第63話 次なる脅威
ー/ー
バタフィー王子が無念の帰還を果たしてから、かなりの日数が経過する。
子どもを失ってしまったコークロッチヌス子爵とホーネット伯爵もようやく立ち直り、王都の中はようやく日常を取り戻しつつあった。
クロナの誕生日から、もう半年が経とうとしていた。
「ブラナ、イトナ。あれから王国の動きはありましたでしょうか」
アジトとしている洞窟の中で、クロナは二人の部下に状況を確認している。
「はっ、今のところは動きはございません」
「そうですか……。まあいいといったところでしょうか。これで、三年間のうち、ようやく半年が終わりましたからね。まだ二年半もあります。油断はできませんので、警戒を怠らないようにして下さい」
「はっ!」
クロナの言葉に対し、ブラナとイトナは力強く返事をしている。
クロナの兄であるシュヴァルツ・コークロッチヌスと兄の婚約者でクロナの親友でもあるメープル・ホーネットが死に、クロナの心は酷く傷ついていた。そのため、クロナはかなり攻撃的な状態になっていたのだが、それもここしばらくの平穏のおかげで落ち着きを取り戻していた。
「お嬢様もようやく以前のお優しい状態に戻って参りましたね」
『そのようですね。ですが、まだ聖女様のお命を狙う連中はいますので、油断というものは禁物です。御父上だってまだいらっしゃるのでしょう?』
「そうですね……。旦那様にまで襲撃されたとなると、お嬢様の心が本格的に壊れてしまいかねません。旦那様は、とてもお嬢様を可愛がっておられましたから」
『私たちは、まだ気が休まる時は来ないようですね』
アジトの中で仕事をこなしながら、二人は話をしている。
「それで、イトナ」
『なんでしょうか、ブラナ』
「魔族の動きの方は、何かつかめていますでしょうか」
『魔族……ですか?』
ブラナが突然振ってきた内容に、イトナは少々固まってしまっている。
『私は聖女様の周りにずっとおりましたゆえに、あまり事情をつかめておりません。至急、他のアサシンスパイダーに確認をして参ります』
「ええ、お願いします。お嬢様は聖女ですから、もしかしたらがあるやもしれませんからね」
『はい、急いで参ります』
ブラナと話をしたイトナは、ソロで警戒にあたっているアサシンスパイダーのところへと向かっていった。
ここでブラナが改めて警戒しているのは、魔族が狡猾な連中だからだ。
だが、ここまででは魔族の動きというものは見られなかった。おそらく、イクセンの状況を見極めようとしていたのだろう。
「本来でしたら、今頃お嬢様はイクセンの聖女としておつとめをなさっているはずでしたのに……。ああ、なにゆえ天はお嬢様にこのような試練を課したのでしょうか。邪神とは、それほどまでに強力な存在なのでしょうか……」
ブラナは、一人でその場にたたずみながら天井を見上げている。
だが、いくら天に問いかけたところで、ブラナはその答えを聞くことはできなかった。天との交流ができるのは、聖女だけなのだから。
しばらくすると、外へと出ていたイトナが戻ってくる。
『ブラナ、ただいま戻りました』
「イトナ、どうでしたか?」
声に反応して、ブラナはくるりと振り返る。
『アサシンスパイダーやキラーホーネットと話をしてみましたが、魔族の姿を見たという報告はありませんでした。しかし、なぜ今になって魔族のことを……?』
イトナは思わずブラナに問いかけてしまう。
「言われてしまえば、私もすっかり失念していたところはあります。邪神によって心を操られ、一度ならず何度もお嬢様に刃を向けてしまいました。そのために、お嬢様に心を向けすぎてしまったのでしょうね」
ブラナは言い訳を始めている。
「お嬢様はそもそも聖女でございますので、その戦う相手は、王国へと害をなす存在となるはずなのです」
『それが、魔族というわけですか』
「その通りです」
ブラナの長ったらしい説明を聞いて、イトナは話を正確に把握していた。さすがはクロナの眷属というべき、高い理解力である。
『なるほど。聖女様はそもそも魔族にとって敵だったわけですね。それで、その聖女様を国に見つけることができず、今は慎重になっている。そういうところでしょうかね』
「可能性は十分に考えられますね」
イトナの推理に対し、ブラナも同意しているようだった。
その反応を見て、イトナはずいぶんと考え込んでいる。
『……分かりました。仲間に命じて、魔族への警戒も強めるようにしておきます』
「ええ、よろしくお願いしますよ、イトナ」
『お任せ下さい。聖女様の眷属として、なんとしてもお嬢様を守り続けます』
話を終えたイトナは、再びアジトの外へと向けて移動していった。
神がクロナの運命を修正終えるまで、残る期間は二年半だ。
その中で、クロナの侍女であるブラナと眷属であるイトナは、次なる脅威に対して警戒を日々強めている。
あらゆる脅威からクロナを守り抜き、すべての運命を元へと戻すその期限を無事に迎えられるのか。
ここに来て新たに浮上してきた魔族という新たなる脅威。はたして、クロナにとってはどのような勢力となるのだろうか。
その存在は、まだ不気味に息をひそめたままだった。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。
バタフィー王子が無念の帰還を果たしてから、かなりの日数が経過する。
子どもを失ってしまったコークロッチヌス子爵とホーネット伯爵もようやく立ち直り、王都の中はようやく日常を取り戻しつつあった。
クロナの誕生日から、もう半年が経とうとしていた。
「ブラナ、イトナ。あれから王国の動きはありましたでしょうか」
アジトとしている洞窟の中で、クロナは二人の部下に状況を確認している。
「はっ、今のところは動きはございません」
「そうですか……。まあいいといったところでしょうか。これで、三年間のうち、ようやく半年が終わりましたからね。まだ二年半もあります。油断はできませんので、警戒を怠らないようにして下さい」
「はっ!」
クロナの言葉に対し、ブラナとイトナは力強く返事をしている。
クロナの兄であるシュヴァルツ・コークロッチヌスと兄の婚約者でクロナの親友でもあるメープル・ホーネットが死に、クロナの心は酷く傷ついていた。そのため、クロナはかなり攻撃的な状態になっていたのだが、それもここしばらくの平穏のおかげで落ち着きを取り戻していた。
「お嬢様もようやく以前のお優しい状態に戻って参りましたね」
『そのようですね。ですが、まだ聖女様のお命を狙う連中はいますので、油断というものは禁物です。御父上だってまだいらっしゃるのでしょう?』
「そうですね……。旦那様にまで襲撃されたとなると、お嬢様の心が本格的に壊れてしまいかねません。旦那様は、とてもお嬢様を可愛がっておられましたから」
『私たちは、まだ気が休まる時は来ないようですね』
アジトの中で仕事をこなしながら、二人は話をしている。
「それで、イトナ」
『なんでしょうか、ブラナ』
「魔族の動きの方は、何かつかめていますでしょうか」
『魔族……ですか?』
ブラナが突然振ってきた内容に、イトナは少々固まってしまっている。
『私は聖女様の周りにずっとおりましたゆえに、あまり事情をつかめておりません。至急、他のアサシンスパイダーに確認をして参ります』
「ええ、お願いします。お嬢様は聖女ですから、もしかしたらがあるやもしれませんからね」
『はい、急いで参ります』
ブラナと話をしたイトナは、ソロで警戒にあたっているアサシンスパイダーのところへと向かっていった。
ここでブラナが改めて警戒しているのは、魔族が狡猾な連中だからだ。
だが、ここまででは魔族の動きというものは見られなかった。おそらく、イクセンの状況を見極めようとしていたのだろう。
「本来でしたら、今頃お嬢様はイクセンの聖女としておつとめをなさっているはずでしたのに……。ああ、なにゆえ天はお嬢様にこのような試練を課したのでしょうか。邪神とは、それほどまでに強力な存在なのでしょうか……」
ブラナは、一人でその場にたたずみながら天井を見上げている。
だが、いくら天に問いかけたところで、ブラナはその答えを聞くことはできなかった。天との交流ができるのは、聖女だけなのだから。
しばらくすると、外へと出ていたイトナが戻ってくる。
『ブラナ、ただいま戻りました』
「イトナ、どうでしたか?」
声に反応して、ブラナはくるりと振り返る。
『アサシンスパイダーやキラーホーネットと話をしてみましたが、魔族の姿を見たという報告はありませんでした。しかし、なぜ今になって魔族のことを……?』
イトナは思わずブラナに問いかけてしまう。
「言われてしまえば、私もすっかり失念していたところはあります。邪神によって心を操られ、一度ならず何度もお嬢様に刃を向けてしまいました。そのために、お嬢様に心を向けすぎてしまったのでしょうね」
ブラナは言い訳を始めている。
「お嬢様はそもそも聖女でございますので、その戦う相手は、王国へと害をなす存在となるはずなのです」
『それが、魔族というわけですか』
「その通りです」
ブラナの長ったらしい説明を聞いて、イトナは話を正確に把握していた。さすがはクロナの眷属というべき、高い理解力である。
『なるほど。聖女様はそもそも魔族にとって敵だったわけですね。それで、その聖女様を国に見つけることができず、今は慎重になっている。そういうところでしょうかね』
「可能性は十分に考えられますね」
イトナの推理に対し、ブラナも同意しているようだった。
その反応を見て、イトナはずいぶんと考え込んでいる。
『……分かりました。仲間に命じて、魔族への警戒も強めるようにしておきます』
「ええ、よろしくお願いしますよ、イトナ」
『お任せ下さい。聖女様の眷属として、なんとしてもお嬢様を守り続けます』
話を終えたイトナは、再びアジトの外へと向けて移動していった。
神がクロナの運命を修正終えるまで、残る期間は二年半だ。
その中で、クロナの侍女であるブラナと眷属であるイトナは、次なる脅威に対して警戒を日々強めている。
あらゆる脅威からクロナを守り抜き、すべての運命を元へと戻すその期限を無事に迎えられるのか。
ここに来て新たに浮上してきた魔族という新たなる脅威。はたして、クロナにとってはどのような勢力となるのだろうか。
その存在は、まだ不気味に息をひそめたままだった。