第146話 海辺で魔法レッスン

ー/ー



 ダンジョンに入るまではまだ時間があった。
 我としては、ダンジョンの地図を確認しつつ、ミモザと海辺で時間を潰したかったのだが……何が悲しくてパエニアと行動をともにせにゃならんのか。

「いいか、芋! ちゃんと見てろよ?」

 他の生徒たちが賑やかにしているところから少し離れ、海岸の岩場まで連れていかれて何をするのかと思えば、魔法を見せつけたいらしい。散々無関心にあしらったせいで、逆ギレしたとも言う。

「――すぅ」

 む。これは魔力を構築しているのか?
 パエニアを中心にして、つむじ風ではない、何かがそよぐ気配。
 口元はボソボソと何かを詠唱し、集中力も高めているようだった。

閃光迸る一撃の雷鳴(オーバーボルテージ)!」

 手の先からバチバチという破裂音の次いで、光の矢が飛び出す。
 それは海に向かって放たれていき、波しぶきの中へと消えていった。

「なかなか上手にできたではないか」
「なんでそんなに上から目線なんだよ。もっと驚けよ」

 てっきり、手のひらからポタポタこぼれてくる程度の魔法でも披露されるものかと構えていたからちょっと意表を突かれた。ちゃんと実戦に使えそうなレベルとは。

 こっそり魔石か何かを仕込んでいるのかとも思ったが、そのような形跡もないし、それなら今の我でも気付く。あれは確かなパエニアの実力のようだ。

 こいつ、いつの間にこれほどまでの魔法の修練を積んできたのか。
 プディカの実戦稽古もそんなに真面目じゃなかったくせに。
 正直、なめていたのが本音だ。

「我からしたらまだまだ甘い。構築までの時間(ロード)が長い。お前にはちゃんと十分な潜在魔力が備わっておるのだからもっと早くできるはずだ」
「ったく、いちゃもんかよ、おま――――」
「こう、構えた方が循環はしやすいだろう」

 パエニアの腕を持ち上げ、真っ直ぐにし、ついでに姿勢を正す。
 カッコつけかなんだか知らんが、魔法使うときくらいはしゃんとしろ。

「ちょ、ちょ、お、おい……」
「ほら、もう一度打ってみろ。今度は指の先まで感覚を研ぎ澄まして、魔法を放つ位置を意識するんだ」

 肩の後ろ側から手を回して、腕を固定するように持ってやる。
 密接していることもあり、パエニアの中の魔力の流れも分かりやすい。

「……お、閃光迸る一撃の雷鳴(オーバーボルテージ)!」

 再び、パエニアの手から光が飛び出す。
 だが、しかし――

「おい、さっきより集中力が乱れているではないか。構築も雑になっておるし、方向もデタラメだし」
「お前が! お前がひっついてくるからだろ!?」
「我のせいにするな。魔法を見せつけたいのならちゃんとやるのが筋だろうに」

 さっきのはよもや、マグレだったのではあるまいな。

 我も少し買いかぶりすぎたか? こんな中途半端な形で満足されては困るのだが。
 仮にも、人前に披露するつもりでいたのなら尚更な。

「まあ、お前が魔法を使えるようで安心したぞ。あとは本番で焦って阿呆なことをしでかさぬようにな」
「バ……、この! この俺様がヘマするわけがないだろ! お前こそ、洞窟で滑ってケガすんじゃねえぞ!?」
「ああ、十分に注意しておくともさ」

 我も、うかうかしてはいられんな。
 パエニアにあれだけの魔法を使われてしまっては立つ瀬もない。

 少しは魔法の使い方を取り戻してきたつもりではあるが、やはり浄血の儀式によって失ったものは小さくはなかったようだ。
 おそらくクラスでも、いや学院内でも最も成長が遅いのは我だろう。

 実際、魔法実技の授業でもクラスメイトたちより遅れていることは自覚している。
 才能がないと言われてきた生徒たちも簡単な魔法くらいなら魔石なしでも使えるようになってきているのだ。

「じゃ、じゃあよ、もっと何処を直せばいいのか教えろよ」
「それが人にものを頼む態度か? まったく……まあ、相談をかけてくるなら乗ってやるがな。まず、魔力の構築には――」

 ※ ※ ※

「じゃあ、次のペア。はい、出発!」

 そんなこんなで結局ミモザと戯れる余裕もなく、ただただパエニアに魔法の指導をしただけでダンジョン探索の時間となってしまった。

「ああ、一応言っておくけど、洞窟内は複雑に入り組んでて、先のペアや他のクラスの子と合流しちゃう場合もあるから、そういうときはケンカしないで道を譲り合うか、必要に応じて協力するように」

 ダリアも教職員として大分板についてきたのか、一言二言が何とも多い。

「さてと……、迷子になるなよ、パエニア」
「お前こそ、道に迷ってピーピー泣くんじゃねえぞ」

 海岸の岩場付近に口を開けるようにぽっかりと空いた洞窟を前に、溜め息をついてしまう。これで隣にいるのがミモザだったらよかったのにな、と。
 今さらどうもしようもなく、我とパエニアは並んで洞窟に足を踏み入れる。

 中の方は想像通りと言うべきか磯臭く、海水まみれ。やけにぬるぬるとした足場の悪さもさることながら、水たまりを避けて移動できそうにないのが厄介だ。

 もちろん、最初から我も耐水性の装備で来ているし、当然水に浸かることも想定内で、分かりきっていたことなのだが、思う以上に行動が狭まってしまう。

「思ったより深いな……、おい、芋。溺れるなよ」
「足ぐらいつくわ」

 ちょっと背伸びしないと口のところにまで海水が迫ってくるのだが。

 そんな調子でジャブジャブと洞窟内を進行していく。
 奥に進むにつれて、水場の比率が上がっていき、陸に上がる頻度も下がる。

 これはなかなか堪えるな。
 確かに、学校で訓練しているだけじゃできない経験ではある。

「む、ちょっと広いところに出たな。少し休むか? パエニア」
「ああ、さすがに泳ぎ疲れた。ったく、面倒くさい授業だぜ」

 地底湖というと語弊があるかもしれないが、海水のプールが点々とした広い空間に出た。地図によれば、これでもまだ浅い階層で、半分も進んでいない。
 本業の冒険者たちはここからさらに潜水して奥の洞窟を目指すのだとか。

 さすがにネルムフィラ魔導士学院の生徒たちにはそんなスキルは求められておらず、陸地ルートを経由して出口を目指すことになっている。
 ご丁寧にも、立ち入り禁止を指示する看板もあちこちに手配されていた。

 ふと、見渡してみると、明らかに冒険者ではない何者か、おそらくは学校の職員らしき者が何人か立っていた。ああやって、生徒の安全を確認しているのだろう。
 すると、こちらに気付いたのか職員の一人が近付いてくる。

「ダリア教諭の生徒だな。ここから先には獰猛な水生生物が生息している。心して掛かるように。魔法の使用には制限を設けないが、無闇やたらと使用せず、必要最低限に留めること」

 ああ、いよいよ交戦か。たっぷり泳いで体力作りをさせてもらったところで、ついに魔法を活用しての実戦開始ということか。
 プディカのスパルタ授業に比べたらぬるいものだが、そこそこハードだな。

「パエニア。お前は授業外での実戦は初めてなのだろう? 気を引き締めることだ」
「俺様に言ってんのか? 雑魚なんざ俺様の魔法で蹴散らしてやるよ」

 ぁー、今からでもペアを替えてもらえぬものだろうか。

「それだけ体力があるのなら大丈夫だろう。ルートはこっちだ。この先にも分岐点はいくつかあるが、地図を確認しながら適宜判断するように」

 そういって職員は道を示す。生徒の誘導も大変そうだな。
 ずっとここに待機しなきゃならないわけだし。

 さて、我も気を引き締めていくか。今の実力で何処までできるか。せいぜいパエニアに無様を晒さないようにしなければ。
 あとでパエニアから笑いものにされるのだけは勘弁願いたいからな。


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 ダンジョンに入るまではまだ時間があった。
 我としては、ダンジョンの地図を確認しつつ、ミモザと海辺で時間を潰したかったのだが……何が悲しくてパエニアと行動をともにせにゃならんのか。
「いいか、芋! ちゃんと見てろよ?」
 他の生徒たちが賑やかにしているところから少し離れ、海岸の岩場まで連れていかれて何をするのかと思えば、魔法を見せつけたいらしい。散々無関心にあしらったせいで、逆ギレしたとも言う。
「――すぅ」
 む。これは魔力を構築しているのか?
 パエニアを中心にして、つむじ風ではない、何かがそよぐ気配。
 口元はボソボソと何かを詠唱し、集中力も高めているようだった。
「|閃光迸る一撃の雷鳴《オーバーボルテージ》!」
 手の先からバチバチという破裂音の次いで、光の矢が飛び出す。
 それは海に向かって放たれていき、波しぶきの中へと消えていった。
「なかなか上手にできたではないか」
「なんでそんなに上から目線なんだよ。もっと驚けよ」
 てっきり、手のひらからポタポタこぼれてくる程度の魔法でも披露されるものかと構えていたからちょっと意表を突かれた。ちゃんと実戦に使えそうなレベルとは。
 こっそり魔石か何かを仕込んでいるのかとも思ったが、そのような形跡もないし、それなら今の我でも気付く。あれは確かなパエニアの実力のようだ。
 こいつ、いつの間にこれほどまでの魔法の修練を積んできたのか。
 プディカの実戦稽古もそんなに真面目じゃなかったくせに。
 正直、なめていたのが本音だ。
「我からしたらまだまだ甘い。構築までの時間《ロード》が長い。お前にはちゃんと十分な潜在魔力が備わっておるのだからもっと早くできるはずだ」
「ったく、いちゃもんかよ、おま――――」
「こう、構えた方が循環はしやすいだろう」
 パエニアの腕を持ち上げ、真っ直ぐにし、ついでに姿勢を正す。
 カッコつけかなんだか知らんが、魔法使うときくらいはしゃんとしろ。
「ちょ、ちょ、お、おい……」
「ほら、もう一度打ってみろ。今度は指の先まで感覚を研ぎ澄まして、魔法を放つ位置を意識するんだ」
 肩の後ろ側から手を回して、腕を固定するように持ってやる。
 密接していることもあり、パエニアの中の魔力の流れも分かりやすい。
「……お、|閃光迸る一撃の雷鳴《オーバーボルテージ》!」
 再び、パエニアの手から光が飛び出す。
 だが、しかし――
「おい、さっきより集中力が乱れているではないか。構築も雑になっておるし、方向もデタラメだし」
「お前が! お前がひっついてくるからだろ!?」
「我のせいにするな。魔法を見せつけたいのならちゃんとやるのが筋だろうに」
 さっきのはよもや、マグレだったのではあるまいな。
 我も少し買いかぶりすぎたか? こんな中途半端な形で満足されては困るのだが。
 仮にも、人前に披露するつもりでいたのなら尚更な。
「まあ、お前が魔法を使えるようで安心したぞ。あとは本番で焦って阿呆なことをしでかさぬようにな」
「バ……、この! この俺様がヘマするわけがないだろ! お前こそ、洞窟で滑ってケガすんじゃねえぞ!?」
「ああ、十分に注意しておくともさ」
 我も、うかうかしてはいられんな。
 パエニアにあれだけの魔法を使われてしまっては立つ瀬もない。
 少しは魔法の使い方を取り戻してきたつもりではあるが、やはり浄血の儀式によって失ったものは小さくはなかったようだ。
 おそらくクラスでも、いや学院内でも最も成長が遅いのは我だろう。
 実際、魔法実技の授業でもクラスメイトたちより遅れていることは自覚している。
 才能がないと言われてきた生徒たちも簡単な魔法くらいなら魔石なしでも使えるようになってきているのだ。
「じゃ、じゃあよ、もっと何処を直せばいいのか教えろよ」
「それが人にものを頼む態度か? まったく……まあ、相談をかけてくるなら乗ってやるがな。まず、魔力の構築には――」
 ※ ※ ※
「じゃあ、次のペア。はい、出発!」
 そんなこんなで結局ミモザと戯れる余裕もなく、ただただパエニアに魔法の指導をしただけでダンジョン探索の時間となってしまった。
「ああ、一応言っておくけど、洞窟内は複雑に入り組んでて、先のペアや他のクラスの子と合流しちゃう場合もあるから、そういうときはケンカしないで道を譲り合うか、必要に応じて協力するように」
 ダリアも教職員として大分板についてきたのか、一言二言が何とも多い。
「さてと……、迷子になるなよ、パエニア」
「お前こそ、道に迷ってピーピー泣くんじゃねえぞ」
 海岸の岩場付近に口を開けるようにぽっかりと空いた洞窟を前に、溜め息をついてしまう。これで隣にいるのがミモザだったらよかったのにな、と。
 今さらどうもしようもなく、我とパエニアは並んで洞窟に足を踏み入れる。
 中の方は想像通りと言うべきか磯臭く、海水まみれ。やけにぬるぬるとした足場の悪さもさることながら、水たまりを避けて移動できそうにないのが厄介だ。
 もちろん、最初から我も耐水性の装備で来ているし、当然水に浸かることも想定内で、分かりきっていたことなのだが、思う以上に行動が狭まってしまう。
「思ったより深いな……、おい、芋。溺れるなよ」
「足ぐらいつくわ」
 ちょっと背伸びしないと口のところにまで海水が迫ってくるのだが。
 そんな調子でジャブジャブと洞窟内を進行していく。
 奥に進むにつれて、水場の比率が上がっていき、陸に上がる頻度も下がる。
 これはなかなか堪えるな。
 確かに、学校で訓練しているだけじゃできない経験ではある。
「む、ちょっと広いところに出たな。少し休むか? パエニア」
「ああ、さすがに泳ぎ疲れた。ったく、面倒くさい授業だぜ」
 地底湖というと語弊があるかもしれないが、海水のプールが点々とした広い空間に出た。地図によれば、これでもまだ浅い階層で、半分も進んでいない。
 本業の冒険者たちはここからさらに潜水して奥の洞窟を目指すのだとか。
 さすがにネルムフィラ魔導士学院の生徒たちにはそんなスキルは求められておらず、陸地ルートを経由して出口を目指すことになっている。
 ご丁寧にも、立ち入り禁止を指示する看板もあちこちに手配されていた。
 ふと、見渡してみると、明らかに冒険者ではない何者か、おそらくは学校の職員らしき者が何人か立っていた。ああやって、生徒の安全を確認しているのだろう。
 すると、こちらに気付いたのか職員の一人が近付いてくる。
「ダリア教諭の生徒だな。ここから先には獰猛な水生生物が生息している。心して掛かるように。魔法の使用には制限を設けないが、無闇やたらと使用せず、必要最低限に留めること」
 ああ、いよいよ交戦か。たっぷり泳いで体力作りをさせてもらったところで、ついに魔法を活用しての実戦開始ということか。
 プディカのスパルタ授業に比べたらぬるいものだが、そこそこハードだな。
「パエニア。お前は授業外での実戦は初めてなのだろう? 気を引き締めることだ」
「俺様に言ってんのか? 雑魚なんざ俺様の魔法で蹴散らしてやるよ」
 ぁー、今からでもペアを替えてもらえぬものだろうか。
「それだけ体力があるのなら大丈夫だろう。ルートはこっちだ。この先にも分岐点はいくつかあるが、地図を確認しながら適宜判断するように」
 そういって職員は道を示す。生徒の誘導も大変そうだな。
 ずっとここに待機しなきゃならないわけだし。
 さて、我も気を引き締めていくか。今の実力で何処までできるか。せいぜいパエニアに無様を晒さないようにしなければ。
 あとでパエニアから笑いものにされるのだけは勘弁願いたいからな。