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第152話 海底洞窟からの脱出、そして

ー/ー



閃光迸る一撃の雷鳴(オーバーボルテージ)!」
 パエニアの声が響き渡ってきたと思ったその刹那、バチバチという破裂音とともに、光の矢が我の頭の上を滑るように放たれていく。

 バッチン。そんな弾ける音が間近に聞こえた。
 不意に見上げてみれば、三体目の骨喰い寄居虫(スカル・ハーミット)が硬直していた。

「お、おい……き、効いたのか?」
 不安げな声をあげるパエニアだったが、その数秒後、骨喰い寄居虫はうなだれるようにハサミを下ろし、ビクンビクンと痙攣しながらもその場から動かなくなる。

 電撃の魔法に痺れてしまったのだろう。デカい図体をしてはいるが、直撃してしまえばこんなものか。

「はぁ……、はぁ……、すまん。助けてもらってしまったな……」
 一気に脱力してきてしまった。自分で使った魔力の反動も大きく、膝から崩れた。

「カシアさん! 何処か、ケガはありませんか? あの、簡単な治療薬ならありますけど!」
 真っ先にコリウスが駆け寄ってくる。人なつっこい子犬みたいな奴だ。
 だが、今は少しでも体力を回復させたい。

 ヤドカリのハサミに挟まれたダメージもあるし、無理やり負荷の大きい魔法を使った反動も響いているしで、正直最悪のコンディションだ。

「直ぐにここから移動するぞ……。コイツらはくたばったわけじゃない。こっちの二体は壁に張り付けただけ。こっちの奴は痺れてちょっと動けないだけだ。他に仲間もいるかもしれないからな……くぅ、足引き摺ってでも出口に向かうぞ」
 コリウスの手の中にある簡易な薬瓶を受け取り、我は立ち上がる。

「で、出口は確か……、こっちです!」
 地図を開いて、分岐点の方角を見る。巨大ヤドカリがゾロゾロと動き回ったせいか、通路がやたらと広くなっているように見えたが、見通しが良くて何よりだ。

「パエニア。我はこんなザマだ。正直、強がりも言ってられん。またあんなのが出てきたら対処を頼む……」
「って、動けるのかよ。もう少し休めよ!」
「そんなことを言ってる暇も惜しい。どう考えても異常事態だしな」
 よれよれ、よたよたと歩いていたらさすがに不安を煽ってしまったようだ。

「異常事態、ですか?」
「ああ、そうだ。いくら魔法の実技だからといってあんな危険なもんと戦わせるわけがないだろう。骨喰い寄居虫は本来、もっと深海に潜むものだ。こんな浅い階層まで出てくるような奴じゃない」

 第一、あの人間の頭蓋骨でできた殻を見るに、相当の数を喰ってる。骨喰い寄居虫は獲物を喰った分だけ殻も大きくなり、身体も大きく成長していく。
 あのサイズの奴が三体も出てくることがまずおかしいのだ。

「一体何が起きているのかは知らんが、早いところここを抜け出すぞ」
「ああ、分かった。でも、辛かったら言えよ」
「せいぜい足手まといにはならんようにするさ」

 それにしても、本当にパエニアに助けられてしまうとはな。
 我も散々油断していたとはいえ、なんだかタチの悪い冗談みたいだ。
 普段あんなツンケンせずに素直にしていればいいのに、と思わないでもない。

「……ああ、そうだ。パエニア。早速手を貸してほしいことがあった」
「ん? なんだよ、いきなりかよ」

 ※ ※ ※

 ※ ※

 ※

「やった、出口ですよ! カシアさん! ついに外に出られました! ……って、あれ? カシアさん?」
「あの女なら役目を果たしたとかいって洞窟に戻っていったぜ」
「ええっ!? そんな、いつの間に……といいますか、パエニアくん、その後ろに背負っている女の子は?」

 海底洞窟の出口を抜けてはしゃぐコリウスの後方、我はパエニアの背にその身を預けていた。勿論、カシア・アレフヘイムではない。いつもの令嬢フィーの姿だ。

「フィーさん! なんでパエニアくんにおんぶしてもらってるんですか?」
「それは、まあ、ちょっと諸事情があってだな……」
「コイツ、本当は俺様とペアだったんだが、はぐれたときにあのヤドカリ野郎に襲われたらしいぜ。そこら辺に転がってたから助けてやったんだよ」

 というシナリオにしてもらった。まさかあのままカシアの格好で出ていくわけにもいかんしな。出口の直前で瞬間的人違い(スルーポーズ)を外させてもらった。
 ただ、もう洞窟から抜けられると思った途端、力が抜けてしまい、仕方なくパエニアの背中を借りるに至る。よもや、承認してくれるとは思ってなかったが。

「すまないな、パエニア。本当、色々と」
「まったくだぜ。これで貸し借りもチャラにしろよ」

 パエニアのせいで下層に流されて、我の機転で上層に戻れたわけだが、我がヤドカリを二体、パエニアが一体と退けたと考えると等価のような気はしないが、まあ、カシアの秘密を守ってくれるというのなら贅沢は言うまい。

 それにしても、この姿だと思うよりパエニアの背中も大きく感じられるものだな。
 他人におんぶしてもらった経験などほとんど記憶にないぞ。

 薄暗い海底洞窟を脱出して向かえてくれたのは赤い太陽と、砂浜だった。
 海の底から水面に浮上してきたかのような開放感。
 まだ半日も経っていなかったと思うが、日没が日の出に見えてしまうくらいには体感時間は長かったように思う。

「王子!! コリウス王子!!! ご無事でしたかぁ!!!!」

 見覚えのある男どもが砂浜を駆けてこちらに向かってくる。レッドアイズ国の兵士だったかな。王子の護衛として臨海学校に付き添っていたのだろう。
 ものっそい血相を変えた表情をしている。まあ、王子から離れたわけだしな。

「洞窟内ではぐれてしまったときにはもう、打ち首になるものかと……」
「ボクならこの通り大丈夫だよ。腕利きの冒険者が助けてくれたから」

 逆に、なんでお前は平気な顔をしていられるんだ。カシアと出会えたことがよっぽど嬉しかったのは分かるが、護衛どもは生きた心地がしなかっただろうに。

「骨喰い寄居虫の出現報告を聞いて、ネルムフィラ魔導士学院の生徒たちには速やかに避難を指示し、対策部隊を要請していたところです」
「それじゃあ、他の生徒たちは?」
「コリウス王子を含めた二名を除き、保護されたと報告を受けております」

 ということは、下層に落ちた我とパエニア、そして自ら下層に逃げてきたコリウス以外は全員無事だったということか。

「これもダリア教官やキッキバル教官の迅速な対応のおかげです。怪我人はカーネ教官が対応し、重篤な負傷者はおりません」

 さすがと言わざるを得ない、か。まあ、元々貴族や王族の連中にダンジョン探索なんてやらせようとしていたのだから、そのくらいの対応は考えていたのだろう。

「お? なんだなんだ、王子と生徒二人、見つかったのか?」

 砂浜をぞろぞろと筋肉まみれの男どもを引き連れて現われたのはそれらよりもまた一際巨漢なリンドーだ。武装までしていて何と暑苦しい。

「はい、ボクたちはこの通り、無事に帰還できました」
「そいつは良かった。わざわざ応援部隊を連れてきたんだが、洞窟に潜らないで済んだな。ハッハッハ!」

 あんな馬車何台分かも分からん男軍団をここまで連れてきておいて解散とか、それは何とまあご苦労なことだな。
 幸いにも死者は出なかったようだが、危険な校外授業になってしまったことには変わりない。ロータスの悲痛の表情が目に浮かぶようだ。

「ったくよぉ、散々な一日だったぜ」
「これで終わりならいいがな」
「ん? どういう意味だよ」

 偶然にも骨喰い寄居虫が浅い階層にやってきたとは我には到底思えなかった。
 魔導士学院の生徒を狙った何者かの陰謀ではないかと勘ぐってしまうほどだ。

 本当に、全てが終わったと思っていいのだろうか。


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「|閃光迸る一撃の雷鳴《オーバーボルテージ》!」
 パエニアの声が響き渡ってきたと思ったその刹那、バチバチという破裂音とともに、光の矢が我の頭の上を滑るように放たれていく。
 バッチン。そんな弾ける音が間近に聞こえた。
 不意に見上げてみれば、三体目の|骨喰い寄居虫《スカル・ハーミット》が硬直していた。
「お、おい……き、効いたのか?」
 不安げな声をあげるパエニアだったが、その数秒後、骨喰い寄居虫はうなだれるようにハサミを下ろし、ビクンビクンと痙攣しながらもその場から動かなくなる。
 電撃の魔法に痺れてしまったのだろう。デカい図体をしてはいるが、直撃してしまえばこんなものか。
「はぁ……、はぁ……、すまん。助けてもらってしまったな……」
 一気に脱力してきてしまった。自分で使った魔力の反動も大きく、膝から崩れた。
「カシアさん! 何処か、ケガはありませんか? あの、簡単な治療薬ならありますけど!」
 真っ先にコリウスが駆け寄ってくる。人なつっこい子犬みたいな奴だ。
 だが、今は少しでも体力を回復させたい。
 ヤドカリのハサミに挟まれたダメージもあるし、無理やり負荷の大きい魔法を使った反動も響いているしで、正直最悪のコンディションだ。
「直ぐにここから移動するぞ……。コイツらはくたばったわけじゃない。こっちの二体は壁に張り付けただけ。こっちの奴は痺れてちょっと動けないだけだ。他に仲間もいるかもしれないからな……くぅ、足引き摺ってでも出口に向かうぞ」
 コリウスの手の中にある簡易な薬瓶を受け取り、我は立ち上がる。
「で、出口は確か……、こっちです!」
 地図を開いて、分岐点の方角を見る。巨大ヤドカリがゾロゾロと動き回ったせいか、通路がやたらと広くなっているように見えたが、見通しが良くて何よりだ。
「パエニア。我はこんなザマだ。正直、強がりも言ってられん。またあんなのが出てきたら対処を頼む……」
「って、動けるのかよ。もう少し休めよ!」
「そんなことを言ってる暇も惜しい。どう考えても異常事態だしな」
 よれよれ、よたよたと歩いていたらさすがに不安を煽ってしまったようだ。
「異常事態、ですか?」
「ああ、そうだ。いくら魔法の実技だからといってあんな危険なもんと戦わせるわけがないだろう。骨喰い寄居虫は本来、もっと深海に潜むものだ。こんな浅い階層まで出てくるような奴じゃない」
 第一、あの人間の頭蓋骨でできた殻を見るに、相当の数を喰ってる。骨喰い寄居虫は獲物を喰った分だけ殻も大きくなり、身体も大きく成長していく。
 あのサイズの奴が三体も出てくることがまずおかしいのだ。
「一体何が起きているのかは知らんが、早いところここを抜け出すぞ」
「ああ、分かった。でも、辛かったら言えよ」
「せいぜい足手まといにはならんようにするさ」
 それにしても、本当にパエニアに助けられてしまうとはな。
 我も散々油断していたとはいえ、なんだかタチの悪い冗談みたいだ。
 普段あんなツンケンせずに素直にしていればいいのに、と思わないでもない。
「……ああ、そうだ。パエニア。早速手を貸してほしいことがあった」
「ん? なんだよ、いきなりかよ」
 ※ ※ ※
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「やった、出口ですよ! カシアさん! ついに外に出られました! ……って、あれ? カシアさん?」
「あの女なら役目を果たしたとかいって洞窟に戻っていったぜ」
「ええっ!? そんな、いつの間に……といいますか、パエニアくん、その後ろに背負っている女の子は?」
 海底洞窟の出口を抜けてはしゃぐコリウスの後方、我はパエニアの背にその身を預けていた。勿論、カシア・アレフヘイムではない。いつもの令嬢フィーの姿だ。
「フィーさん! なんでパエニアくんにおんぶしてもらってるんですか?」
「それは、まあ、ちょっと諸事情があってだな……」
「コイツ、本当は俺様とペアだったんだが、はぐれたときにあのヤドカリ野郎に襲われたらしいぜ。そこら辺に転がってたから助けてやったんだよ」
 というシナリオにしてもらった。まさかあのままカシアの格好で出ていくわけにもいかんしな。出口の直前で|瞬間的人違い《スルーポーズ》を外させてもらった。
 ただ、もう洞窟から抜けられると思った途端、力が抜けてしまい、仕方なくパエニアの背中を借りるに至る。よもや、承認してくれるとは思ってなかったが。
「すまないな、パエニア。本当、色々と」
「まったくだぜ。これで貸し借りもチャラにしろよ」
 パエニアのせいで下層に流されて、我の機転で上層に戻れたわけだが、我がヤドカリを二体、パエニアが一体と退けたと考えると等価のような気はしないが、まあ、カシアの秘密を守ってくれるというのなら贅沢は言うまい。
 それにしても、この姿だと思うよりパエニアの背中も大きく感じられるものだな。
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 薄暗い海底洞窟を脱出して向かえてくれたのは赤い太陽と、砂浜だった。
 海の底から水面に浮上してきたかのような開放感。
 まだ半日も経っていなかったと思うが、日没が日の出に見えてしまうくらいには体感時間は長かったように思う。
「王子!! コリウス王子!!! ご無事でしたかぁ!!!!」
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「洞窟内ではぐれてしまったときにはもう、打ち首になるものかと……」
「ボクならこの通り大丈夫だよ。腕利きの冒険者が助けてくれたから」
 逆に、なんでお前は平気な顔をしていられるんだ。カシアと出会えたことがよっぽど嬉しかったのは分かるが、護衛どもは生きた心地がしなかっただろうに。
「骨喰い寄居虫の出現報告を聞いて、ネルムフィラ魔導士学院の生徒たちには速やかに避難を指示し、対策部隊を要請していたところです」
「それじゃあ、他の生徒たちは?」
「コリウス王子を含めた二名を除き、保護されたと報告を受けております」
 ということは、下層に落ちた我とパエニア、そして自ら下層に逃げてきたコリウス以外は全員無事だったということか。
「これもダリア教官やキッキバル教官の迅速な対応のおかげです。怪我人はカーネ教官が対応し、重篤な負傷者はおりません」
 さすがと言わざるを得ない、か。まあ、元々貴族や王族の連中にダンジョン探索なんてやらせようとしていたのだから、そのくらいの対応は考えていたのだろう。
「お? なんだなんだ、王子と生徒二人、見つかったのか?」
 砂浜をぞろぞろと筋肉まみれの男どもを引き連れて現われたのはそれらよりもまた一際巨漢なリンドーだ。武装までしていて何と暑苦しい。
「はい、ボクたちはこの通り、無事に帰還できました」
「そいつは良かった。わざわざ応援部隊を連れてきたんだが、洞窟に潜らないで済んだな。ハッハッハ!」
 あんな馬車何台分かも分からん男軍団をここまで連れてきておいて解散とか、それは何とまあご苦労なことだな。
 幸いにも死者は出なかったようだが、危険な校外授業になってしまったことには変わりない。ロータスの悲痛の表情が目に浮かぶようだ。
「ったくよぉ、散々な一日だったぜ」
「これで終わりならいいがな」
「ん? どういう意味だよ」
 偶然にも骨喰い寄居虫が浅い階層にやってきたとは我には到底思えなかった。
 魔導士学院の生徒を狙った何者かの陰謀ではないかと勘ぐってしまうほどだ。
 本当に、全てが終わったと思っていいのだろうか。