表示設定
表示設定
目次 目次




%(パーセンテージ)の食卓

ー/ー



​      ー*ー*ー*ー

  充電器を 抜く手首には 八十二 
  減りゆく数字が今日の取り分

      ー*ー*ー*ー


 朝、スマホの充電器を抜くのと同じ動作で、左手首の「ライフ・インジケーター」を確認する。



「82%」

昨夜は深く眠れたせいか、昨日より0.1ポイントの減少で済んでいる。


​この世界では、人の寿命は「電池残量」として可視化されている。

かつてのように「あと何年」という不確かな単位ではなく、細胞の摩耗度から算出される絶対的なパーセンテージ。それが1%を切ると、人は例外なく「シャットダウン」を迎える。



​「あんたまた夜更かししたでしょ。ほら、減りが早くなってるわよ」


母さんがトーストを齧りながら、僕の手首を指差した。母さんのインジケーターは45%。折り返し地点を過ぎた彼女の数字は、僕のものより少しだけ色が濃く、重みがあるように見えた。




​「読書してただけだよ。面白いSFを見つけてさ」

「趣味にリソースを割くのはいいけど、急速充電(睡眠)をおろそかにしちゃダメよ。一度減った最大容量は戻らないんだから」


​母さんの言うことはもっともだ。この「寿命電池」は、モバイルバッテリーのように継ぎ足し充電ができない。良質な食事と睡眠で「減りを遅くする」ことしかできないのだ。



​ 駅までの道、すれ違う人々の手首にはそれぞれの数字が浮かんでいる。

98%で無邪気に走る子供。

12%で穏やかに公園のベンチに座る老人。


 かつては「死」は突然訪れる恐怖だったというが、今は違う。数字が減れば、それに見合った生き方にシフトするだけだ。


​僕はふと、自分の「82%」を見つめた。
もし、この数字が隠されていたら、僕はもっとがむしゃらに、あるいはもっと怯えて生きていただろうか。


「……さて、今日はこの1%分、何をしようかな」

​僕はスマホをポケットにしまい、少しだけ歩幅を広げた。

この数字は、終わりへのカウントダウンじゃない。今日という一日を、どれだけ贅沢に「消費」するかを決めるための、自由の指標なのだ。


​ 春の陽光を浴びた植物たちが、数字を持たない命を精一杯に輝かせていた。




** 日記風雑感 **

人間も充電できるものならしたいよね。
本当に……







スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む タイムラグ・ディナー


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



​      ー*ー*ー*ー
  充電器を 抜く手首には 八十二 
  減りゆく数字が今日の取り分
      ー*ー*ー*ー
 朝、スマホの充電器を抜くのと同じ動作で、左手首の「ライフ・インジケーター」を確認する。
「82%」
昨夜は深く眠れたせいか、昨日より0.1ポイントの減少で済んでいる。
​この世界では、人の寿命は「電池残量」として可視化されている。
かつてのように「あと何年」という不確かな単位ではなく、細胞の摩耗度から算出される絶対的なパーセンテージ。それが1%を切ると、人は例外なく「シャットダウン」を迎える。
​「あんたまた夜更かししたでしょ。ほら、減りが早くなってるわよ」
母さんがトーストを齧りながら、僕の手首を指差した。母さんのインジケーターは45%。折り返し地点を過ぎた彼女の数字は、僕のものより少しだけ色が濃く、重みがあるように見えた。
​「読書してただけだよ。面白いSFを見つけてさ」
「趣味にリソースを割くのはいいけど、急速充電(睡眠)をおろそかにしちゃダメよ。一度減った最大容量は戻らないんだから」
​母さんの言うことはもっともだ。この「寿命電池」は、モバイルバッテリーのように継ぎ足し充電ができない。良質な食事と睡眠で「減りを遅くする」ことしかできないのだ。
​ 駅までの道、すれ違う人々の手首にはそれぞれの数字が浮かんでいる。
98%で無邪気に走る子供。
12%で穏やかに公園のベンチに座る老人。
 かつては「死」は突然訪れる恐怖だったというが、今は違う。数字が減れば、それに見合った生き方にシフトするだけだ。
​僕はふと、自分の「82%」を見つめた。
もし、この数字が隠されていたら、僕はもっとがむしゃらに、あるいはもっと怯えて生きていただろうか。
「……さて、今日はこの1%分、何をしようかな」
​僕はスマホをポケットにしまい、少しだけ歩幅を広げた。
この数字は、終わりへのカウントダウンじゃない。今日という一日を、どれだけ贅沢に「消費」するかを決めるための、自由の指標なのだ。
​ 春の陽光を浴びた植物たちが、数字を持たない命を精一杯に輝かせていた。
** 日記風雑感 **
人間も充電できるものならしたいよね。
本当に……