ep119 狂戦士

ー/ー



  【1】


 シヒロが攫われた。
 俺がカレンに呼び出されている隙に。

「ダンナ! ホントにすまねぇ!」
「言い訳もねえ!」

 トレブルとブーストは跪いて謝ってきた。
 
「恩義を返すと言っておきながらわたしは…」

 エレサは視線を斜めに落として拳をギリギリと握った。

「そうか……」

 一同はシヒロの部屋に集合していた。俺は小机の上に残されたシヒロの執筆ノートを手に取った。
 
「……ん?」

 すると、ノートの隙間からひらりと一枚の紙片が落下した。その紙を拾い上げると……

「これは、敵のメッセージか」

 どうやらシヒロを攫ったヤツの書き置きだった。

「ヤツは逃げていく時、宿屋にメッセージを残したと言っていた。そこにあったのか……」

 エレサはなお悔しさを滲ませた。

「ダンナ!」
「なんて書いてあるんだ!?」

 トレブルとブーストがすがるように声を上げる。さっそく俺は紙の文字に目をやる。

「ヘッドフィールドで〔狂戦士〕が魔剣使いを待っている……と書いてある」

 直後だ。俺の読み上げた言葉に、トレブルとブーストが異常な反応を見せた。

「ヘッドフィールドだって!?」
「おいおいヘッドフィールドの狂戦士っつったら……マジでヤベーじゃねえかよ! クソッ!」

 エレサは冷静だったが、腕を組んで深刻な顔を見せる。

「ヘッドフィールドの狂戦士。わたしも聞いたことがある」

 彼らの反応を見るにつけ、俺はまだ見ぬ敵がただならぬ者であることを悟る。

「ヘッドフィールドの狂戦士……いったい何者なんだ?」

 トレブルはブーストと神妙に視線を交わすと、重々しく口をひらいた。

「ダンナ。そいつは裏の世界じゃ有名人だ。シヴィスやキラースとは格が違う。なんせ戦争じゃあ魔王軍からも人間たち国際連合軍からも同盟を申し込まれた上で中立を保ってたってハナシだ。〔狂戦士〕ジェイズ・キング。ヤツがどちらに付くかで戦争の行方も変わるって言われてたぐらいだ。ちなみに〔ヘッドフィールド〕てのは、ヤツが根城にしている街の名前であり、ヤツの組織の名前でもある」

 トレブルは妙に静かに説明した。彼の様子から、そのジェイズという者が、いかにとんでもない存在であるかということがビシビシと伝わった。

「シヒロを攫ったのは女だった」
 エレサもまた敵の強さを語る。
「そのジェイズとかいう奴の部下なんだろうが、只者じゃなかった。真正面からやり合っても勝てたかどうかわからない」
 
「なるほどな」

 俺はおもむろにベッドへ腰掛けると、思考をめぐらせる。
 シヒロの拉致。新たな敵の脅威。さらには今後、カレンに付きまとわれるであろうこと。そして、余命がさらに短くなったこと……。

「でも……」

 すぐに俺の心は定まった。意外なほど焦ってもいない。結局、今の俺にやるべきことはひとつだ。己の命がさらに短くなったのならなおさらだ。
 
「ヘッドフィールドへシヒロを取り返しにいく」

 俺は表情ひとつ変えずにさらっと言い放った。

「だ、ダンナ」
「ダンナ……」
「クロー」

 三人とも不安げな面持ちで俺を見つめる。彼らの気持ちはよくわかる。しかし俺の決定が揺らぐことはない。

「俺はジェイズがどんな奴なのかヘッドフィールドがどんな場所なのかも知らない。でもそんなことはどうだっていい。俺はシヒロを助ける。それは絶対だ。だがお前たちに強制はしない。来るなら来るで構わないし、来ないなら来ないでそれも構わない。その時はもう会うこともないだろう」

 なかば突き放すような言い方だ。決してそういうつもりもない。ただ、俺の言葉には他意もなければ何の飾りもないだけだ。

「わたしは行く」
 エレサは微塵の迷いもなく同行を希望する。
「シヒロはわたしの命の恩人でもある。わたしはクローと行きたい」

 それからエレサは男ども二人へ視線を投げた。男どもはバツが悪そうにするが、やがて観念した。
 
「お、おれたちも行くぜ! べ、べつにビビってためらってたわけじゃねえし!
「そ、そうだ! 嬢ちゃんはおれたちにとっても命の恩人だ! それにおれたちはダンナの部下だぜ!」

 トレブルとブーストは取り繕うように些か必死で同行を表明した。本心かどうかは疑わしいが、たとえコイツらでも来てくれた方がシヒロは喜ぶだろう。

「それがお前らの意志なら俺もなにも言わない。それじゃあ準備して明日出発しよう」

「明日? 今から出ないのか?」

 エレサが疑義を呈した。普通に考えればそう思うだろう。だが俺の考えは違った。

「そこまで焦っても仕方ない。敵の目的は俺だろ? 一日や二日遅れてシヒロがどうこうなるという話じゃないだろ」

「そうだけど……」

「それにちょっとした考えがある。うまく利用できれば強力な戦力になるぞ」

「強力な戦力?」

 三人は顔を見合わせて首をかしげた。
 俺は微かにニヤリとした。


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  【1】
 シヒロが攫われた。
 俺がカレンに呼び出されている隙に。
「ダンナ! ホントにすまねぇ!」
「言い訳もねえ!」
 トレブルとブーストは跪いて謝ってきた。
「恩義を返すと言っておきながらわたしは…」
 エレサは視線を斜めに落として拳をギリギリと握った。
「そうか……」
 一同はシヒロの部屋に集合していた。俺は小机の上に残されたシヒロの執筆ノートを手に取った。
「……ん?」
 すると、ノートの隙間からひらりと一枚の紙片が落下した。その紙を拾い上げると……
「これは、敵のメッセージか」
 どうやらシヒロを攫ったヤツの書き置きだった。
「ヤツは逃げていく時、宿屋にメッセージを残したと言っていた。そこにあったのか……」
 エレサはなお悔しさを滲ませた。
「ダンナ!」
「なんて書いてあるんだ!?」
 トレブルとブーストがすがるように声を上げる。さっそく俺は紙の文字に目をやる。
「ヘッドフィールドで〔狂戦士〕が魔剣使いを待っている……と書いてある」
 直後だ。俺の読み上げた言葉に、トレブルとブーストが異常な反応を見せた。
「ヘッドフィールドだって!?」
「おいおいヘッドフィールドの狂戦士っつったら……マジでヤベーじゃねえかよ! クソッ!」
 エレサは冷静だったが、腕を組んで深刻な顔を見せる。
「ヘッドフィールドの狂戦士。わたしも聞いたことがある」
 彼らの反応を見るにつけ、俺はまだ見ぬ敵がただならぬ者であることを悟る。
「ヘッドフィールドの狂戦士……いったい何者なんだ?」
 トレブルはブーストと神妙に視線を交わすと、重々しく口をひらいた。
「ダンナ。そいつは裏の世界じゃ有名人だ。シヴィスやキラースとは格が違う。なんせ戦争じゃあ魔王軍からも人間たち国際連合軍からも同盟を申し込まれた上で中立を保ってたってハナシだ。〔狂戦士〕ジェイズ・キング。ヤツがどちらに付くかで戦争の行方も変わるって言われてたぐらいだ。ちなみに〔ヘッドフィールド〕てのは、ヤツが根城にしている街の名前であり、ヤツの組織の名前でもある」
 トレブルは妙に静かに説明した。彼の様子から、そのジェイズという者が、いかにとんでもない存在であるかということがビシビシと伝わった。
「シヒロを攫ったのは女だった」
 エレサもまた敵の強さを語る。
「そのジェイズとかいう奴の部下なんだろうが、只者じゃなかった。真正面からやり合っても勝てたかどうかわからない」
「なるほどな」
 俺はおもむろにベッドへ腰掛けると、思考をめぐらせる。
 シヒロの拉致。新たな敵の脅威。さらには今後、カレンに付きまとわれるであろうこと。そして、余命がさらに短くなったこと……。
「でも……」
 すぐに俺の心は定まった。意外なほど焦ってもいない。結局、今の俺にやるべきことはひとつだ。己の命がさらに短くなったのならなおさらだ。
「ヘッドフィールドへシヒロを取り返しにいく」
 俺は表情ひとつ変えずにさらっと言い放った。
「だ、ダンナ」
「ダンナ……」
「クロー」
 三人とも不安げな面持ちで俺を見つめる。彼らの気持ちはよくわかる。しかし俺の決定が揺らぐことはない。
「俺はジェイズがどんな奴なのかヘッドフィールドがどんな場所なのかも知らない。でもそんなことはどうだっていい。俺はシヒロを助ける。それは絶対だ。だがお前たちに強制はしない。来るなら来るで構わないし、来ないなら来ないでそれも構わない。その時はもう会うこともないだろう」
 なかば突き放すような言い方だ。決してそういうつもりもない。ただ、俺の言葉には他意もなければ何の飾りもないだけだ。
「わたしは行く」
 エレサは微塵の迷いもなく同行を希望する。
「シヒロはわたしの命の恩人でもある。わたしはクローと行きたい」
 それからエレサは男ども二人へ視線を投げた。男どもはバツが悪そうにするが、やがて観念した。
「お、おれたちも行くぜ! べ、べつにビビってためらってたわけじゃねえし!
「そ、そうだ! 嬢ちゃんはおれたちにとっても命の恩人だ! それにおれたちはダンナの部下だぜ!」
 トレブルとブーストは取り繕うように些か必死で同行を表明した。本心かどうかは疑わしいが、たとえコイツらでも来てくれた方がシヒロは喜ぶだろう。
「それがお前らの意志なら俺もなにも言わない。それじゃあ準備して明日出発しよう」
「明日? 今から出ないのか?」
 エレサが疑義を呈した。普通に考えればそう思うだろう。だが俺の考えは違った。
「そこまで焦っても仕方ない。敵の目的は俺だろ? 一日や二日遅れてシヒロがどうこうなるという話じゃないだろ」
「そうだけど……」
「それにちょっとした考えがある。うまく利用できれば強力な戦力になるぞ」
「強力な戦力?」
 三人は顔を見合わせて首をかしげた。
 俺は微かにニヤリとした。