第155話 霧を切り開いてきりきり舞い
ー/ー
「ミモザ、魔力の蓄積石はまだ残ってるか?」
「ええと、一応まだダンジョン探索する予定らったからいくつか……」
「お嬢様、外に出るおつもりですか? なら、ワタクシめも」
「正直いてくれると心強いが、ダメだ。魔法の使えないお前を連れていけない」
馬車の外の空間が歪んでいるとしたら、大人数での移動は危険すぎる。さすがに今の我では他人の分までカバーできるほど器用ではないからな。
ミモザも連れていきたいが、ミモザも空間魔法への対抗魔法を習得できていないのを知っているから同じ理由で却下だ。
「案ずるな。どうやら相手は標的以外に危害を加える気はないらしい。オキザリスは念のために全力でミモザの護衛を頼む」
「フィーしゃん!?」
ミモザに引き留められるよりも早く、我は馬車の外へと飛び出す。
そして、魔石を握りしめて意識を集中させる。
空間魔法への干渉は結構面倒臭い。昨日みたいにがっつり魔力を放出させないよう、最小限の消費に留めなければ。
言うなれば、ブルブルと震える手で針の穴に糸を通すようなものだ。
「次元と対立する強き風」
そう唱えると、霧を切り裂くように目の前が晴れる。そう長く持たない。前進すると直ぐさま後ろが再び厚い霧に阻まれ、遮断。ついさっきまでそこにあったはずの馬車の気配も消え去っていく。
この霧の中に飲まれたらどうなるか分かったものではない。
目の前が見えているうちに急いで襲撃者を探さねば。
まだそう遠く離れてはいないはず。
そう思った矢先のことだ。
霧の中に何者かの気配を感じる。やはり単独ではないな。
かなりの数が、一斉に動き回っている。
それは上手く干渉できていたことを意味していた。
今の状況を簡単に説明するとだ。空間魔法で隔離された、馬車の周囲の空間から抜け出し、空間と空間の隙間を移動していることになる。
おそらく馬車の数だけ空間を隔離されていて、我と同じように空間の隙間を移動しながら標的が何処の空間にいるのか一つ一つ探っているに違いない。
お互いに隔離空間の外側にいるから相手の気配を感じ取ることができるようになったというわけだ。ということは、向こうも我の気配に気付いているはず。
未だに白い霧は視界を遮っているので姿までは確認できない。向こうもそうであってほしいが、空間を移動しているような奴らが視認できていないとは思えない。
霧の中を突っ走っていると、唐突に目の前に馬車が現われる。
これは我の乗っていた馬車ではないな。どうやら違う空間にぶち当たったようだ。
中の様子をチラリと探ってみるが、特に何かが起こってる様子はない。
それに、おそらく標的と思われるアイツもいない。なら別の馬車だな。
「次元と対立する強き風」
もう一度、その魔法で霧を切り開く。
あと他に馬車は何台あったっけ。考えるだけでも気が遠くなりそうだ。
全部をしらみつぶしに確認してまわれるほど、我にも余裕はない。
ただでさえ空間と空間の隙間から外れないように気を張ってるのだから。
「ここはやはり、向こうの気配を探っていくしかないな」
霧の中を動き回っている連中が集まっている方角を目指して移動する。
口でいうのは簡単だが、空間の隙間にいると上下左右もデタラメな状態だから面倒臭いことがもう一つ増えてしまう。
空間を切り裂きながら走り続けて、空間の隙間を移動している者の位置を捕捉する。ミモザとオキザリスがいたら案外、容易にできたような気がしないでもない。
だが今更、元の馬車を探しには戻れない。
こうするしかないから仕方ないが、結構しんどいぞ、マジで……。
大丈夫かな……、我の身体持つかな……?
そんな不安を抱きつつ、周囲の気配を探る。もう既にキツい。鼻血出そう。
どっちだ。どっちに向かって移動しているんだ?
我の主観だと、羽虫が飛び回っているような不快感。
だが、次第に明瞭に位置が把握できてくる。集団で同じ方向に動いているぞ。
「向こうだな! ……うぷ」
気持ち悪くて目が回りそうだ。体力が持つうちに追いつかなくては。
空間の隙間とはややこしいもので、距離感やら何やらが全てまともじゃない状態となっている。今、我は自前の足で走っているつもりだが、相手からしたら亀より鈍足だったり、馬より俊足だったりと安定感のない速度だ。
無論、そんな状態で追いかけるほど我も阿呆ではない。
「――次元壁を超え往く者」
もう一つ、魔法を重ね掛けする。空間の通路を最速で突き抜ける、まさに空間転移魔法の最上位――なのだが、身体がめちゃくちゃミシミシいい始めた。
例えるならなんだろうか。背中から巨大な大砲を撃ち込まれるような、そんな強烈な衝撃が突き抜け、我の身体が進行方向へと無理やり押し出されていく。
痛みは昨日より酷いが、暴発はしていない。これでも反動はまだマシな部類か。
泥でできた壁の中に押し込まれるような感触を覚えた直後、我の目の前に馬車が出現する。どうやら間に合ったのだろう。空間を移動している何者かよりも早く、目的の場所に到達できたらしい。……は、吐きそう。なんか普通に酔った。
これで目的の場所じゃなかったら失笑ものだが、とりあえず馬車の中を覗き込む。
――いた。アイツが乗っている馬車だ。
「誰だ、さっきからうろちょろしている奴は」
ハッと気付いたときにはその気配が直ぐ後ろにあった。
ようやくご対面か。
「それは我のセリフだ。やたらとちょっかいかけよって。我の通う学校に何の用だ」
次から次へと気配が増えてくる。単独犯ではないことは確定していたが、こんなにもぞろぞろと馬車の回りに集まってくるとさすがに焦るな。
ただでさえ空間移動の影響で気分が悪いというのに。
「なんだ、生徒か。亜空間に干渉してくるから何処の大魔導師かと思えば」
まだ白い霧に覆われていて輪郭しか見えない。それでも数は一人や二人じゃないことだけは確か。人間でもなさそうだ。
「不服なら詫びてやってもいいが、これ以上、面白くないことをするつもりなら覚悟するといい」
「潜在魔力も無い雑魚がいきがるなよ」
一発で見抜かれているということは、相当の手練れか。やはり生半可な覚悟で襲撃しているはずもないよな。ガチで軍事国家にケンカをふっかけにきてる。
退けることは難しくとも、時間稼ぎくらいはしてやらんとな。
馬車の周りを取り巻く分厚い霧の壁の向こうから、一斉に近付いてくる気配。囲まれているが、どのくらい対処できるか。
「ターゲット以外殺す予定はなかったが、邪魔をするのなら予定変更もやむなしだ」
まずい。我、ここで死ぬかも。
まだ相手の正体も分かっていないというのに。
「フィーさん!? どうしてそこに!?」
意表を突いて、その声が後方から聞こえてくる。
「バカ、顔を出すな!」
「王子! 隠れて下さい! 囲まれています!」
馬車の中でドタドタと音がする。慌ただしいことだ。
ああ、そうだ。この馬車には、軍事国家であるレッドアイズ国の王子、コリウス・レッドアイズが乗っている。
「馬鹿なガキだ。王子という身分じゃなければ命を狙われることもなかったろうに」
「やはり、狙いはコリウス王子だったか……」
護衛も何人か乗っているようだが、この数を相手に持ちこたえるのは大変だぞ。
守りながら戦うなんてできないからな。
しかも一部の護衛は昨日の襲撃で深手も負っている。
向こうからしたら意図して作り出した好機以外の何者でもない。
計画が今まさに最大の打点を出せる状況下にあるといっていい。
さて、どうしたものか。
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「お嬢様、外に出るおつもりですか? なら、ワタクシめも」
「正直いてくれると心強いが、ダメだ。魔法の使えないお前を連れていけない」
馬車の外の空間が歪んでいるとしたら、大人数での移動は危険すぎる。さすがに今の我では他人の分までカバーできるほど器用ではないからな。
ミモザも連れていきたいが、ミモザも空間魔法への対抗魔法を習得できていないのを知っているから同じ理由で却下だ。
「案ずるな。どうやら相手は標的以外に危害を加える気はないらしい。オキザリスは念のために全力でミモザの護衛を頼む」
「フィーしゃん!?」
ミモザに引き留められるよりも早く、我は馬車の外へと飛び出す。
そして、魔石を握りしめて意識を集中させる。
空間魔法への干渉は結構面倒臭い。昨日みたいにがっつり魔力を放出させないよう、最小限の消費に留めなければ。
言うなれば、ブルブルと震える手で針の穴に糸を通すようなものだ。
「|次元と対立する強き風《ディメンションゲイル》」
そう唱えると、霧を切り裂くように目の前が晴れる。そう長く持たない。前進すると直ぐさま後ろが再び厚い霧に阻まれ、遮断。ついさっきまでそこにあったはずの馬車の気配も消え去っていく。
この霧の中に飲まれたらどうなるか分かったものではない。
目の前が見えているうちに急いで襲撃者を探さねば。
まだそう遠く離れてはいないはず。
そう思った矢先のことだ。
霧の中に何者かの気配を感じる。やはり単独ではないな。
かなりの数が、一斉に動き回っている。
それは上手く干渉できていたことを意味していた。
今の状況を簡単に説明するとだ。空間魔法で隔離された、馬車の周囲の空間から抜け出し、空間と空間の隙間を移動していることになる。
おそらく馬車の数だけ空間を隔離されていて、我と同じように空間の隙間を移動しながら標的が何処の空間にいるのか一つ一つ探っているに違いない。
お互いに隔離空間の外側にいるから相手の気配を感じ取ることができるようになったというわけだ。ということは、向こうも我の気配に気付いているはず。
未だに白い霧は視界を遮っているので姿までは確認できない。向こうもそうであってほしいが、空間を移動しているような奴らが視認できていないとは思えない。
霧の中を突っ走っていると、唐突に目の前に馬車が現われる。
これは我の乗っていた馬車ではないな。どうやら違う空間にぶち当たったようだ。
中の様子をチラリと探ってみるが、特に何かが起こってる様子はない。
それに、おそらく標的と思われるアイツもいない。なら別の馬車だな。
「|次元と対立する強き風《ディメンションゲイル》」
もう一度、その魔法で霧を切り開く。
あと他に馬車は何台あったっけ。考えるだけでも気が遠くなりそうだ。
全部をしらみつぶしに確認してまわれるほど、我にも余裕はない。
ただでさえ空間と空間の隙間から外れないように気を張ってるのだから。
「ここはやはり、向こうの気配を探っていくしかないな」
霧の中を動き回っている連中が集まっている方角を目指して移動する。
口でいうのは簡単だが、空間の隙間にいると上下左右もデタラメな状態だから面倒臭いことがもう一つ増えてしまう。
空間を切り裂きながら走り続けて、空間の隙間を移動している者の位置を捕捉する。ミモザとオキザリスがいたら案外、容易にできたような気がしないでもない。
だが今更、元の馬車を探しには戻れない。
こうするしかないから仕方ないが、結構しんどいぞ、マジで……。
大丈夫かな……、我の身体持つかな……?
そんな不安を抱きつつ、周囲の気配を探る。もう既にキツい。鼻血出そう。
どっちだ。どっちに向かって移動しているんだ?
我の主観だと、羽虫が飛び回っているような不快感。
だが、次第に明瞭に位置が把握できてくる。集団で同じ方向に動いているぞ。
「向こうだな! ……うぷ」
気持ち悪くて目が回りそうだ。体力が持つうちに追いつかなくては。
空間の隙間とはややこしいもので、距離感やら何やらが全てまともじゃない状態となっている。今、我は自前の足で走っているつもりだが、相手からしたら亀より鈍足だったり、馬より俊足だったりと安定感のない速度だ。
無論、そんな状態で追いかけるほど我も阿呆ではない。
「――|次元壁を超え往く者《アリアディメンシバ》」
もう一つ、魔法を重ね掛けする。空間の通路を最速で突き抜ける、まさに空間転移魔法の最上位――なのだが、身体がめちゃくちゃミシミシいい始めた。
例えるならなんだろうか。背中から巨大な大砲を撃ち込まれるような、そんな強烈な衝撃が突き抜け、我の身体が進行方向へと無理やり押し出されていく。
痛みは昨日より酷いが、暴発はしていない。これでも反動はまだマシな部類か。
泥でできた壁の中に押し込まれるような感触を覚えた直後、我の目の前に馬車が出現する。どうやら間に合ったのだろう。空間を移動している何者かよりも早く、目的の場所に到達できたらしい。……は、吐きそう。なんか普通に酔った。
これで目的の場所じゃなかったら失笑ものだが、とりあえず馬車の中を覗き込む。
――いた。アイツが乗っている馬車だ。
「誰だ、さっきからうろちょろしている奴は」
ハッと気付いたときにはその気配が直ぐ後ろにあった。
ようやくご対面か。
「それは我のセリフだ。やたらとちょっかいかけよって。我の通う学校に何の用だ」
次から次へと気配が増えてくる。単独犯ではないことは確定していたが、こんなにもぞろぞろと馬車の回りに集まってくるとさすがに焦るな。
ただでさえ空間移動の影響で気分が悪いというのに。
「なんだ、生徒か。亜空間に干渉してくるから何処の大魔導師かと思えば」
まだ白い霧に覆われていて輪郭しか見えない。それでも数は一人や二人じゃないことだけは確か。人間でもなさそうだ。
「不服なら詫びてやってもいいが、これ以上、面白くないことをするつもりなら覚悟するといい」
「潜在魔力も無い雑魚がいきがるなよ」
一発で見抜かれているということは、相当の手練れか。やはり生半可な覚悟で襲撃しているはずもないよな。ガチで軍事国家にケンカをふっかけにきてる。
退けることは難しくとも、時間稼ぎくらいはしてやらんとな。
馬車の周りを取り巻く分厚い霧の壁の向こうから、一斉に近付いてくる気配。囲まれているが、どのくらい対処できるか。
「ターゲット以外殺す予定はなかったが、邪魔をするのなら予定変更もやむなしだ」
まずい。我、ここで死ぬかも。
まだ相手の正体も分かっていないというのに。
「フィーさん!? どうしてそこに!?」
意表を突いて、その声が後方から聞こえてくる。
「バカ、顔を出すな!」
「王子! 隠れて下さい! 囲まれています!」
馬車の中でドタドタと音がする。慌ただしいことだ。
ああ、そうだ。この馬車には、軍事国家であるレッドアイズ国の王子、コリウス・レッドアイズが乗っている。
「馬鹿なガキだ。王子という身分じゃなければ命を狙われることもなかったろうに」
「やはり、狙いはコリウス王子だったか……」
護衛も何人か乗っているようだが、この数を相手に持ちこたえるのは大変だぞ。
守りながら戦うなんてできないからな。
しかも一部の護衛は昨日の襲撃で深手も負っている。
向こうからしたら意図して作り出した好機以外の何者でもない。
計画が今まさに最大の打点を出せる状況下にあるといっていい。
さて、どうしたものか。