同じ名前……まあ厳密には同じ『読み』を持つ、真っ当な女の子だったよね」
「――今、その子は関係ないでしょう」
「いや、大アリだね。その子が不慮の事故……いや、下らない七光りのひき逃げによって亡くなって、君は大いに歪んだ。君の愛も、君の保有する感情も。学園祭までの一か月の間、君のことを良く調べたから……自分のことのように理解できるんだ」
信一郎も、最愛の妻である茉莉也を亡くしている。大切な存在を喪う痛みというものは、十分に理解している。どこまで超越した力を保有しようと、運命の悪戯に翻弄された結果自らの『大切』を失くす、と言う事象はままある話である。
だからこそ、歪んだ彼女を、どうも放っておけなかったのだ。
「――仮にも、『原初の英雄』をやっているからね。君のような人は……それなりにいた。似たような理由で、戦った敵もわんさかいた。でも……君は、渡部かなという人間は違った。愛に狂い、親と本当の妹を喪ったあの子に、親近感が湧いた。それが……君と言う存在の分岐点になったんだ」
その過程が歪んでいようと、『彼女の力になりたい』と言う結末は一緒。だからこそ、今回ばかりは手を取って戦えると確信したのだ。多少なり脅し含めた作戦内容であろうと、彼女は受け取る。教会や英雄陣営、はたまた一般人やVIPのために戦うのではなく、『天音透』と言う女のために、愚直に戦える。
その確信があったからこそ、信一郎はかなを作戦人員から切らなかったのだ。
「――完敗ですよ、学園長」
「そ? いやあ、一か月間の準備期間……仲間ごっこは楽しかった?」
「仲間ごっこ? ……そうですね、随分楽しかったですよ。少なくとも……和氣さんの所より、随分楽しかったですよ。常日頃忙しい高梨さんとは、面識が奇跡的に無くって……この場においても気づかれることはありませんでしたが……」
「ま、私にとっては仲間ごっこではないと考えているよ。これまでは本当にそうだったかもしれないけれど……『もう違う』でしょ?」
次第に、渡部の肩が震え始める。裏切りを知ってもなお、『こっちに居てもいい』とあっけらかんに話して見せる信一郎は、どこまでも眩しく見えたのだ。
「……このことは、透ちゃんには話すんですか」
「君が話して欲しいなら、私が話すけど」
「――ってことは、知る人は信一郎さんだけ、ってことですか」
「ま、そうだね。乙女の秘密を簡単に口走るほど、私と言う存在は腐ってないからさ」
ドアを開ける寸前。涙ながらにかなの震える声で、一切振り返ることなく呟いたのだった。
「……出来ることなら、バレたくないって思っている自分がいるんです。多くに裏切られて、かつては全てを憎み復讐者として生きていたあの子だけには……ッ! 虫が良いことくらい分かってます、そんなことくらい分かっているんです……でも、でも……! 私はあの子に嫌われたくないんです……!!」
これまでの偽りの態度から、信一郎の告白によって剥がれていく化けの皮。それが全て剥がれ切った後に残るは――元々の彼女らしい、無垢さが残る感情のみが残る。恋に恋する、一途さを抱えた少女同然であったのだ。
「――それはそれは。随分……虫が良すぎるよね、自分勝手が過ぎるよね。自分で告げることもせずに、そして私自体が語ることはしないけれど、第三者が語ることも嫌と。でも……自己中心的極まるその考え、嫌いじゃアないよ。人らしい、『醜さ』が前面に表れてる。そんな人間臭さ、そして性格の歪んだ感じ……本当に嫌いじゃアない。そうじゃあないと、結局のところ『高み』に上る事なんてできやしない」
信一郎は、真っ白な半そでのワイシャツを着た状態かつ小脇にスーツの上着だけを抱え、学園長室の扉を開け放つ。無論、教職員含め外には誰もいない。
「だから、私は……その身勝手過ぎる恋路を応援するよ。玉砕覚悟で、彼女のために、義弟妹ちゃんたちのために戦ってみるの、アリだと思うよ。私は意地悪なんて大嫌いだから、透ちゃんらに真実を告げることはないし、今回の作戦人員に伝えることもしない。私と君の、強固でありながら脆弱な、機密事項のままだ」
「学園、長――」
「その代わり。今回の作戦、成功させてね。君だけに渡していなかったスイッチも……今この場で渡しておく。ナースコールのような感覚で、ヤバそうになったら押してくれたまえ」
百円均一で売られているような、非常に小さなサイズのボタンが、かなに投げ渡される。それを何とかキャッチすると、信一郎は無邪気な笑みを見せ、手をひらひらと振るのだった。
「――透ちゃんは、礼安のことが大好きだ。親ながら理解できるくらいには、まあまああからさまな、バレバレなアプローチをここ最近行っているよ。エヴァちゃんを始めとした超強豪ばかりが居座る、同性恋愛争奪戦の中に参入できるかどうかは……君の行い次第かなぁ。嘘がバレるのが嫌なら……吐き続けた方が、疲れるけどおすすめだよ」
かなが瞬きをした瞬間に、信一郎はその場からいなくなっていた。今回の案件全ての真実を知りながらも、残酷なほどに優しく接した信一郎に――ひたすらに自分が情けなくなっていた。その場にへたり込んだままであったが、泣きっぱなしではいられない。
会場に人が完全に入り終えるまで、後一時間。その間に、配置について栃木支部を迎え撃たないと、必ず被害者が生まれる。
ならば。今一度かなは、これまでの渡部かなに戻る。栃木支部に構成員として登録されている女ではなく、英雄学園武器科二年一組に在籍している、天音透のことが大好きな、一人の女子生徒として、懸命に戦うのみ。
行動理由は、他でもなく本当のままで。しかしそれを口にすることはないし、例え死の淵に立たされたとしても偽るのみ。
「カロリーは掛かるけれど……嘘は、吐き続ける方がおすすめ、ね」
小さなスイッチを握り締め、乱雑に涙を拭き、すぐさまその場を駆け出すかな。今の自分は、裏切り者ではない。ただ一人の、英雄学園の人間なんだと自己暗示を掛けながら、これまでにないほどの真剣な表情で現場に急行するのだった。
「――どこのタイミングで気付いていたか、って言いたいのは察しが付くよ。あの一組から六組に落とした生徒……渡部正人が繋がっていることを知ってからだ。君と彼は栃木の出だし、立身の中等部を途中で抜けて、教会の指示に従った状態でこちらに入学。面接官は基本的にそういった話題には疎い面子だから、ラッキーだったよね。私相手だったら一発でバレるもん」
「――なら、何故今の今まで泳がせたんですか、私と正人を」
その問いに対して、すっかり冷めてしまったコーヒーカップの残りを一気飲みして、これまでにないほど優しい目を向けたのだ。
「……確かに、渡部正人に関しては、文字通り『持っている』奴らへの復讐心で動いている。どこまでも報われない現状に嫌気がさして、貪れるほどの力が欲しいと願った上での行動ってのは十分に理解しているんだ。でも……君は違うだろう?」
その瞬間に、全てを見通されたような錯覚に陥る渡部……否、かな。どこまで『歪んで』いようと、その行動原理の核を理解していたからこそ、信一郎は泳がせていたのだ。
「――君、透ちゃんに一目惚れしたから、教会も英雄学園も全てダシにした上で……透ちゃんのためにあろうとしたんだろう? そうじゃあなかったら、何もかもしっちゃかめっちゃかにした上で、透ちゃんに恨まれるような行動を取るだろうと思ってね」
だが、実際は違った。多少なり自分の身を粉にしようと、透のためにあろうとした。これまでの行いは、偽りの彼女によって行われた、本当の愛故の行動であった。
透の小食を知っていながら必要以上に料理を作ったことも、
透に心配されようと義弟妹の世話をしようとしたことも。
それら全てが空回りしたように見せかけ、同情を誘ったことも。
全てが全て、透を想った故の行動であったのだ。
「――本当、君が透ちゃんから『嫌われてしまうかもしれない』だなんて可能性を考えながらも、彼女の力になりたいがゆえに、教会に入信しておきながら英雄側に付くだなんて。どこまで愛が重かろうとそこまではやらんよ。英雄側でもない、教会側でもない、どっちつかずの宙ぶらりんな状態で教会を相手取ろうだなんて……死にたがりでしかない大馬鹿者の思考だからさ」
「――それで、どうしようって言うんです? 私を……作戦から除外しますか?」
そんな彼女の問いに対し、これまでの真剣な振る舞いを捨てたような、あっけらかんとした表情で言い放つのだった。
「? いや、君にももちろん英雄側で戦ってもらうけれど??」
これまでの裏切り行為、そして全て透が行動原理であった渡部は、思わず呆けてしまった。
「いや、いやいやいや! 少なくとも、私にとっては大衆がどうなろうと知ったことではないですし、教会側がどうなろうと知ったことではないですし……自暴自棄になる可能性だってあるんですよ!?」
「ああ、十分に理解している。さんざ嘘ついてきた君だが、『過去に関しては偽りがないこと』ぐらい知っている。だから――君の配置は透ちゃんの近くである……『ここ』なんだよ」
先ほどの作戦を伝えるホログラムを再度表示する信一郎。その場所は、実に分かりやすく学生寮エリア。そこには、透の義弟妹達が地下シェルター内で遊んでいることだろう。透が彼らに対し「今日はお姉ちゃんが頑張る日だから、この地下で遊びながら音楽フェスを楽しんでいてくれ」と誘導しておいたのだ。
そこに信一郎の意思は一切関係なし、ただ透が『義理のお姉ちゃん』として接した結果がそこにあるのだ。
ある意味、『形を変えた脅し』である。透のためを想えるなら、透のために身を粉に出来るのなら――一度だけではなく何度も接した、透の義弟妹を守ることが出来るだろうという、愛の証明問題。その愛がいくら歪んでいようと、当人の『大切』を傷付けることは、かなにとって『本当の愛』なのかどうか、それを示すための戦いを画策したのだ。
「君が、大元は礼安たちのような真っ当な正義感を持っていたことはリサーチ済み。あの子……確か、苗字は……守屋、名前は加奈とか言ったかな。君と同じ名前……まあ厳密には同じ『読み』を持つ、真っ当な女の子だったよね」
「――今、その子は関係ないでしょう」
「いや、大アリだね。その子が不慮の事故……いや、下らない七光りのひき逃げによって亡くなって、君は大いに歪んだ。君の愛も、君の保有する感情も。学園祭までの一か月の間、君のことを良く調べたから……自分のことのように理解できるんだ」
信一郎も、最愛の妻である茉莉也を亡くしている。大切な存在を喪う痛みというものは、十分に理解している。どこまで超越した力を保有しようと、運命の悪戯に翻弄された結果自らの『大切』を失くす、と言う事象はままある話である。
だからこそ、歪んだ彼女を、どうも放っておけなかったのだ。
「――仮にも、『原初の英雄』をやっているからね。君のような人は……それなりにいた。似たような理由で、戦った敵もわんさかいた。でも……君は、渡部かなという人間は違った。愛に狂い、親と本当の妹を喪ったあの子に、親近感が湧いた。それが……君と言う存在の分岐点になったんだ」
その過程が歪んでいようと、『彼女の力になりたい』と言う結末は一緒。だからこそ、今回ばかりは手を取って戦えると確信したのだ。多少なり脅し含めた作戦内容であろうと、彼女は受け取る。教会や英雄陣営、はたまた一般人やVIPのために戦うのではなく、『天音透』と言う女のために、愚直に戦える。
その確信があったからこそ、信一郎はかなを作戦人員から切らなかったのだ。
「――完敗ですよ、学園長」
「そ? いやあ、一か月間の準備期間……仲間ごっこは楽しかった?」
「仲間ごっこ? ……そうですね、随分楽しかったですよ。少なくとも……和氣さんの所より、随分楽しかったですよ。常日頃忙しい高梨さんとは、面識が奇跡的に無くって……この場においても気づかれることはありませんでしたが……」
「ま、私にとっては仲間ごっこではないと考えているよ。これまでは本当にそうだったかもしれないけれど……『もう違う』でしょ?」
次第に、渡部の肩が震え始める。裏切りを知ってもなお、『こっちに居てもいい』とあっけらかんに話して見せる信一郎は、どこまでも眩しく見えたのだ。
「……このことは、透ちゃんには話すんですか」
「君が話して欲しいなら、私が話すけど」
「――ってことは、知る人は信一郎さんだけ、ってことですか」
「ま、そうだね。乙女の秘密を簡単に口走るほど、私と言う存在は腐ってないからさ」
ドアを開ける寸前。涙ながらにかなの震える声で、一切振り返ることなく呟いたのだった。
「……出来ることなら、バレたくないって思っている自分がいるんです。多くに裏切られて、かつては全てを憎み復讐者として生きていたあの子だけには……ッ! 虫が良いことくらい分かってます、そんなことくらい分かっているんです……でも、でも……! 私はあの子に嫌われたくないんです……!!」
これまでの偽りの態度から、信一郎の告白によって剥がれていく化けの皮。それが全て剥がれ切った後に残るは――元々の彼女らしい、無垢さが残る感情のみが残る。恋に恋する、一途さを抱えた少女同然であったのだ。
「――それはそれは。随分……虫が良すぎるよね、自分勝手が過ぎるよね。自分で告げることもせずに、そして私自体が語ることはしないけれど、第三者が語ることも嫌と。でも……自己中心的極まるその考え、嫌いじゃアないよ。人らしい、『醜さ』が前面に表れてる。そんな人間臭さ、そして性格の歪んだ感じ……本当に嫌いじゃアない。そうじゃあないと、結局のところ『高み』に上る事なんてできやしない」
信一郎は、真っ白な半そでのワイシャツを着た状態かつ小脇にスーツの上着だけを抱え、学園長室の扉を開け放つ。無論、教職員含め外には誰もいない。
「だから、私は……その身勝手過ぎる恋路を応援するよ。玉砕覚悟で、彼女のために、義弟妹ちゃんたちのために戦ってみるの、アリだと思うよ。私は意地悪なんて大嫌いだから、透ちゃんらに真実を告げることはないし、今回の作戦人員に伝えることもしない。私と君の、強固でありながら脆弱な、機密事項のままだ」
「学園、長――」
「その代わり。今回の作戦、成功させてね。君だけに渡していなかったスイッチも……今この場で渡しておく。ナースコールのような感覚で、ヤバそうになったら押してくれたまえ」
百円均一で売られているような、非常に小さなサイズのボタンが、かなに投げ渡される。それを何とかキャッチすると、信一郎は無邪気な笑みを見せ、手をひらひらと振るのだった。
「――透ちゃんは、礼安のことが大好きだ。親ながら理解できるくらいには、まあまああからさまな、バレバレなアプローチをここ最近行っているよ。エヴァちゃんを始めとした超強豪ばかりが居座る、同性恋愛争奪戦の中に参入できるかどうかは……君の行い次第かなぁ。嘘がバレるのが嫌なら……吐き続けた方が、疲れるけどおすすめだよ」
かなが瞬きをした瞬間に、信一郎はその場からいなくなっていた。今回の案件全ての真実を知りながらも、残酷なほどに優しく接した信一郎に――ひたすらに自分が情けなくなっていた。その場にへたり込んだままであったが、泣きっぱなしではいられない。
会場に人が完全に入り終えるまで、後一時間。その間に、配置について栃木支部を迎え撃たないと、必ず被害者が生まれる。
ならば。今一度かなは、これまでの渡部かなに戻る。栃木支部に構成員として登録されている女ではなく、英雄学園武器科二年一組に在籍している、天音透のことが大好きな、一人の女子生徒として、懸命に戦うのみ。
行動理由は、他でもなく本当のままで。しかしそれを口にすることはないし、例え死の淵に立たされたとしても偽るのみ。
「カロリーは掛かるけれど……嘘は、吐き続ける方がおすすめ、ね」
小さなスイッチを握り締め、乱雑に涙を拭き、すぐさまその場を駆け出すかな。今の自分は、裏切り者ではない。ただ一人の、英雄学園の人間なんだと自己暗示を掛けながら、これまでにないほどの真剣な表情で現場に急行するのだった。
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