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第三百七十九話

ー/ー



 朝七時。こんなタイミングではあるものの、毎年開かれる学園祭を楽しみにしていた、一般客とVIPが徐々に学園都市内に入り込んできた。流石にVIPと一般客を同じ列に並べる訳はないのだが、片方が整然と整備された待機列に並んでいく中、その横の車線を大勢の車が走っていく。ほんの一瞬しか彼らの目には映らないものの、名だたるビッグネームたちが黒塗りの高級車に乗せられ連絡橋を進んでいく。その現実離れした光景に、早くも一般客たちは沸き立っていた。
 そして、その中には、高梨の姿もあった。入り口にて運転手と別れ、すぐさま学園内に入り込む。向かった先はもちろん、学園長室であった。
 そこにはすでに、今回の学園祭における、栃木支部の迎撃を担当する警備隊である、院、透、渡部、丙良、信玄、灰崎の総勢六名が集結していたのだ。

「遅いッスよ、高梨さん」

「ごめんね、まあまあ渋滞に嵌っちゃって。でも……仕事道具であるスーツも着てきて、準備は万端だよ」

 多少タイトなオフィススーツを、不安そうに凝視する丙良と信玄、そして灰崎。男だからこそ理解できる、スラックス、またはパンツスタイルのスーツならではの動きにくさ。万が一そのスーツがおしゃかになってしまったら、間違いなく請求は信一郎に飛ばすべきだろう。
 そして、そんな不安そうな目を察知してか、信一郎に目配せをする高梨。

「――はい、解説代わりまして学園長です。そのスーツに関しては、私……と言うか、この学園の製造技術を用いて縫製(ほうせい)した、至高の一品だよ。普段の……それこそ、特撮作品とかで用いているスーツとは訳が違うの。伸縮自在、おまけに超頑丈。どこまで激しい戦闘を経ても、一切生地は傷まないし最高品質のまま! これ、後二年後辺りスーツ業界に持って行って、思いっきり殴り込みに行こうと思うんだ♪」

「――目標売上額は?」

「それはちょっと……伏せさせてもらおうかな?」

「出来が良いのは分かりましたから、朝っぱらから汚い金の話など止めてくださいますかお父様??」

 これから迎え撃つ敵のことを見越しての行動であるのだが、どうも『稼げる』話になると顔色が変わる。真剣な雰囲気に水を差すことを嫌った院の一喝によって、再び学園長室は真面目な空気に包まれる。

「――よし、ではよぉく集まってくれたね、『学園防衛隊』の諸君」

「……何だよ、『学園防衛隊』って? まあまあ慎ちゃんの看病で付きっきりだったから、解説宜しく?」

「まあ単純だ、これから一般客の皆さんと学園祭、及び音楽フェスに参加する生徒諸君、そして今回八割栃木支部の『餌』目的で招致したVIPの方々は、基本的に皆地下演習場に入って、雄大なフィールドでどんちゃん騒ぎをするわけだ。基本的に、そのフィールドに部外者は入れ込みたくない。よって今回は……あらかじめ院ちゃんや透ちゃんには伝えておいた布陣で、この学園を……否、地下演習場を防衛するんだ」

 宙に広げるは、ホログラムで生成された学園全体の地図。地下演習場から徐々に上昇していき、最終的には学園を上から見た俯瞰図へ変わる。そこから、寮エリアや繁華街エリア、ローカルエリアや職員寮エリアを含むものへ切り替わっていく。
 そして、ホログラム上に今回のメンバーのアイコンが一人ずつ置かれていく。事前に伝えられたものと微妙に異なっていたため、院と透は首をかしげていたが、特に何か物申すことはない。作戦の細部が異なっていたからと言って、いちいちケチをつけていてはきりがないとの判断の上であった。
 本来ならたった七人の人員で、広大な学園都市全体、ひいては地下演習場に繋がる道を守り切れるわけはないのだが、この場に居るのは基本的に『恵まれた』存在。これ以上の面子を割く場合、非常にかかるコストが多すぎる判断であった。
 もし仮に、生徒会の面々が出張る、だなんて事になったら、それはニュースになってしまうほどの一大インシデントと化してしまう。それほどに彼らはこの学園における真の最強格、ある種の最後の砦のようなものであるために、そして頼ったら後が怖いために、信一郎もそれらの面々にとやかく口出ししたくなかったのだ。

「本当なら、このこと生徒会長と副生徒会長に明かそうとも思ったんだけどねェ、絶対に怒られるから止めたの!」

「大の大人、しかも学園長がそんな立ち居振る舞いで良いんですか?! 何か以前丙良先輩にも似たようなこと言ってましたよね、面倒臭いから扱いたくない、埼玉の一件誘いたくないとか教職者にあるまじきこと漏らしてましたよね!?」

「おうコラそれ初耳だぞ学園長!? 俺っちのこと『面倒臭い』とか抜かしたか今!?」

「だって当時の信玄くんってマジで成績『だけ』良い生徒だったじゃん!!」

「ンだとこの学園長!? よく大事なことばかり覆い隠してこっちには土壇場でようやく伝える報連相のなってない秘匿主義大魔人が!!」

 あまりにも別の問題でヒートアップしてきたために、信一郎含む三人とも、灰崎から有難い拳骨を貰うことに。年次は違えど、この場における三番目の年長者はやることが違っていた。

「……まあ、基本的にはそんな感じ。私は基本的に『下』で色々やらなきゃいけないこと多いから、今回も不参加ではあるけれど……皆の作戦成功を祈っているよ。まあ、本当に拙い状況に陥ったとしたら……私を緊急招集できる『スイッチ』を押してくれ。分かったね、『学園防衛隊』のメンバーたち」

 皆一様に、『学園防衛隊』がどういう経緯でそう名付けられたのかが気になって仕方なかったのだが、真剣な雰囲気を邪魔したくないと口を開くことは無かった。しかし、目は泳ぎっぱなしであった。

「――何、気になる? 『学園防衛隊』の名付け元について。よし分かったそれじゃあ――」

「「解散で」」

「ねぇ!? 私語りたいの、最近やった結構面白いゲームについて語りたいの!! おもくそ影響受けて「あの人には発想力で敵わないなあはっはっは」とかやりたいの!! ダイレクトマーケティングしたいの!! 許可貰ったら私延々と語れるよ!?」

 高梨と灰崎の英断によって、その場はお開きとなった。高梨は院と透、それぞれに拳を合わせながら、それぞれが固定場所に付くべく、『一人を除いて』走り出したのだった。



 信一郎は、ちゃんとしたクールビズ用の恰好にスーツを脱いで別場所に向かおうとしていたのだが、その『残った一人』がどうしても話したそうにしていたために、非常に挑戦的な笑みと共に向き直るのだった。

「……びっくりしたよね、君にとっては。だって、『二週間前くらいに話された内容』と全く違う作戦を告げられているんだからね。しかも、栃木支部に何となく繋がっているのは……校則違反をがっつり犯して六組に落としたあの子……それ以外にも居るってのは何となく理解していたし」

「…………」


「何を思って、君は『栃木支部の内通者』になっていたんだい? まあまあ恵まれた地位ながら、君は何が望みだったのかな――――『渡部かな(ワタベ カナ)』さん」



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 朝七時。こんなタイミングではあるものの、毎年開かれる学園祭を楽しみにしていた、一般客とVIPが徐々に学園都市内に入り込んできた。流石にVIPと一般客を同じ列に並べる訳はないのだが、片方が整然と整備された待機列に並んでいく中、その横の車線を大勢の車が走っていく。ほんの一瞬しか彼らの目には映らないものの、名だたるビッグネームたちが黒塗りの高級車に乗せられ連絡橋を進んでいく。その現実離れした光景に、早くも一般客たちは沸き立っていた。
 そして、その中には、高梨の姿もあった。入り口にて運転手と別れ、すぐさま学園内に入り込む。向かった先はもちろん、学園長室であった。
 そこにはすでに、今回の学園祭における、栃木支部の迎撃を担当する警備隊である、院、透、渡部、丙良、信玄、灰崎の総勢六名が集結していたのだ。
「遅いッスよ、高梨さん」
「ごめんね、まあまあ渋滞に嵌っちゃって。でも……仕事道具であるスーツも着てきて、準備は万端だよ」
 多少タイトなオフィススーツを、不安そうに凝視する丙良と信玄、そして灰崎。男だからこそ理解できる、スラックス、またはパンツスタイルのスーツならではの動きにくさ。万が一そのスーツがおしゃかになってしまったら、間違いなく請求は信一郎に飛ばすべきだろう。
 そして、そんな不安そうな目を察知してか、信一郎に目配せをする高梨。
「――はい、解説代わりまして学園長です。そのスーツに関しては、私……と言うか、この学園の製造技術を用いて|縫製《ほうせい》した、至高の一品だよ。普段の……それこそ、特撮作品とかで用いているスーツとは訳が違うの。伸縮自在、おまけに超頑丈。どこまで激しい戦闘を経ても、一切生地は傷まないし最高品質のまま! これ、後二年後辺りスーツ業界に持って行って、思いっきり殴り込みに行こうと思うんだ♪」
「――目標売上額は?」
「それはちょっと……伏せさせてもらおうかな?」
「出来が良いのは分かりましたから、朝っぱらから汚い金の話など止めてくださいますかお父様??」
 これから迎え撃つ敵のことを見越しての行動であるのだが、どうも『稼げる』話になると顔色が変わる。真剣な雰囲気に水を差すことを嫌った院の一喝によって、再び学園長室は真面目な空気に包まれる。
「――よし、ではよぉく集まってくれたね、『学園防衛隊』の諸君」
「……何だよ、『学園防衛隊』って? まあまあ慎ちゃんの看病で付きっきりだったから、解説宜しく?」
「まあ単純だ、これから一般客の皆さんと学園祭、及び音楽フェスに参加する生徒諸君、そして今回八割栃木支部の『餌』目的で招致したVIPの方々は、基本的に皆地下演習場に入って、雄大なフィールドでどんちゃん騒ぎをするわけだ。基本的に、そのフィールドに部外者は入れ込みたくない。よって今回は……あらかじめ院ちゃんや透ちゃんには伝えておいた布陣で、この学園を……否、地下演習場を防衛するんだ」
 宙に広げるは、ホログラムで生成された学園全体の地図。地下演習場から徐々に上昇していき、最終的には学園を上から見た俯瞰図へ変わる。そこから、寮エリアや繁華街エリア、ローカルエリアや職員寮エリアを含むものへ切り替わっていく。
 そして、ホログラム上に今回のメンバーのアイコンが一人ずつ置かれていく。事前に伝えられたものと微妙に異なっていたため、院と透は首をかしげていたが、特に何か物申すことはない。作戦の細部が異なっていたからと言って、いちいちケチをつけていてはきりがないとの判断の上であった。
 本来ならたった七人の人員で、広大な学園都市全体、ひいては地下演習場に繋がる道を守り切れるわけはないのだが、この場に居るのは基本的に『恵まれた』存在。これ以上の面子を割く場合、非常にかかるコストが多すぎる判断であった。
 もし仮に、生徒会の面々が出張る、だなんて事になったら、それはニュースになってしまうほどの一大インシデントと化してしまう。それほどに彼らはこの学園における真の最強格、ある種の最後の砦のようなものであるために、そして頼ったら後が怖いために、信一郎もそれらの面々にとやかく口出ししたくなかったのだ。
「本当なら、このこと生徒会長と副生徒会長に明かそうとも思ったんだけどねェ、絶対に怒られるから止めたの!」
「大の大人、しかも学園長がそんな立ち居振る舞いで良いんですか?! 何か以前丙良先輩にも似たようなこと言ってましたよね、面倒臭いから扱いたくない、埼玉の一件誘いたくないとか教職者にあるまじきこと漏らしてましたよね!?」
「おうコラそれ初耳だぞ学園長!? 俺っちのこと『面倒臭い』とか抜かしたか今!?」
「だって当時の信玄くんってマジで成績『だけ』良い生徒だったじゃん!!」
「ンだとこの学園長!? よく大事なことばかり覆い隠してこっちには土壇場でようやく伝える報連相のなってない秘匿主義大魔人が!!」
 あまりにも別の問題でヒートアップしてきたために、信一郎含む三人とも、灰崎から有難い拳骨を貰うことに。年次は違えど、この場における三番目の年長者はやることが違っていた。
「……まあ、基本的にはそんな感じ。私は基本的に『下』で色々やらなきゃいけないこと多いから、今回も不参加ではあるけれど……皆の作戦成功を祈っているよ。まあ、本当に拙い状況に陥ったとしたら……私を緊急招集できる『スイッチ』を押してくれ。分かったね、『学園防衛隊』のメンバーたち」
 皆一様に、『学園防衛隊』がどういう経緯でそう名付けられたのかが気になって仕方なかったのだが、真剣な雰囲気を邪魔したくないと口を開くことは無かった。しかし、目は泳ぎっぱなしであった。
「――何、気になる? 『学園防衛隊』の名付け元について。よし分かったそれじゃあ――」
「「解散で」」
「ねぇ!? 私語りたいの、最近やった結構面白いゲームについて語りたいの!! おもくそ影響受けて「あの人には発想力で敵わないなあはっはっは」とかやりたいの!! ダイレクトマーケティングしたいの!! 許可貰ったら私延々と語れるよ!?」
 高梨と灰崎の英断によって、その場はお開きとなった。高梨は院と透、それぞれに拳を合わせながら、それぞれが固定場所に付くべく、『一人を除いて』走り出したのだった。
 信一郎は、ちゃんとしたクールビズ用の恰好にスーツを脱いで別場所に向かおうとしていたのだが、その『残った一人』がどうしても話したそうにしていたために、非常に挑戦的な笑みと共に向き直るのだった。
「……びっくりしたよね、君にとっては。だって、『二週間前くらいに話された内容』と全く違う作戦を告げられているんだからね。しかも、栃木支部に何となく繋がっているのは……校則違反をがっつり犯して六組に落としたあの子……それ以外にも居るってのは何となく理解していたし」
「…………」
「何を思って、君は『栃木支部の内通者』になっていたんだい? まあまあ恵まれた地位ながら、君は何が望みだったのかな――――『|渡部かな《ワタベ カナ》』さん」