第三百七十四話
ー/ー元々、栃木支部というものはそこまで表立った戦力を保有しない、ある意味『教会』というものの偽りの安全性を世の中に見せつける為に生まれた、そもそもの成立が歪な組織であった。結果的に、栃木支部というものは栃木県に住まう人々にとっては、実に無害なものとしてあるために、他の関東地方で起こる騒ぎに関しては、対岸の火事のような認識で傍観している。
基本的に世の中の人間に当てはまることであるが、他県や他国で起こった事件や災害など、無関心な層は一定数存在する。その『無関心』と言う感情を利用した結果、端役に根付くことが出来たのだ。栃木支部が成立してからは、他県での騒ぎによって自分たちが潰されるのではないか、と半グレや反社会的勢力が根付くことがないため、余計にある程度歓迎されている。本来はその目的などないはずなのに、その目的であると『偽った』のだ。
構成員に関して。それは、栃木県の中でも有数の進学校である、県立立身≪りっしん≫中等教育学校の卒業生にて構成されている。何故そこの面子のみが教会の中枢に居座ることができるのか。それは、元々教会の熱狂的な信者である校長、その下に就く構成組織である生徒会のメンバーも同様に、若いうちから教会の洗脳にかけられているためであった。
将来的に栃木にも居城を構える上で、前述した『設立した組織が敢えて無害であること』を念頭に入れた上で、違法摘出手術すらも関係のない、純度の高い別組織であることを見せかけるための策略であったのだ。そのため、設立時のメンバーは全員因子持ち。教会に最初から忠誠を誓っているため、そもそも英雄学園に入学するだなんて思考は持ちえない。
始まりは、実に想定通り凪そのもの。実際、入信する人間も邪な感情を持ち合わせた存在ではなく、基本的に社会からあぶれてしまった存在や、精神病を患った存在、多くの経験によって心に痛みを背負った存在など、『被害者』ばかり。それらを救済するべく、組織自体を伏せた上で、地方のブラック企業の摘発行為などを行っていた。
そんな時であった。カルマの思惑とは真逆の、実に悪辣な思考を持ち合わせる存在が現れた。同じように社会に虐げられ、地元である栃木に帰ってきた、元有名人。それこそが、和氣和弘であった。詳しい事情は「弱みを見せる」と本人が語りたがらないため、誰に明かす訳でもないが、それまでの構成員にはなかった『過度な暴力性』と『残虐性』を持ち合わせた、最悪の存在であった。
彼もまた、立身中等教育学校出身者であったため、生徒会メンバーではなかったものの教会に対する思いは強かった。しかし、それは他支部の影響を受けた結果暴力性の強いものであったため、栃木支部の理念とは一切一致しなかった。中枢メンバーも、皆口をそろえ「和氣だけは絶対に入信などさせてはいけない」と語るほどに――危険視されていた。
(そんなこと言っちまって良いのか……?? アァ!?)
しかし、和氣は強靭な狂人であった。一時神奈川支部に構成員として在籍していた名残か、栃木支部のどのメンバーよりも、『因子を持たない状況』で強かったのだ。流石に絶対的な教祖としてカルマを信仰している身であっても、自分の命が大切であると考えた構成員たちは、和氣を仕方なく上に据えた。その間も、耐えがたい暴力行為を働いたのだとか。
当時、中学三年生の高梨は、そんな和氣の話を以前から聞いていた。それに、無神論者であることを隠し自分を偽っていたために、『栃木支部に入信する』ことに否定的感情を持つ存在は一切いなかった。それに、地元をそれなりに愛していたために、その地元が壊れる要因になりかけていた和氣をどうにかしたい、その思いを胸に、無理なダイエット行為を行い、本来の夢であるモデル業を上京した中で目指しながら、栃木支部の動向を探っていた。
そして遂に、トップモデルでありながら女優デビューが決まったある時――高梨の体に異変が起こる。多くの苦難を経験し、自らを痛めつけていた高梨に、因子覚醒の兆候が表れたのだ。非常に遅咲きではあったが、それがあれば『和氣に勝てる』と考えたのだ。
当時の中枢メンバーは、和氣以外は基本的に高梨の同級生か関係者。今もその構成なのだが、和氣が支部長であった中で多くの暴力を振るわれていたのだ。「ただ気に食わないから」「ただ苛ついているから」など、理由は単純でありながら実に悪辣。そんな横暴を許せなかったのだ。
結果的に、因子が覚醒傾向にある高梨は、因子の目覚めていない和氣に完全勝利した。カルマを審判に置いた上での勝負は、実に呆気なく終わりを告げたのだ。
多くの苦難を経験した元有名人ばかりの同級生や関係者たちも、和氣も、全て高梨に下る、と言う幕引きで、その時の案件は終了した。しかし、和氣の執念はそれだけでは収まりがつかなかったのだ。
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