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虎・憂鬱

ー/ー




 バンを運転するエミさんは上機嫌ジャった。隣で耳をすませれば、鼻唄でも聴こえてきそうなくらいに…………

 それだけ、今回呪いで屈服させた相手が大物ジャったということジャろう。


「絶好調なワケ♪私も、ヲタクも♪」
「ワ、ワッシもですかい……?」


 いきなり自分に話を振られて、普通に驚いた………しっかし、ワッシは何かしたジャろうか?


「解らないワケ?タイガー、アンタここんところ笛を殆ど吹かなくても理性が飛ばないじゃない、力の制御が上手くなってるワケ♪」
「ど、どうも……」


 なるほど………そういうことか。

 エミさんに褒められて、ワッシも悪い気なんかせん。

 確かにここんところ、エミさんの笛に頼らなくても、長時間の精神感応に耐えられるようになってきた。

 ジャけど、それで1人で平気かと聞かれれば、まだ自信は持てない。

 仕事で役に立てている自覚はついてきたが、ワッシは本当に成長しとるんジャろうか?


 …………いや、間違いなく成長はしとる……それは、さっきエミさんが言ってくれた通りジャ。
 

 なのに、何なんジャ?この気持ちは……


 成長しとる……変化しとる実感はあるのに、何故か取り残されてるような不安感が離れない。


 
 
 ………………違う。

  “何故” なんて言葉を使っとる時点で逃げジャな……本当は何が原因かくらい自分でも解っとる。




 
    ◇◇◇
 
 
「だりぃ……」


 だらし無く教室の机に突っ伏しながら呟く……と言うか、呻いた。


「だらし無いわねぇ、まだ午前中よ……」
「詰まらない時間は、精神を削られるんだよ………」


 隣で俺を見ながら、呆れたように呟く愛子に面倒くさそうに返す俺……実際、面倒くさい。無駄口叩く余力もない…………


「学校に来る度に、「詰まらない」とか「眠い」ばっかり………来る日数が増えてもそれじゃ、『青春』の無駄使いよ」
「『青春』じゃないから、使ってもいない……」


 愛子の考えを特に否定したいわけじゃないんだが、俺は学校生活をそこまで美化出来ない。

 勉強は元々好きじゃないし、部活に入って何かに打ち込んでる訳でもない。一応教師から『除霊委員』なんて意味不明の役割与えられてるが、押し付けられたもんに愛着なんて湧くわけがねぇ。

 そもそも、以前は生活苦で学校にだって余り通えて無かったんだ。今でこそ通えちゃいるが、それでいきなり『青春』を謳歌出来るかなんて言われても正直無理がある。


 ガラッ!


 そんな風に考えてると、教室の引き戸が開き見慣れてる巨漢が入ってきた。

 
 ………………あれ?

 今日はすぐに気づいたぞ。いつもは、いつの間にか席についてる(ステルス登校)のが定番なのに……


「おはようごさいますジャー」
「今はこんにちわね、タイガー君」
「遅かったな……仕事か?」


 真っ先に俺等の所に来て挨拶するステルスに、同じように返す愛子とダレながら返す俺。
 
 ステルスや俺、ピートのように除霊事務所で働いてる人間は、今みたいに『途中登校』『早退』はよくあることなんで、こんなシチュになることは特に珍しくもない。

 ただ、いつ来るにしても “入る瞬間” に気付くことなんて今まで無かった。

 これは、何かの予兆なのか……?


「ええ、今日は朝帰りジャったもんで……」
「大丈夫?午後からでも良かったんじゃない?」
「俺なら休むぞ」


 普通に面倒くせぇし……


「あなたと違って、タイガー君は真面目なのよ」
「俺は、身体を労ってるたけだ……」
「そげなことは……いや、横島さん!」


 …………!?

 なんだ、いつになく真面目顔して。


「ワッシの修行に付き合って下さい!」


 未だ、ダレてる俺に対して、奴は背筋を伸ばして真正面から見据えながら訴えてきた。

 
 本気で言ってるのか……?



  

「横島さん!!」
「どうしたんだ………?」


 黙ってる俺に再度訴えるステルスに引きずられるようにして、姿勢を正す俺。


「そげなこと、言わんと!以前、一緒に手合せしようと言うたジャありませんか!?」
「いやとは言ってない。理由をきいてるんだ」


 そういや、あの時は変な空気になって、有耶無耶になっちまったんだよな……


※『渾名』を参照


「そ、それは……」


 俺の言葉にステルスは、口籠りながらも何かを話そうとしたが、ちょうど教員が入ってきたので、その場は強制的にお開きとなった。





    ◇◇◇


「さっきは、いきなり修行って、どうしたんだよ?」


 ここは、校舎の屋上。そして、今は昼休み。

 いつもならここでピートの弁当(差し入れ)を食うんだが、あいにく奴は仕事で欠席。当然、差し入れもストップ。だから、俺は購買で買ってきた弁当をつつきながら改めてステルスに聞いてみた。

 すると奴も弁当(デカい日の丸)を食いながら、訥々と話し始める。


「ワッシは……雪之丞さん、横島さん、ピートさんと同じように修行を続けてきました。今もしています」
「そうだよな」


 小笠原さんと毎日、精神感応の制御力向上に取り組んでるはずだったな。そして、俺が答えると今度は意を決したように語りだす。


「でも、今のままでは駄目なんジャ!全く皆さんに付いて行けてる感じがしない、寧ろ離されてるんジャないかと不安になるんジャー!」
「…………前から、そう言ってるよな」


 また、それか……気にし過ぎだ。

 誰もお前が、劣ってるなんて思ってねぇだろうに……………ただ、そう言うのは簡単だ。でも、そうやって簡単にあしらうのは何か違う気がした。
 

 正直こいつが、どうしてここまで思い詰めてるのかは解らない。
  
 ただ、真剣な態度に水を差すのは悪いし、何より “強くなりたい” と言う気持ちは俺にも痛いほど解る……


「そこまで言うなら解ったよ、修行しよう。雪之丞も協力してくれるはずだ……ただ、解ってるとは思うけど、俺達にも仕事がある。余り付き合えるかは、解らないぞ」
「い、いいえ!ワッシこそ、いきなり変なこと言い出して許してつかさい……」


 そう言って、奴は俺に頭を下げる。

 真剣だけど、互いに胡座かいて弁当食ってる状態なんで、何かシュールだ……


「ところで……手合せしたいってことは、何か新技でもあるのか?」
「いえ、そういうわけジャー……」


 別にそういうのは無いのか。改まって頼むんだから何かしらあると思ったんだが……

 初めてこの男とやり合った(正確には俺じゃなくて先生となんだが……)時のこいつは凄かった。

 強力な精神感応で周囲の景色と同調。それを利用した、死角からの攻撃は脅威以外何物でもなかった。ただ、それは師匠(小笠原)の補助があっての話だ。

 こいつ単体だと、その戦法は使えない。使ったとしても威力は激減する。 


「あ、あの横島さん……」
「ん?」


 不思議に思う俺の表情に気付いたのか、上目遣いのステルスがおずおずと口を開く。


「頼んどいて何なんですが、自分でもどうしたらいいか正直解らないんジャー……」
「そうか……でも、1人で戦えるようにはなりたいわけだろ?」


 こいつは、サポートに関しては一級品だが、単独除霊になると不安な部分が目立つ。多分、一番周りとコンプレックスを感じてるなら、この辺な筈だと思うごが………

 
「その通りですジャ。ワッシには幻術しか取り柄がないし、それもエミさんがいなければ全力で出せない……なんとか、それなしで戦える手段を身に着けたいんジャー」
「なるほど……だけど、いきなり聞かれてもな…………」
「ですよね……」
 

 こいつは幻術なしだと、普通に霊的格闘するしかねぇだろうな。

 普段、小笠原さんの壁役をしてるから防御力は高い方だろうが、それでも雪之丞の突進を防げるかと言われたら無理がある。実際、GS試験では更に弱い奴( “陰念” と言う、当時雪之丞がいた白龍会の仲間)にいいようにやられちまった。

 なら、防御に頼らず見た目通りパワーを活かした肉弾戦を主に鍛えるしかねぇか?

 
 そんな風に考えながら、弁当をつつく……その後2人共暫く無言になり、少し重い時間が流れた。





  ◇◇◇
 
 
「情けないんジャー……皆さんに追い付きたいなんて言いながら、そのアドバイスを求めるなんて…………」
「………………」


 先に弁当を食い終えた、ステルスが自嘲気味に呟いた。

 
 …………まぁ、確かにな。

 ただ、それだけこいつが思い詰めてると言うことでもあるから、一概に否定はできねぇんだけど。

 そして、返答出来ずに黙ってる俺に構わず奴は更に続ける。


「横島さん………ワッシはいつも “虎” になりたいなんて言ってますが、本当は知ってるんジャー」
「知ってる……?」
 
「本物の虎は獲物を狩る時、正面からやり合わず、いつも物陰に身を潜めて後から一気に襲い掛かる…………まるで “卑怯者” ジャ、ワッシのように……」
「………………」

「覚えてますか?横島さん、儂らが初めてやり合った時……」
「覚えてる……あの時のお前は凄かった」

「見るに耐えなかった、と言うことですね……幻術に隠れて、後ろ(死角)から相手を襲う…………正に “卑怯者” ………………何が虎になりたいジャ……あんなもんになったって、強くなれるわけがない!!すんません、横島さん……やっぱ修行はなしで__」
「下らねぇ……!!」


 
 俺は、ステルスを遮って吐き捨てた。

 自分を見てるようで苛々する…………!!!後ろ向きな人間ってのは、こうも腹立つもんなのか!?
 

 
「………………」
「本物の虎が何だよ?お前がいつも成りたがってたのは臆病な虎なのか?違うだろ……!?」

「勇猛果敢で何も恐れない!そんな虎にお前は成りたかったんじゃないのか?」
「で……でも、本物の虎は__」

「知るか……!お前にとって重要なことって “本物” か “偽物” かじゃなくて、 “強いか” 、 “そうでない” ってことじゃないのか?」
「……………………」


 黙る奴を見て更に押し込む。


「本物の虎が卑怯者だから何だよ?だったら、お前が “理想の虎” に成ればいいじゃねぇか?偽物でも、強けりゃ問題ねぇだろ!」


 戸惑うステルス、数秒の沈黙……そして…………


「ど、どうやって…………」
「知らん…………って、雪之丞なら言う」

「ゆ、雪之丞さん……??」
「………ちなみにさっきまでの言葉も全部あいつなら、そう言いそうだなぁと思って…………」


 まぁ、俺も奴に同意見だけどな……決して何かあったら、奴の “所為” にしようとしてるわけじゃない。


「な……なら、横島さんは、どうすればいいと思うんジャー……?」
「だから解んねぇよ。さっき言ったろ?」
 
「解らんのに、人を下らないって……」
「自棄になってるお前が下らなくなくて、何なんだよ?3人で修行すりゃ、何か思いつくかもしれないだろ?もし、アレならピートにも相談してみればいい」


    “キーン・コーン・カーン・コーン”


 俺が言い切ったところでタイミングよく、休み時間終了の予鈴が鳴り響く。


「やっべ、戻らねぇとな。とにかく、気を落とすなよ……端から諦めちゃ何も出来ねぇぜ」


 立ち上がりながら、そう言って促すと渋々頷くステルス……

 ………………こりゃ、長く掛かりそうだな。





    ◇◇◇





虎・憂鬱 ステルス
(理想の虎…………ワッシの理想とは何ジャ?)

  




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 それだけ、今回呪いで屈服させた相手が大物ジャったということジャろう。
「絶好調なワケ♪私も、ヲタクも♪」
「ワ、ワッシもですかい……?」
 いきなり自分に話を振られて、普通に驚いた………しっかし、ワッシは何かしたジャろうか?
「解らないワケ?タイガー、アンタここんところ笛を殆ど吹かなくても理性が飛ばないじゃない、力の制御が上手くなってるワケ♪」
「ど、どうも……」
 なるほど………そういうことか。
 エミさんに褒められて、ワッシも悪い気なんかせん。
 確かにここんところ、エミさんの笛に頼らなくても、長時間の精神感応に耐えられるようになってきた。
 ジャけど、それで1人で平気かと聞かれれば、まだ自信は持てない。
 仕事で役に立てている自覚はついてきたが、ワッシは本当に成長しとるんジャろうか?
 …………いや、間違いなく成長はしとる……それは、さっきエミさんが言ってくれた通りジャ。
 なのに、何なんジャ?この気持ちは……
 成長しとる……変化しとる実感はあるのに、何故か取り残されてるような不安感が離れない。
 ………………違う。
  “何故” なんて言葉を使っとる時点で逃げジャな……本当は何が原因かくらい自分でも解っとる。
    ◇◇◇
「だりぃ……」
 だらし無く教室の机に突っ伏しながら呟く……と言うか、呻いた。
「だらし無いわねぇ、まだ午前中よ……」
「詰まらない時間は、精神を削られるんだよ………」
 隣で俺を見ながら、呆れたように呟く愛子に面倒くさそうに返す俺……実際、面倒くさい。無駄口叩く余力もない…………
「学校に来る度に、「詰まらない」とか「眠い」ばっかり………来る日数が増えてもそれじゃ、『青春』の無駄使いよ」
「『青春』じゃないから、使ってもいない……」
 愛子の考えを特に否定したいわけじゃないんだが、俺は学校生活をそこまで美化出来ない。
 勉強は元々好きじゃないし、部活に入って何かに打ち込んでる訳でもない。一応教師から『除霊委員』なんて意味不明の役割与えられてるが、押し付けられたもんに愛着なんて湧くわけがねぇ。
 そもそも、以前は生活苦で学校にだって余り通えて無かったんだ。今でこそ通えちゃいるが、それでいきなり『青春』を謳歌出来るかなんて言われても正直無理がある。
 ガラッ!
 そんな風に考えてると、教室の引き戸が開き見慣れてる巨漢が入ってきた。
 ………………あれ?
 今日はすぐに気づいたぞ。いつもは、いつの間にか席についてる(ステルス登校)のが定番なのに……
「おはようごさいますジャー」
「今はこんにちわね、タイガー君」
「遅かったな……仕事か?」
 真っ先に俺等の所に来て挨拶するステルスに、同じように返す愛子とダレながら返す俺。
 ステルスや俺、ピートのように除霊事務所で働いてる人間は、今みたいに『途中登校』『早退』はよくあることなんで、こんなシチュになることは特に珍しくもない。
 ただ、いつ来るにしても “入る瞬間” に気付くことなんて今まで無かった。
 これは、何かの予兆なのか……?
「ええ、今日は朝帰りジャったもんで……」
「大丈夫?午後からでも良かったんじゃない?」
「俺なら休むぞ」
 普通に面倒くせぇし……
「あなたと違って、タイガー君は真面目なのよ」
「俺は、身体を労ってるたけだ……」
「そげなことは……いや、横島さん!」
 …………!?
 なんだ、いつになく真面目顔して。
「ワッシの修行に付き合って下さい!」
 未だ、ダレてる俺に対して、奴は背筋を伸ばして真正面から見据えながら訴えてきた。
 本気で言ってるのか……?
「横島さん!!」
「どうしたんだ………?」
 黙ってる俺に再度訴えるステルスに引きずられるようにして、姿勢を正す俺。
「そげなこと、言わんと!以前、一緒に手合せしようと言うたジャありませんか!?」
「いやとは言ってない。理由をきいてるんだ」
 そういや、あの時は変な空気になって、有耶無耶になっちまったんだよな……
※『渾名』を参照
「そ、それは……」
 俺の言葉にステルスは、口籠りながらも何かを話そうとしたが、ちょうど教員が入ってきたので、その場は強制的にお開きとなった。
    ◇◇◇
「さっきは、いきなり修行って、どうしたんだよ?」
 ここは、校舎の屋上。そして、今は昼休み。
 いつもならここでピートの弁当(差し入れ)を食うんだが、あいにく奴は仕事で欠席。当然、差し入れもストップ。だから、俺は購買で買ってきた弁当をつつきながら改めてステルスに聞いてみた。
 すると奴も弁当(デカい日の丸)を食いながら、訥々と話し始める。
「ワッシは……雪之丞さん、横島さん、ピートさんと同じように修行を続けてきました。今もしています」
「そうだよな」
 小笠原さんと毎日、精神感応の制御力向上に取り組んでるはずだったな。そして、俺が答えると今度は意を決したように語りだす。
「でも、今のままでは駄目なんジャ!全く皆さんに付いて行けてる感じがしない、寧ろ離されてるんジャないかと不安になるんジャー!」
「…………前から、そう言ってるよな」
 また、それか……気にし過ぎだ。
 誰もお前が、劣ってるなんて思ってねぇだろうに……………ただ、そう言うのは簡単だ。でも、そうやって簡単にあしらうのは何か違う気がした。
 正直こいつが、どうしてここまで思い詰めてるのかは解らない。
 ただ、真剣な態度に水を差すのは悪いし、何より “強くなりたい” と言う気持ちは俺にも痛いほど解る……
「そこまで言うなら解ったよ、修行しよう。雪之丞も協力してくれるはずだ……ただ、解ってるとは思うけど、俺達にも仕事がある。余り付き合えるかは、解らないぞ」
「い、いいえ!ワッシこそ、いきなり変なこと言い出して許してつかさい……」
 そう言って、奴は俺に頭を下げる。
 真剣だけど、互いに胡座かいて弁当食ってる状態なんで、何かシュールだ……
「ところで……手合せしたいってことは、何か新技でもあるのか?」
「いえ、そういうわけジャー……」
 別にそういうのは無いのか。改まって頼むんだから何かしらあると思ったんだが……
 初めてこの男とやり合った(正確には俺じゃなくて先生となんだが……)時のこいつは凄かった。
 強力な精神感応で周囲の景色と同調。それを利用した、死角からの攻撃は脅威以外何物でもなかった。ただ、それは|師匠《小笠原》の補助があっての話だ。
 こいつ単体だと、その戦法は使えない。使ったとしても威力は激減する。 
「あ、あの横島さん……」
「ん?」
 不思議に思う俺の表情に気付いたのか、上目遣いのステルスがおずおずと口を開く。
「頼んどいて何なんですが、自分でもどうしたらいいか正直解らないんジャー……」
「そうか……でも、1人で戦えるようにはなりたいわけだろ?」
 こいつは、サポートに関しては一級品だが、単独除霊になると不安な部分が目立つ。多分、一番周りとコンプレックスを感じてるなら、この辺な筈だと思うごが………
「その通りですジャ。ワッシには幻術しか取り柄がないし、それもエミさんがいなければ全力で出せない……なんとか、それなしで戦える手段を身に着けたいんジャー」
「なるほど……だけど、いきなり聞かれてもな…………」
「ですよね……」
 こいつは幻術なしだと、普通に霊的格闘するしかねぇだろうな。
 普段、小笠原さんの壁役をしてるから防御力は高い方だろうが、それでも雪之丞の突進を防げるかと言われたら無理がある。実際、GS試験では更に弱い奴( “陰念” と言う、当時雪之丞がいた白龍会の仲間)にいいようにやられちまった。
 なら、防御に頼らず見た目通りパワーを活かした肉弾戦を主に鍛えるしかねぇか?
 そんな風に考えながら、弁当をつつく……その後2人共暫く無言になり、少し重い時間が流れた。
  ◇◇◇
「情けないんジャー……皆さんに追い付きたいなんて言いながら、そのアドバイスを求めるなんて…………」
「………………」
 先に弁当を食い終えた、ステルスが自嘲気味に呟いた。
 …………まぁ、確かにな。
 ただ、それだけこいつが思い詰めてると言うことでもあるから、一概に否定はできねぇんだけど。
 そして、返答出来ずに黙ってる俺に構わず奴は更に続ける。
「横島さん………ワッシはいつも “虎” になりたいなんて言ってますが、本当は知ってるんジャー」
「知ってる……?」
「本物の虎は獲物を狩る時、正面からやり合わず、いつも物陰に身を潜めて後から一気に襲い掛かる…………まるで “卑怯者” ジャ、ワッシのように……」
「………………」
「覚えてますか?横島さん、儂らが初めてやり合った時……」
「覚えてる……あの時のお前は凄かった」
「見るに耐えなかった、と言うことですね……幻術に隠れて、後ろ(死角)から相手を襲う…………正に “卑怯者” ………………何が虎になりたいジャ……あんなもんになったって、強くなれるわけがない!!すんません、横島さん……やっぱ修行はなしで__」
「下らねぇ……!!」
 俺は、ステルスを遮って吐き捨てた。
 自分を見てるようで苛々する…………!!!後ろ向きな人間ってのは、こうも腹立つもんなのか!?
「………………」
「本物の虎が何だよ?お前がいつも成りたがってたのは臆病な虎なのか?違うだろ……!?」
「勇猛果敢で何も恐れない!そんな虎にお前は成りたかったんじゃないのか?」
「で……でも、本物の虎は__」
「知るか……!お前にとって重要なことって “本物” か “偽物” かじゃなくて、 “強いか” 、 “そうでない” ってことじゃないのか?」
「……………………」
 黙る奴を見て更に押し込む。
「本物の虎が卑怯者だから何だよ?だったら、お前が “理想の虎” に成ればいいじゃねぇか?偽物でも、強けりゃ問題ねぇだろ!」
 戸惑うステルス、数秒の沈黙……そして…………
「ど、どうやって…………」
「知らん…………って、雪之丞なら言う」
「ゆ、雪之丞さん……??」
「………ちなみにさっきまでの言葉も全部あいつなら、そう言いそうだなぁと思って…………」
 まぁ、俺も奴に同意見だけどな……決して何かあったら、奴の “所為” にしようとしてるわけじゃない。
「な……なら、横島さんは、どうすればいいと思うんジャー……?」
「だから解んねぇよ。さっき言ったろ?」
「解らんのに、人を下らないって……」
「自棄になってるお前が下らなくなくて、何なんだよ?3人で修行すりゃ、何か思いつくかもしれないだろ?もし、アレならピートにも相談してみればいい」
    “キーン・コーン・カーン・コーン”
 俺が言い切ったところでタイミングよく、休み時間終了の予鈴が鳴り響く。
「やっべ、戻らねぇとな。とにかく、気を落とすなよ……端から諦めちゃ何も出来ねぇぜ」
 立ち上がりながら、そう言って促すと渋々頷くステルス……
 ………………こりゃ、長く掛かりそうだな。
    ◇◇◇
(理想の虎…………ワッシの理想とは何ジャ?)