第三百七十五話
ー/ー 徐々に芸能人として仕事が軌道に乗り始めた矢先のこと。高梨自身も暇な存在ではないため、ちょくちょく支部を空けることがある。その間、和氣は良からぬことを企てていたのだ。
(――なあ、俺の側に付けよ。そうしたら――今以上の快感が味わえると思うんだよ、俺ァよ)
基本的に彼の行動理由など、たかが知れている。「気に食わないから」、あるいは「苛つくから」。自分本位な考えで、他者を扇動し自分の理想とする状況を作り出そうとする、実に欲深かつ浅ましき人間そのもの、汚らしく醜い心のありようが浮き彫りとなった。
傷を負う自分たちを救ってくれた存在である高梨、彼女を裏切ろうと考えることすらしなかったために、和氣は更なる過度な暴力を振るった。高梨が支部に帰って来るや否や、怪我をさせていた事実すら覆い隠すまでがワンセット。しかも、目立つ場所に傷をつけるのではなく、完全に服に覆われ見えない位置にしかつけないという、実に汚らしい性格。
暴力慣れした存在である和氣の元に付こうだなんて考えは――ひとりたりとも存在しなかった。
どこまで行っても平行線。そう感じ取った和氣は、遂にカルマに対しある提案を持ち掛けたのだった。それこそ――『支部長・高梨幸香は本当に適しているのか』と言う共同戦線の提示であった。
(……俺らの支部長である高梨……最近仕事が忙しいんだか何だか知らねェが、教会の県内業務の統括を担当しているのは最近俺ばかりだ。それに対して、どういう意見を持ってんだい、教祖サマ)
(うーむ実に不遜極まる発言の数々。で・も……ちょーっと格上殺しに関する話題は……過去の経験上、私――気になっちゃうかも♪ 続けてくれるかい、和氣君??)
提案としてはこう。高梨に対して、何らかの濡れ衣を着せた上で、暗殺し和氣が次期栃木支部長に成り上がるという算段。しかも、その報復方法自体に、粘着質なものを感じていた。
(俺はよ……今こうしてテレビだの雑誌だのに出てくる、本当の姿を隠したままのこいつを見るのが心底不快だ。いっそのこと……俺ら主導でこいつの素性をバラしにかかるってのはどうだよ。しかも、ただバラすだけじゃあ気に入らねえ、尾ひれでも何でもつけて、メディアの情報を受け取った程度で何でも知った気になっている、そんな大衆を煽るために、週刊誌にタレこむってのはどうだ??)
(なるほどね。各種メディアにひた隠しにしてきた、この子の裏を全部暴露してしまおうと? 実に性格悪いね、和氣君。端的に言ってキモいよ)
言葉の端々に滲み出る多少の不快さは水に流すとして、和氣がカルマを一時的な仲間に引き込んだのには理由があった。それこそ、違法摘出手術のアテンドであった。
最近、若年人口が東京の方へ流れていく理由の一つが、英雄学園。その英雄学園に入学しようとする輩が増えていたために、栃木県の若年人口もそれなりに目減りしてきた。そのため、誘拐して殺害、因子のみを掻っ攫うだなんて野蛮な行為が働けなくなっていたのだ。
違法摘出手術に関しては、大衆の常識の範疇にて捉えられているため、そも不用心に妖しい存在に近づくだなんて馬鹿な真似はしないだろう。原材料を確保しに子供牧場の存在する山梨に向かおうにも、因子保有者が都合よく見つかるだなんてことは滅多にない。もし見つかろうものなら、五斂子社がそもそも高値で買い取るか、より太いコネクションのある存在に送られることになるだろう。
そもそもが不利な状況で、人生の再起を図るには、カルマに対しての直談判しかないと踏んだのだ。そのためなら、何だってやる覚悟を持っていた。
どこまでも、己の快楽のために貪欲であり続け、己が欲望のためなら泥水でも死肉でも喰らってやるその底なしの悪食さに、性根の悪い笑みが零れ落ちる。
(――分かった。無条件とは言わないけれど、私が君に最適な因子をアテンドしてあげる。ただし、これは元々誰かが持ち合わせていたものでは無い、教会が独自技術を用いた結果生まれた……所謂『人口因子』。それの実験台になってくれさえすれば……君は立派な『因子持ち』だよ)
その美味い話に、一も二もなく飛びついた和氣は、すぐさまカルマの手を取ったのだった。
しかし、そんな美味い話に――デメリットが無い訳がなかったのだ。
和氣を待ち受けていたのは、正規の資格を一切保有していない闇医者ばかり。こんなことをやれる存在に、そもそもの役職持ちがあてがわれるわけはない。
生唾を飲み込みながら、和氣は麻酔も無しに体を手術刀にて捌かれる。苦悶の絶叫が地下奥深くの実験室内に響き渡るも、誰も助ける存在はいやしない。
本来人間の体に適合することはない、物語上に出てくる存在、あるいは概念。無理やりにでも、そんな物人体に取り込んだのなら、待ち受けるは死を超えるほどの痛苦。何度叫ぼうと、どれほど歯を食いしばっても、痛みは無限に続く。それと共に――『底知れない空腹感』も。
それこそが、和氣の底なしの欲望に似合っているとカルマは考えたのだ。そして――わざとらしくデメリットまで添えて、彼の信心深さを図っていたのだ。
(どこまで行っても、君のような輩でも裏切りが心配でねェ。裏切られたところで大したダメージがあるわけではないんだが……まあ、何にせよ『玩具』は面白い方が良い。いついかなる時も……誰で遊ぶにしても……そこに楽しさが無きゃあやってられないよね??)
手術台の上で、捌かれる時を待つばかりの鮮魚のように、痛苦に悶え跳ねているさまを見て、涙が出るほどに高らかに嗤って見せるカルマ。血涙を流そうと、カルマ自身に敵意を向けることはよしておこうという強固な決意を抱いていたものの――そんな物しゃらくさいと言わんばかりに、狂笑の宴は二十四時間以上続いたのだった。
そろそろ衰弱し、叫び声すら上がらなくなった、二十七時間後。時刻としては早朝の時間帯に入る。時期は八月後半、丁度礼安たちが善吉らを打倒し、カルマがその存在を抹消した後の話である。
因子を埋め込む違法手術が終了してから早数分。痛みによるショックにて完全に意識を失っていた和氣が、何事もなかったかのように起床する。豪快に鳴る腹の音を満たすために目で指示して、闇医者たちに食料を持ってこさせるのだった。
(――おはよう。気分はどうかな、和氣君?)
(実に……実にいい気分だ! 俺のやりたいことが……これで完成する!!)
(そう? それなら……良かった)
何やら含みのある笑顔で言い放つカルマに対し、多少なり不信感を抱く和氣であったが、それ以上に腹が減ったことと因子を手に入れた優越感に浸るのが先であった。
(――なあ、俺の側に付けよ。そうしたら――今以上の快感が味わえると思うんだよ、俺ァよ)
基本的に彼の行動理由など、たかが知れている。「気に食わないから」、あるいは「苛つくから」。自分本位な考えで、他者を扇動し自分の理想とする状況を作り出そうとする、実に欲深かつ浅ましき人間そのもの、汚らしく醜い心のありようが浮き彫りとなった。
傷を負う自分たちを救ってくれた存在である高梨、彼女を裏切ろうと考えることすらしなかったために、和氣は更なる過度な暴力を振るった。高梨が支部に帰って来るや否や、怪我をさせていた事実すら覆い隠すまでがワンセット。しかも、目立つ場所に傷をつけるのではなく、完全に服に覆われ見えない位置にしかつけないという、実に汚らしい性格。
暴力慣れした存在である和氣の元に付こうだなんて考えは――ひとりたりとも存在しなかった。
どこまで行っても平行線。そう感じ取った和氣は、遂にカルマに対しある提案を持ち掛けたのだった。それこそ――『支部長・高梨幸香は本当に適しているのか』と言う共同戦線の提示であった。
(……俺らの支部長である高梨……最近仕事が忙しいんだか何だか知らねェが、教会の県内業務の統括を担当しているのは最近俺ばかりだ。それに対して、どういう意見を持ってんだい、教祖サマ)
(うーむ実に不遜極まる発言の数々。で・も……ちょーっと格上殺しに関する話題は……過去の経験上、私――気になっちゃうかも♪ 続けてくれるかい、和氣君??)
提案としてはこう。高梨に対して、何らかの濡れ衣を着せた上で、暗殺し和氣が次期栃木支部長に成り上がるという算段。しかも、その報復方法自体に、粘着質なものを感じていた。
(俺はよ……今こうしてテレビだの雑誌だのに出てくる、本当の姿を隠したままのこいつを見るのが心底不快だ。いっそのこと……俺ら主導でこいつの素性をバラしにかかるってのはどうだよ。しかも、ただバラすだけじゃあ気に入らねえ、尾ひれでも何でもつけて、メディアの情報を受け取った程度で何でも知った気になっている、そんな大衆を煽るために、週刊誌にタレこむってのはどうだ??)
(なるほどね。各種メディアにひた隠しにしてきた、この子の裏を全部暴露してしまおうと? 実に性格悪いね、和氣君。端的に言ってキモいよ)
言葉の端々に滲み出る多少の不快さは水に流すとして、和氣がカルマを一時的な仲間に引き込んだのには理由があった。それこそ、違法摘出手術のアテンドであった。
最近、若年人口が東京の方へ流れていく理由の一つが、英雄学園。その英雄学園に入学しようとする輩が増えていたために、栃木県の若年人口もそれなりに目減りしてきた。そのため、誘拐して殺害、因子のみを掻っ攫うだなんて野蛮な行為が働けなくなっていたのだ。
違法摘出手術に関しては、大衆の常識の範疇にて捉えられているため、そも不用心に妖しい存在に近づくだなんて馬鹿な真似はしないだろう。原材料を確保しに子供牧場の存在する山梨に向かおうにも、因子保有者が都合よく見つかるだなんてことは滅多にない。もし見つかろうものなら、五斂子社がそもそも高値で買い取るか、より太いコネクションのある存在に送られることになるだろう。
そもそもが不利な状況で、人生の再起を図るには、カルマに対しての直談判しかないと踏んだのだ。そのためなら、何だってやる覚悟を持っていた。
どこまでも、己の快楽のために貪欲であり続け、己が欲望のためなら泥水でも死肉でも喰らってやるその底なしの悪食さに、性根の悪い笑みが零れ落ちる。
(――分かった。無条件とは言わないけれど、私が君に最適な因子をアテンドしてあげる。ただし、これは元々誰かが持ち合わせていたものでは無い、教会が独自技術を用いた結果生まれた……所謂『人口因子』。それの実験台になってくれさえすれば……君は立派な『因子持ち』だよ)
その美味い話に、一も二もなく飛びついた和氣は、すぐさまカルマの手を取ったのだった。
しかし、そんな美味い話に――デメリットが無い訳がなかったのだ。
和氣を待ち受けていたのは、正規の資格を一切保有していない闇医者ばかり。こんなことをやれる存在に、そもそもの役職持ちがあてがわれるわけはない。
生唾を飲み込みながら、和氣は麻酔も無しに体を手術刀にて捌かれる。苦悶の絶叫が地下奥深くの実験室内に響き渡るも、誰も助ける存在はいやしない。
本来人間の体に適合することはない、物語上に出てくる存在、あるいは概念。無理やりにでも、そんな物人体に取り込んだのなら、待ち受けるは死を超えるほどの痛苦。何度叫ぼうと、どれほど歯を食いしばっても、痛みは無限に続く。それと共に――『底知れない空腹感』も。
それこそが、和氣の底なしの欲望に似合っているとカルマは考えたのだ。そして――わざとらしくデメリットまで添えて、彼の信心深さを図っていたのだ。
(どこまで行っても、君のような輩でも裏切りが心配でねェ。裏切られたところで大したダメージがあるわけではないんだが……まあ、何にせよ『玩具』は面白い方が良い。いついかなる時も……誰で遊ぶにしても……そこに楽しさが無きゃあやってられないよね??)
手術台の上で、捌かれる時を待つばかりの鮮魚のように、痛苦に悶え跳ねているさまを見て、涙が出るほどに高らかに嗤って見せるカルマ。血涙を流そうと、カルマ自身に敵意を向けることはよしておこうという強固な決意を抱いていたものの――そんな物しゃらくさいと言わんばかりに、狂笑の宴は二十四時間以上続いたのだった。
そろそろ衰弱し、叫び声すら上がらなくなった、二十七時間後。時刻としては早朝の時間帯に入る。時期は八月後半、丁度礼安たちが善吉らを打倒し、カルマがその存在を抹消した後の話である。
因子を埋め込む違法手術が終了してから早数分。痛みによるショックにて完全に意識を失っていた和氣が、何事もなかったかのように起床する。豪快に鳴る腹の音を満たすために目で指示して、闇医者たちに食料を持ってこさせるのだった。
(――おはよう。気分はどうかな、和氣君?)
(実に……実にいい気分だ! 俺のやりたいことが……これで完成する!!)
(そう? それなら……良かった)
何やら含みのある笑顔で言い放つカルマに対し、多少なり不信感を抱く和氣であったが、それ以上に腹が減ったことと因子を手に入れた優越感に浸るのが先であった。
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