ep113 宴

ー/ー



  【6】英雄


「魔剣使いクロー! あんたは救世主だ! 今日はおれたち…いや、この街からの奢りだ! いくらでもガンガン飲み食いしてくれや!」

 夜、とある酒場で俺は手厚いもてなしを受けていた。
 
「よっしゃあ! 飲むぜぇ!」
「食いまくるぜぇ!!」

 調子良く便乗したトレブルとブーストはここぞとばかりに酒食を貪っていた。

「すっかり街の英雄になってしまいましたね! クローさん!」

 隣でシヒロが、まるで自分自身のことのように幸せそうな顔で微笑んだ。シヒロの言うとおり、先の戦いを経て、どうやら俺はサンダースの英雄的な存在となってしまったようだ。

「まあ、これで少なくともこの街にいる間は、国際平和維持軍に捕らわれることもないだろうな」

 俺は酒をグッと飲み干してからグラスを置いた。まさか魔剣使いが英雄になるなんて……しみじみと思った。しかし街の人間の話によれば、魔剣使いについての認識は、俺自身が考えるそれとは異なっていた。

「もともと魔剣使いの評判は旅の商人なんかから噂になってたんだぜ! あの厄介な〔フリーダム〕をたったひとりでやっつけてくれてるってな! まさかあんたがその魔剣使い本人だとは思わなかったがな!」

 つまり、俺が今まで〔フリーダム〕を撃退してまわっていた活動は、すでに一定の評価を積み上げていたということだ。けれど表立って認められるに至っていなかったのは、あくまでも異端の者として国際平和維持軍が追っている存在だったからだ。そんな折、今回キラースがあれだけ派手にやらかしたおかげで、いわば不可抗力的に魔剣使いの評価は公然のものとなってしまったのである。
(特にエレサの闇の魔法から街の人々を守ったシーンはかなりのインパクトを与えたらしい。まあ実際あれはかなり派手でわかりやすく目立っていただろう)
 くわえて、国際平和維持軍特別部隊隊長であり勇者の妹…世界最高の魔法剣士と称されるカレンとの決闘に勝利。一見すると悪役にもなり得そうなその事実も、今日の一連の流れから、むしろ魔剣使いの評価を押し上げることに繋がった。少なくとも民間レベルでは充分ヒーローになってしまったと言って差し支えないだろう。

「魔剣使いクロー。その……わたしもいいか?」

 ふいに俺たちがついているテーブルに、頭からローブを覆った女が近づいてきた。

「お前は……エレサか」

「うん」

「なぜ今さらそんな恰好を?」

「わたしも……街を襲った側の者。怖がるか、敵意を向けられるかもしれない。わたしはそれでも構わないが、それで場を乱すのも忍びないから」

「で、俺になんの用だ?」

「なんの用……だって?」

「?」

「クローは……わたしをどうするつもりなの? はやくそれをおしえて」

 どういうわけかエレサには焦燥感があった。

「……別にどうもしないが」

「は? 意味がわからない。なんの意図も目的もなしにあんなことする? ましてわたしはダークエルフ。人とは違う力を持っている。利用しようと考えるのが普通だろ? 今までだってずっとそうだった。お前は恩義を売ってわたしを利用したいんじゃないの?」

 エレサは必死だった。俺は彼女の言葉の中に、彼女自身のかなしい経験から作り上げられた悲劇的な常識を垣間見た気がした。
 
「じゃあ……エレサはどうしたいんだ?」

 逆にこちらから希望をうかがってみた。するとエレサの顔色が豹変する。

「はぁ? わたしがどうしたいか? それを言ってどうなるの? いい加減わたしをからかうのはやめて!」

 エレサは感情的な声を上げた。泣きそうな声にも聞こえた。

「あ、あの〜、エレサさん……」

 ややたじろぎながらシヒロも会話に入ってきた。

「……なに?」

「その、もし良かったら、なんですけど……」

「?」

「エレサさんも、ぼくたちと一緒に来ませんか?」

「……え?」

 シヒロの出しぬけの提案にエレサは虚をつかれて固まった。突拍子もない提案だったが、俺は少々愉快な気分になる。

「ねえクローさん! ダメですか?」

 シヒロは懇願するような表情で俺を見てきた。俺はやんわりと頬を緩める。

「シヒロの好きにしろ」

「やったぁ! ということでエレサさん! これからよろしくお願いします! ぼく、エルフさんとお友達になるのが夢だったんです!」

 シヒロは歓喜をあらわにしてエレサに駆け寄っていくと、彼女の両手をぐっと掴んでブンブンと揺らし感動に震えた。


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  【6】英雄
「魔剣使いクロー! あんたは救世主だ! 今日はおれたち…いや、この街からの奢りだ! いくらでもガンガン飲み食いしてくれや!」
 夜、とある酒場で俺は手厚いもてなしを受けていた。
「よっしゃあ! 飲むぜぇ!」
「食いまくるぜぇ!!」
 調子良く便乗したトレブルとブーストはここぞとばかりに酒食を貪っていた。
「すっかり街の英雄になってしまいましたね! クローさん!」
 隣でシヒロが、まるで自分自身のことのように幸せそうな顔で微笑んだ。シヒロの言うとおり、先の戦いを経て、どうやら俺はサンダースの英雄的な存在となってしまったようだ。
「まあ、これで少なくともこの街にいる間は、国際平和維持軍に捕らわれることもないだろうな」
 俺は酒をグッと飲み干してからグラスを置いた。まさか魔剣使いが英雄になるなんて……しみじみと思った。しかし街の人間の話によれば、魔剣使いについての認識は、俺自身が考えるそれとは異なっていた。
「もともと魔剣使いの評判は旅の商人なんかから噂になってたんだぜ! あの厄介な〔フリーダム〕をたったひとりでやっつけてくれてるってな! まさかあんたがその魔剣使い本人だとは思わなかったがな!」
 つまり、俺が今まで〔フリーダム〕を撃退してまわっていた活動は、すでに一定の評価を積み上げていたということだ。けれど表立って認められるに至っていなかったのは、あくまでも異端の者として国際平和維持軍が追っている存在だったからだ。そんな折、今回キラースがあれだけ派手にやらかしたおかげで、いわば不可抗力的に魔剣使いの評価は公然のものとなってしまったのである。
(特にエレサの闇の魔法から街の人々を守ったシーンはかなりのインパクトを与えたらしい。まあ実際あれはかなり派手でわかりやすく目立っていただろう)
 くわえて、国際平和維持軍特別部隊隊長であり勇者の妹…世界最高の魔法剣士と称されるカレンとの決闘に勝利。一見すると悪役にもなり得そうなその事実も、今日の一連の流れから、むしろ魔剣使いの評価を押し上げることに繋がった。少なくとも民間レベルでは充分ヒーローになってしまったと言って差し支えないだろう。
「魔剣使いクロー。その……わたしもいいか?」
 ふいに俺たちがついているテーブルに、頭からローブを覆った女が近づいてきた。
「お前は……エレサか」
「うん」
「なぜ今さらそんな恰好を?」
「わたしも……街を襲った側の者。怖がるか、敵意を向けられるかもしれない。わたしはそれでも構わないが、それで場を乱すのも忍びないから」
「で、俺になんの用だ?」
「なんの用……だって?」
「?」
「クローは……わたしをどうするつもりなの? はやくそれをおしえて」
 どういうわけかエレサには焦燥感があった。
「……別にどうもしないが」
「は? 意味がわからない。なんの意図も目的もなしにあんなことする? ましてわたしはダークエルフ。人とは違う力を持っている。利用しようと考えるのが普通だろ? 今までだってずっとそうだった。お前は恩義を売ってわたしを利用したいんじゃないの?」
 エレサは必死だった。俺は彼女の言葉の中に、彼女自身のかなしい経験から作り上げられた悲劇的な常識を垣間見た気がした。
「じゃあ……エレサはどうしたいんだ?」
 逆にこちらから希望をうかがってみた。するとエレサの顔色が豹変する。
「はぁ? わたしがどうしたいか? それを言ってどうなるの? いい加減わたしをからかうのはやめて!」
 エレサは感情的な声を上げた。泣きそうな声にも聞こえた。
「あ、あの〜、エレサさん……」
 ややたじろぎながらシヒロも会話に入ってきた。
「……なに?」
「その、もし良かったら、なんですけど……」
「?」
「エレサさんも、ぼくたちと一緒に来ませんか?」
「……え?」
 シヒロの出しぬけの提案にエレサは虚をつかれて固まった。突拍子もない提案だったが、俺は少々愉快な気分になる。
「ねえクローさん! ダメですか?」
 シヒロは懇願するような表情で俺を見てきた。俺はやんわりと頬を緩める。
「シヒロの好きにしろ」
「やったぁ! ということでエレサさん! これからよろしくお願いします! ぼく、エルフさんとお友達になるのが夢だったんです!」
 シヒロは歓喜をあらわにしてエレサに駆け寄っていくと、彼女の両手をぐっと掴んでブンブンと揺らし感動に震えた。