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【最終話】第27話:生まれ変わるセントラル

ー/ー



セントラルの空が、初めての静けさを迎えていた。
黒煙がゆっくりと晴れ、朝日が廃墟に差し込む。かつて完璧に制御されていた都市に、ようやく自然な朝が訪れた。

瓦礫の間を抜けて、カイとリアナは中央広場へと歩を進めていた。
破壊されたホログラムパネル、倒れたドローン、崩れたビルの影。だが、その間をぬって動き出す人々の姿があった。

彼らは恐る恐る、しかし確かに未来へと向かい始めていた。
リアナが、小さく息を吐く。

「……終わったの?」

「いや。まだ始まったばかりだ」
カイは、空を仰ぎながら答えた。
クラリッサの人格ユニットが、かすかなノイズと共に通信を繋ぐ。

「セントラル中枢コア、全機能停止を確認。都市管理権限、暫定的に解除状態です。
……再構築プランは、あなたたち次第です」

その言葉に、カイは静かに頷いた。

「管理するだけの都市じゃ、もう誰も救えない。……だから、今度は選ばれなかった者の手で新しい形を作る」

リアナがそっと目を伏せる。

「……本当に、私はここにいていいの?」

その声は、誰にも届かないような小さなものだった。
だが、すぐ隣にいたカイは、確かにそれを聞いていた。

「……リアナ」

彼が振り向くと、リアナは空を見上げていた。
まるで、どこにも答えが見つからないかのように。

「私は、あの人のそばにいた。カイが追放されたときも黙っていた。
私がもっと早く動いていたら、誰かの苦しみを減らせたかもしれない……なのに、結局……」

カイは、彼女の言葉を遮らず、ただその横顔を見つめていた。
リアナは続ける。

「私は正しいことをしたいと願いながらずっと選ばれる側でいた。
あの時も、レイモンドを止める勇気がなかった。……こんな私が、今さら皆と肩を並べて、未来を語っていいの?」

少しの沈黙ののち、カイは静かに答えた。

「……俺だって、間違った選択をしたことは何度もある。
信じたものに裏切られて、それでも信じたくて、だから戦った。君もそうだったんだろ?」

リアナは目を見開いた。

「君が何をしてきたか、誰よりも分かってる。
あの情報がなければ、みんなも、ここまで来られなかった。
……戻っていいかどうかを決めるのは、誰でもない。君自身だ」

リアナの瞳が、わずかに潤む。

「……でも、もしまた迷ったら?」

カイは微笑む。

「その時は、俺が隣にいる。ちゃんと、君の居場所を思い出させてやるよ」

その言葉に、リアナの頬が緩んだ。
こらえていた涙が、ぽろりと一滴、頬を伝う。

「ありがとう……カイ」

そして彼女は、ようやく前を向く。

居場所は、与えられるものじゃない。
自分で選び、自分で築くものだ。

リアナはもう、迷わない。
新たな都市に、自分の足で立ち、もう一度歩き始めるのだった。

やがて、広場の中央に人々が集まり始めた。
かつて不要とされた者たち。
記録を抹消され、技術を奪われ、声を封じられた者たち。
その一人ひとりが今、名を取り戻し、未来を語り始める。

誰かが言った。

「この都市に、新しい名前をつけよう」

そして、誰かが応じた。

「もうセントラルじゃない。俺たちの、新しい故郷なんだ」

笑い声と涙が混じり合い、瓦礫の上に咲き始めた会話の芽が、都市に初めての春を告げていた。

カイはその中心で、仲間たちと肩を並べる。
それぞれの傷と決意を抱えて、彼らは歩き出した。

道はまだ荒れている。
過去の亡霊が、いつまた牙を剥くかもしれない。
だが、それでも。

希望の灯火は、今ここに確かに点った。
未来は、与えられるものではなく、選び取るもの。
そして選んだその道を歩む限り、どれだけ遠くても、誰かが必ず隣にいる。

夜明けと共に、新たな都市が目を覚ました。

Fin.


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黒煙がゆっくりと晴れ、朝日が廃墟に差し込む。かつて完璧に制御されていた都市に、ようやく自然な朝が訪れた。
瓦礫の間を抜けて、カイとリアナは中央広場へと歩を進めていた。
破壊されたホログラムパネル、倒れたドローン、崩れたビルの影。だが、その間をぬって動き出す人々の姿があった。
彼らは恐る恐る、しかし確かに未来へと向かい始めていた。
リアナが、小さく息を吐く。
「……終わったの?」
「いや。まだ始まったばかりだ」
カイは、空を仰ぎながら答えた。
クラリッサの人格ユニットが、かすかなノイズと共に通信を繋ぐ。
「セントラル中枢コア、全機能停止を確認。都市管理権限、暫定的に解除状態です。
……再構築プランは、あなたたち次第です」
その言葉に、カイは静かに頷いた。
「管理するだけの都市じゃ、もう誰も救えない。……だから、今度は選ばれなかった者の手で新しい形を作る」
リアナがそっと目を伏せる。
「……本当に、私はここにいていいの?」
その声は、誰にも届かないような小さなものだった。
だが、すぐ隣にいたカイは、確かにそれを聞いていた。
「……リアナ」
彼が振り向くと、リアナは空を見上げていた。
まるで、どこにも答えが見つからないかのように。
「私は、あの人のそばにいた。カイが追放されたときも黙っていた。
私がもっと早く動いていたら、誰かの苦しみを減らせたかもしれない……なのに、結局……」
カイは、彼女の言葉を遮らず、ただその横顔を見つめていた。
リアナは続ける。
「私は正しいことをしたいと願いながらずっと選ばれる側でいた。
あの時も、レイモンドを止める勇気がなかった。……こんな私が、今さら皆と肩を並べて、未来を語っていいの?」
少しの沈黙ののち、カイは静かに答えた。
「……俺だって、間違った選択をしたことは何度もある。
信じたものに裏切られて、それでも信じたくて、だから戦った。君もそうだったんだろ?」
リアナは目を見開いた。
「君が何をしてきたか、誰よりも分かってる。
あの情報がなければ、みんなも、ここまで来られなかった。
……戻っていいかどうかを決めるのは、誰でもない。君自身だ」
リアナの瞳が、わずかに潤む。
「……でも、もしまた迷ったら?」
カイは微笑む。
「その時は、俺が隣にいる。ちゃんと、君の居場所を思い出させてやるよ」
その言葉に、リアナの頬が緩んだ。
こらえていた涙が、ぽろりと一滴、頬を伝う。
「ありがとう……カイ」
そして彼女は、ようやく前を向く。
居場所は、与えられるものじゃない。
自分で選び、自分で築くものだ。
リアナはもう、迷わない。
新たな都市に、自分の足で立ち、もう一度歩き始めるのだった。
やがて、広場の中央に人々が集まり始めた。
かつて不要とされた者たち。
記録を抹消され、技術を奪われ、声を封じられた者たち。
その一人ひとりが今、名を取り戻し、未来を語り始める。
誰かが言った。
「この都市に、新しい名前をつけよう」
そして、誰かが応じた。
「もうセントラルじゃない。俺たちの、新しい故郷なんだ」
笑い声と涙が混じり合い、瓦礫の上に咲き始めた会話の芽が、都市に初めての春を告げていた。
カイはその中心で、仲間たちと肩を並べる。
それぞれの傷と決意を抱えて、彼らは歩き出した。
道はまだ荒れている。
過去の亡霊が、いつまた牙を剥くかもしれない。
だが、それでも。
希望の灯火は、今ここに確かに点った。
未来は、与えられるものではなく、選び取るもの。
そして選んだその道を歩む限り、どれだけ遠くても、誰かが必ず隣にいる。
夜明けと共に、新たな都市が目を覚ました。
Fin.