第144話 さながら楽園の店

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 海辺でダンジョン探索するぞー。おー。
 などと言われてしまったが、正直今のレベルで大丈夫なのだろうか。

 確かにクラスメイトたちも少しは魔法を使えるようにはなっているが、実戦レベルかといわれるとそれは直ぐに首を振れない。

 主旨としては、形式張った学校内の授業ではなく、外で魔法を使うことに慣れるための訓練という意味合いが強いのだろうが、その教育方針はどうなのだろう。

 まあ、魔力の才を根絶された我でも、生まれつき潜在魔力に恵まれなかったミモザにも、魔法を習得できるようになったのだから、方針を否定できないのだが。

 ともあれ、海の方に遠征するということが決まり、相応の装備が必要になったわけだが、さしものネルムフィラ魔導士学院も個人の装備やら何やらまでは支給しないようで、そこは自分たちで調達することになった。

 なんといっても泊まりがけだしな。

 そういった経緯もあり、我とミモザと、あとクラスメイトの女子たちはミモザの店へと押しかけていた。
 冒険者たちの旅道具を取りそろえているのだから当然と言えば当然の帰結か。

 普段はむさ苦しい冒険者たちが押し寄せてくるこの店も、貴族の娘たちが集まってきたこともあって、あたかも違う店に帰ってきたみたいだ。

 従業員も皆、女だし、今ここにいるのは我も含めて女だけの花園だ。
 かつてこんなにもこの店が華やかになったことなどあっただろうか。

「すっご~い! これってミモザちゃんが作ったの?」
「えへへ……発案はほとんどわたしれすが、最近はお店の皆さんにも手伝ってもらってるんでしゅよ」

 そういって棚の商品を物色している。
 確かに優秀な従業員が増えてからというもの、この店の商品の質は格段に上がっている。高額にしすぎても商品としてアレなので、性能も微調整して販売しているが。

「こっちの木彫りの人形、かわいいっすね! これもミモザ様が?」
「あ、それは中身はわたしの魔水晶が仕込んであるのでふが、人形はノイデスしゃんが作ってくれましら」
「ノイデス様っすか。こんな繊細で精巧な人形、初めて見たっす。きっとものすごく奥ゆかしい方なんすね!」

 あまり妄想膨らませてくれるなよ。お前の後ろで黒光りの肉体をムキムキさせているハーフオーガが複雑な表情を浮かべているぞ。

「さて。海の近くのダンジョンだから濡れても問題ない格好だとか言われたが、耐水性の魔具はまだ在庫があったかな」

 一応は、それっぽい上着はあるのだが、さすがにミモザの店に女子向けにデザインされた衣類は作っていない。少なくとも、貴族の娘たちにとっては厚ぼったい。

「あらあらぁ、可愛いお嬢さんたちには~、ちゃあんと可愛らしい格好がいいんじゃないですかぁ?」

 そう言って現われたのは褐色肌ののほほんエルフ、デニアだった。
 その後ろから、ヤスミもくっついてくる。

「拙者も見繕いますよ! 生地も材料も十分にありますし、着たまま泳げる服もすぐ作れます」

 普段、男の接客率が高い従業員たちは、珍しくも可憐な客たちに興味津々というのが見てとれた。サービス精神旺盛とはこのことか。

 早速と言わんばかりに、ヤスミが布生地と鋏を手にする。
 次の瞬間、それらは宙を舞い、目にも留まらぬ早さで寸断されたかと思えば、直ぐさま縫い合わされて服の形になる。

 加えて、デニアが魔法を施すと、服は淡く光り、キレイに仕上げられる。
 採寸はともかくとして、一瞬にして一着のドレスがそこに完成していた。これには思わずクラスメイトの女子たちも拍手喝采だ。

 相変わらず腕の立つ職人だらけだな、この店。

「じゃあ、デニアしゃん、ヤスミしゃん。皆さんの服をお願いできまふか?」
「ええ、もちろんですよぉ~」
「拙者たちにお任せください!」

 その一声に、また周囲はワッと賑やかになっていく。普段とはまた違う、賑やかさだ。しれっと窓の外を見てみたら、常連客たちが涙を流して店内を眺めていた。

 まるで聖域の結界に阻まれて立ち入れない邪な者のよう。別に店を貸し切りにした覚えはないのだが、いつもと違う空気を汲み取ってくれたのだろうか。
 まあ、これだけ貴族の娘がいたらそうもなるか。

「デザインに凝るのもいいが、仮にも訓練を兼ねたダンジョン探索だ。身動きの取りづらい格好だと苦労するかもしれんぞ」
「そうれすね……あまり飾りっけのない感じがいいかもでふね」

 まさかドレスを着たまま動き回るわけにもいかない。ダリアからの話によれば、魔法を使う実戦も想定しているようだし。

「それではフィー殿。このようなお召し物でいかがですか?」

 シャシャシャっとヤスミがこさえてきたのは、上から下まで一体型の服だった。
 袖もなく、裾もなく、胴体だけを丸々紺色の布地が包む感じだ。
 見るからに動きやすそうなのは分かる。

「これは、まるで水を()くように弾くことができるため、拙者の故郷では()ク水と呼ばれている服なんですよ。余計な装飾もないのでうっかり水に落っこちても身動きがとれやすく、泳ぎやすい代物です」

 ほぅ、スク水か。聞いたことはないが、ヤスミの故郷では一般的なのだろうか。
 身体のラインがそのまま出てしまうのは少々アレだが、別に遊び目的ではないのだし、利便性を見ればこれほどのものはないだろう。

 何より、露出度も少ないし、最適まであるのでは。

「この梳ク水には仕掛けがあって、下腹部に水抜き穴があって、中に水が入り込んでもはき出せるようにもなっているんですよ」

 そういって、ヤスミはスク水の腹の部分に指を突っ込んで、開いてみせる。
 なんという画期的な服だろう。おあつらえ向きではないか。

「これは素晴らしいな。なら、我はこのスク水とやらにするとしよう」
「ふえ~、面白い仕組みでふね。わたしもこのデザインが気に入りましら!」

 と、ミモザはスク水の生地を触ったり、伸ばしたりと自分の手で確かめていた。素材のせいか、結構思っていたより伸縮するっぽい。面白い服もあったもんだ。

「あの、あの、店員さん、じゃあ私はこういうのが――」
「例えば、こういった感じのは――」
「わたくし的にはデザインを――」

 クラスメイトの女子たちが一斉に従業員たちに詰め寄っていく。
 そこでたじろがず、サッと対応していくのがミモザの従業員たちである。

 その場で要望に対応して、作り上げてしまえる技量には感服してしまう。
 そうして、次々に思い思いの耐水性の服が出来上がっていき、店の中はさらに黄色い声でいっぱいになる。

「ほっほっほ。試着はこちらの方でするといいのですよ」

 いつの間にか、サンシが簡易な試着室をこさえていた。こっちも仕事が早い。
 カーテンもついてるし、中には姿見もあるし、至れり尽くせりか、この店。

「皆しゃん……ありがとうございます」
「何を言ってるんですか、店長」
「拙者たちはご学友の皆様のためになればこそ」
「これも仕事ですとも。お嬢が気負うことなど何もないのです」

 そういって従業員たちは一様に笑顔を見せる。なんて眩しい。
 やや離れた位置では、ノイデスも何やら若干にやけている。

 あまり小さな女の子たちの前には出づらいのだろうか。
 それでも、自分のこさえた魔具を褒めちぎられて照れているのがよく分かる。

「臨海学校の準備もこれで完璧だな」
「何だか楽しみになってきましらね、フィーしゃん」

 女の子たちがキャッキャワイワイとはしゃぐ店内を眺めながらも、我とミモザは何とも穏やかな気持ちになれていたと思う。
 あとは、臨海学校で何事もないことを祈るばかりだ。


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 海辺でダンジョン探索するぞー。おー。
 などと言われてしまったが、正直今のレベルで大丈夫なのだろうか。
 確かにクラスメイトたちも少しは魔法を使えるようにはなっているが、実戦レベルかといわれるとそれは直ぐに首を振れない。
 主旨としては、形式張った学校内の授業ではなく、外で魔法を使うことに慣れるための訓練という意味合いが強いのだろうが、その教育方針はどうなのだろう。
 まあ、魔力の才を根絶された我でも、生まれつき潜在魔力に恵まれなかったミモザにも、魔法を習得できるようになったのだから、方針を否定できないのだが。
 ともあれ、海の方に遠征するということが決まり、相応の装備が必要になったわけだが、さしものネルムフィラ魔導士学院も個人の装備やら何やらまでは支給しないようで、そこは自分たちで調達することになった。
 なんといっても泊まりがけだしな。
 そういった経緯もあり、我とミモザと、あとクラスメイトの女子たちはミモザの店へと押しかけていた。
 冒険者たちの旅道具を取りそろえているのだから当然と言えば当然の帰結か。
 普段はむさ苦しい冒険者たちが押し寄せてくるこの店も、貴族の娘たちが集まってきたこともあって、あたかも違う店に帰ってきたみたいだ。
 従業員も皆、女だし、今ここにいるのは我も含めて女だけの花園だ。
 かつてこんなにもこの店が華やかになったことなどあっただろうか。
「すっご~い! これってミモザちゃんが作ったの?」
「えへへ……発案はほとんどわたしれすが、最近はお店の皆さんにも手伝ってもらってるんでしゅよ」
 そういって棚の商品を物色している。
 確かに優秀な従業員が増えてからというもの、この店の商品の質は格段に上がっている。高額にしすぎても商品としてアレなので、性能も微調整して販売しているが。
「こっちの木彫りの人形、かわいいっすね! これもミモザ様が?」
「あ、それは中身はわたしの魔水晶が仕込んであるのでふが、人形はノイデスしゃんが作ってくれましら」
「ノイデス様っすか。こんな繊細で精巧な人形、初めて見たっす。きっとものすごく奥ゆかしい方なんすね!」
 あまり妄想膨らませてくれるなよ。お前の後ろで黒光りの肉体をムキムキさせているハーフオーガが複雑な表情を浮かべているぞ。
「さて。海の近くのダンジョンだから濡れても問題ない格好だとか言われたが、耐水性の魔具はまだ在庫があったかな」
 一応は、それっぽい上着はあるのだが、さすがにミモザの店に女子向けにデザインされた衣類は作っていない。少なくとも、貴族の娘たちにとっては厚ぼったい。
「あらあらぁ、可愛いお嬢さんたちには~、ちゃあんと可愛らしい格好がいいんじゃないですかぁ?」
 そう言って現われたのは褐色肌ののほほんエルフ、デニアだった。
 その後ろから、ヤスミもくっついてくる。
「拙者も見繕いますよ! 生地も材料も十分にありますし、着たまま泳げる服もすぐ作れます」
 普段、男の接客率が高い従業員たちは、珍しくも可憐な客たちに興味津々というのが見てとれた。サービス精神旺盛とはこのことか。
 早速と言わんばかりに、ヤスミが布生地と鋏を手にする。
 次の瞬間、それらは宙を舞い、目にも留まらぬ早さで寸断されたかと思えば、直ぐさま縫い合わされて服の形になる。
 加えて、デニアが魔法を施すと、服は淡く光り、キレイに仕上げられる。
 採寸はともかくとして、一瞬にして一着のドレスがそこに完成していた。これには思わずクラスメイトの女子たちも拍手喝采だ。
 相変わらず腕の立つ職人だらけだな、この店。
「じゃあ、デニアしゃん、ヤスミしゃん。皆さんの服をお願いできまふか?」
「ええ、もちろんですよぉ~」
「拙者たちにお任せください!」
 その一声に、また周囲はワッと賑やかになっていく。普段とはまた違う、賑やかさだ。しれっと窓の外を見てみたら、常連客たちが涙を流して店内を眺めていた。
 まるで聖域の結界に阻まれて立ち入れない邪な者のよう。別に店を貸し切りにした覚えはないのだが、いつもと違う空気を汲み取ってくれたのだろうか。
 まあ、これだけ貴族の娘がいたらそうもなるか。
「デザインに凝るのもいいが、仮にも訓練を兼ねたダンジョン探索だ。身動きの取りづらい格好だと苦労するかもしれんぞ」
「そうれすね……あまり飾りっけのない感じがいいかもでふね」
 まさかドレスを着たまま動き回るわけにもいかない。ダリアからの話によれば、魔法を使う実戦も想定しているようだし。
「それではフィー殿。このようなお召し物でいかがですか?」
 シャシャシャっとヤスミがこさえてきたのは、上から下まで一体型の服だった。
 袖もなく、裾もなく、胴体だけを丸々紺色の布地が包む感じだ。
 見るからに動きやすそうなのは分かる。
「これは、まるで水を梳《す》くように弾くことができるため、拙者の故郷では梳《ス》ク水と呼ばれている服なんですよ。余計な装飾もないのでうっかり水に落っこちても身動きがとれやすく、泳ぎやすい代物です」
 ほぅ、スク水か。聞いたことはないが、ヤスミの故郷では一般的なのだろうか。
 身体のラインがそのまま出てしまうのは少々アレだが、別に遊び目的ではないのだし、利便性を見ればこれほどのものはないだろう。
 何より、露出度も少ないし、最適まであるのでは。
「この梳ク水には仕掛けがあって、下腹部に水抜き穴があって、中に水が入り込んでもはき出せるようにもなっているんですよ」
 そういって、ヤスミはスク水の腹の部分に指を突っ込んで、開いてみせる。
 なんという画期的な服だろう。おあつらえ向きではないか。
「これは素晴らしいな。なら、我はこのスク水とやらにするとしよう」
「ふえ~、面白い仕組みでふね。わたしもこのデザインが気に入りましら!」
 と、ミモザはスク水の生地を触ったり、伸ばしたりと自分の手で確かめていた。素材のせいか、結構思っていたより伸縮するっぽい。面白い服もあったもんだ。
「あの、あの、店員さん、じゃあ私はこういうのが――」
「例えば、こういった感じのは――」
「わたくし的にはデザインを――」
 クラスメイトの女子たちが一斉に従業員たちに詰め寄っていく。
 そこでたじろがず、サッと対応していくのがミモザの従業員たちである。
 その場で要望に対応して、作り上げてしまえる技量には感服してしまう。
 そうして、次々に思い思いの耐水性の服が出来上がっていき、店の中はさらに黄色い声でいっぱいになる。
「ほっほっほ。試着はこちらの方でするといいのですよ」
 いつの間にか、サンシが簡易な試着室をこさえていた。こっちも仕事が早い。
 カーテンもついてるし、中には姿見もあるし、至れり尽くせりか、この店。
「皆しゃん……ありがとうございます」
「何を言ってるんですか、店長」
「拙者たちはご学友の皆様のためになればこそ」
「これも仕事ですとも。お嬢が気負うことなど何もないのです」
 そういって従業員たちは一様に笑顔を見せる。なんて眩しい。
 やや離れた位置では、ノイデスも何やら若干にやけている。
 あまり小さな女の子たちの前には出づらいのだろうか。
 それでも、自分のこさえた魔具を褒めちぎられて照れているのがよく分かる。
「臨海学校の準備もこれで完璧だな」
「何だか楽しみになってきましらね、フィーしゃん」
 女の子たちがキャッキャワイワイとはしゃぐ店内を眺めながらも、我とミモザは何とも穏やかな気持ちになれていたと思う。
 あとは、臨海学校で何事もないことを祈るばかりだ。