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第88話 布陣

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 第二特別攻撃作戦の艦隊は、火星の周回軌道基地に最後の補給のために立ち寄った。出航直前のパープルキティに一人の女が乗艦を求めて埠頭に現れた。冥界の女王からの作戦命令書を持っているという。

 女はおよそ軍艦に似つかわしくない紫色のドレスを着ており、肉付きの良い体をしていた。艦長の高田アリサ大佐は女に面会をして命令書を受け取った。女をゲートの向こうにいる特別攻撃艦白鷺(はくろ)に届けよ、とのことだった。


 火星の第一衛星フォボス沖に第二特別攻撃部隊の艦隊が到着した。水先案内の小型艇が艦隊に合流し、誘導をおこなった。特別攻撃艦翆鶴(すいかく)、義勇軍通信艦パープルキティ、防空隊攻撃艦朝風、海軍巡洋艦比叡、春日、ベルン、ボーズ、高雄が縦列で、ゲート予定地の正面から少しずれた待機位置で停船した。

 火星までの護衛として同行していた義勇軍の艦隊、高速巡洋艦ヴィヴィアン、正規空母アルテミス、救難艇ブラヴァツキーはゲート正面の守備のため、第二次特別攻撃隊から少し離れた位置に布陣した。もし敵艦隊がゲートから侵入した場合に、これを迎撃するためである。

 義勇軍ヴィヴィアン艦隊とは別に、アステロイドベルト圏から今作戦の援軍として派遣された艦隊がゲートの裏面に布陣していた。この艦隊は、ヴィヴィアン艦隊の後詰、つまり予備兵力だった。

 この宙域に集結した連合海軍と地球圏防空隊および義勇軍の艦隊は、敵の異星生物の艦隊と正面から戦うことが可能な、地球人類がもつ最後の戦力だった。


 ゲートを開く予定の宙域には、すでに多数の艦艇が活動していた。ゲート予定宙域にエネルギーを供給する大型艦艇三隻が赤と青の強い光を放ち、ゲートの位置を示す標識を付けた小型艦艇多数が宙域を取り巻いていた。

 今回開くゲートは半径二キロメートルの凸型レンズ状で、正面と裏面がある。正面には別の空間につながる穴が開くのだが、裏面からは平面状の黒い物体のように見える。エネルギーの供給を裏面から行い、ゲートを維持する。

 ゲート正面には、すでに数千の小型ミサイル艇が配備されていた。

 第一次から始まった特別攻撃作戦では、人類は初めてゲートをくぐり、敵地に侵入して敵と交戦する。目的は敵地での異星生物の殲滅であり占領ではない。そのため今回の第二次特別攻撃作戦では、核兵器による飽和攻撃という戦術が採用された。敵地であるため、核汚染を心配する必要がないからである。

 地球人類側はこれまで核兵器を限定的にしか使ってこなかった。太陽系内を放射性物質で汚染したくないというのが理由の一つだが、それ以上の戦術的な理由があった。

 これまでにその場しのぎで核兵器を使用したことがあった。その際、その宙域が放射性物質で汚染され、防衛のための活動が制限されてしまった。以降、人類側は、連合海軍、義勇軍に関わらず核兵器の使用を控えていた。

 一方で、異星生物も放射性物質により生物学的な損傷を受けるが、異星生物の艦隊は損害を顧みない突撃戦術をとるため、核汚染は敵の作戦に影響しなかった。基本的に、異星生物は母星には帰投せず、地球侵略の目的を達するまで攻撃を続ける。つまり、ゲートから侵入してくる異星生物の艦隊は使い捨ての兵器であった。

 地球人類側は、これまで異星生物によって一方的に太陽系に侵入され、消耗戦を強いられてきた。だが、今回の特別攻撃作戦では異星生物の本拠地を直接攻撃することで、敵の戦争継続能力を喪失させることが目的だった。

 超新星爆発で敵の母星のある惑星系ごと破壊する。成功すれば、素粒子レベルまで分解されて消えてしまうであろう。敵地での核兵器使用の是非など些細な問題であった。

 リコ・ファレンが率いるフォックス重工はこの作戦で、一万発の核ミサイルと、五百万発の核砲弾を供給する計画を立てた。核ミサイルは主に小型ミサイル艇に一発ずつ搭載して運用する。そのため、ミサイル艇の移送は防衛戦争始まって以来の兵站作戦となった。 

 フォボス沖の前線に供給されたミサイル艇は予定数を大きく下回り、六千艘程度だった。それらはゲート正面に九段に分けて配置された。第一面の端に停泊する大型輸送艦サンライズの艦橋にゲート制御部隊とミサイル艇部隊の指揮所がおかれ、防衛統合本部議長の佐々木武史中将が両部隊の指揮を執っていた。



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 第二特別攻撃作戦の艦隊は、火星の周回軌道基地に最後の補給のために立ち寄った。出航直前のパープルキティに一人の女が乗艦を求めて埠頭に現れた。冥界の女王からの作戦命令書を持っているという。
 女はおよそ軍艦に似つかわしくない紫色のドレスを着ており、肉付きの良い体をしていた。艦長の高田アリサ大佐は女に面会をして命令書を受け取った。女をゲートの向こうにいる特別攻撃艦|白鷺《はくろ》に届けよ、とのことだった。
 火星の第一衛星フォボス沖に第二特別攻撃部隊の艦隊が到着した。水先案内の小型艇が艦隊に合流し、誘導をおこなった。特別攻撃艦|翆鶴《すいかく》、義勇軍通信艦パープルキティ、防空隊攻撃艦朝風、海軍巡洋艦比叡、春日、ベルン、ボーズ、高雄が縦列で、ゲート予定地の正面から少しずれた待機位置で停船した。
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 義勇軍ヴィヴィアン艦隊とは別に、アステロイドベルト圏から今作戦の援軍として派遣された艦隊がゲートの裏面に布陣していた。この艦隊は、ヴィヴィアン艦隊の後詰、つまり予備兵力だった。
 この宙域に集結した連合海軍と地球圏防空隊および義勇軍の艦隊は、敵の異星生物の艦隊と正面から戦うことが可能な、地球人類がもつ最後の戦力だった。
 ゲートを開く予定の宙域には、すでに多数の艦艇が活動していた。ゲート予定宙域にエネルギーを供給する大型艦艇三隻が赤と青の強い光を放ち、ゲートの位置を示す標識を付けた小型艦艇多数が宙域を取り巻いていた。
 今回開くゲートは半径二キロメートルの凸型レンズ状で、正面と裏面がある。正面には別の空間につながる穴が開くのだが、裏面からは平面状の黒い物体のように見える。エネルギーの供給を裏面から行い、ゲートを維持する。
 ゲート正面には、すでに数千の小型ミサイル艇が配備されていた。
 第一次から始まった特別攻撃作戦では、人類は初めてゲートをくぐり、敵地に侵入して敵と交戦する。目的は敵地での異星生物の殲滅であり占領ではない。そのため今回の第二次特別攻撃作戦では、核兵器による飽和攻撃という戦術が採用された。敵地であるため、核汚染を心配する必要がないからである。
 地球人類側はこれまで核兵器を限定的にしか使ってこなかった。太陽系内を放射性物質で汚染したくないというのが理由の一つだが、それ以上の戦術的な理由があった。
 これまでにその場しのぎで核兵器を使用したことがあった。その際、その宙域が放射性物質で汚染され、防衛のための活動が制限されてしまった。以降、人類側は、連合海軍、義勇軍に関わらず核兵器の使用を控えていた。
 一方で、異星生物も放射性物質により生物学的な損傷を受けるが、異星生物の艦隊は損害を顧みない突撃戦術をとるため、核汚染は敵の作戦に影響しなかった。基本的に、異星生物は母星には帰投せず、地球侵略の目的を達するまで攻撃を続ける。つまり、ゲートから侵入してくる異星生物の艦隊は使い捨ての兵器であった。
 地球人類側は、これまで異星生物によって一方的に太陽系に侵入され、消耗戦を強いられてきた。だが、今回の特別攻撃作戦では異星生物の本拠地を直接攻撃することで、敵の戦争継続能力を喪失させることが目的だった。
 超新星爆発で敵の母星のある惑星系ごと破壊する。成功すれば、素粒子レベルまで分解されて消えてしまうであろう。敵地での核兵器使用の是非など些細な問題であった。
 リコ・ファレンが率いるフォックス重工はこの作戦で、一万発の核ミサイルと、五百万発の核砲弾を供給する計画を立てた。核ミサイルは主に小型ミサイル艇に一発ずつ搭載して運用する。そのため、ミサイル艇の移送は防衛戦争始まって以来の兵站作戦となった。 
 フォボス沖の前線に供給されたミサイル艇は予定数を大きく下回り、六千艘程度だった。それらはゲート正面に九段に分けて配置された。第一面の端に停泊する大型輸送艦サンライズの艦橋にゲート制御部隊とミサイル艇部隊の指揮所がおかれ、防衛統合本部議長の佐々木武史中将が両部隊の指揮を執っていた。