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第96話 リトの家族

ー/ー



そうして、リトの言う場所が見えてきた。
水深は、50メートルほどだろうか。
周りの海底と比べると10メートルほど低くなった広い場所があり、そこに異人が住んでいるっぽい建造物がちらほらあった。
建造物、と言っても異様なほどデカい貝がらだったり、やたら大きく円形や四角形になったサンゴだったりしたが。
何となく察した。たぶん、水守人達は可能な限り自然にあるものをそのまま利用して家を作っているのだ。

「ああ…たぶん、あの貝殻とかが家なんだな」
俺がそう言うと、煌汰が「そうなの?」とリトに確認した。
「そうだよ。あれらは私達を住まわせるためにマクダットが作った家なの。…本当は、私達には必要ないんだけどね」

「そりゃそうだよな。君らは本来、海を自由気ままに漂う異人だ。一つの所に居座れ…って言われるほうが苦痛だよな」
樹の言葉に、リトは悲しげな顔で頷いた。
「一つの場所に定住する水守人もいるけど、私達はそうじゃない。なのに、マクダットはその辺の事情も無視して、私達をここに縛り付けてるの…」

「…そうか。それは辛かっただろう。他の水守人をこれ以上苦しまないためにも、僕らがなんとかしないとな」
煌汰の言う通りではある。だが、今は情報を集めたい。
「リト、知り合いはこの辺にいるか?」

「知り合い…というか、私の家族がいるよ。緑の海綿の丘って所にある、モノサンゴで出来た家」
緑の海綿の丘、と聞いてもピンとこなかったが、あたりを見渡してすぐにそれっぽい所を見つけた。
キノコのように横に平たく広がっている緑色の海綿が下の方にあった。

「あれだな。よし…行こう」







海綿の上に灰色のサンゴ礁があり、さらにその中に部分的に丸くなったサンゴを4箇所見つけた。
リトによると、「一番右が私の部屋で、あとは父さん、母さん、それに兄さんの部屋」らしい。
個人の部屋を用意する所に、妙な優しさを感じる。

リトは最初に両親の部屋を覗いたが、誰もいなかったらしくすぐに出てきた。
そして、最後に左端の兄がいるらしい部屋を覗いた。
これは当たったようで、部屋に入ったリトはしばらく出てこなかった。

そうして出てきた時、リトは一人の水守人を連れていた。
そいつは、俺達を見てすぐに挨拶してきた。
「陸の方々ですね。私はイルと言います。妹を助けてくれて、ありがとうございます」

しかし、俺はリトの方が気になった。
彼女は、今にも泣きそうな顔をしている。
「…リト?」
思わず声をかけてしまった。
リトはしばらく黙っていたが、やがて、
「私の…私のせいで…母さんたちは…」
と言ってシクシクと泣き出した。

なぜ彼女が泣いているのか、俺達は何となく察した。
「も、もしかして…」

「はい…」
リトの兄…イルが言った。
「妹が脱走した後、すぐにマクダットの連中がうちに来ました。奴らは、両親がリトを逃がしたと決めつけ、槍で…」
イルは、途中で言葉を詰まらせて目を閉じた。
「そう…か。辛かったな」

「私が…私が母さんたちを死なせちゃった…うっ…ううっ…」
泣き続けるリト。
その頭に手を置き、イルは言った。
「泣くな、リト。おまえは正しいことをしたんだ。悲しいのはわかる。でも、泣いても何も戻ってこない。これからどうするかを考えよう」

「…」

「それに、おまえのおかげでこうして陸の人達に助けを求める事ができたんだ。今は、これからの事を考えよう」
兄にそう言われ、リトは若干ぐずりながらも泣き止んだ。
「ぐすっ…そう、だね。陸の人達に、助けてもらえるんだもんね…」
そして、リトは俺達を見てきた。

「みなさん…お願い。あいつらを…マクダットを、やっつけて!」
言われるまでもない。
こんな事をする輩を、放ってはおけない。
「もちろんだ。君らの両親の仇も、必ず取ってやるからな」
すると、今度はイルが頭を下げてきた。
「皆さん…本当にありがとうございます。可能な限りお手伝いしますので、どうか私達をお救い下さい!」
これには、煌汰が応えた。
「ああ…任せとけって!」




そうして作戦会議をすることになった。
まず、部屋に全員は入り切らないので、苺の魔法で部屋を広くしてもらった。
これで、全員で話し合いが出来る。
ちなみに、外から見た時の見た目は変わっていないらしい。
つくづくすごい魔法を使いこなす人である。さすがは大司祭…と言ったところか。

しばらく話し合っていると、突然イルがこんなことを言った。
「巡回の時間だ!みなさん、隠れて!…リトも!」

「か、隠れる…?」

「奴らが見回りにくるんです!見つかると面倒なことになります、だから急いで隠れて下さい!」

「で、でもいきなり言われても…!」
すると、苺が魔法を使った。
「[スティム]」
たちまち俺達の体は透明になり、部屋にはイルの姿しか見当たらなくなった。


それから程なくして、誰かが部屋を覗きにきた。
それは青白い肌をし、長い髪をした男だった。
手には槍を持っている。おそらくこいつがマクダット…過激派の海人だろう。

そいつはイルに対して「イル、だな。今は一人か?」「誰か来たか?」などと尋ね、その答えを何かにメモっていた。
もっとも、イルは全ての質問に自分はずっと一人だ、誰も来てはいない、と返していたが。

そうして海人が去って5秒ほどすると、イルが「みなさん、もう大丈夫です」と言い、苺は魔法を解いた。
「あれがマクダットか…」

「はい…奴らは夕方と明け方にああして一軒一軒、見回りに来るんです…恐らくは、脱走者や侵入者をすぐに発見できるようにしてるんだと思います」

「それでリトが引っかかったのか…」

「ええ…奴らはすぐに、リトがいないことに気づきました。それで両親と私を問い詰めてきたんですが、私達は最後までリトが脱走したと言いませんでした。それで業を煮やした奴らは、両親を私の目の前で…」
すると、リトが泣きそうな顔をした。
「もうやめて…!」

「…!ごめんな。とにかく、そういう訳なんです。両親だけじゃない。すでに何人もの仲間が、奴らの手にかかって…」
イルは拳を握り、ぶるぶると震えた。
「あいつら…絶対に許さない。必ず潰してやる…!」

「私も…!父さんたちを奪ったこと、許せない!あいつら全員、私が殺す!」
リトも顔に怒りを浮かべ、薙刀を抜いた。

俺は、そんな二人をなだめるように言った。
「その気持ちは多いにわかる。だが、感情に任せて飛び出すのは危険だ。まずは、しっかりと計画を立てよう」



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そうして、リトの言う場所が見えてきた。水深は、50メートルほどだろうか。
周りの海底と比べると10メートルほど低くなった広い場所があり、そこに異人が住んでいるっぽい建造物がちらほらあった。
建造物、と言っても異様なほどデカい貝がらだったり、やたら大きく円形や四角形になったサンゴだったりしたが。
何となく察した。たぶん、水守人達は可能な限り自然にあるものをそのまま利用して家を作っているのだ。
「ああ…たぶん、あの貝殻とかが家なんだな」
俺がそう言うと、煌汰が「そうなの?」とリトに確認した。
「そうだよ。あれらは私達を住まわせるためにマクダットが作った家なの。…本当は、私達には必要ないんだけどね」
「そりゃそうだよな。君らは本来、海を自由気ままに漂う異人だ。一つの所に居座れ…って言われるほうが苦痛だよな」
樹の言葉に、リトは悲しげな顔で頷いた。
「一つの場所に定住する水守人もいるけど、私達はそうじゃない。なのに、マクダットはその辺の事情も無視して、私達をここに縛り付けてるの…」
「…そうか。それは辛かっただろう。他の水守人をこれ以上苦しまないためにも、僕らがなんとかしないとな」
煌汰の言う通りではある。だが、今は情報を集めたい。
「リト、知り合いはこの辺にいるか?」
「知り合い…というか、私の家族がいるよ。緑の海綿の丘って所にある、モノサンゴで出来た家」
緑の海綿の丘、と聞いてもピンとこなかったが、あたりを見渡してすぐにそれっぽい所を見つけた。
キノコのように横に平たく広がっている緑色の海綿が下の方にあった。
「あれだな。よし…行こう」
海綿の上に灰色のサンゴ礁があり、さらにその中に部分的に丸くなったサンゴを4箇所見つけた。
リトによると、「一番右が私の部屋で、あとは父さん、母さん、それに兄さんの部屋」らしい。
個人の部屋を用意する所に、妙な優しさを感じる。
リトは最初に両親の部屋を覗いたが、誰もいなかったらしくすぐに出てきた。
そして、最後に左端の兄がいるらしい部屋を覗いた。
これは当たったようで、部屋に入ったリトはしばらく出てこなかった。
そうして出てきた時、リトは一人の水守人を連れていた。
そいつは、俺達を見てすぐに挨拶してきた。
「陸の方々ですね。私はイルと言います。妹を助けてくれて、ありがとうございます」
しかし、俺はリトの方が気になった。
彼女は、今にも泣きそうな顔をしている。
「…リト?」
思わず声をかけてしまった。
リトはしばらく黙っていたが、やがて、
「私の…私のせいで…母さんたちは…」
と言ってシクシクと泣き出した。
なぜ彼女が泣いているのか、俺達は何となく察した。
「も、もしかして…」
「はい…」
リトの兄…イルが言った。
「妹が脱走した後、すぐにマクダットの連中がうちに来ました。奴らは、両親がリトを逃がしたと決めつけ、槍で…」
イルは、途中で言葉を詰まらせて目を閉じた。
「そう…か。辛かったな」
「私が…私が母さんたちを死なせちゃった…うっ…ううっ…」
泣き続けるリト。
その頭に手を置き、イルは言った。
「泣くな、リト。おまえは正しいことをしたんだ。悲しいのはわかる。でも、泣いても何も戻ってこない。これからどうするかを考えよう」
「…」
「それに、おまえのおかげでこうして陸の人達に助けを求める事ができたんだ。今は、これからの事を考えよう」
兄にそう言われ、リトは若干ぐずりながらも泣き止んだ。
「ぐすっ…そう、だね。陸の人達に、助けてもらえるんだもんね…」
そして、リトは俺達を見てきた。
「みなさん…お願い。あいつらを…マクダットを、やっつけて!」
言われるまでもない。
こんな事をする輩を、放ってはおけない。
「もちろんだ。君らの両親の仇も、必ず取ってやるからな」
すると、今度はイルが頭を下げてきた。
「皆さん…本当にありがとうございます。可能な限りお手伝いしますので、どうか私達をお救い下さい!」
これには、煌汰が応えた。
「ああ…任せとけって!」
そうして作戦会議をすることになった。
まず、部屋に全員は入り切らないので、苺の魔法で部屋を広くしてもらった。
これで、全員で話し合いが出来る。
ちなみに、外から見た時の見た目は変わっていないらしい。
つくづくすごい魔法を使いこなす人である。さすがは大司祭…と言ったところか。
しばらく話し合っていると、突然イルがこんなことを言った。
「巡回の時間だ!みなさん、隠れて!…リトも!」
「か、隠れる…?」
「奴らが見回りにくるんです!見つかると面倒なことになります、だから急いで隠れて下さい!」
「で、でもいきなり言われても…!」
すると、苺が魔法を使った。
「[スティム]」
たちまち俺達の体は透明になり、部屋にはイルの姿しか見当たらなくなった。
それから程なくして、誰かが部屋を覗きにきた。
それは青白い肌をし、長い髪をした男だった。
手には槍を持っている。おそらくこいつがマクダット…過激派の海人だろう。
そいつはイルに対して「イル、だな。今は一人か?」「誰か来たか?」などと尋ね、その答えを何かにメモっていた。
もっとも、イルは全ての質問に自分はずっと一人だ、誰も来てはいない、と返していたが。
そうして海人が去って5秒ほどすると、イルが「みなさん、もう大丈夫です」と言い、苺は魔法を解いた。
「あれがマクダットか…」
「はい…奴らは夕方と明け方にああして一軒一軒、見回りに来るんです…恐らくは、脱走者や侵入者をすぐに発見できるようにしてるんだと思います」
「それでリトが引っかかったのか…」
「ええ…奴らはすぐに、リトがいないことに気づきました。それで両親と私を問い詰めてきたんですが、私達は最後までリトが脱走したと言いませんでした。それで業を煮やした奴らは、両親を私の目の前で…」
すると、リトが泣きそうな顔をした。
「もうやめて…!」
「…!ごめんな。とにかく、そういう訳なんです。両親だけじゃない。すでに何人もの仲間が、奴らの手にかかって…」
イルは拳を握り、ぶるぶると震えた。
「あいつら…絶対に許さない。必ず潰してやる…!」
「私も…!父さんたちを奪ったこと、許せない!あいつら全員、私が殺す!」
リトも顔に怒りを浮かべ、薙刀を抜いた。
俺は、そんな二人をなだめるように言った。
「その気持ちは多いにわかる。だが、感情に任せて飛び出すのは危険だ。まずは、しっかりと計画を立てよう」