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第92話 敵情

ー/ー



 第一随伴艦隊がゲートをくぐってから丸四日がたった。敵母星に向かって航行しており、すでに手前二百万キロの距離にいる。望遠鏡を使わなくても、球形の輪郭がはっきりわかる。

「先行する無人機が撃墜されました」
 艦長の恵子が艦隊司令のリリスに報告した。

「ようやく敵に遭遇したか」とリリス。「映像は撮れたか?」

「三体のデルタクラスの敵の姿をとらえました」と恵子。

「位置は?」とリリス。

「東経八十五度、北緯十二度、二十二万キロの距離です」と恵子。

「右舷の小惑星だな」とリリス。「やはりやつらはあの裏に潜んでいるのか」

「我々が通過後に、後ろに回り込むつもりではないでしょうか」と恵子。

「おそらくな」とリリス。「この先のどこかで我々を包囲するつもりだろう」

「偵察を出すべきではないでしょうか」と参謀のサキ。

「そうだな」とリリス。「ウィッチを出して、小惑星の裏を見てきてくれ」

「佐々木大尉、ウィッチで偵察に出てください」
 艦橋に上がっていた航空隊隊長の佐々木孝子に恵子が指示を出した。

「了解した」と孝子。


 二時間後、孝子のウィッチから小惑星の裏にいる敵の映像が送られてきた。

「アルファクラスが五十体程とそれに付随するベータクラス、その他だな」とリリス。

「かなり大規模な艦隊ですね」と恵子。「太陽系内だったら大騒ぎになります」

「ああ。敵の本拠地だからな。想定内のことだ」とリリス。「我々は派手に暴れて敵を引き付けるだけでいい」

「小惑星に向かいますか?」と恵子。

「この程度なら後ろにまわりこませても構わん」とリリス。「主力は別にいるはずだ。このまま進んでおびき寄せる」

「後続はどうしますか?」とサキ。

「私が活を入れる。通信をつなげ」とリリス。

「エリカ、後続の艦長を至急呼び出して」と恵子。


 防空隊攻撃艦朝風の後ろに単縦陣で続く海軍の巡洋艦、比叡、春日、ベルン、ボーズ、高雄の艦長が正面のモニターに映し出された。

「艦長の諸君、朗報だ。我々の死に場所が決まった」とリリス。

「合戦が近いということでしょうか」と比叡の艦長、山口吾郎中佐。

「その通りだ」とリリス。「右舷に見える小惑星の裏に、ゴキブリのように敵艦隊が貼りついていることが分かった」

「どの程度の戦力でしょうか?」と吾郎。

「アルファクラスが五十隻程度とベータクラスが三百隻と言ったところだ。後の細かい奴等は知らん」とリリス。

「この敵に攻撃を仕掛けるということでしょうか」と吾郎。

「我々はこのまま航行する」とリリス。「そうすれば正面に敵母星の主力が湧いて出てくるはずだ。そして小惑星のゴキブリどもは我々の後ろに回り込むだろう。都合よく敵が出そろったところを我々が攻撃する」

「むちゃくちゃだ」
 吾郎が思わずつぶやいた。

「何か言ったか?」とリリス。

「すばらしい作戦です。感服いたしました」と吾郎。

「そうだろう」とリリス。

 一呼吸おいて、リリスはつづけた。
「今となっては、異星生物どもの艦隊は恐れるに足らん。すでに我々の兵器体系の前では、奴らはニワトリ以下の射撃ゲームの的にすぎん」

「お言葉ですが、奴らは荷電粒子ビームを撃ってきます」と巡洋艦春日の艦長、香川洋一大尉。

「我々の艦は強力な磁場で守られている。荷電粒子は磁場で曲げられて、艦には当たらない。ローレンツ力を中学校の理科の時間に習わなかったのか?」とリリス。「この先の予定戦場で我々は互いの艦の磁場が重なるように密集隊形を取る。敵の砲撃など当たるはずがない。花火だと思え」

「よろしいでしょうか?」とベルン艦長のスバル・シューマン大尉。

「何だ?」とリリス。

「敵は体当たり攻撃をしてきます。密集隊形は不利ではないでしょうか」とスバル。

「体当たりのために敵が近づいてきてくれるのはむしろ好都合だ。いい射撃訓練になる」とリリス。「いいか、射程に入った敵は片っ端から撃ち落とせ。弾は山ほどある。核弾頭付のやつをたっぷりとお見舞いしてやれ」

「ミサイルの運用はどうしますか?」とミサイル巡洋艦ボーズの艦長、正美・ハーン少佐。

「見通しのよい宙域では、ミサイルは敵のビームで撃ち落とされる。でかい敵が密集して近づいてくるまでは使えん」とリリス。「使用のタイミングはこちらから指示を出す。出番を作ってやるから心配するな」

「涙の魔術師様からの連絡はまだないのでしょうか?」と巡洋艦高雄の艦長、林一義少佐。「ひょっとしたら、すでに十分な加速を終えているかもしれません」

「さあな。涙の魔術師様は気が向いたら電話してくるだろう」とリリス。

「よろしいでしょうか?」と朝風艦長の恵子。

「何だ、お前まで」とリリス。

「涙の魔術師様はこれまで、期待通りに連絡をくれたことなどあったでしょうか?」と恵子。

「私の経験上、一度もない」とリリス。「時間にルーズなお方だから、あまり期待するな」

 海軍の五人の艦長はそろってうんざりした顔をした。

「わかったよ」とリリス。「もし涙の魔術師様かパープルキティの高田アリサ大佐から通信があったら、お前たちに傍聴させてやる。隠し事は無しだ。ただし、絶対に横から口を出すなよ」

「ありがとうございます!」
 吾郎らはうれしそうに答えて敬礼をした。

「では通信を切るぞ」とリリス。



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次のエピソードへ進む 第93話 合戦準備


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 第一随伴艦隊がゲートをくぐってから丸四日がたった。敵母星に向かって航行しており、すでに手前二百万キロの距離にいる。望遠鏡を使わなくても、球形の輪郭がはっきりわかる。
「先行する無人機が撃墜されました」
 艦長の恵子が艦隊司令のリリスに報告した。
「ようやく敵に遭遇したか」とリリス。「映像は撮れたか?」
「三体のデルタクラスの敵の姿をとらえました」と恵子。
「位置は?」とリリス。
「東経八十五度、北緯十二度、二十二万キロの距離です」と恵子。
「右舷の小惑星だな」とリリス。「やはりやつらはあの裏に潜んでいるのか」
「我々が通過後に、後ろに回り込むつもりではないでしょうか」と恵子。
「おそらくな」とリリス。「この先のどこかで我々を包囲するつもりだろう」
「偵察を出すべきではないでしょうか」と参謀のサキ。
「そうだな」とリリス。「ウィッチを出して、小惑星の裏を見てきてくれ」
「佐々木大尉、ウィッチで偵察に出てください」
 艦橋に上がっていた航空隊隊長の佐々木孝子に恵子が指示を出した。
「了解した」と孝子。
 二時間後、孝子のウィッチから小惑星の裏にいる敵の映像が送られてきた。
「アルファクラスが五十体程とそれに付随するベータクラス、その他だな」とリリス。
「かなり大規模な艦隊ですね」と恵子。「太陽系内だったら大騒ぎになります」
「ああ。敵の本拠地だからな。想定内のことだ」とリリス。「我々は派手に暴れて敵を引き付けるだけでいい」
「小惑星に向かいますか?」と恵子。
「この程度なら後ろにまわりこませても構わん」とリリス。「主力は別にいるはずだ。このまま進んでおびき寄せる」
「後続はどうしますか?」とサキ。
「私が活を入れる。通信をつなげ」とリリス。
「エリカ、後続の艦長を至急呼び出して」と恵子。
 防空隊攻撃艦朝風の後ろに単縦陣で続く海軍の巡洋艦、比叡、春日、ベルン、ボーズ、高雄の艦長が正面のモニターに映し出された。
「艦長の諸君、朗報だ。我々の死に場所が決まった」とリリス。
「合戦が近いということでしょうか」と比叡の艦長、山口吾郎中佐。
「その通りだ」とリリス。「右舷に見える小惑星の裏に、ゴキブリのように敵艦隊が貼りついていることが分かった」
「どの程度の戦力でしょうか?」と吾郎。
「アルファクラスが五十隻程度とベータクラスが三百隻と言ったところだ。後の細かい奴等は知らん」とリリス。
「この敵に攻撃を仕掛けるということでしょうか」と吾郎。
「我々はこのまま航行する」とリリス。「そうすれば正面に敵母星の主力が湧いて出てくるはずだ。そして小惑星のゴキブリどもは我々の後ろに回り込むだろう。都合よく敵が出そろったところを我々が攻撃する」
「むちゃくちゃだ」
 吾郎が思わずつぶやいた。
「何か言ったか?」とリリス。
「すばらしい作戦です。感服いたしました」と吾郎。
「そうだろう」とリリス。
 一呼吸おいて、リリスはつづけた。
「今となっては、異星生物どもの艦隊は恐れるに足らん。すでに我々の兵器体系の前では、奴らはニワトリ以下の射撃ゲームの的にすぎん」
「お言葉ですが、奴らは荷電粒子ビームを撃ってきます」と巡洋艦春日の艦長、香川洋一大尉。
「我々の艦は強力な磁場で守られている。荷電粒子は磁場で曲げられて、艦には当たらない。ローレンツ力を中学校の理科の時間に習わなかったのか?」とリリス。「この先の予定戦場で我々は互いの艦の磁場が重なるように密集隊形を取る。敵の砲撃など当たるはずがない。花火だと思え」
「よろしいでしょうか?」とベルン艦長のスバル・シューマン大尉。
「何だ?」とリリス。
「敵は体当たり攻撃をしてきます。密集隊形は不利ではないでしょうか」とスバル。
「体当たりのために敵が近づいてきてくれるのはむしろ好都合だ。いい射撃訓練になる」とリリス。「いいか、射程に入った敵は片っ端から撃ち落とせ。弾は山ほどある。核弾頭付のやつをたっぷりとお見舞いしてやれ」
「ミサイルの運用はどうしますか?」とミサイル巡洋艦ボーズの艦長、正美・ハーン少佐。
「見通しのよい宙域では、ミサイルは敵のビームで撃ち落とされる。でかい敵が密集して近づいてくるまでは使えん」とリリス。「使用のタイミングはこちらから指示を出す。出番を作ってやるから心配するな」
「涙の魔術師様からの連絡はまだないのでしょうか?」と巡洋艦高雄の艦長、林一義少佐。「ひょっとしたら、すでに十分な加速を終えているかもしれません」
「さあな。涙の魔術師様は気が向いたら電話してくるだろう」とリリス。
「よろしいでしょうか?」と朝風艦長の恵子。
「何だ、お前まで」とリリス。
「涙の魔術師様はこれまで、期待通りに連絡をくれたことなどあったでしょうか?」と恵子。
「私の経験上、一度もない」とリリス。「時間にルーズなお方だから、あまり期待するな」
 海軍の五人の艦長はそろってうんざりした顔をした。
「わかったよ」とリリス。「もし涙の魔術師様かパープルキティの高田アリサ大佐から通信があったら、お前たちに傍聴させてやる。隠し事は無しだ。ただし、絶対に横から口を出すなよ」
「ありがとうございます!」
 吾郎らはうれしそうに答えて敬礼をした。
「では通信を切るぞ」とリリス。