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来訪者・二

ー/ー





「お願いします!先生ぇ〜……何の為に里を降りたか解らないでござる〜〜」
「……霊波刀なら、お前1人で出来るようになるだろ?」


 懇願してくるシロに頭を掻きながら答える。

 さっきの雑魚霊たちとの戦闘で出した霊波刀……大人の人狼に比べて、まだ完全ではなかったが使いこなすのは時間の問題に見えた。今から、誰かの手解きなんて必要ないだろう。

 それよりも、何かサラッと “とんでもない” こと言ってきたように思えたのは気の所為か?

 もしかして、俺に会うために ”わざわざ” 里を……いやいやいや、流石にそれはないか。


「さっき先生がしたように “ビヨ〜ン” ってしてみたいでござる♪」
「今考えたろ?今、考えたな?」


 教えてやってもいいけど、基礎が出来てない状況で変則技なんか教えたら、逆に悪くなって取り返しが付かなくなりそうだからな……少し恐い。

 まぁ、俺自身基礎なんか教わらず、偶然身に付けたような技だから余り偉そうなこと言えないんだがな。

 そんな感じで難色を示す俺を見て、横で話を聞いていた雪之丞が口を開く。


「おいおい、折角遠くから訪ねてきたんだ。無下に返すのは、ちょっと無いんじゃないか?なぁ、“先生”♪」
「先生はやめろ……」


 「先生」強調しやがって……つ〜か、ニヤニヤ笑うお前の魂胆は既に見え見えだ。


「なら、お前が相手してやれよ武威」
「仕方ねぇなぁ〜♪」


 全然、仕方ないなんて思ってなさそうな顔と声音で返すと雪之丞はシロに向き直る。


「シロ、お前の師匠は乗り気じゃねぇみてぇだ。だったら、俺とやろうぜ♪」
「ぶ、武威殿とでござるか……しかし、拙者は先生に…………」

「俺とやるのは恐いか?まぁ、人狼ってもまだ “ガキンチョ” じゃ仕方ねぇか」
「……!!?拙者は、子ガキンチョではないでごさる!!」

「でも、恐いんだろ?」
「拙者は武士でござる!恐いわけなかろう!!そこまで言うなら武威殿との手合わせ、謹んでお受け致しまする!!」


 完全に乗せられてやがる………まぁ、想像通りだけど。


「よっしゃ!決まりだな♪お手柔らかに頼むぜ、シロ」
「了解したでござる、こちらこそよろしく頼むでござる武威殿!」



 
    ◇◇◇


 両手に霊気を集中し、一つの大きな霊盾を作る。


「め、目玉……!?」
 

 そして、いつも通り文珠を『分』の特性を付与……


「うわっ!?目玉が沢山に増えたでござる!」
「触るなよ、破裂するから…………行け!」


 傍らで素っ頓狂な声を上げるシロに注意しつつ、俺は無数の霊盾に意識を飛ばす。

 霊盾はすぐさま、辺りに徘徊する悪霊達に追い縋って行き…………



 ヴァンッ! ボォグォン!

 ヴァウッ! ドゴォンッ! ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ!

 ヴァウッ! ドゴォンッ! ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ!ヴァウッ! ドゴォンッ! ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ! ヴァウッ! ドゴォンッ! ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ!



「おおぉ〜〜!!!!凄いでござる!あれだけの怨霊を一瞬で!!?」
「霊盾の生成が速くなったんじゃねぇか?」


 驚きまくるシロと対照的に、前に出て雑魚の足止めしてた雪之丞が淡々と告げてくる。
 
 
「まぁ、何回も繰り返してりゃな……」


 そう言って、俺も同じように返す。

 度々似たようなこと繰り返すうちに、ただの雑魚散らしならお手の物になっちまった……


「さ〜て、綺麗になったぜ!早速始めるか?」
「おぉっ!そうでござるな、早く始めるでござるよ」


 未だ怨霊達の居なくなった中空を見て、呆けてるシロに雪之丞が声を掛けると2人は敷地の真ん中辺りに5m程離れて相対する。

 俺は事務所の入口付近で待機、爺さん達は居ない。興味がわきゃ、窓から彼奴等を見てるかもな。


「遠慮はいらねぇ、全力で来い」
「……武威殿は『魔装術』の使い手と聞いておりまする。使わないのでござるか?」

「使わせてみろよ! “お嬢ちゃん” ♪」
「!!?……舐めるなぁ!!」


 雪之丞の簡単過ぎる挑発に、あっさり乗るシロ……右手に霊波刀を出すと一直線に雪之丞に襲い掛かる。

 人狼はやっぱり、速い。でも……


「おっと」


 雪之丞はシロの剣を、体を僅かに傾けただけで躱す。


「どうした?俺はこっちだぞ」
「うおぉ〜!!」


 間髪入れず、シロも切り返す。身のこなしも柔軟で無駄がない。

 その後も袈裟斬り、逆袈裟、一文字……時には突きも交えながら、とにかく剣を目茶苦茶ぶん回す。

 正に剣を腕の延長として、十二分に使いこなしてる感じだ。

 だが、それでも剣が雪之丞に触れることはない。

 

「どうした?当たらねぇぞ、人狼の力はその程度かぁ?」
「うおおぉぉぉ〜〜!!!」


 余裕綽々で躱し続ける雪之丞に、更にヒートアップするシロ。

 熱が入ったことで更に速くなったか。でも、結果は変わらないだろうな……その分、動きも単調になっちまったし。


「ホレっ!」


 ゴスッ!


「ぐっ……」


 難なく剣閃を掻い潜る雪之丞が、ガラ空きの腹に突きをお見舞いする。傍目には軽く突いたようにしか見えないが、見事にカウンターで入ったんで割と効いてるな……

 苦悶の声を上げ、思わず膝を付くシロ。そんなシロを見ながら、雪之丞は呟く。


「止めにするか?」
「なんのっ……!まだまだぁ!!」


 立ち上がると、再び雪之丞に仕掛けていく。気合だけは十分だが、動きはさっきより悪くなってる。

 案の定、その後もシロの攻撃が雪之丞に触れることはなく、一方的にやられていく。


 こうい言うとシロが如何にも弱く感じるだろうが、別にそんなことはない。剣の出力こそ、まだ未熟だが人狼の身体能力なら、それを十分にカバー出来る。

 並の悪霊や妖怪なんかに引けは取らないし、低ランクGSなら簡単に圧倒出来るだろう。

 ただ…………シロも動きは、素直で見切りやすい。

 確かに速くて、身のこなしもいい。だけど、全部同じようなタイミングでくる来る上に動きも直線的。一旦動きに慣れちまえば全く脅威に感じないんだ。

 
 …………もっとも、それは俺達が武神様の神速剣に晒されて、何度も死にかかってるから言えるだけなんだけどな。




    ◇◇◇


 バコッ! 「ぐはっ……」


 やり始めて30分近く経ったか?

 顎に掌底(軽く)を喰らって、地面に膝を付くシロ……もぅ、何度目になるか忘れちまったよ。

 そんなシロを見て雪之丞が呟く。


「ここまでだな」
「まだでござる……!!拙者は、まだ動けるでござる!」


 何回も殴られてダメージも溜まってるだろうに、その瞳の闘志は衰えを見せない………この辺は、流石だと思う。

 勿論、意地もあんだろうが……


「悪い……俺が疲れた。鴉、代わってくれ」
「しゃ〜ねぇな……」


 疲れたんじゃなくて、単に “飽きた” だけだろ。

 シロが激しく動き回ってたのに対して、こいつは最低限の動きで流してただけで汗一つかいてない。ここまでのやり合いで、シロの底を把握した感じだな。


 内心で、そんな悪態をつきながら雪之丞と場所を換える。 


「シロ、少し休むか?」
「い……いいえ、先生!拙者は平気でござる!すぐに始めましょう」
「そうか……」


 一応聞いてみたけど、予想通りの返答が返ってきた。

 女の子1人に野郎が2人交代しながらやるなんて、正直言って気が引ける(そもそも主旨変わってねぇか?)。

 ただ、シロの納まりのつかない気持ちを考えればやるしかないだろう。それに、こいつは先生に内緒にしてまでここまで来たんだ。

 俺は、そう自分を納得させて霊手を顕現させる。


「鈎爪……?先生は、いくつ霊気の形を持ってるのでござる?」
「『剣』『鞭』『爪』………大体この3つだ。剣は、最近殆ど使わないけどな…………」

「使わない……?」
「俺はお前と違って、剣を殆ど使えないんだ。爪をブン回す方が性にあってる」


 実際、剣は “ぶっ刺す” 時しか使わなくなってるからな。
 
 剣の修行をしたがってるシロには悪いけど、この辺は正直に伝えた方がいいだろう。幻滅されるかもしれないが、一途なこいつに対するせめてもの誠意だ。


「いつでも、いいぞ」
「……はっ!行くでござる!!」




    ◇◇◇


 ………………もう何分やったかな?
 

 内容は雪之丞と一緒………いや、もっと酷い。

 当たり前だ。シロは始めから動きっぱなしで、俺は雪之丞がやってる間ずっと動きを観察してたんだ。これで、シロにやられる方がアホだ。

 シロは何回殴られても、転ばされても全く動きを止めない…………止めはしないが、始めの躍動感が完全に消え失せて、今は動く的に成り下がってる。

 それでも、瞳に宿る光は消えていない。ただ、一心不乱に食らいついてくる。何がこいつを突き動かすんだか、全く解らない。解らないんだが、この直向きさに俺はただただ(・・・・)圧倒されてた。

 
 そのせいで、止めどこを完全に見失っちまったんだが…………やべぇな、早く止めねぇとシロがどうにかなっちまう。


「おい!もう、止めろ!!日が暮れる」


 そんな時に、救いの声じゃねぇが雪之丞が声を張り上げてくれた。

 確かに時刻は5時を回って辺りは真っ暗になってる。これ以上は本格的に危険だ。俺もそれに乗って声を上げる。


「聞いたろ?もう、終わりにするぞ!」
「うああぁ〜〜っ!!」
「って、おい……!」


 止まりゃしねぇぞ、こいつ……!と言うか聴こえてないのか?

 その目は俺を捉えていても、俺を “認識” 出来なくなってる??


「……ったく、世話がやける!」


 舌打ちしながら、霊波刀の出ている右腕を左手で掴むと同時に右の霊手でシロの顔を掴む!


「キャンッ!?」
「だから、終わりだっ!!」


 掴んだまま、勢いを殺さずそのままシロの頭を地面に………………






 叩き着ける直前で、寸止めをする。


「ふぅ〜……ふぅ〜…………」
「気づいたか……?」

「は……はい、先生…………」
「ムキになり過ぎだ」
 

 …………ただの手合わせ程度の積りだったのに、ボロボロになりやがって。これ、このまま返したら先生が怒鳴り込んで来るぞ。

 


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「……霊波刀なら、お前1人で出来るようになるだろ?」
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 それよりも、何かサラッと “とんでもない” こと言ってきたように思えたのは気の所為か?
 もしかして、俺に会うために ”わざわざ” 里を……いやいやいや、流石にそれはないか。
「さっき先生がしたように “ビヨ〜ン” ってしてみたいでござる♪」
「今考えたろ?今、考えたな?」
 教えてやってもいいけど、基礎が出来てない状況で変則技なんか教えたら、逆に悪くなって取り返しが付かなくなりそうだからな……少し恐い。
 まぁ、俺自身基礎なんか教わらず、偶然身に付けたような技だから余り偉そうなこと言えないんだがな。
 そんな感じで難色を示す俺を見て、横で話を聞いていた雪之丞が口を開く。
「おいおい、折角遠くから訪ねてきたんだ。無下に返すのは、ちょっと無いんじゃないか?なぁ、“先生”♪」
「先生はやめろ……」
 「先生」強調しやがって……つ〜か、ニヤニヤ笑うお前の魂胆は既に見え見えだ。
「なら、お前が相手してやれよ武威」
「仕方ねぇなぁ〜♪」
 全然、仕方ないなんて思ってなさそうな顔と声音で返すと雪之丞はシロに向き直る。
「シロ、お前の師匠は乗り気じゃねぇみてぇだ。だったら、俺とやろうぜ♪」
「ぶ、武威殿とでござるか……しかし、拙者は先生に…………」
「俺とやるのは恐いか?まぁ、人狼ってもまだ “ガキンチョ” じゃ仕方ねぇか」
「……!!?拙者は、子ガキンチョではないでごさる!!」
「でも、恐いんだろ?」
「拙者は武士でござる!恐いわけなかろう!!そこまで言うなら武威殿との手合わせ、謹んでお受け致しまする!!」
 完全に乗せられてやがる………まぁ、想像通りだけど。
「よっしゃ!決まりだな♪お手柔らかに頼むぜ、シロ」
「了解したでござる、こちらこそよろしく頼むでござる武威殿!」
    ◇◇◇
 両手に霊気を集中し、一つの大きな霊盾を作る。
「め、目玉……!?」
 そして、いつも通り文珠を『分』の特性を付与……
「うわっ!?目玉が沢山に増えたでござる!」
「触るなよ、破裂するから…………行け!」
 傍らで素っ頓狂な声を上げるシロに注意しつつ、俺は無数の霊盾に意識を飛ばす。
 霊盾はすぐさま、辺りに徘徊する悪霊達に追い縋って行き…………
 ヴァンッ! ボォグォン!
 ヴァウッ! ドゴォンッ! ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ!
 ヴァウッ! ドゴォンッ! ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ!ヴァウッ! ドゴォンッ! ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ! ヴァウッ! ドゴォンッ! ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ!
「おおぉ〜〜!!!!凄いでござる!あれだけの怨霊を一瞬で!!?」
「霊盾の生成が速くなったんじゃねぇか?」
 驚きまくるシロと対照的に、前に出て雑魚の足止めしてた雪之丞が淡々と告げてくる。
「まぁ、何回も繰り返してりゃな……」
 そう言って、俺も同じように返す。
 度々似たようなこと繰り返すうちに、ただの雑魚散らしならお手の物になっちまった……
「さ〜て、綺麗になったぜ!早速始めるか?」
「おぉっ!そうでござるな、早く始めるでござるよ」
 未だ怨霊達の居なくなった中空を見て、呆けてるシロに雪之丞が声を掛けると2人は敷地の真ん中辺りに5m程離れて相対する。
 俺は事務所の入口付近で待機、爺さん達は居ない。興味がわきゃ、窓から彼奴等を見てるかもな。
「遠慮はいらねぇ、全力で来い」
「……武威殿は『魔装術』の使い手と聞いておりまする。使わないのでござるか?」
「使わせてみろよ! “お嬢ちゃん” ♪」
「!!?……舐めるなぁ!!」
 雪之丞の簡単過ぎる挑発に、あっさり乗るシロ……右手に霊波刀を出すと一直線に雪之丞に襲い掛かる。
 人狼はやっぱり、速い。でも……
「おっと」
 雪之丞はシロの剣を、体を僅かに傾けただけで躱す。
「どうした?俺はこっちだぞ」
「うおぉ〜!!」
 間髪入れず、シロも切り返す。身のこなしも柔軟で無駄がない。
 その後も袈裟斬り、逆袈裟、一文字……時には突きも交えながら、とにかく剣を目茶苦茶ぶん回す。
 正に剣を腕の延長として、十二分に使いこなしてる感じだ。
 だが、それでも剣が雪之丞に触れることはない。
「どうした?当たらねぇぞ、人狼の力はその程度かぁ?」
「うおおぉぉぉ〜〜!!!」
 余裕綽々で躱し続ける雪之丞に、更にヒートアップするシロ。
 熱が入ったことで更に速くなったか。でも、結果は変わらないだろうな……その分、動きも単調になっちまったし。
「ホレっ!」
 ゴスッ!
「ぐっ……」
 難なく剣閃を掻い潜る雪之丞が、ガラ空きの腹に突きをお見舞いする。傍目には軽く突いたようにしか見えないが、見事にカウンターで入ったんで割と効いてるな……
 苦悶の声を上げ、思わず膝を付くシロ。そんなシロを見ながら、雪之丞は呟く。
「止めにするか?」
「なんのっ……!まだまだぁ!!」
 立ち上がると、再び雪之丞に仕掛けていく。気合だけは十分だが、動きはさっきより悪くなってる。
 案の定、その後もシロの攻撃が雪之丞に触れることはなく、一方的にやられていく。
 こうい言うとシロが如何にも弱く感じるだろうが、別にそんなことはない。剣の出力こそ、まだ未熟だが人狼の身体能力なら、それを十分にカバー出来る。
 並の悪霊や妖怪なんかに引けは取らないし、低ランクGSなら簡単に圧倒出来るだろう。
 ただ…………シロも動きは、素直で見切りやすい。
 確かに速くて、身のこなしもいい。だけど、全部同じようなタイミングでくる来る上に動きも直線的。一旦動きに慣れちまえば全く脅威に感じないんだ。
 …………もっとも、それは俺達が武神様の神速剣に晒されて、何度も死にかかってるから言えるだけなんだけどな。
    ◇◇◇
 バコッ! 「ぐはっ……」
 やり始めて30分近く経ったか?
 顎に掌底(軽く)を喰らって、地面に膝を付くシロ……もぅ、何度目になるか忘れちまったよ。
 そんなシロを見て雪之丞が呟く。
「ここまでだな」
「まだでござる……!!拙者は、まだ動けるでござる!」
 何回も殴られてダメージも溜まってるだろうに、その瞳の闘志は衰えを見せない………この辺は、流石だと思う。
 勿論、意地もあんだろうが……
「悪い……俺が疲れた。鴉、代わってくれ」
「しゃ〜ねぇな……」
 疲れたんじゃなくて、単に “飽きた” だけだろ。
 シロが激しく動き回ってたのに対して、こいつは最低限の動きで流してただけで汗一つかいてない。ここまでのやり合いで、シロの底を把握した感じだな。
 内心で、そんな悪態をつきながら雪之丞と場所を換える。 
「シロ、少し休むか?」
「い……いいえ、先生!拙者は平気でござる!すぐに始めましょう」
「そうか……」
 一応聞いてみたけど、予想通りの返答が返ってきた。
 女の子1人に野郎が2人交代しながらやるなんて、正直言って気が引ける(そもそも主旨変わってねぇか?)。
 ただ、シロの納まりのつかない気持ちを考えればやるしかないだろう。それに、こいつは先生に内緒にしてまでここまで来たんだ。
 俺は、そう自分を納得させて霊手を顕現させる。
「鈎爪……?先生は、いくつ霊気の形を持ってるのでござる?」
「『剣』『鞭』『爪』………大体この3つだ。剣は、最近殆ど使わないけどな…………」
「使わない……?」
「俺はお前と違って、剣を殆ど使えないんだ。爪をブン回す方が性にあってる」
 実際、剣は “ぶっ刺す” 時しか使わなくなってるからな。
 剣の修行をしたがってるシロには悪いけど、この辺は正直に伝えた方がいいだろう。幻滅されるかもしれないが、一途なこいつに対するせめてもの誠意だ。
「いつでも、いいぞ」
「……はっ!行くでござる!!」
    ◇◇◇
 ………………もう何分やったかな?
 内容は雪之丞と一緒………いや、もっと酷い。
 当たり前だ。シロは始めから動きっぱなしで、俺は雪之丞がやってる間ずっと動きを観察してたんだ。これで、シロにやられる方がアホだ。
 シロは何回殴られても、転ばされても全く動きを止めない…………止めはしないが、始めの躍動感が完全に消え失せて、今は動く的に成り下がってる。
 それでも、瞳に宿る光は消えていない。ただ、一心不乱に食らいついてくる。何がこいつを突き動かすんだか、全く解らない。解らないんだが、この直向きさに俺は|ただただ《・・・・》圧倒されてた。
 そのせいで、止めどこを完全に見失っちまったんだが…………やべぇな、早く止めねぇとシロがどうにかなっちまう。
「おい!もう、止めろ!!日が暮れる」
 そんな時に、救いの声じゃねぇが雪之丞が声を張り上げてくれた。
 確かに時刻は5時を回って辺りは真っ暗になってる。これ以上は本格的に危険だ。俺もそれに乗って声を上げる。
「聞いたろ?もう、終わりにするぞ!」
「うああぁ〜〜っ!!」
「って、おい……!」
 止まりゃしねぇぞ、こいつ……!と言うか聴こえてないのか?
 その目は俺を捉えていても、俺を “認識” 出来なくなってる??
「……ったく、世話がやける!」
 舌打ちしながら、霊波刀の出ている右腕を左手で掴むと同時に右の霊手でシロの顔を掴む!
「キャンッ!?」
「だから、終わりだっ!!」
 掴んだまま、勢いを殺さずそのままシロの頭を地面に………………
 叩き着ける直前で、寸止めをする。
「ふぅ〜……ふぅ〜…………」
「気づいたか……?」
「は……はい、先生…………」
「ムキになり過ぎだ」
 …………ただの手合わせ程度の積りだったのに、ボロボロになりやがって。これ、このまま返したら先生が怒鳴り込んで来るぞ。