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第166話 勇者の理想が世界を救うと信じて

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「貴様らがロータスのやることが気に食わず今回の計画を立てたのはよく分かった。ということは、先日の王子襲撃もそうなのか?」
『将を射んと欲すればまず馬を射よ。某の祖国にはこういった言葉もある。レッドアイズの王子の命が危ぶまれれば、勇者の失脚にも繋がり、警戒も王子へ向く。成功しようがしまいが、然り、どちらでも良かった』

 ロータスの不在中、狙ったかのようなタイミングだった。
 加えて、明確に王子を標的とした点も全て計画のうちだったということか。

 ただロータスの命を奪うだけじゃない。それまで積み上げてきたものごと全て破壊する、悪意に満ちた悍ましい計画だ。
 そして、その計画は見事に遂行されてしまった。

 パエデロス中の民衆、果てや世界の要人たちが見守る最中に、ロータスはその命を絶たれた。平和という理想を掲げた男が倒れることは何を意味するのか。
 それを分からぬものがいるはずもない。

 正義の歯車は欠けた。そのまま回れば回るほど、それまでの勢いが強ければ強いほど、崩壊も早く、その反響は大きくなる。

「最低……、最低よ、アンタたち。絶対に許さない」
『許さなかったらどうなるの? ねえ、ダリねえさん? ろ~ちゃんはどうなった? そろそろ死んじゃってるよね? ま、仮に生きてたとしてもどぉ~せ虫の息だし~、そんな状態でうちらに何かできちゃったりするわけ~?』

 このカルミアという女、何処までもこちらの神経を逆なでしてくる。

 だが、確かにロータスがいないこの状況で、魔王リコリスを含む、元勇者の仲間たちを相手のするのは不利だ。

 さらに、向こうはネルムフィラ魔導士学院を占拠してしまっているのだ。あの場所は、ただの学校と呼ぶには規模が大きすぎる。

 そこら辺にある貴族の屋敷とは比べものにならない広さがあるだけでなく、まさに城のような強固な守りがある。貴族や王族の安全を約束するためのものでもあり、レッドアイズ国の技術を外部に漏らさないための、いわば要塞のようなもの。

 レッドアイズ国の支援があってこそ守りだった。
 だが、そのレッドアイズ国の中に裏切り者がいたのなら話は別だ。
 それはそっくりそのままひっくり返って、難攻不落の要塞と化すと同義。

「リコリス。そこにいるんだろう? こんなことが、お前の望んだことなのか?」

 通信で会話することに飽きてきているのか、リコリスの映像が小さく見えた。
 多分だが、この水晶から少し離れた位置に移動したのだろう。

『ん……、さっちゃん。聞きたいことがあるなら、こっちに来てよ。このオモチャ、とっても煩わしい。私、待ってるから』

 徐々にリコリスの影が大きくなっていったかと思えば、恐ろしく気怠そうな、無気力な声とともに大きな手が出現し、パキンという音を立てて、水晶が動きを止めた。
 どうやら、向こうの映像を流している方が握りつぶされたらしい。

 そこまで機嫌を損ねるようなことだったのだろうか。
 それともただなんとなく気まぐれに不機嫌になっただけか。

 何にしても、かなり一方的に不愉快な話を聞かされた挙げ句、一方的に中断されるのもなかなか気分が悪い。

「さて、どうする? どうやら向こうは我を待っているようだが」
「止める気はないし、私だって言いたいことは山ほどあるわ」
「私も、あんな言い方されちゃったら行かないわけにはいきません。といいますか、あの学校には私の私物もいっぱい置きっ放しにしちゃってますし……」
「極めて無謀と言いたいところだが……不確定な情報も多い。この目で確かめて見なければ分からないことも多いだろう」

 ほぼ全員、行く気まんまんの様子だ。

「わ、私はこの場に残ります……、ロータスさんをちゃんと弔いたいので……」
「分かったわ、マルペル。後のことは、よろしくね」

 ダリアは今にも泣き崩れそうな目で、教会の床の上に横たわるロータスに視線を移す。次第にその瞳は悲痛のものから決意のものへと変わっていった。

「まだ、外は状況を把握しきれていない。今のうちに全てに決着をつけよう」

 新生魔王軍の進撃を開始させる前に、終わらせるのだ。

 ※ ※ ※

 教会には暴動の鎮圧のために最低限の人員を残し、我とダリア、カーネとマーガの四人で、新生魔王軍に制圧されたネルムフィラ魔導士学院へと向かうことになった。

 外は酷く荒れた状態で、ロータスの安否を知りたくて教会に押し入ろうとするものや、泣き崩れてその場から動けなくなっているもの、何が起こっているのかを理解できず逃げ惑っているものでグチャグチャな有様だ。

 学院までの道のりは大した距離ではなかったが、状況が状況だけに人混みの流れが激しく、思っていた以上に時間を食ってしまった。
 そうしてようやく、校門の前に辿り着くと、そこに一人の女性が倒れているのが目に付いた。

「お前さんら……、ちぃと遅かったんじゃないかい?」
「プディカ!?」

 酷く傷だらけで、顔中ボコボコに青あざをつくっていたその女は、アレフヘイムの元族長エルフのプディカだった。混乱の中で何処に消えたのかと思えば、まさか学院の門番にあたっていたとは。

 考え得る限りの最強の門番のように思えるが、この有様を見る限りでは、どうやらその役目を果たせなかった様子だ。

「痛つつ……、あの兵士の小僧から、ちゃんと話は聞けたかい?」
「ああ、水晶を持ってきたアイツか。うむ、状況は大体理解できているつもりだ」
「ひぇぇ……プディカさん、酷い怪我……。い、今、治しますからね!」

 横からマーガが割り込み、プディカの治療にあたる。
 目立つような傷は一先ずなくなったが、疲労までは回復しきれてはいないようだ。
 ともあれ、こちらの状況も伝える。

「――そうかい。あの優男は逝っちまったのか。……チッ。このワタシを引き込んでおいてなんていうザマだい」

 感傷に浸っている余裕すらなく、ふと見れば校門の向こうからこちらに向かっている影があった。あれは勇者の元仲間のナルシスか。

「弱者は強者に感謝するべきなのさ。生殺与奪の権を握ってるも同然なのだからね。門前のゴミ掃除に来てみれば、なんだ。バカ正直に来るなんてとんだ笑いぐさだ」

 コイツらは人の神経を逆なでしないと生きていけないのか?
 そろそろ堪えていた我もガマンの限界だ。
 もう堪忍袋の緒がブチ切れた。いい加減、冷静ぶるのもここまでだ!

「チクショオオオ! くらえナルシス! 新魔法想い担う者(レジデント)!」
「さあ来い元魔王オオ!」
 我なんて一回攻撃受けただけで死ぬぞオオ!

 それでも負けるわけにはいかない。すべてを終わらせてやるとき……!
 魔法球を力の限り、ナルシスに目掛けて放つ。油断か慢心か、直撃した。

「グアアアア! この世界一の技術力を誇るナルシスが……こんな小娘に……バ…バカなアアアアアア」

 ナルシスは魔法球に悲鳴とともにぶっ飛ばされていく。
 だが、まだこれで終わったわけではない。
 門の向こうには既に残りの三人が傍観していた。

「あれれ? な~ちゃんがやられたみたいだよ?」
「フン、所詮奴は最弱故」
「力を失った小娘ごときに負けるとは魔王軍の面汚しである」

 何達観して傍観者ぶってんだコイツら。

「くらええええ!」

 すかさず追撃の魔法球を放つ。

「「「グアアアアアアア」」」

 油断しきっていたのか、全員まとめてぶっ飛ぶ。

「ハア……ハア……、やった……、とりあえず勇者の元仲間を倒したぞ」
『よく来たわね、さっちゃん。ちょっぴり待っていたわ』
「!!」

 もう既にここに来ていたのか。
 感じる……リコリスの魔力を……。


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『将を射んと欲すればまず馬を射よ。某の祖国にはこういった言葉もある。レッドアイズの王子の命が危ぶまれれば、勇者の失脚にも繋がり、警戒も王子へ向く。成功しようがしまいが、然り、どちらでも良かった』
 ロータスの不在中、狙ったかのようなタイミングだった。
 加えて、明確に王子を標的とした点も全て計画のうちだったということか。
 ただロータスの命を奪うだけじゃない。それまで積み上げてきたものごと全て破壊する、悪意に満ちた悍ましい計画だ。
 そして、その計画は見事に遂行されてしまった。
 パエデロス中の民衆、果てや世界の要人たちが見守る最中に、ロータスはその命を絶たれた。平和という理想を掲げた男が倒れることは何を意味するのか。
 それを分からぬものがいるはずもない。
 正義の歯車は欠けた。そのまま回れば回るほど、それまでの勢いが強ければ強いほど、崩壊も早く、その反響は大きくなる。
「最低……、最低よ、アンタたち。絶対に許さない」
『許さなかったらどうなるの? ねえ、ダリねえさん? ろ~ちゃんはどうなった? そろそろ死んじゃってるよね? ま、仮に生きてたとしてもどぉ~せ虫の息だし~、そんな状態でうちらに何かできちゃったりするわけ~?』
 このカルミアという女、何処までもこちらの神経を逆なでしてくる。
 だが、確かにロータスがいないこの状況で、魔王リコリスを含む、元勇者の仲間たちを相手のするのは不利だ。
 さらに、向こうはネルムフィラ魔導士学院を占拠してしまっているのだ。あの場所は、ただの学校と呼ぶには規模が大きすぎる。
 そこら辺にある貴族の屋敷とは比べものにならない広さがあるだけでなく、まさに城のような強固な守りがある。貴族や王族の安全を約束するためのものでもあり、レッドアイズ国の技術を外部に漏らさないための、いわば要塞のようなもの。
 レッドアイズ国の支援があってこそ守りだった。
 だが、そのレッドアイズ国の中に裏切り者がいたのなら話は別だ。
 それはそっくりそのままひっくり返って、難攻不落の要塞と化すと同義。
「リコリス。そこにいるんだろう? こんなことが、お前の望んだことなのか?」
 通信で会話することに飽きてきているのか、リコリスの映像が小さく見えた。
 多分だが、この水晶から少し離れた位置に移動したのだろう。
『ん……、さっちゃん。聞きたいことがあるなら、こっちに来てよ。このオモチャ、とっても煩わしい。私、待ってるから』
 徐々にリコリスの影が大きくなっていったかと思えば、恐ろしく気怠そうな、無気力な声とともに大きな手が出現し、パキンという音を立てて、水晶が動きを止めた。
 どうやら、向こうの映像を流している方が握りつぶされたらしい。
 そこまで機嫌を損ねるようなことだったのだろうか。
 それともただなんとなく気まぐれに不機嫌になっただけか。
 何にしても、かなり一方的に不愉快な話を聞かされた挙げ句、一方的に中断されるのもなかなか気分が悪い。
「さて、どうする? どうやら向こうは我を待っているようだが」
「止める気はないし、私だって言いたいことは山ほどあるわ」
「私も、あんな言い方されちゃったら行かないわけにはいきません。といいますか、あの学校には私の私物もいっぱい置きっ放しにしちゃってますし……」
「極めて無謀と言いたいところだが……不確定な情報も多い。この目で確かめて見なければ分からないことも多いだろう」
 ほぼ全員、行く気まんまんの様子だ。
「わ、私はこの場に残ります……、ロータスさんをちゃんと弔いたいので……」
「分かったわ、マルペル。後のことは、よろしくね」
 ダリアは今にも泣き崩れそうな目で、教会の床の上に横たわるロータスに視線を移す。次第にその瞳は悲痛のものから決意のものへと変わっていった。
「まだ、外は状況を把握しきれていない。今のうちに全てに決着をつけよう」
 新生魔王軍の進撃を開始させる前に、終わらせるのだ。
 ※ ※ ※
 教会には暴動の鎮圧のために最低限の人員を残し、我とダリア、カーネとマーガの四人で、新生魔王軍に制圧されたネルムフィラ魔導士学院へと向かうことになった。
 外は酷く荒れた状態で、ロータスの安否を知りたくて教会に押し入ろうとするものや、泣き崩れてその場から動けなくなっているもの、何が起こっているのかを理解できず逃げ惑っているものでグチャグチャな有様だ。
 学院までの道のりは大した距離ではなかったが、状況が状況だけに人混みの流れが激しく、思っていた以上に時間を食ってしまった。
 そうしてようやく、校門の前に辿り着くと、そこに一人の女性が倒れているのが目に付いた。
「お前さんら……、ちぃと遅かったんじゃないかい?」
「プディカ!?」
 酷く傷だらけで、顔中ボコボコに青あざをつくっていたその女は、アレフヘイムの元族長エルフのプディカだった。混乱の中で何処に消えたのかと思えば、まさか学院の門番にあたっていたとは。
 考え得る限りの最強の門番のように思えるが、この有様を見る限りでは、どうやらその役目を果たせなかった様子だ。
「痛つつ……、あの兵士の小僧から、ちゃんと話は聞けたかい?」
「ああ、水晶を持ってきたアイツか。うむ、状況は大体理解できているつもりだ」
「ひぇぇ……プディカさん、酷い怪我……。い、今、治しますからね!」
 横からマーガが割り込み、プディカの治療にあたる。
 目立つような傷は一先ずなくなったが、疲労までは回復しきれてはいないようだ。
 ともあれ、こちらの状況も伝える。
「――そうかい。あの優男は逝っちまったのか。……チッ。このワタシを引き込んでおいてなんていうザマだい」
 感傷に浸っている余裕すらなく、ふと見れば校門の向こうからこちらに向かっている影があった。あれは勇者の元仲間のナルシスか。
「弱者は強者に感謝するべきなのさ。生殺与奪の権を握ってるも同然なのだからね。門前のゴミ掃除に来てみれば、なんだ。バカ正直に来るなんてとんだ笑いぐさだ」
 コイツらは人の神経を逆なでしないと生きていけないのか?
 そろそろ堪えていた我もガマンの限界だ。
 もう堪忍袋の緒がブチ切れた。いい加減、冷静ぶるのもここまでだ!
「チクショオオオ! くらえナルシス! 新魔法|想い担う者《レジデント》!」
「さあ来い元魔王オオ!」
 我なんて一回攻撃受けただけで死ぬぞオオ!
 それでも負けるわけにはいかない。すべてを終わらせてやるとき……!
 魔法球を力の限り、ナルシスに目掛けて放つ。油断か慢心か、直撃した。
「グアアアア! この世界一の技術力を誇るナルシスが……こんな小娘に……バ…バカなアアアアアア」
 ナルシスは魔法球に悲鳴とともにぶっ飛ばされていく。
 だが、まだこれで終わったわけではない。
 門の向こうには既に残りの三人が傍観していた。
「あれれ? な~ちゃんがやられたみたいだよ?」
「フン、所詮奴は最弱故」
「力を失った小娘ごときに負けるとは魔王軍の面汚しである」
 何達観して傍観者ぶってんだコイツら。
「くらええええ!」
 すかさず追撃の魔法球を放つ。
「「「グアアアアアアア」」」
 油断しきっていたのか、全員まとめてぶっ飛ぶ。
「ハア……ハア……、やった……、とりあえず勇者の元仲間を倒したぞ」
『よく来たわね、さっちゃん。ちょっぴり待っていたわ』
「!!」
 もう既にここに来ていたのか。
 感じる……リコリスの魔力を……。