第64話 動き出す魔族
ー/ー
その頃の王国では、コークロッチヌス子爵に動きがあった。
娘と思っていたものが魔族であり、その討伐に勝手に向かった息子は名誉の戦死を遂げていた。子爵夫妻の哀しみというものは計り知れないものであろう。
だが、いつまでも悲しんでいられないと、次の動きを見せていた。
娘のふりをしていた魔族の討伐に向けて準備を進めている中、子爵の元にとある報告が舞い込んできた。
「子爵様ーっ!」
「なんだ、騒々しい。私は息子を殺した魔族への報復の計画中なのだ。大した用でないのなら後にしてくれ」
子爵はかなりカリカリとしているようで、部屋に入ってきた人物を追い出そうとしていた。ところが、報せに来た部下も簡単には引かなかった。
「それどころではないのです。子爵領から連絡がございまして、魔族が出現したようなのです」
「なんだと?!」
作戦を練っているはずの子爵だが、その手を止め、顔を上げて部下をじっと睨みつけている。あまりにも鋭い視線だったので、部下も思わず怯んでしまう始末である。
「領地にいらっしゃるコクス様からの手紙が届きまして、どうやらすでに領内には被害が出ているようなのです。このままでは、領地を滅ぼされかねないと」
「くっ……。ようやくあの魔族への攻撃態勢が整い始めたというのに、なんと間の悪いことだ」
さすがに子爵は表情を歪めざるを得ないというものだ。
ただでさえ、聖女候補だった人物が魔族だということで国内情勢が混乱しているというのに、そこに魔族が攻め入ってきたというのだから。
「……くそっ、やむをえん」
子爵はテーブルを叩いて、勢いよく立ち上がる。
「魔女討伐の部隊をすぐに領地に向かわせる。実害が出ているのなら最優先だからな」
「はっ!」
コークロッチヌス子爵の命令を受けて、部下は急いで部屋を出ていく。
部下が部屋を出ていった姿を見送ると、子爵は強く頭をかいている。予想外の事態に焦りが起きているからだ。
「おのれ……、魔女めが」
コークロッチヌス子爵は、ギリギリと歯ぎしりをしている。やり場のない怒りがこみあげており、いてもたってもいられなくなった子爵は、部屋を出ていく。
「おい、ノワール」
「どうしましたの、あなた」
子爵は妻の部屋へと乱暴に入っていくと、名前を呼んでいる。
いきなりの子爵の登場に、ノワールは慌てている。
「領地に魔族が出没したらしい。私は領地へと向かい、魔族を討伐してくる。お前は家令と一緒に私の留守を守ってくれ」
「はい、分かりました。お気を付けて行ってきて下さいな」
「ああ、これ以上魔族どもの思い通りにはさせない。では、いってくるぞ」
「はい、こちらのことは私が責任を持ちます」
ノワールと言葉を交わすと、コークロッチヌス子爵は大慌てで部屋を出ていった。
剣聖とまではいかないものの、コークロッチヌス子爵家は代々剣に優れた人材を輩出し続けてきた。そのため、その力を買われて国内でも重要拠点を任されてきた。
そのコークロッチヌス子爵領が魔族の襲撃を受けているというのだ。これはあってはならぬことだと、子爵はかなり焦った様子を見せている。
もはや、コークロッチヌスの名は地に落ちたも同然の状況なのだから、こうなってしまうのも当然であろう。
失われた名誉を取り戻すためにも、子爵は大慌てで王都の屋敷から出発したのであった。
―――
その頃のクロナは、なにやらぴくりと感じ取っているようだった。
「お嬢様? どうかなさいましたでしょうか」
急に虚空を眺めるような表情をしたクロナに、ブラナはきょとんとした表情で問い掛けている。
「領地が魔族に襲われていますね」
「え?」
クロナから思わぬ言葉が出てきたことで、ブラナは驚いてしまっている。
「お嬢様、どうなさるおつもりでしょうか」
「決まっています。魔族を倒しに行きますよ。ああ、領地の民などどうでもいいのです。どうせ私を見ると襲ってくるでしょうからね。ただ、魔族と私を一緒にされては困りますから、邪魔になるというわけですよ」
「な、なるほど。それでは、すぐにコークロッチヌス子爵領に向かわれるのですか?」
クロナは魔族討伐にはやる気十分だが、今すぐかと聞かれたら、なぜか渋っていた。どういうことなのだろうかと、さすがのブラナも困惑気味である。
「……やはり、放っておきましょう。面倒なことになりそうですからね」
「ああ、旦那様ですか」
「ええ、私の父親だった男に任せておけばいいんです。こういう時の連絡網はしっかりしておりますからね、コークロッチヌスは」
そう、クロナが渋った理由は子爵の存在だった。今から向かえば、子爵と鉢合わせをしてしまい、自分にも刃が向きかねない。やはり、クロナも家族との衝突は避けたいようなのだ。
心が壊れたように見えたクロナも、やはり根底では家族のことは気にかけているというわけである。
「いえ、やはり行くべきでしょう。魔族を倒す姿をお見せすれば、少しは考えを変えて下さるかもしれませんよ?」
「そんなわけがないのですよ。今まで誰からも悪意と殺意を向けられてきて、もはや誰を信じればいいというのです。もう、ここにいる者しか信じられないのです」
ブラナが提案をするも、クロナはもはや疑心暗鬼の塊となっていた。
そこで、ブラナはひとつ提案をする。
「では、私が単独で向かいましょう。お嬢様のお役に立つのが、メイドである私の務めです。元通りになる二年半後のためにも、できる限り生き残ってもらわねば困りますからね」
「そこまで言うのでしたら、勝手にしなさい。ただし、必ず生きて戻ってくること。これだけは約束を」
「当然でございます。私は必ずお嬢様の元に戻って参ります」
ブラナはそうとだけ言うと、イトナにクロナのことを頼んで洞窟を飛び出していった。
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娘と思っていたものが魔族であり、その討伐に勝手に向かった息子は名誉の戦死を遂げていた。子爵夫妻の哀しみというものは計り知れないものであろう。
だが、いつまでも悲しんでいられないと、次の動きを見せていた。
娘のふりをしていた魔族の討伐に向けて準備を進めている中、子爵の元にとある報告が舞い込んできた。
「子爵様ーっ!」
「なんだ、騒々しい。私は息子を殺した魔族への報復の計画中なのだ。大した用でないのなら後にしてくれ」
子爵はかなりカリカリとしているようで、部屋に入ってきた人物を追い出そうとしていた。ところが、報せに来た部下も簡単には引かなかった。
「それどころではないのです。子爵領から連絡がございまして、魔族が出現したようなのです」
「なんだと?!」
作戦を練っているはずの子爵だが、その手を止め、顔を上げて部下をじっと睨みつけている。あまりにも鋭い視線だったので、部下も思わず怯んでしまう始末である。
「領地にいらっしゃるコクス様からの手紙が届きまして、どうやらすでに領内には被害が出ているようなのです。このままでは、領地を滅ぼされかねないと」
「くっ……。ようやくあの魔族への攻撃態勢が整い始めたというのに、なんと間の悪いことだ」
さすがに子爵は表情を歪めざるを得ないというものだ。
ただでさえ、聖女候補だった人物が魔族だということで国内情勢が混乱しているというのに、そこに魔族が攻め入ってきたというのだから。
「……くそっ、やむをえん」
子爵はテーブルを叩いて、勢いよく立ち上がる。
「魔女討伐の部隊をすぐに領地に向かわせる。実害が出ているのなら最優先だからな」
「はっ!」
コークロッチヌス子爵の命令を受けて、部下は急いで部屋を出ていく。
部下が部屋を出ていった姿を見送ると、子爵は強く頭をかいている。予想外の事態に焦りが起きているからだ。
「おのれ……、魔女めが」
コークロッチヌス子爵は、ギリギリと歯ぎしりをしている。やり場のない怒りがこみあげており、いてもたってもいられなくなった子爵は、部屋を出ていく。
「おい、ノワール」
「どうしましたの、あなた」
子爵は妻の部屋へと乱暴に入っていくと、名前を呼んでいる。
いきなりの子爵の登場に、ノワールは慌てている。
「領地に魔族が出没したらしい。私は領地へと向かい、魔族を討伐してくる。お前は家令と一緒に私の留守を守ってくれ」
「はい、分かりました。お気を付けて行ってきて下さいな」
「ああ、これ以上魔族どもの思い通りにはさせない。では、いってくるぞ」
「はい、こちらのことは私が責任を持ちます」
ノワールと言葉を交わすと、コークロッチヌス子爵は大慌てで部屋を出ていった。
剣聖とまではいかないものの、コークロッチヌス子爵家は代々剣に優れた人材を輩出し続けてきた。そのため、その力を買われて国内でも重要拠点を任されてきた。
そのコークロッチヌス子爵領が魔族の襲撃を受けているというのだ。これはあってはならぬことだと、子爵はかなり焦った様子を見せている。
もはや、コークロッチヌスの名は地に落ちたも同然の状況なのだから、こうなってしまうのも当然であろう。
失われた名誉を取り戻すためにも、子爵は大慌てで王都の屋敷から出発したのであった。
―――
その頃のクロナは、なにやらぴくりと感じ取っているようだった。
「お嬢様? どうかなさいましたでしょうか」
急に虚空を眺めるような表情をしたクロナに、ブラナはきょとんとした表情で問い掛けている。
「領地が魔族に襲われていますね」
「え?」
クロナから思わぬ言葉が出てきたことで、ブラナは驚いてしまっている。
「お嬢様、どうなさるおつもりでしょうか」
「決まっています。魔族を倒しに行きますよ。ああ、領地の民などどうでもいいのです。どうせ私を見ると襲ってくるでしょうからね。ただ、魔族と私を一緒にされては困りますから、邪魔になるというわけですよ」
「な、なるほど。それでは、すぐにコークロッチヌス子爵領に向かわれるのですか?」
クロナは魔族討伐にはやる気十分だが、今すぐかと聞かれたら、なぜか渋っていた。どういうことなのだろうかと、さすがのブラナも困惑気味である。
「……やはり、放っておきましょう。面倒なことになりそうですからね」
「ああ、旦那様ですか」
「ええ、私の父親だった男に任せておけばいいんです。こういう時の連絡網はしっかりしておりますからね、コークロッチヌスは」
そう、クロナが渋った理由は子爵の存在だった。今から向かえば、子爵と鉢合わせをしてしまい、自分にも刃が向きかねない。やはり、クロナも家族との衝突は避けたいようなのだ。
心が壊れたように見えたクロナも、やはり根底では家族のことは気にかけているというわけである。
「いえ、やはり行くべきでしょう。魔族を倒す姿をお見せすれば、少しは考えを変えて下さるかもしれませんよ?」
「そんなわけがないのですよ。今まで誰からも悪意と殺意を向けられてきて、もはや誰を信じればいいというのです。もう、ここにいる者しか信じられないのです」
ブラナが提案をするも、クロナはもはや疑心暗鬼の塊となっていた。
そこで、ブラナはひとつ提案をする。
「では、私が単独で向かいましょう。お嬢様のお役に立つのが、メイドである私の務めです。元通りになる二年半後のためにも、できる限り生き残ってもらわねば困りますからね」
「そこまで言うのでしたら、勝手にしなさい。ただし、必ず生きて戻ってくること。これだけは約束を」
「当然でございます。私は必ずお嬢様の元に戻って参ります」
ブラナはそうとだけ言うと、イトナにクロナのことを頼んで洞窟を飛び出していった。