第三百七十六話
ー/ー そこから、徐々に栃木支部は、他支部のように争いによる衆生の屈服を求める『和氣派』と、これまでと同じように衆生を陰から見守る、自分らを貶めた悪を許さぬ存在である『高梨派』の二派閥に分かれ、完全に冷戦状態に成り果てていた。事態を追うと、和氣が良からぬ企みを働いているために、高梨は九月に差し掛かる以前から信一郎に提案をしていた。
それこそ、『現栃木支部の膿そのものである和氣和弘を、どうにかして打倒できないか』と。
元々、仕事上繋がりが無いわけではない高梨と信一郎。ふとしたきっかけで繋がりを得た二人であったのだが、高梨は最初から信一郎に自分の正体を打ち明けていた。『自分は栃木支部の支部長である』『現状、自分に敗北した存在である和氣が知らぬ間に力を付けていて困っている』、と。
最初、全てを聞いた信一郎は、これまでかかわりのあった存在が支部長であることに驚きを隠せずにいたのだが、すぐさまそれに適応。丁度礼安たちと夏のバカンス中であったのだが、「ただ単純に攻め入っては、カルマが介入し混沌の戦況になってしまう可能性が付きまとう」と、一旦事態の先送りを行ったのだ。
しかし、信一郎には夏休みが明けてから、学園都市内にて学生らによるビッグイベントである『学園祭』が待ち受けていることを既に察知済み。事前に各企業の重役との連絡も行き渡っており、このタイミングで生徒らを襲撃されては困る、何せ生徒たちが心から楽しみにしている行事である、と頭を悩ませていたところに――灰崎がある提案を持ち掛けたのだ。
それこそが、『下の組の生徒でも輝ける企画』の提案。そこで、数多くの企業らの中に、『テレビ業界』やら『音楽業界』の重役をも招待していることを完全に利用し、『栃木支部の中に存在する一派閥を的確に狙い撃つ』事こそ、一網打尽の可能性を孕んだ催し事であると知覚したのだ。
そして、遂に急ごしらえではあるものの、『音楽フェスティバトル』の企画を通した。事あるごとに高梨が視察に来ていたのは、元々の気真面目さゆえというものもあるのだが、信一郎と密談が出来ないか、と試行錯誤した結果である。基本的に学園の警備は厳重な中、院ほどの腕で警備ロボットをだまくらかせたのも、そして特にこれと言って学園に入ってからも邪魔が無かったのも、信一郎の手引きゆえ。
最初から、高梨が英雄学園側の栃木支部長であったからこそ、そして『高梨派』と呼ばれる存在を信用していたからこそ、信一郎はそれを完全に信頼した。高梨自身も、信一郎の圧倒的強さは聞き及んでいた。裏切る気は毛頭なかったものの、そこでお互いの抑止力の構図が完成する。
真に教会に入信している訳ではなく、教会に入信したかつての仲間たちを救うために入信した、英雄の資格を保有した存在だからこそ、互いに信頼し合える関係性を築き上げられたのだ。
「――以上。私と高梨ちゃんの関係性、って訳。千葉での一件が終了してから連絡くれたのは、非常に有り難かったよね。アレ、テレビ中継こそされていたけれど、それをピンポイントで見てくれていたかどうか、ってのは正直博打だった。あの作戦中にかけてくる可能性もワンチャンあったわけだし」
「それに関しては安心してください、丁度東京辺りで仕事終わった帰り頃ですので、テレビで見てなくともあれだけの騒ぎがあれば理解できます」
全てを聞き及んだうえで、透は静かに頭を下げたのだった。
「――俺が、悪かったッス。情報が濁流の如く押し寄せている関係上、まだ全てを信じ切れている訳じゃあないッスけど……でもあの時の台詞は……不適切でした」
「いや、あの時に明かせなかった私も悪かったの。だから……ここは両成敗ってことにしておきましょう」
「まあ、それよりもとりあえず拳骨を入れる相手は……共通ですわよね」
院と透の睨みつける先には、信一郎。またもや、あらゆる事象を生徒らに明かすことなくしらばっくれていた証である。予告状の件に関してはまだ理解は出来るが、それ以降は話が別。急に寮に押し掛けたタイミングにでも、話せるタイミングはあった。それなのにも拘らず、こんな重要な真実が一週間寝かされた事実に、怒り心頭であったのだ。
「――信一郎さん、まだその肝心なことは十二割分かり切った上で解決してからじゃあないと誰かに明かさない秘匿体質……変わってないんですね。これは娘さんらに拳骨貰ってもおかしくはないですよ」
「いやちょっと待ってくれ!! 今回ばかりはちょっとあの場では『話せなかった』んだ!! 今回は秘密にしたがりとかそういうの抜きにして、マジで話せなかったんだって!!」
これまでにないほど、必死な物言いに疑問を抱く二人。黙ったまま拳を下げると、そのまま信一郎を腕組みしたまま睨みつける態勢に入る。さながら、阿行と吽形並び立つ金剛力士像のようであった。
「――それで? その『話せなかった』事情に関して……理由を聞きたいのですが」
「ま、待ってね?」
非常に頼りなく見えた信一郎であったが、すぐさま目を閉じ辺りに自分の魔力を満たしていく。その波は、学園長室だけではなくその周囲に至るまで、全ての感知を行っていく。信一郎には特筆すべきベース能力がないために、ただの魔力波を周囲に満たしていくのみであったのだ。
「――半径百メートル以内の機械感知、零。人体感知、三。状況は実に適している、と言うべきかな」
一息つく信一郎であったが、困ったような表情で彼女らに告げるのは、衝撃の事実。それは当然のことだった、と言わんばかりに、淡々と告げていく。
それらを知って、思わず驚愕の声を上げそうになる三人に対し、真剣な表情の信一郎は、口元に指を一本おいて、騒ぎを未然に抑制する。騒がれたら不味い、全ての気遣いが無意味になる可能性を考えてのことだった。
「……良いかい。このことは『敵方』に絶対に知られてはいけない。心の機微一つで察される可能性がある。作戦成功のためには……『動じないこと』が必要不可欠だ。絶対に――学園祭当日までこのことは黙っていること。良いね」
高梨と院と透。信頼のおけるこの三名だからこそ伝えた、真なる事実。それに意味が現れるまで、一週間後。
時は無情に、過ぎていくばかりであった。
それこそ、『現栃木支部の膿そのものである和氣和弘を、どうにかして打倒できないか』と。
元々、仕事上繋がりが無いわけではない高梨と信一郎。ふとしたきっかけで繋がりを得た二人であったのだが、高梨は最初から信一郎に自分の正体を打ち明けていた。『自分は栃木支部の支部長である』『現状、自分に敗北した存在である和氣が知らぬ間に力を付けていて困っている』、と。
最初、全てを聞いた信一郎は、これまでかかわりのあった存在が支部長であることに驚きを隠せずにいたのだが、すぐさまそれに適応。丁度礼安たちと夏のバカンス中であったのだが、「ただ単純に攻め入っては、カルマが介入し混沌の戦況になってしまう可能性が付きまとう」と、一旦事態の先送りを行ったのだ。
しかし、信一郎には夏休みが明けてから、学園都市内にて学生らによるビッグイベントである『学園祭』が待ち受けていることを既に察知済み。事前に各企業の重役との連絡も行き渡っており、このタイミングで生徒らを襲撃されては困る、何せ生徒たちが心から楽しみにしている行事である、と頭を悩ませていたところに――灰崎がある提案を持ち掛けたのだ。
それこそが、『下の組の生徒でも輝ける企画』の提案。そこで、数多くの企業らの中に、『テレビ業界』やら『音楽業界』の重役をも招待していることを完全に利用し、『栃木支部の中に存在する一派閥を的確に狙い撃つ』事こそ、一網打尽の可能性を孕んだ催し事であると知覚したのだ。
そして、遂に急ごしらえではあるものの、『音楽フェスティバトル』の企画を通した。事あるごとに高梨が視察に来ていたのは、元々の気真面目さゆえというものもあるのだが、信一郎と密談が出来ないか、と試行錯誤した結果である。基本的に学園の警備は厳重な中、院ほどの腕で警備ロボットをだまくらかせたのも、そして特にこれと言って学園に入ってからも邪魔が無かったのも、信一郎の手引きゆえ。
最初から、高梨が英雄学園側の栃木支部長であったからこそ、そして『高梨派』と呼ばれる存在を信用していたからこそ、信一郎はそれを完全に信頼した。高梨自身も、信一郎の圧倒的強さは聞き及んでいた。裏切る気は毛頭なかったものの、そこでお互いの抑止力の構図が完成する。
真に教会に入信している訳ではなく、教会に入信したかつての仲間たちを救うために入信した、英雄の資格を保有した存在だからこそ、互いに信頼し合える関係性を築き上げられたのだ。
「――以上。私と高梨ちゃんの関係性、って訳。千葉での一件が終了してから連絡くれたのは、非常に有り難かったよね。アレ、テレビ中継こそされていたけれど、それをピンポイントで見てくれていたかどうか、ってのは正直博打だった。あの作戦中にかけてくる可能性もワンチャンあったわけだし」
「それに関しては安心してください、丁度東京辺りで仕事終わった帰り頃ですので、テレビで見てなくともあれだけの騒ぎがあれば理解できます」
全てを聞き及んだうえで、透は静かに頭を下げたのだった。
「――俺が、悪かったッス。情報が濁流の如く押し寄せている関係上、まだ全てを信じ切れている訳じゃあないッスけど……でもあの時の台詞は……不適切でした」
「いや、あの時に明かせなかった私も悪かったの。だから……ここは両成敗ってことにしておきましょう」
「まあ、それよりもとりあえず拳骨を入れる相手は……共通ですわよね」
院と透の睨みつける先には、信一郎。またもや、あらゆる事象を生徒らに明かすことなくしらばっくれていた証である。予告状の件に関してはまだ理解は出来るが、それ以降は話が別。急に寮に押し掛けたタイミングにでも、話せるタイミングはあった。それなのにも拘らず、こんな重要な真実が一週間寝かされた事実に、怒り心頭であったのだ。
「――信一郎さん、まだその肝心なことは十二割分かり切った上で解決してからじゃあないと誰かに明かさない秘匿体質……変わってないんですね。これは娘さんらに拳骨貰ってもおかしくはないですよ」
「いやちょっと待ってくれ!! 今回ばかりはちょっとあの場では『話せなかった』んだ!! 今回は秘密にしたがりとかそういうの抜きにして、マジで話せなかったんだって!!」
これまでにないほど、必死な物言いに疑問を抱く二人。黙ったまま拳を下げると、そのまま信一郎を腕組みしたまま睨みつける態勢に入る。さながら、阿行と吽形並び立つ金剛力士像のようであった。
「――それで? その『話せなかった』事情に関して……理由を聞きたいのですが」
「ま、待ってね?」
非常に頼りなく見えた信一郎であったが、すぐさま目を閉じ辺りに自分の魔力を満たしていく。その波は、学園長室だけではなくその周囲に至るまで、全ての感知を行っていく。信一郎には特筆すべきベース能力がないために、ただの魔力波を周囲に満たしていくのみであったのだ。
「――半径百メートル以内の機械感知、零。人体感知、三。状況は実に適している、と言うべきかな」
一息つく信一郎であったが、困ったような表情で彼女らに告げるのは、衝撃の事実。それは当然のことだった、と言わんばかりに、淡々と告げていく。
それらを知って、思わず驚愕の声を上げそうになる三人に対し、真剣な表情の信一郎は、口元に指を一本おいて、騒ぎを未然に抑制する。騒がれたら不味い、全ての気遣いが無意味になる可能性を考えてのことだった。
「……良いかい。このことは『敵方』に絶対に知られてはいけない。心の機微一つで察される可能性がある。作戦成功のためには……『動じないこと』が必要不可欠だ。絶対に――学園祭当日までこのことは黙っていること。良いね」
高梨と院と透。信頼のおけるこの三名だからこそ伝えた、真なる事実。それに意味が現れるまで、一週間後。
時は無情に、過ぎていくばかりであった。
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