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スピーダマン

ー/ー



 エリシアは近所のスーパーに買い物に来ていた。



 いつも通り買い物かごを片手に、必要なものを探しながら歩いていたが、ふと何かに気がついた。



「うわ!あれは……」



 視線の先にいたのは、あの伝説的なアメコミヒーロー「スピーダマン」。



 ビルからビルへすごい速さで飛び移り、悪を退治することで知られる覆面のヒーローだ。

 だが今、彼がしていることは——。



「……」



 なんか妙に低い姿勢を維持しながら、デリコーナーのパック寿司に視線を固定していた。

 どうやら、半額シールが貼られるのを今か今かと待っているらしい。



 エリシアはその姿をじっと見つめ、何とも言えないモヤモヤした気持ちになった。



 買い物を終えたエリシアは、自分の車に買い物袋を詰め込んでいた。



「あっ……」



 ふと視線を上げると、そこにいたのは——。



 ——スピーダマン!



 ——カチャコ……カチャコ……カチャコ。



 彼は原付バイクのキックスターターを延々と蹴り続けていた。

 何度も試みるものの、エンジンは一向にかかる気配がない。ライトが弱々しく点滅し、その姿は伝説的なヒーローの名に似つかわしくないほど情けない。



「……」



 エリシアはその様子をじっと見つめたが、なぜか胸にモヤッとした感情が湧き上がっただけだった。

 結局、声をかけることもなく、エリシアは静かに車のトランクを閉めた。



 ——違う日。



 エリシアは交差点で歩行者信号が青になるのを待っていた。



 何気なく向かい側を見ると、コンビニの前に立っている人物が目に入る。それは——。



 ——スピーダマアァン!



 そこには、伝説のヒーローであるスピーダマンがいた。だが、その姿は……。



 彼は妙に低い姿勢を取り、「カッコイイポーズ」を決めながら親指を高々と上げている。

 どうやらタクシーを止めたいらしい。



 しかし——。



 ——ブウウウゥン……



 タクシーは彼を無視するかのようにスピードを落とすことなく通り過ぎていった。エリシアも一瞬しか見ていないが、どうやらそのタクシーは「空車」だったらしい。



「……」



 エリシアは深いため息をつきそうになるのをこらえた。



 ——その後。



 エリシアはビルの上階にある自身のオフィスで仕事をしていた。

 書類に目を通していたが、ふと手を止めて窓の外に目をやると——。



 ——スピイィダマアアアアァン!



 彼の姿が目に入った。
 だが、彼がいるのは向かいのビル。



 ——ゴウンゴウン……



 ゆっくりと動くゴンドラに乗り、窓の清掃を行っているスピーダマン。
 手際よく窓を拭きながら、きちんと安全帯も掛けている。



(あ、ちゃんと安全帯掛けてますわね……)



 それを確認して安心する一方で、またしても胸にモヤッとした感情が広がった。



 エリシアは窓から目を離し、再び仕事に戻った。



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 エリシアは近所のスーパーに買い物に来ていた。
 いつも通り買い物かごを片手に、必要なものを探しながら歩いていたが、ふと何かに気がついた。
「うわ!あれは……」
 視線の先にいたのは、あの伝説的なアメコミヒーロー「スピーダマン」。
 ビルからビルへすごい速さで飛び移り、悪を退治することで知られる覆面のヒーローだ。
 だが今、彼がしていることは——。
「……」
 なんか妙に低い姿勢を維持しながら、デリコーナーのパック寿司に視線を固定していた。
 どうやら、半額シールが貼られるのを今か今かと待っているらしい。
 エリシアはその姿をじっと見つめ、何とも言えないモヤモヤした気持ちになった。
 買い物を終えたエリシアは、自分の車に買い物袋を詰め込んでいた。
「あっ……」
 ふと視線を上げると、そこにいたのは——。
 ——スピーダマン!
 ——カチャコ……カチャコ……カチャコ。
 彼は原付バイクのキックスターターを延々と蹴り続けていた。
 何度も試みるものの、エンジンは一向にかかる気配がない。ライトが弱々しく点滅し、その姿は伝説的なヒーローの名に似つかわしくないほど情けない。
「……」
 エリシアはその様子をじっと見つめたが、なぜか胸にモヤッとした感情が湧き上がっただけだった。
 結局、声をかけることもなく、エリシアは静かに車のトランクを閉めた。
 ——違う日。
 エリシアは交差点で歩行者信号が青になるのを待っていた。
 何気なく向かい側を見ると、コンビニの前に立っている人物が目に入る。それは——。
 ——スピーダマアァン!
 そこには、伝説のヒーローであるスピーダマンがいた。だが、その姿は……。
 彼は妙に低い姿勢を取り、「カッコイイポーズ」を決めながら親指を高々と上げている。
 どうやらタクシーを止めたいらしい。
 しかし——。
 ——ブウウウゥン……
 タクシーは彼を無視するかのようにスピードを落とすことなく通り過ぎていった。エリシアも一瞬しか見ていないが、どうやらそのタクシーは「空車」だったらしい。
「……」
 エリシアは深いため息をつきそうになるのをこらえた。
 ——その後。
 エリシアはビルの上階にある自身のオフィスで仕事をしていた。
 書類に目を通していたが、ふと手を止めて窓の外に目をやると——。
 ——スピイィダマアアアアァン!
 彼の姿が目に入った。
 だが、彼がいるのは向かいのビル。
 ——ゴウンゴウン……
 ゆっくりと動くゴンドラに乗り、窓の清掃を行っているスピーダマン。
 手際よく窓を拭きながら、きちんと安全帯も掛けている。
(あ、ちゃんと安全帯掛けてますわね……)
 それを確認して安心する一方で、またしても胸にモヤッとした感情が広がった。
 エリシアは窓から目を離し、再び仕事に戻った。