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再会

ー/ー




 冬の夜の砂浜は、冷たく凍りつくような空気に包まれ、静寂が漂う。

 潮の香りが鼻を突き、ひんやりとした風が肌に触れ……刺すと表現した方が正しいかもしれない。そして、周囲を包む暗闇が、嫌が応にも孤独感を増してくれる。

 地面には、月明かりに反射した砂粒がキラキラと光る。本来なら美しいと形容出来そうな光景なんだが、無数の怨霊が漂う今は、それが不気味さを伴っている物にしか見えない。


 …………ただ、そんな状況も急速に変化を迎えつつある。

 一体……また一体と、 “彼女” が剣を振る度に怨霊は霧散し数を減らす。

 その動きは、以前見た時のように優美で隙がなく洗練されていた。本来、足場の悪い砂浜であるにも関わらず彼女の動きに乱れはない。
 
  

 
   ◇◇◇

 
 ジリリリリ♪  ジリリリリ♪


 時刻は朝8時半過ぎ、俺の部屋にある時代遅れの古びた黒電話が “けたたましい” 音を立てて鳴り響く。

 朝から誰だよ?

 寝てはいなかったが、起きてもいない。そんな中途半端な覚醒状態で、布団の中でゴロついている最中だった。

 未だ、グズつく体に活を入れるようにして何とか起き上がると気怠い動作で受話器を取る。


 ガチャッ

 
「もしもし」
「鴉か……」
「誰だお前?」
 

 偉い “かすれた” 声しやがって……


「俺だ、武威だよ……!」
「何で風邪引いた?」


 今日の夜、仕事だぞ……


「多分、昨日体冷やしたからだ……」
「シロの手合わせの時だな」


 寒かったなら、中に入るか早めに俺達を止めろよ……


「8度5分もある……悪いんだが、仕事は__」
「爺さんと行くよ、今日は寝てろ」
「すまねぇ……」


 消え入りそうな声で、そう言うと電話は切れた。

 相当キツそうだったな。あのリーサルウェポンも風邪には敵わねぇか……

 
 結局、その後は寝直す気にはなれず、顔を洗って、朝飯を作る。

 …………と言っても焼いたトーストにマーガリンを塗って、市販のカップスープをお湯に溶かしただけ。

 それを美味いとも、不味いとも思わず体の中に流し込む。食事と言うより、もはや作業……

 事務所に行けばマリアがそれなりの物準備してくれるから、マジでありがたい。家にいるより、あの訳の解んねぇ事務所にいる方が余程健康的な食生活してるぜ。

 そして、動ける準備をしたはいいが、特に夜まですることもない。取り敢えず、飯と同時に付けといたTVをボーっと眺める……

 


   ◇◇◇

 ――2時間後――

  
 ジリリリリ♪  ジリリリリ♪


 再び部屋に鳴り響く黒電話……今度は誰だ?

 流石にアイツでも、「やっぱり行く」なんて言わねぇよな?そんなことを考えながら受話器を取る。
 

 ガチャッ

 
「もしもし」
「小僧か……?」
「誰だアンタ?」
 

 今度は掠れたジジィの声。おいおいおい!この流れって、もしかして……


「儂じゃよ……8度9分ある。ど〜も、朝から調子悪いと思うとったんじゃが、どうやら武威の小僧に移されたらしい」
「嘘つけ。んな、短時間で移るか……!」


 雪之丞は「体を冷やしたから」なんて言ってたが、実のところ数日前から爺さんに菌を移されてたんじゃねぇか?

 ジジィの方が菌に感染して風邪になるまでの時間が長いって言うし、今日になって丁度2人同時に発症したって考えるのが自然かもな……


「とにかく動けそうもない。すまんが仕事はマリアと一緒に__」
「もういい、お前等はマリアに病院に運ばれろ!」

 


    ◇◇◇
 

 そんな訳で1人で除霊に行くことになった俺は、その後もずっと部屋でゴロゴロすると、夕方に霊衣に着替える為に一度事務所に顔を出す。


「調子は……良い訳ねぇよな?」
「ああ……駄目だ」
「面目ない……」


 赤い顔で横になり、アイスノンで頭を冷やす野郎とジジィ……そして、そいつらを甲斐甲斐しく世話する人型兵器マリア。

 今は完全に看護ロボットだな。俺も風邪引いたら、部屋じゃなくてここに来ようかな?一人暮らしの風邪は何気にしんどい……

 隣に住む薄幸美少女が看病してくれたらなんて考えもするんだけど、あいにく彼女は普段から病気の母親と苦しい家計を支えて頑張っている。

 おまけに厄介事を引き起こしかねない癖に、口だけやたら達者の自称 “福ノ神” まで抱え込んでるから、とてもじゃねぇが「助けてくれ」なんて言えないわ…………
 

「じゃあ、行くわ」


 手早く着替えて連中に声を掛けると、相変わらず苦しそうな声が返ってくる。

 
「気を付けるんじゃぞ」
「悪いな……もし、お前だけで今日の除霊が無理そうなら、明日は俺も出るぜ」
 
「ば〜か、その風邪が1日で治るか。治るまで寝てろ……ただ、そうなったら明日マリアには、来てもらうかもしれない。すまねぇ、その時は頼むマリア」
「ノープロブレム・行ってらっしゃい・鴉」
 

 そうして、仲間に見送られながら事務所を出た俺は、その後電車を数時間乗り継いで今回の依頼場所のある最寄り駅まで着いた(その間、流石にあの霊衣は目立ち過ぎるんで、コートは普通の物を着て、誤魔化した。脱いだ方は、バッグに入れてに持ってる……)。

 今回、足が無くなったのは面倒だけど、帰りは文珠で転移出来るのがまだ救い…………

 救いではあるが、毎回移動だけに文珠使うのもな……


「18になったら、すぐ免許取ろう……」


 構内を歩きながら、誰にともなく呟く。

 誕生日まで、あと5ヶ月くらいか(肉体年齢は既に21に迫ろうとしてんだけど……)。案外すぐかもしれない。そうなったら、車だけじゃなくてバイクも取るか?取れる選択肢は、多いに越したことはないからな。 

 そんな今後の展望……と言うには大袈裟だが、ともかくそんなことを考えながら、駅を出る。現場までは歩いて数分。時刻は夜の10時に迫ろうとしているから、連中もいい具合(?)に徘徊してるだろうな。

 
 今回の除霊は、海水浴場の砂浜に徘徊する無数の怨霊の浄化、及びその原因究明(こっちは出来たら)。

 海水浴場と言っても、冬の今は当然オフ。それでも年中来るサーファー客や、近隣の住民に被害が出ているんで自治体から協会に除霊依頼が入り、それが俺達まで流れてきたわけだ。

 ちなみに、この依頼は今までやってきたような、やり手のない塩漬け案件とは違う。さっきも言ったようにオフシーズンなんで、依頼料は控え目だが最近入った依頼がそのまま俺達に回ってきた。

 偶々かもしれないが、ここで無難に解決出来れば今後の足掛かりになるかもしれない。そんな大事な依頼を風邪(やむを得ないとは言え)なんかで、ドタキャンにはしたくない。

 大勢の敵を1人で相手するのは少々骨だが、強い敵は確認されてないし大丈夫だろう。


 そうして、駅に着いた頃とはまた違うことを考えながら数分ほど歩くと、海岸へ繋がる入口が見えて来る。

 10m程離れて建てられた、高さ5mくらいのポールが2本。ポールの上部には、その2本を繋ぐように付けられたスチール製のパネルに海岸名が表記されているだけの簡易ゲート。

 通常なら訪れる客を全開放して迎え入れるように建てられたそれには、ここ最近の怨霊騒ぎのせいでバリケードで完全閉鎖されている。
 
 閉鎖されてると言っても、入ろうと思えば簡単に入れる程度のもんなんだが、怨霊が居るのをわかってて入る馬鹿は…………

 

「いんのかよ……」


 入るのに邪魔だったんだろう。入口を塞ぐように設置されていたフェンスを横にズラシたあとが地面にくっきり残っていた。それだけじゃない、先に続く砂地には入った人間の物と思われる足跡が続いている。人数は、1人みたいだな……


 何が目的だ?

 ただの怖いもの見たさの馬鹿だとしても、見殺しにするのは色々と不味い。

 それとも自殺か?悪霊にわざと自分を襲わせて……いやいや、本気で死にたがってる奴が、そんなまどろっこしい(・・・・・・・)手段なんか取らないよな。


 何れにしても、急いで確認した方がいいか。

 俺は辺りを警戒しながら、小走りに足跡の後を追う。それが向かう数十メートル先にあるのは、今回指定された砂浜だ。

 足を一歩進める度に怨霊の気配が強くなる。遠目からでも、既に悪霊達の動き回る姿が確認出来る。足跡の方向も変わらない。真っ直ぐ怨霊達に向かっていた。


 そして、辿り着いた先で1人の人間が怨霊達と交戦している姿が目に入った…………




    ◇◇◇


 怨霊達は次々とその人間に襲い掛かるが、そいつの持つ剣が月明かりに煌めく度に一体、また一体と霧散しながら消えていく。持っているのは多分、霊刀だろう。光って見えるのは、月明かりだけでなく奴が霊気を纏わせてるからだ。
 

 …………にしても、剣に素人の俺でも見惚れるような見事な剣捌きだ。

 動きに全く無駄がない。実戦なのに、さながら剣舞でも見せられてるような錯覚に陥るぜ。

 取り敢えず居たのが馬鹿や自殺願望持ちでなく、自分と同じ霊能者であることに安心はした。ただ、同時に新たな疑問もわいてくる。
 

 奴は同業者か?

 いや、ここ一帯を管理しているのは地元の自治体。複数の依頼者が、それぞれGSを雇うなんて事態あり得ない。もし、自治体が俺達とは別にGSを雇ってるとしても、そんな話は聞いてない。

 それとも何かの手違いか?あるいはモグリとか……?


 奴の目的が俺と同じ怨霊の殲滅である以上、協力することもアリと言えばアリなんだが、素性がイマイチ解らないことが俺を積極的に出来ずにいた。
 


 ………………それも、少し違うな。

 奴の背後関係は解らないが、 “奴が誰だか” 俺は知ってる……その事実が俺の足を止めてるんだ。

 あの目の前で冴え渡る流麗な剣技、身のこなし。そして、剣を含めた全身から迸る霊気……全て、記憶に新しい。





再会 鴉
「久能市氷雅……」


 口に出して、そいつの名を呟く。

 以前、GS試験で対戦し、去年の暮れに俺に勝負を挑んできたあの女………そいつが目の前で剣を振るっていた。

 


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 冬の夜の砂浜は、冷たく凍りつくような空気に包まれ、静寂が漂う。
 潮の香りが鼻を突き、ひんやりとした風が肌に触れ……刺すと表現した方が正しいかもしれない。そして、周囲を包む暗闇が、嫌が応にも孤独感を増してくれる。
 地面には、月明かりに反射した砂粒がキラキラと光る。本来なら美しいと形容出来そうな光景なんだが、無数の怨霊が漂う今は、それが不気味さを伴っている物にしか見えない。
 …………ただ、そんな状況も急速に変化を迎えつつある。
 一体……また一体と、 “彼女” が剣を振る度に怨霊は霧散し数を減らす。
 その動きは、以前見た時のように優美で隙がなく洗練されていた。本来、足場の悪い砂浜であるにも関わらず彼女の動きに乱れはない。
   ◇◇◇
 ジリリリリ♪  ジリリリリ♪
 時刻は朝8時半過ぎ、俺の部屋にある時代遅れの古びた黒電話が “けたたましい” 音を立てて鳴り響く。
 朝から誰だよ?
 寝てはいなかったが、起きてもいない。そんな中途半端な覚醒状態で、布団の中でゴロついている最中だった。
 未だ、グズつく体に活を入れるようにして何とか起き上がると気怠い動作で受話器を取る。
 ガチャッ
「もしもし」
「鴉か……」
「誰だお前?」
 偉い “かすれた” 声しやがって……
「俺だ、武威だよ……!」
「何で風邪引いた?」
 今日の夜、仕事だぞ……
「多分、昨日体冷やしたからだ……」
「シロの手合わせの時だな」
 寒かったなら、中に入るか早めに俺達を止めろよ……
「8度5分もある……悪いんだが、仕事は__」
「爺さんと行くよ、今日は寝てろ」
「すまねぇ……」
 消え入りそうな声で、そう言うと電話は切れた。
 相当キツそうだったな。あのリーサルウェポンも風邪には敵わねぇか……
 結局、その後は寝直す気にはなれず、顔を洗って、朝飯を作る。
 …………と言っても焼いたトーストにマーガリンを塗って、市販のカップスープをお湯に溶かしただけ。
 それを美味いとも、不味いとも思わず体の中に流し込む。食事と言うより、もはや作業……
 事務所に行けばマリアがそれなりの物準備してくれるから、マジでありがたい。家にいるより、あの訳の解んねぇ事務所にいる方が余程健康的な食生活してるぜ。
 そして、動ける準備をしたはいいが、特に夜まですることもない。取り敢えず、飯と同時に付けといたTVをボーっと眺める……
   ◇◇◇
 ――2時間後――
 ジリリリリ♪  ジリリリリ♪
 再び部屋に鳴り響く黒電話……今度は誰だ?
 流石にアイツでも、「やっぱり行く」なんて言わねぇよな?そんなことを考えながら受話器を取る。
 ガチャッ
「もしもし」
「小僧か……?」
「誰だアンタ?」
 今度は掠れたジジィの声。おいおいおい!この流れって、もしかして……
「儂じゃよ……8度9分ある。ど〜も、朝から調子悪いと思うとったんじゃが、どうやら武威の小僧に移されたらしい」
「嘘つけ。んな、短時間で移るか……!」
 雪之丞は「体を冷やしたから」なんて言ってたが、実のところ数日前から爺さんに菌を移されてたんじゃねぇか?
 ジジィの方が菌に感染して風邪になるまでの時間が長いって言うし、今日になって丁度2人同時に発症したって考えるのが自然かもな……
「とにかく動けそうもない。すまんが仕事はマリアと一緒に__」
「もういい、お前等はマリアに病院に運ばれろ!」
    ◇◇◇
 そんな訳で1人で除霊に行くことになった俺は、その後もずっと部屋でゴロゴロすると、夕方に霊衣に着替える為に一度事務所に顔を出す。
「調子は……良い訳ねぇよな?」
「ああ……駄目だ」
「面目ない……」
 赤い顔で横になり、アイスノンで頭を冷やす野郎とジジィ……そして、そいつらを甲斐甲斐しく世話する人型兵器マリア。
 今は完全に看護ロボットだな。俺も風邪引いたら、部屋じゃなくてここに来ようかな?一人暮らしの風邪は何気にしんどい……
 隣に住む薄幸美少女が看病してくれたらなんて考えもするんだけど、あいにく彼女は普段から病気の母親と苦しい家計を支えて頑張っている。
 おまけに厄介事を引き起こしかねない癖に、口だけやたら達者の自称 “福ノ神” まで抱え込んでるから、とてもじゃねぇが「助けてくれ」なんて言えないわ…………
「じゃあ、行くわ」
 手早く着替えて連中に声を掛けると、相変わらず苦しそうな声が返ってくる。
「気を付けるんじゃぞ」
「悪いな……もし、お前だけで今日の除霊が無理そうなら、明日は俺も出るぜ」
「ば〜か、その風邪が1日で治るか。治るまで寝てろ……ただ、そうなったら明日マリアには、来てもらうかもしれない。すまねぇ、その時は頼むマリア」
「ノープロブレム・行ってらっしゃい・鴉」
 そうして、仲間に見送られながら事務所を出た俺は、その後電車を数時間乗り継いで今回の依頼場所のある最寄り駅まで着いた(その間、流石にあの霊衣は目立ち過ぎるんで、コートは普通の物を着て、誤魔化した。脱いだ方は、バッグに入れてに持ってる……)。
 今回、足が無くなったのは面倒だけど、帰りは文珠で転移出来るのがまだ救い…………
 救いではあるが、毎回移動だけに文珠使うのもな……
「18になったら、すぐ免許取ろう……」
 構内を歩きながら、誰にともなく呟く。
 誕生日まで、あと5ヶ月くらいか(肉体年齢は既に21に迫ろうとしてんだけど……)。案外すぐかもしれない。そうなったら、車だけじゃなくてバイクも取るか?取れる選択肢は、多いに越したことはないからな。 
 そんな今後の展望……と言うには大袈裟だが、ともかくそんなことを考えながら、駅を出る。現場までは歩いて数分。時刻は夜の10時に迫ろうとしているから、連中もいい具合(?)に徘徊してるだろうな。
 今回の除霊は、海水浴場の砂浜に徘徊する無数の怨霊の浄化、及びその原因究明(こっちは出来たら)。
 海水浴場と言っても、冬の今は当然オフ。それでも年中来るサーファー客や、近隣の住民に被害が出ているんで自治体から協会に除霊依頼が入り、それが俺達まで流れてきたわけだ。
 ちなみに、この依頼は今までやってきたような、やり手のない塩漬け案件とは違う。さっきも言ったようにオフシーズンなんで、依頼料は控え目だが最近入った依頼がそのまま俺達に回ってきた。
 偶々かもしれないが、ここで無難に解決出来れば今後の足掛かりになるかもしれない。そんな大事な依頼を風邪(やむを得ないとは言え)なんかで、ドタキャンにはしたくない。
 大勢の敵を1人で相手するのは少々骨だが、強い敵は確認されてないし大丈夫だろう。
 そうして、駅に着いた頃とはまた違うことを考えながら数分ほど歩くと、海岸へ繋がる入口が見えて来る。
 10m程離れて建てられた、高さ5mくらいのポールが2本。ポールの上部には、その2本を繋ぐように付けられたスチール製のパネルに海岸名が表記されているだけの簡易ゲート。
 通常なら訪れる客を全開放して迎え入れるように建てられたそれには、ここ最近の怨霊騒ぎのせいでバリケードで完全閉鎖されている。
 閉鎖されてると言っても、入ろうと思えば簡単に入れる程度のもんなんだが、怨霊が居るのをわかってて入る馬鹿は…………
「いんのかよ……」
 入るのに邪魔だったんだろう。入口を塞ぐように設置されていたフェンスを横にズラシたあとが地面にくっきり残っていた。それだけじゃない、先に続く砂地には入った人間の物と思われる足跡が続いている。人数は、1人みたいだな……
 何が目的だ?
 ただの怖いもの見たさの馬鹿だとしても、見殺しにするのは色々と不味い。
 それとも自殺か?悪霊にわざと自分を襲わせて……いやいや、本気で死にたがってる奴が、そんな|まどろっこしい《・・・・・・・》手段なんか取らないよな。
 何れにしても、急いで確認した方がいいか。
 俺は辺りを警戒しながら、小走りに足跡の後を追う。それが向かう数十メートル先にあるのは、今回指定された砂浜だ。
 足を一歩進める度に怨霊の気配が強くなる。遠目からでも、既に悪霊達の動き回る姿が確認出来る。足跡の方向も変わらない。真っ直ぐ怨霊達に向かっていた。
 そして、辿り着いた先で1人の人間が怨霊達と交戦している姿が目に入った…………
    ◇◇◇
 怨霊達は次々とその人間に襲い掛かるが、そいつの持つ剣が月明かりに煌めく度に一体、また一体と霧散しながら消えていく。持っているのは多分、霊刀だろう。光って見えるのは、月明かりだけでなく奴が霊気を纏わせてるからだ。
 …………にしても、剣に素人の俺でも見惚れるような見事な剣捌きだ。
 動きに全く無駄がない。実戦なのに、さながら剣舞でも見せられてるような錯覚に陥るぜ。
 取り敢えず居たのが馬鹿や自殺願望持ちでなく、自分と同じ霊能者であることに安心はした。ただ、同時に新たな疑問もわいてくる。
 奴は同業者か?
 いや、ここ一帯を管理しているのは地元の自治体。複数の依頼者が、それぞれGSを雇うなんて事態あり得ない。もし、自治体が俺達とは別にGSを雇ってるとしても、そんな話は聞いてない。
 それとも何かの手違いか?あるいはモグリとか……?
 奴の目的が俺と同じ怨霊の殲滅である以上、協力することもアリと言えばアリなんだが、素性がイマイチ解らないことが俺を積極的に出来ずにいた。
 ………………それも、少し違うな。
 奴の背後関係は解らないが、 “奴が誰だか” 俺は知ってる……その事実が俺の足を止めてるんだ。
 あの目の前で冴え渡る流麗な剣技、身のこなし。そして、剣を含めた全身から迸る霊気……全て、記憶に新しい。
「久能市氷雅……」
 口に出して、そいつの名を呟く。
 以前、GS試験で対戦し、去年の暮れに俺に勝負を挑んできたあの女………そいつが目の前で剣を振るっていた。