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第90話 侵攻

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 第二分身体の悠木が座乗する翠鶴(すいかく)が先頭を切ってゲートを通過し、防空隊の攻撃艦朝風と連合海軍の五隻の巡洋艦が続いた。殿(しんがり)の通信艦パープルキティはゲートをくぐると素早く光学迷彩で姿を消した。

 パープルキティは敵の残骸を避けながらゲートの裏面にまわりこみ、白鷺(はくろ)との合流地点に向かって半日ほど航行した。目的地に到着すると、艦長の高田アリサ大佐は白鷺と通信を行った。

 アリサが呼びかけた。
「涙の魔術師様、ご無事でしょうか?」

 すぐに第一分身体の悠木から応答があった。
「アリサ、君が来たのかい?」

「どこにおられますか?」とアリサ。

「君の艦のすぐ隣だ」と悠木。

 白鷺から発光器による信号が数秒送られ、パープルキティからも返信した。

「突然ですが、そちらに乗艦希望の方が向かっております」とアリサ。

「なんだって!」と悠木。「いったいだれだ?」

 パープルキティの艦載機から通信が入った。
「高規、早くハッチを開けなさい!」

 悠木は前世の名前で呼ばれてぎくりとし、通信モニターを見て絶句した。映っていたのは前世での魔術の師、伊佐々姫だった。

 悠木は乗船用ハッチを開け、あわてて飛行デッキに飛び出した。複座型ウィッチ偵察機からパイロットに続いて紫色のドレス姿の女がおりてくるところだった。

 ウィッチのパイロットが悠木に敬礼をした。

「あなたはすぐに帰りなさい」
 ドレスの女はパイロットに指示を出してから、悠木に向かって歩いた。

「伊佐々姫! なぜあなたがここに!」
 悠木が叫んだ。

「あなたが一人で泣いていると聞いたから来てあげたのよ、泣き虫魔術師さん」と伊佐々姫。

 悠木が伊佐々姫に駆け寄ると、姫は悠木を抱きかかえて持ち上げた。
「あなた、また意地を張って一人で戦っているのね。寂しがり屋のくせに」

「だけど、これは私がやらなければならない仕事なのです」と悠木。

「知っているわ」と姫。

「あなたを巻き添えにするわけにはいかないのです」と悠木。

「あなた、子供の姿でもそんな喋り方をするのね」と姫。「おかしいわ」

「私はあなたのことを愛している」と悠木。「だからあなたには死んでほしくない」

「その話はいいわ。別のあなたに口説いてもらったから、もう十分よ」と姫。「子供の姿のあなたも可愛いわ」

「冗談を言ってる場合じゃないんだ」
 悠木は抱っこされた体をよじった。

「時空を超えて会いに来た私を追い返す気なの?」
 姫は怖い顔をした。

「だけど、だけど……」
 悠木は目から涙をあふれさせた。

「一人で泣いているかわいい弟子を、わたしが放っておくわけがないでしょ」と姫。「それとも迷惑だったかしら」

「違う、違うんだ……」
 悠木はイササ姫の胸に顔をうずめた。

「素直になりなさい」
 姫は悠木の体をあやすように揺すった。

「ありがとう」
 悠木は顔を上げて伊佐々姫を見た。

「早く艦橋に案内しなさい」と姫。


 艦橋には悠木用のシートが一つあるのみだった。姫はシートに大きな尻を乗せて座った。

「早く座りなさい」と姫は悠木に言いながら、悠木を抱きかかえて自分の膝に乗せた。

「何か不満があるのかしら?」と姫。

「とても幸せな気分だ」と悠木。


 パープルキティから通信が入った。

「翠鶴が作戦行動を開始いたしました」とアリサ。

「オレも白鷺で続く」と悠木。「本部によろしく言ってくれ」

「承知いたしました」
 アリサは伊佐々姫の膝の上に座っている悠木を見て、思わずほほえんだ。一呼吸おいて続けた。

「涙の魔術師様、わたくしは今作戦で、あわよくばあなた様のお側にと思っておりました。少し残念です」

「お前を連れていくことはできん」と悠木。

「承知しております」
 アリサは再び笑みを浮かべたが、すぐに真顔に戻った。

「黒魚王閣下、ご武運を祈っております!」
 アリサは敬礼をした。

「元気でな。お前たちの健闘を祈る」
 悠木は姫の膝の上で手を振ってから通信を切った。



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 第二分身体の悠木が座乗する|翠鶴《すいかく》が先頭を切ってゲートを通過し、防空隊の攻撃艦朝風と連合海軍の五隻の巡洋艦が続いた。|殿《しんがり》の通信艦パープルキティはゲートをくぐると素早く光学迷彩で姿を消した。
 パープルキティは敵の残骸を避けながらゲートの裏面にまわりこみ、|白鷺《はくろ》との合流地点に向かって半日ほど航行した。目的地に到着すると、艦長の高田アリサ大佐は白鷺と通信を行った。
 アリサが呼びかけた。
「涙の魔術師様、ご無事でしょうか?」
 すぐに第一分身体の悠木から応答があった。
「アリサ、君が来たのかい?」
「どこにおられますか?」とアリサ。
「君の艦のすぐ隣だ」と悠木。
 白鷺から発光器による信号が数秒送られ、パープルキティからも返信した。
「突然ですが、そちらに乗艦希望の方が向かっております」とアリサ。
「なんだって!」と悠木。「いったいだれだ?」
 パープルキティの艦載機から通信が入った。
「高規、早くハッチを開けなさい!」
 悠木は前世の名前で呼ばれてぎくりとし、通信モニターを見て絶句した。映っていたのは前世での魔術の師、伊佐々姫だった。
 悠木は乗船用ハッチを開け、あわてて飛行デッキに飛び出した。複座型ウィッチ偵察機からパイロットに続いて紫色のドレス姿の女がおりてくるところだった。
 ウィッチのパイロットが悠木に敬礼をした。
「あなたはすぐに帰りなさい」
 ドレスの女はパイロットに指示を出してから、悠木に向かって歩いた。
「伊佐々姫! なぜあなたがここに!」
 悠木が叫んだ。
「あなたが一人で泣いていると聞いたから来てあげたのよ、泣き虫魔術師さん」と伊佐々姫。
 悠木が伊佐々姫に駆け寄ると、姫は悠木を抱きかかえて持ち上げた。
「あなた、また意地を張って一人で戦っているのね。寂しがり屋のくせに」
「だけど、これは私がやらなければならない仕事なのです」と悠木。
「知っているわ」と姫。
「あなたを巻き添えにするわけにはいかないのです」と悠木。
「あなた、子供の姿でもそんな喋り方をするのね」と姫。「おかしいわ」
「私はあなたのことを愛している」と悠木。「だからあなたには死んでほしくない」
「その話はいいわ。別のあなたに口説いてもらったから、もう十分よ」と姫。「子供の姿のあなたも可愛いわ」
「冗談を言ってる場合じゃないんだ」
 悠木は抱っこされた体をよじった。
「時空を超えて会いに来た私を追い返す気なの?」
 姫は怖い顔をした。
「だけど、だけど……」
 悠木は目から涙をあふれさせた。
「一人で泣いているかわいい弟子を、わたしが放っておくわけがないでしょ」と姫。「それとも迷惑だったかしら」
「違う、違うんだ……」
 悠木はイササ姫の胸に顔をうずめた。
「素直になりなさい」
 姫は悠木の体をあやすように揺すった。
「ありがとう」
 悠木は顔を上げて伊佐々姫を見た。
「早く艦橋に案内しなさい」と姫。
 艦橋には悠木用のシートが一つあるのみだった。姫はシートに大きな尻を乗せて座った。
「早く座りなさい」と姫は悠木に言いながら、悠木を抱きかかえて自分の膝に乗せた。
「何か不満があるのかしら?」と姫。
「とても幸せな気分だ」と悠木。
 パープルキティから通信が入った。
「翠鶴が作戦行動を開始いたしました」とアリサ。
「オレも白鷺で続く」と悠木。「本部によろしく言ってくれ」
「承知いたしました」
 アリサは伊佐々姫の膝の上に座っている悠木を見て、思わずほほえんだ。一呼吸おいて続けた。
「涙の魔術師様、わたくしは今作戦で、あわよくばあなた様のお側にと思っておりました。少し残念です」
「お前を連れていくことはできん」と悠木。
「承知しております」
 アリサは再び笑みを浮かべたが、すぐに真顔に戻った。
「黒魚王閣下、ご武運を祈っております!」
 アリサは敬礼をした。
「元気でな。お前たちの健闘を祈る」
 悠木は姫の膝の上で手を振ってから通信を切った。