第143話 魔王軍VS討伐隊のお話
ー/ー
「おい、ダリア。その北方基地というのはノースポール山脈のことか? ならば間違っておるぞ。魔王軍は地の利がなかったわけでも弱っていたわけでもない! 天候が荒れることを事前に察知して幹部に移動命令を下したのだ。まさか吹雪の中を突っ込んでくる愚か者が集団で掛かってくるとまでは予測できていなかったからな!」
そこまで言って我はハッと我に返る。うっかり当事者側の発言をしてしまった。
一方のダリアはキョトンとした表情を浮かべてる。そっちも当事者だろうに、なんでそのあたりのところを理解しておらんのだ!
「フィー様、詳しいんですね」
「ほへー、フィーしゃんすごいれしゅ」
くそぅ……なんか、思い切りまずい失言だった気がするのだが。
「わ、分かってたわ。ええ、分かってたわよ。魔王軍が手薄になることを読んで、あえて猛吹雪の中を進軍してたの。意表をついてこそでしょ、こういうの」
「半数以上の遭難者を出しておいて粋がるな。犠牲多き勝利を誇らしく語るとは、ダリアという女には血も涙もないのか」
さしものダリアも教師という体面上、揚げ足取りにカチンときたのか、分かりやすいくらいに表情が険しくなり、ムムっとする。
「どうせ私には血も涙もないわよ」
かといって、言い返す言葉もないのか、それとも自重したのか、妙に開き直った言葉を飄々と吐き捨てられてしまった。
「大体アンタ、なんでそんなことを知って――」
そこまで言おうとして言葉に詰まったようで、時間が止まったかのように一瞬だけダリアが静止する。なんか、割とガチめに我が魔王軍の司令塔だったことを忘れていたかのような顔をした気がするんだが。
「そのくらい、レッドアイズ国の記録にも残っておるわ。なんだったらこの手の武勇伝で小銭稼ぐ輩も少なくはない」
おそらくだが、ダリアもそのうちの一人っぽいし。
ちなみに、これは口からでまかせではなく事実である。出版する側もする側だが、やはり戦争をネタにする類いはウケがいいらしく、かなり出回っていた。
中には、武勇伝の本で情報を仕入れて自称勇者を名乗る阿呆どももあちこちにいたりしたのだが……この辺りまではダリアも把握しきれていないのだろうか。
「くぅ~……、勉強できちゃう良い子ちゃんなのが悔しいわ」
「ふははははははははははっ!!!! 我を侮るでないわ!」
とはいえ、咄嗟に当事者にしか分かりようのない情報をもらしてしまったのは迂闊が過ぎる。レッドアイズ側の情報と、魔王軍側との情報では意味が大分異なる。
「ねえねえ、ダリア先生! その、ノースポールの基地を制圧した後はどうしたんですか!?」
いたたまれなくなったのか、あるいは、中断されてしまった話の続きが気になって仕方なかったのか、仕切り直すように男子生徒が口火を切る。
「ああ、うん、ま、無事にとはいかなかったけど、魔王軍の拠点を潰せたし、重要な情報も得られたからレッドアイズに帰還して万々歳、ってとこかな」
ダリアが歯切れ悪そうに言う。
生徒が知らないと思ってシラを切るつもりか。
「ノースポールの基地に移動命令が下されたということは、大したものは残ってなかったはずだ。それどころか、レッドアイズ討伐隊の連中が撤退した隙を狙って、西のプリムラ地方への襲撃をまんまと見過ごしてしまったのを忘れたか?」
おっと、この辺りを書いている武勇伝はなかったかな。
かなりの大損害だったから記録からもおおっぴらにされてなかったような。
まあ、今更ではあるのだが。
「ちょ、ちょっとフィー!」
さしものダリアも顔を真っ赤にする。ああ、愉快愉快。
「歴史を教える教師なら事実史実は正確に頼むぞ」
とりあえず、はん、と笑ってみせた。
「魔王軍ってしたたかなんすね……」
「どうして魔王はそんなに侵略行為を続けるのでしょう?」
疑問の顔を浮かべる生徒たちの視線が、ダリアを向くべきか、我を向くべきかで迷い始めてきた様子。
「フィーしゃん……?」
ミモザまでもがきょとんとした顔でこっちを見てくる。
いや、我がその真実を知っているという確信めいた目なのは分かっておるが。
かといって、これ以上、ボロをボロボロ出すのも忍びない。
「えーと……それは……」
そして、そこで言葉を詰まらせるなよ教師!
「魔王は――別に、無作為に侵略行為をしていたわけでは――ないと思うぞ」
少々、白々しかっただろうか。
我の口から魔王のことを語るなど、なんと阿呆らしい。
「技術革新に驕り高ぶる種族への抑制こそ、魔王の目的であり――恐怖政治という強行を良しとした歪曲の正義を掲げるのが魔王軍――なのだ」
……。
…………。
すっごい静まりかえったんだが。
なんで誰も「へー」とも「ほー」とも言わんのだ。
あたかも、その言葉が嘘とか出任せなどではなく、本人の言葉で語られた真実であるかのようではないか。
「――なんだかフィー様、魔王みたいですね」
沈黙を突き破る開口一番の一言にグサリと心臓を突かれるような衝撃が走る。
「ふぃ、フィーしゃんが魔王しゃんなわけないじゃないでふかぁ~」
そこで猛烈なフォローをしてくれるなよ、ミモザ。
怪しさと信憑性がグイグイ上り詰めてしまうではないか。
「わ、わ、わ、わ、わ、我が魔王なわけがなななな、なかろうではないだろうが!」
「そこでテンパってどうすんのよフィー。何言ってるのか分からないし」
この我が焦っているだと? バカな……。
「ふぅー……、ま、私も教師として勉強しておく課題は山積みということで――一先ず今日の授業はここまでとしましょう」
パンパンと手を叩いて、ダリアが注目をそちらに集めさせる。
空中を漂っていた文字列も掻き消えていき、教室内の空気も切り替わる。
「ああ、そうそう。これを言っておかないとね」
そういうと、ダリアは杖を振るい、今度は文字列ではなく映像を投影した。
そこに出現したのは、波の打ち寄せる海の光景だった。
「はい。ということで、うちの学校では初めての校外学習として臨海学校を行います。みんな、魔法の取り扱い方も覚えてきた頃合いだしね。おうちの人にも手紙は送ってあるから、参加できないって子は事前に連絡するように」
臨海学校……とな?
要は、海辺の近くにこさえた宿舎にしばらく滞在しての集団訓練か。
「おいおい、なんで海なんだよ。別にこの学校でもできることなんじゃねーのか」
そこで声を挙げたのはパエニアだった。露骨に面倒臭い、と顔に書いてある。
馬車通学も禁止されて、徒歩での通学も嫌気が差していたことだろう。
そんな矢先に、遠出かつ泊まりがけと聞かされては黙っていられなかったか。
「まあまあ。学校ではできない経験ってのもあるのよ。それに海といっても、ただ浜辺でかけっこするわけじゃなくてね。学校の調査で訓練として丁度いいと認可されたダンジョンがあるの。言ってみれば、ダンジョン探索ね」
貴族だらけの学校で、そんな冒険者まがいのことをさせられるのか。
パエニアじゃなくとも、さすがに不安や不満の表情が増えてきたのを見てとれた。
「いつも言ってるけど、魔法を学ぶってことはそれ相応の覚悟を持たなければならないの。楽しい愉快な玩具じゃないんだからね。何のために魔法があって、何のために魔法を使うのか。それを学ぶための臨海学校です」
先生のようにぴしゃりと言ってのけるダリアの言葉に、先ほどまでの我のうっかり失言が流れされていったのを感じ、とりあえずは安堵した。
それにしても、面倒そうな催しもあったものだな。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。
「おい、ダリア。その北方基地というのはノースポール山脈のことか? ならば間違っておるぞ。魔王軍は地の利がなかったわけでも弱っていたわけでもない! 天候が荒れることを事前に察知して幹部に移動命令を下したのだ。まさか吹雪の中を突っ込んでくる愚か者が集団で掛かってくるとまでは予測できていなかったからな!」
そこまで言って我はハッと我に返る。うっかり当事者側の発言をしてしまった。
一方のダリアはキョトンとした表情を浮かべてる。そっちも当事者だろうに、なんでそのあたりのところを理解しておらんのだ!
「フィー様、詳しいんですね」
「ほへー、フィーしゃんすごいれしゅ」
くそぅ……なんか、思い切りまずい失言だった気がするのだが。
「わ、分かってたわ。ええ、分かってたわよ。魔王軍が手薄になることを読んで、あえて猛吹雪の中を進軍してたの。意表をついてこそでしょ、こういうの」
「半数以上の遭難者を出しておいて粋がるな。犠牲多き勝利を誇らしく語るとは、ダリアという女には血も涙もないのか」
さしものダリアも教師という体面上、揚げ足取りにカチンときたのか、分かりやすいくらいに表情が険しくなり、ムムっとする。
「どうせ私には血も涙もないわよ」
かといって、言い返す言葉もないのか、それとも自重したのか、妙に開き直った言葉を飄々と吐き捨てられてしまった。
「大体アンタ、なんでそんなことを知って――」
そこまで言おうとして言葉に詰まったようで、時間が止まったかのように一瞬だけダリアが静止する。なんか、割とガチめに我が魔王軍の司令塔だったことを忘れていたかのような顔をした気がするんだが。
「そのくらい、レッドアイズ国の記録にも残っておるわ。なんだったらこの手の武勇伝で小銭稼ぐ輩も少なくはない」
おそらくだが、ダリアもそのうちの一人っぽいし。
ちなみに、これは口からでまかせではなく事実である。出版する側もする側だが、やはり戦争をネタにする類いはウケがいいらしく、かなり出回っていた。
中には、武勇伝の本で情報を仕入れて自称勇者を名乗る阿呆どももあちこちにいたりしたのだが……この辺りまではダリアも把握しきれていないのだろうか。
「くぅ~……、勉強できちゃう良い子ちゃんなのが悔しいわ」
「ふははははははははははっ!!!! 我を侮るでないわ!」
とはいえ、咄嗟に当事者にしか分かりようのない情報をもらしてしまったのは迂闊が過ぎる。レッドアイズ側の情報と、魔王軍側との情報では意味が大分異なる。
「ねえねえ、ダリア先生! その、ノースポールの基地を制圧した後はどうしたんですか!?」
いたたまれなくなったのか、あるいは、中断されてしまった話の続きが気になって仕方なかったのか、仕切り直すように男子生徒が口火を切る。
「ああ、うん、ま、無事にとはいかなかったけど、魔王軍の拠点を潰せたし、重要な情報も得られたからレッドアイズに帰還して万々歳、ってとこかな」
ダリアが歯切れ悪そうに言う。
生徒が知らないと思ってシラを切るつもりか。
「ノースポールの基地に移動命令が下されたということは、大したものは残ってなかったはずだ。それどころか、レッドアイズ討伐隊の連中が撤退した隙を狙って、西のプリムラ地方への襲撃をまんまと見過ごしてしまったのを忘れたか?」
おっと、この辺りを書いている武勇伝はなかったかな。
かなりの大損害だったから記録からもおおっぴらにされてなかったような。
まあ、今更ではあるのだが。
「ちょ、ちょっとフィー!」
さしものダリアも顔を真っ赤にする。ああ、愉快愉快。
「歴史を教える教師なら事実史実は正確に頼むぞ」
とりあえず、はん、と笑ってみせた。
「魔王軍ってしたたかなんすね……」
「どうして魔王はそんなに侵略行為を続けるのでしょう?」
疑問の顔を浮かべる生徒たちの視線が、ダリアを向くべきか、我を向くべきかで迷い始めてきた様子。
「フィーしゃん……?」
ミモザまでもがきょとんとした顔でこっちを見てくる。
いや、我がその真実を知っているという確信めいた目なのは分かっておるが。
かといって、これ以上、ボロをボロボロ出すのも忍びない。
「えーと……それは……」
そして、そこで言葉を詰まらせるなよ教師!
「魔王は――別に、無作為に侵略行為をしていたわけでは――ないと思うぞ」
少々、白々しかっただろうか。
我の口から魔王のことを語るなど、なんと阿呆らしい。
「技術革新に驕り高ぶる種族への抑制こそ、魔王の目的であり――恐怖政治という強行を良しとした歪曲の正義を掲げるのが魔王軍――なのだ」
……。
…………。
すっごい静まりかえったんだが。
なんで誰も「へー」とも「ほー」とも言わんのだ。
あたかも、その言葉が嘘とか出任せなどではなく、《《本人の言葉》》で語られた真実であるかのようではないか。
「――なんだかフィー様、魔王みたいですね」
沈黙を突き破る開口一番の一言にグサリと心臓を突かれるような衝撃が走る。
「ふぃ、フィーしゃんが魔王しゃんなわけないじゃないでふかぁ~」
そこで猛烈なフォローをしてくれるなよ、ミモザ。
怪しさと信憑性がグイグイ上り詰めてしまうではないか。
「わ、わ、わ、わ、わ、我が魔王なわけがなななな、なかろうではないだろうが!」
「そこでテンパってどうすんのよフィー。何言ってるのか分からないし」
この我が焦っているだと? バカな……。
「ふぅー……、ま、私も教師として勉強しておく課題は山積みということで――一先ず今日の授業はここまでとしましょう」
パンパンと手を叩いて、ダリアが注目をそちらに集めさせる。
空中を漂っていた文字列も掻き消えていき、教室内の空気も切り替わる。
「ああ、そうそう。これを言っておかないとね」
そういうと、ダリアは杖を振るい、今度は文字列ではなく映像を投影した。
そこに出現したのは、波の打ち寄せる海の光景だった。
「はい。ということで、うちの学校では初めての校外学習として臨海学校を行います。みんな、魔法の取り扱い方も覚えてきた頃合いだしね。おうちの人にも手紙は送ってあるから、参加できないって子は事前に連絡するように」
臨海学校……とな?
要は、海辺の近くにこさえた宿舎にしばらく滞在しての集団訓練か。
「おいおい、なんで海なんだよ。別にこの学校でもできることなんじゃねーのか」
そこで声を挙げたのはパエニアだった。露骨に面倒臭い、と顔に書いてある。
馬車通学も禁止されて、徒歩での通学も嫌気が差していたことだろう。
そんな矢先に、遠出かつ泊まりがけと聞かされては黙っていられなかったか。
「まあまあ。学校ではできない経験ってのもあるのよ。それに海といっても、ただ浜辺でかけっこするわけじゃなくてね。学校の調査で訓練として丁度いいと認可されたダンジョンがあるの。言ってみれば、ダンジョン探索ね」
貴族だらけの学校で、そんな冒険者まがいのことをさせられるのか。
パエニアじゃなくとも、さすがに不安や不満の表情が増えてきたのを見てとれた。
「いつも言ってるけど、魔法を学ぶってことはそれ相応の覚悟を持たなければならないの。楽しい愉快な玩具じゃないんだからね。何のために魔法があって、何のために魔法を使うのか。それを学ぶための臨海学校です」
先生のようにぴしゃりと言ってのけるダリアの言葉に、先ほどまでの我のうっかり失言が流れされていったのを感じ、とりあえずは安堵した。
それにしても、面倒そうな催しもあったものだな。