「動くなっ!!」
「……………………」
こちらを威嚇するような怒号と共に突き刺さる、複数の険しい視線………そして、複数の銃口……
複数の屈強なSP達が遠巻きながらも、ドアの傍に立つ俺を取り囲んでいた。
…………まぁ、当然だよな。
この状況で、いきなりこんな怪しい風体(全身黒尽くめに、怪し気なマスク)の男が現れたら、そりゃそうなるさ。
さて、どうする?
蹴散らすのは簡単だが、んな事してる場合じゃねぇ。勿体ないが、全員文珠で眠らすか?
そんな風に思案していると………
「止めたまえっ!!」
国王の護衛に居たはずの西条が、俺とSPの間に突然割り込んで来た。SP達へ両手を広げてだ………
「彼等は、私の “““部下””” だっ!!手出しする事は許さんっ!」
「「「!?」」」
「……………………」
………さっきの連中の怒号が霞むくらいの鋭い一喝。その余りの迫力によってたじろぐSP達……
正直に言おう……助かった。
『部下』と言う言葉を必要以上に強調したように聴こえたのは、物凄く気になったが………
「行きたまえ!君の任務を果たすんだ!!」
「………感謝しますよ。部長殿」
…………糞ったれ……
◇◇◇
「腐ったテメェの根性、たたっ斬る!!」
俺や西条達が、SPと一触即発状態になっていた頃……雪之丞も怒声を挙げて、相手に啖呵を切っていた。
奴の信念、美学、生き様…………それら全ての感情が一つになって、言霊という媒介を通し議事堂内に響き渡る。
まさに “魂の叫び” ……
でも、俺には…………止めよう……何か萎える。
※前回参照
取り敢えず、そんな感じで雪之丞は闘志満々だったが、残念なことに両者の利害は一致せず……
雪之丞からすりゃ、敵は何としても叩き潰したい怒りに満ちた相手。
テロリストの方も怒りには満ちてるが、奴の目的はあくまで国王の抹殺……
俺達の2度に渡る妨害で、時間を掛け過ぎた。既に計画は破綻してる。そして、ここに来て雪之丞が蹴破った扉から、多くの警官達も駆け付けて来ている。
つまり、何が言いたいかと言うと…………
「チッ!!」
奴が、忌々しそうに顔を歪めながら舌打ちする。
それと同時に、角の悪魔は国王の精霊獣を突き放し、蛇顔の方は残った左腕で術者のテロリストを抱えて空中を飛翔し始める。
要は撤退……奴は逃げる気だ…………
だが…………
ボゴォッ! バガァンッ!
「ナッ……!?」
「逃がす訳ねぇだろ……!!」
霊盾を投げ終えた俺は、天井のステンドグラスの手前から奴を見下ろす。
精霊獣が飛べるのは、事前知識で解ってる。なら、奴の行動だって簡単に予測出来る。
お前……人の正月台無しにしといて、タダで済むと思うなよっ………!
“と、飛んでるっ……!?”
“あれは……黒の羽!?”
黒い片翼(←文珠で生成)を生やして宙に浮かぶ俺を見て、SPや警備員だけでなく逃げ遅れた政治家達も何やら騒ぎ出す。
そういや、人前で飛ぶのは初めてだったな……
そんな下からの戸惑いの声を受けながら、俺は更に複数の霊盾を生成。
絶対に奴を飛ばさせねぇ………!
下から、「人が居るんだから、余り無茶をするな」と叫ぶ西条の声が、聴こえたような聴こえなかったような気がするが、多分気の所為だ……
「クソッ……」
「何処見てるっ!?」
そんな俺の様子に再び顔を歪めるテロリストだったが、そんな奴を放って置くほど雪之丞はお人好しじゃない。戦斧を振り上げて果敢に飛び掛かる。
「クッ……」
雪之丞に気付いた奴は、悪魔の方の精霊獣で戦斧を止める。
「貴様等ヲ囮ニ使ッタノハ、失敗ダッタナ……精霊ノ加護ヲ受ケテイル俺ガ、ココマデ虚仮ニサレルトハ…………!」
「はっ!性根の腐った、お前に加護なんかあるか!!憑いてるとすりゃ、厄病神がお似合いだよっ!」
鍔迫り合いをしながら、何度目になるか解らない口撃の応酬……終始遠慮ない雪之丞の物言いに怒りを覚えつつも、辛うじて耐えていた “冷静” と言う箍がここに来てが遂に外れた!
「………糞餓鬼共ガッ!!!」
全身からドス黒い怒りのオーラを放ちながら吐き捨てるテロリスト…………俺も入ってんのかよ。いや、当たり前だけど何か釈然としねぇな。
まぁ、いいか……
「ほら、上も見ろ!危ないぞ!」
言いながら、俺も霊盾を次々と投げ付ける。
一発一発の威力は低い。こんなんじゃ到底精霊獣は倒せないが、別にいい。もっと言えば、狙ってるのは精霊獣じゃなくて術者の方だ。
ヴォンッ! バァンッ! ボゴォンッ! ボォンッ!
「グォ……」
だから、蛇の方が体を盾にして奴を守るしかない。予想通りダメージはないが、亀にしてやれば何も出来ない。
1対1の状況なら、精霊獣だけを飛ばして強引に攻める事も出来ただろう。ただ、そうすると必然的に自分もダメージを食らう。ダメージを食らえば、精霊獣の動きは鈍る。動きが鈍れば、もう1体の悪魔を突破した雪之丞が自分に襲い掛ってくる。それが理解出来るから、奴は解ってても亀になるしかないんだ。
2対1だからこそ、成り立つ構図。してる事自体は、月でメドゥーサを相手にした時と一緒なんだがな。
ただ、メドゥーサの圧力に比べたらお前なんてカスも良いとこだ。
…………そう思ってると蛇は、顔の方だけをこちらに向けた。
そして……
「喰ラエェッ!!」
ヴゥワァッーーーーー!!!
開いた口から、強力な光の奔流が放たれる!
「うぉっ!」
俺に襲いかかる強力なエネルギー波、それを咄嗟に横へ引いて何とか躱すと、その躱したエネルギー波は、そのまま天井のステンドグラスへ突き刺さった。
ガシャーーンッッ!!
派手な音と共に飛び散るガラスの破片が床へと落ちる。正に、奴の怒りが乗り移ったような一撃だった。
見た感じ、俺達の霊波砲の3〜4倍の威力か……こりゃ、喰らったら一溜りもねぇ…………そういや、西条はエネルギー波の存在も言ってたな。
こいつらはエネルギーを凝縮した存在なんだから、こんな攻撃だってお手のものってわけだ。後ろで醜悪に嗤う奴の顔が、やたら忌々しく見える。
ただ……
ヴォンッ! ヴヴォンッ!
俺は構わず、霊盾を投げ続ける。再び蛇が口を開こうとするが、それが何だって言うんだ?
ここで引くなんてあり得ない。それに………
「いいのかぁ?そんな強力なもん撃って……?飛べなくなっちまうぞ!!」
「…………!?」
ワザと意地悪く言った俺の言葉に、顔をピクりと反応させるテロリスト…………半分当てずっぽうだったんだが、当たりみたいだな。
…………燃料が底をついてる。
繰り返すが、精霊獣は精霊石をエネルギーにして活動する。
1個、数千万から数億円する程高価な物をバクバク喰うわけだ………お世辞にも燃費が良いとは言えない……いや、最悪だ。
国王を始めとした王族やその周辺の人間なら何とかなるかもしれないが、こいつにはそこまで余裕があるとは思えない。
1度目、2度目、そして今回……今回は、2体同時出してる上に想定より長く使ってる。こりゃ、いつ底をついてもおかしくはないな。
そんな感じで内心ほくそ笑んでる俺だったが、下で戦う雪之丞は対照的に追い込まれていた。
「うおおぉぉ……!!」
威勢良く飛びかかった雪之丞だったが、やはり精霊獣とガチンコの力比べになれば出力に差はどうにも出来ないようで、戦斧を掴まれたまま、今まさに膝を着いて押し潰されそうになってやがる。
王を守る時に蛇の腕を切り飛ばしたが、あれは不意を衝けたからだ……このままじゃ、直ぐに押し切られるだろう。
「おいおい……俺がいくら止めても、攻めのお前がそれじゃ不味いんじゃないか?」
なら、もう “アレ” をするべきだろう?雪之丞……
「鴉ぅ!頼むっ!!」
ああ、やって来い……!!
俺は蛇を牽制しながら、空いてる左手を雪之丞の方へ伸ばす。
行けっ……!
そう念じて、奴の持ってる “2個” の文珠を発動!
文珠は他人でも使えるが、複数同時に制御すると俺より爆発的に霊気を食う。だから、2個以上使う時は基本的に俺がやる。
そして今回刻んだのは、月の時と同じ『三』『倍』………一時的に奴の霊気回路を3倍まで拡張して強力なパワーを引き出す……
「うおおおおおおぉっーーーーーー!!!」
発動と同時に爆発的に上昇する雪之丞の霊圧!!
月では回路に負担を掛け過ぎて、一時的に記憶を失った。今回だって長引けば、ただじゃ済まねぇ……
だから、早く決めろ!!
霊力の増大した雪之丞は、窮屈な姿勢だったにも押し込まれていた斧の力任せに押し返す。
おぉ……
下水道で捉えた時とは全く違う、今度は100%の相手を力で強引に押し切った。
堪らないと言った感じで、仰け反る精霊獣……だが、雪之丞は間髪入れず再び斧を振り上げると、これまた強引に振り下ろす!!
グシャッ!!
「ナ、何!?」
狼狽えるテロリスト。
霊気によるエネルギーと、精霊石のエネルギー……互いが同時にぶつかり合い、 “斬る” と言うより “叩き潰した” ような音を立てて精霊獣を左肩から斜めに真っ二つにした。
そうして、二つ角の悪魔が溶けるように霧散すると、同時にテロリストの指輪が砕け散る。
これで奴を護るのは、俺の前にいる蛇1体。後は、まだ予備を持ってるかだが…………
……それも、無いようだな。
「終わりだ……!!」
小型の霊盾(手榴弾型)を生成すると、未だ呆然とする奴へ投げ付けた。
ただ、若干方向がズレた所為で防御するまでも無く、簡単に避けられる。まぁ、構わない……そんな真剣に狙ったわけじゃない。
もっと言えば、逃げたっていい。どこまでも追うからな……
ヴォンッ!!
「グェッ!」
追跡爆弾……『追尾眼』…………眼刻むの忘れた……
躱したと思った、一撃が背中から直撃して前から突っ伏す。咄嗟に作ったんで威力は余りないが、大層たまげたろ………?
今までも本人が攻撃されて精霊獣の動きは鈍ったが、今回は直撃したせいで蛇が完全に停止した。そこを……
「オラョッ!!」
ズシャッ!
今度は雪之丞に、横から真っ二つにされて消滅した。
……これで、本当に終わりだ。
俺達は、立ち上がろうとするテロリストの前後に慎重に降り立った。
雪之丞が前、俺は後ろ……
「諦めろ、テメェの負けだ」
斧を突き付ける雪之丞……だが、奴は答えない。顔すら上げない。そして…………
「グフッ……!!」
「「!?」」
口からそんな音を漏らすと共に、奴はそのまま崩れ落ちた。
ゆっくり体を起こしてみるが…………
「死にやがったな……」
「ああ」
奴は血を吐きながら死んでいた……映画やドラマじゃねぇけど、口の中に仕込んでた毒を噛み砕いたんだろう。