ep115 油断

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 宴が終わると、俺たちは富裕層地域にある街一番の宿屋に通された。
 トレブルとブーストはまだ飲み足りないのか、自分たちの部屋に酒を持ち込んで晩餐の続きをやっていた。
 当てがわれた部屋に入ると、俺は椅子に腰かけてからヤツに呼びかけてみる。

『おい』

 返事がない。あれから〔謎の声〕との交信がぷっつり途絶えてしまっている。俺はアイツにどうしても確認しておきたいことがあった。

「アイツの言っていた『直接的な利子の負担』とはなんだ? 今のところ俺自身にこれといった変化は見受けられないが……」

 もし今後の戦いに影響を及ぼすようなことであれば早く把握しておきたい。
 
「気になるな……」

 自分の掌を見つめながらそこはかとない不安を抱いた。
 そんな時、コンコンと部屋をノックする音が鳴った。迎えに出ると、地味な寝衣に着がえたエレサが立っていた。

「クロー。少しいい?」

「ああ」

 彼女を部屋に入れた。エレサは部屋の中央まで進むとクルッと振り返り、立ったまま話し始める。

「ねえクロー。あなたは〔フリーダム〕と戦っている。だからわたしからヤツらについての情報を知りたいと考えている。そうでしょ?」

 俺から求めるでもなく、エレサから水を向けてきた。真摯な態度だ。無理に聞き出そうとは考えていなかったが、情報を欲しているのは事実。彼女の方から積極的に教えてくれるのならば断る理由などない。

「そうだな。で、何か知っているのか?」

「正直、わたしが知っていることはキラースに関することぐらいなんだ。それでがっかりされても困ると思って、今夜中にあなたに伝えておきたかったの」

「そうか。まあ、べつにいいさ」

「今回……キラースの目的は、勇者の妹を手に入れることだった。ヤツは彼女を手に入れて良からぬ事を企てていた。といってもわたしも詳しいことはわからない。ただ…」

「ただ?」

「あれは〔フリーダム〕としてではなく、おそらくキラース個人の目的として動いていたんだと思う」

「造反…ということか?」

「組織のことはわからない。でも勇者の妹を狙うということは、勇者に弓を引くことに他ならない」

「そうなるな」

「だから今後、フリーダムとキラース、そして国際平和維持軍の関係は、ますます緊張が高まると思う」

「キラースの造反的行為にフリーダムの上層部が動き……さらには勇者が動く可能性もあると」

「だからクロー。あなたも危険になるということ。魔剣使いはいずれにも与しない危険な存在。どちらにとっても脅威となりうる。たとえ街の人々が魔剣使いを英雄扱いしたとて、勇者軍があなたをどう扱うかは別問題だから」

「……カレンと決闘したのはマズかったかな。いや、あの状況ではベストだと思うが……」

「とにかく、わたしはそれを伝えておきたかったの」

 俺は改めて自分自身の状況をよく理解した。 俺に残された人生の時間はもう少ない。できることも多くはないだろう。さりとて今の俺にできることは、やはりこの力をもって戦うことだ。俺がやるべきことは変わらない。そして、今のうちにやっておくべきことがもうひとつある。

「エレサ」

「なに?」

「ひとつ頼めるか?」

 エレサの目がパッと明るくなる。待ってましたと言わんばかりだ。

「うん。なんでも言って!」

「シヒロを守ってやってくれ」

「え? わ、わかった。けど……それだけ?」

「じゃあシヒロの友達にもなってやってくれ」

「あ、う、うん。あの……」

「なんだ?」

「クロー自身の…願いはないの?」

「それはいい」

 これでシヒロも安心かな。トレブルとブースト、そしてダークエルフのエレサがいれば、きっとあの娘も大丈夫だろう。
 そう思った矢先だった。
 シヒロが敵に連れ去られてしまったのは。


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 宴が終わると、俺たちは富裕層地域にある街一番の宿屋に通された。
 トレブルとブーストはまだ飲み足りないのか、自分たちの部屋に酒を持ち込んで晩餐の続きをやっていた。
 当てがわれた部屋に入ると、俺は椅子に腰かけてからヤツに呼びかけてみる。
『おい』
 返事がない。あれから〔謎の声〕との交信がぷっつり途絶えてしまっている。俺はアイツにどうしても確認しておきたいことがあった。
「アイツの言っていた『直接的な利子の負担』とはなんだ? 今のところ俺自身にこれといった変化は見受けられないが……」
 もし今後の戦いに影響を及ぼすようなことであれば早く把握しておきたい。
「気になるな……」
 自分の掌を見つめながらそこはかとない不安を抱いた。
 そんな時、コンコンと部屋をノックする音が鳴った。迎えに出ると、地味な寝衣に着がえたエレサが立っていた。
「クロー。少しいい?」
「ああ」
 彼女を部屋に入れた。エレサは部屋の中央まで進むとクルッと振り返り、立ったまま話し始める。
「ねえクロー。あなたは〔フリーダム〕と戦っている。だからわたしからヤツらについての情報を知りたいと考えている。そうでしょ?」
 俺から求めるでもなく、エレサから水を向けてきた。真摯な態度だ。無理に聞き出そうとは考えていなかったが、情報を欲しているのは事実。彼女の方から積極的に教えてくれるのならば断る理由などない。
「そうだな。で、何か知っているのか?」
「正直、わたしが知っていることはキラースに関することぐらいなんだ。それでがっかりされても困ると思って、今夜中にあなたに伝えておきたかったの」
「そうか。まあ、べつにいいさ」
「今回……キラースの目的は、勇者の妹を手に入れることだった。ヤツは彼女を手に入れて良からぬ事を企てていた。といってもわたしも詳しいことはわからない。ただ…」
「ただ?」
「あれは〔フリーダム〕としてではなく、おそらくキラース個人の目的として動いていたんだと思う」
「造反…ということか?」
「組織のことはわからない。でも勇者の妹を狙うということは、勇者に弓を引くことに他ならない」
「そうなるな」
「だから今後、フリーダムとキラース、そして国際平和維持軍の関係は、ますます緊張が高まると思う」
「キラースの造反的行為にフリーダムの上層部が動き……さらには勇者が動く可能性もあると」
「だからクロー。あなたも危険になるということ。魔剣使いはいずれにも与しない危険な存在。どちらにとっても脅威となりうる。たとえ街の人々が魔剣使いを英雄扱いしたとて、勇者軍があなたをどう扱うかは別問題だから」
「……カレンと決闘したのはマズかったかな。いや、あの状況ではベストだと思うが……」
「とにかく、わたしはそれを伝えておきたかったの」
 俺は改めて自分自身の状況をよく理解した。 俺に残された人生の時間はもう少ない。できることも多くはないだろう。さりとて今の俺にできることは、やはりこの力をもって戦うことだ。俺がやるべきことは変わらない。そして、今のうちにやっておくべきことがもうひとつある。
「エレサ」
「なに?」
「ひとつ頼めるか?」
 エレサの目がパッと明るくなる。待ってましたと言わんばかりだ。
「うん。なんでも言って!」
「シヒロを守ってやってくれ」
「え? わ、わかった。けど……それだけ?」
「じゃあシヒロの友達にもなってやってくれ」
「あ、う、うん。あの……」
「なんだ?」
「クロー自身の…願いはないの?」
「それはいい」
 これでシヒロも安心かな。トレブルとブースト、そしてダークエルフのエレサがいれば、きっとあの娘も大丈夫だろう。
 そう思った矢先だった。
 シヒロが敵に連れ去られてしまったのは。