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第三百七十七話

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 思い返すは、全ての『はじまり』。
 最初『それ』に抱いた感想は、とんでもない存在だった、と言うこと。思ったよりもそこまで恵まれた体躯ではないのにも拘らず、どこまでも底なしの貪欲さを感じさせる、その『ギラつき』に。
 様々な経験を経て、多少なりへこたれたのかと考えたものの、いざ接してみるとその内に秘めるものは一切変わっていなかった。そこが、何よりも嬉しかったのだ。
 だが、ただ接するだけでは駄目だと考えた。当人の感情を揺さぶって、そこに生まれる歪み――それが、新たな力の源泉になったのなら……それは何よりもの喜び、否……悦びになる。

「――そのために、私は何だって利用してきた。どこまでも……どこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでも――どこまでも」

 何を思われようと、結局は自分を犠牲にした自爆特攻(じさつこうい)。それが、当人のためになるのなら、どこまででも徹底的にやって見せる。教会だろうと何だろうと、全て利用し真の意味で勝利して見せる。


「この力は――――『あの子』のために」



 遂に、学園祭当日、朝の五時がやってきた。しかし、信一郎のいた場所は、学園都市の連絡橋付近であった。それもそのはず、事情があり皆に顔見せできなかった二人が、今まさに栃木へ旅立とうとしているのだ。何による事情かを何となく知ってはいるものの、それを口にするのは野暮というものである。

「――しっかし、こんな皆が浮かれポンチキになるであろうタイミングで、栃木に『遊び』に行くだなんて……つれないなあ。パパも連れて行ってくれないかい?」

 その冗談と分かり切った問いに、エヴァは少し寂しそうに笑った上で、振りむくことなく言い放った。

「……まあ、以前の不真面目人間だった時のように、ふとした瞬間に行事をサボりたくなっただけです。那須ハイランドパークへ、二人で逃避行(とうひこう)、もとい逢瀬(おうせ)と洒落込むので……『こちらから電話を掛けない限り、絶対に応答しないでください』。なんせ、水入らずなので」

「……そっか」

 力になれずに、どうも気分を落としている信一郎に対し、礼安は彼の手を優しく両手で握る。通常なら、人肌の熱さすら夏場は嫌になるような感覚を覚えるが、実の娘の温かさ程心に染みるものはないだろう。

「――大丈夫だよ、エヴァちゃんと……『楽しんで』来るから! パパは学園祭の運営、頑張ってね!」

 本当なら、こういった行事ごとは心から楽しみたがるのが礼安。運命のいたずらによって、それが叶わないことが……実の親として何より悔しかったのだ。過去に様々なことを経験し、ほぼ全ての感情を失ってから――早数年。ようやく数多くの経験を経て、人間らしい感情を取り戻してきた中で、こんな仕打ちは残酷そのものであった。
 それでも、信一郎は笑って見送るしかできなかった。彼女らの望んだことである以上、それを邪魔せず精一杯応援してやるのが親としての仕事である。

「……ああ。『頑張って』……いや、楽しんでくれよ!」

 礼安がすぐさま、超高性能アタッシュケースを『香車』のモードに換装し、その場にバイクとヘルメットを生成すると、すぐさま後ろに乗り込む。しかし、エヴァは信一郎に対してある手紙を渡した。ここまで堂々と渡している以上、特に先方からの言いつけには違反していないものだと、それを恐る恐る開く。
 そこに書かれていたものは、エヴァからの精一杯の手向けとして、これまで姿を見せない間に仕上げた『あるもの』の正体。それは既に当人の寮の元に置いてきた、と記されていたのだ。
 彼女なりに、力になれないことを悟っていたために、礼安と共同で新たな武器を作り上げていたのだ。

(――流石、用意周到さでは私に匹敵するね。味方だからこそ非常に心強い存在だ)

 手を振って見送る信一郎。エヴァも礼安も、ヘルメットを被りサムズアップをして互いの武運を祈ったのだった。

 二名は栃木・那須ハイランドパークで、六名はこの学園都市にて。
 今日一日、『皆』を守るための戦いが開戦するのだった。



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 思い返すは、全ての『はじまり』。
 最初『それ』に抱いた感想は、とんでもない存在だった、と言うこと。思ったよりもそこまで恵まれた体躯ではないのにも拘らず、どこまでも底なしの貪欲さを感じさせる、その『ギラつき』に。
 様々な経験を経て、多少なりへこたれたのかと考えたものの、いざ接してみるとその内に秘めるものは一切変わっていなかった。そこが、何よりも嬉しかったのだ。
 だが、ただ接するだけでは駄目だと考えた。当人の感情を揺さぶって、そこに生まれる歪み――それが、新たな力の源泉になったのなら……それは何よりもの喜び、否……悦びになる。
「――そのために、私は何だって利用してきた。どこまでも……どこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでも――どこまでも」
 何を思われようと、結局は自分を犠牲にした|自爆特攻《じさつこうい》。それが、当人のためになるのなら、どこまででも徹底的にやって見せる。教会だろうと何だろうと、全て利用し真の意味で勝利して見せる。
「この力は――――『あの子』のために」
 遂に、学園祭当日、朝の五時がやってきた。しかし、信一郎のいた場所は、学園都市の連絡橋付近であった。それもそのはず、事情があり皆に顔見せできなかった二人が、今まさに栃木へ旅立とうとしているのだ。何による事情かを何となく知ってはいるものの、それを口にするのは野暮というものである。
「――しっかし、こんな皆が浮かれポンチキになるであろうタイミングで、栃木に『遊び』に行くだなんて……つれないなあ。パパも連れて行ってくれないかい?」
 その冗談と分かり切った問いに、エヴァは少し寂しそうに笑った上で、振りむくことなく言い放った。
「……まあ、以前の不真面目人間だった時のように、ふとした瞬間に行事をサボりたくなっただけです。那須ハイランドパークへ、二人で|逃避行《とうひこう》、もとい|逢瀬《おうせ》と洒落込むので……『こちらから電話を掛けない限り、絶対に応答しないでください』。なんせ、水入らずなので」
「……そっか」
 力になれずに、どうも気分を落としている信一郎に対し、礼安は彼の手を優しく両手で握る。通常なら、人肌の熱さすら夏場は嫌になるような感覚を覚えるが、実の娘の温かさ程心に染みるものはないだろう。
「――大丈夫だよ、エヴァちゃんと……『楽しんで』来るから! パパは学園祭の運営、頑張ってね!」
 本当なら、こういった行事ごとは心から楽しみたがるのが礼安。運命のいたずらによって、それが叶わないことが……実の親として何より悔しかったのだ。過去に様々なことを経験し、ほぼ全ての感情を失ってから――早数年。ようやく数多くの経験を経て、人間らしい感情を取り戻してきた中で、こんな仕打ちは残酷そのものであった。
 それでも、信一郎は笑って見送るしかできなかった。彼女らの望んだことである以上、それを邪魔せず精一杯応援してやるのが親としての仕事である。
「……ああ。『頑張って』……いや、楽しんでくれよ!」
 礼安がすぐさま、超高性能アタッシュケースを『香車』のモードに換装し、その場にバイクとヘルメットを生成すると、すぐさま後ろに乗り込む。しかし、エヴァは信一郎に対してある手紙を渡した。ここまで堂々と渡している以上、特に先方からの言いつけには違反していないものだと、それを恐る恐る開く。
 そこに書かれていたものは、エヴァからの精一杯の手向けとして、これまで姿を見せない間に仕上げた『あるもの』の正体。それは既に当人の寮の元に置いてきた、と記されていたのだ。
 彼女なりに、力になれないことを悟っていたために、礼安と共同で新たな武器を作り上げていたのだ。
(――流石、用意周到さでは私に匹敵するね。味方だからこそ非常に心強い存在だ)
 手を振って見送る信一郎。エヴァも礼安も、ヘルメットを被りサムズアップをして互いの武運を祈ったのだった。
 二名は栃木・那須ハイランドパークで、六名はこの学園都市にて。
 今日一日、『皆』を守るための戦いが開戦するのだった。