とある山の中の広場……。
夕暮れ時、管理人である冬馬滋は少しばかり生温くなった向かい風を浴びながら、ゆっくりと散歩していた。
歩き慣れた広場の地面を踏みしめ、滋はこの場にいない誰かへとぽつりと漏らす。
「もう、9年前になるのか……」
思い返せばつい最近のようにも感じる。
しかし、あの時に比べて少しばかり動かす事が億劫になった身体がその考えを否定する。
「冬馬さん」
「ああ……、檜山さん。お久しぶりです」
「お久しぶりです。毎年言っていますね」
「そうですな。貴方がた夫婦とも、長い付き合いになりました」
考え事をしていて気づかなったらしい。
後ろから声をかけてくれた檜山夫婦へ苦笑混じりにそう挨拶を返しながら滋は振り返った。
穏やかな、それでいて少しばかり寂しさを滲ませた笑みを浮かべた夫婦は軽く会釈すると先程、滋が散歩しようとしていた方へと視線を向ける。
「……もう、9年になるのですね」
「……はい」
「私達は、短い時間であの子に何かしてあげられたのでしょうか」
「………………」
夫婦の言葉に滋は押し黙った。
檜山夫婦からも付き合いを続けていく上で、彼についても聞かされていたし、自分も交流があった。
しかし、それだけ。あくまで部外者でしかない自分が軽々しく言葉を吐くのは、また違う。
あの神隠しから9年……。滋もまた、夫婦が見ている方向……、静かな森へと目を向けた。
夫婦の息子を迎え入れ、閉じてしまった森へと。