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第62話 大雨の中の決断

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 バタフィー王子は雨が降り続く中、隣国の国境へと続く街道へと脱出していた。この視界を悪くする大雨の中、魔物のうろつく森の中を動くわけにはいかなかったからだ。
 街道まで出て少し外れたところで、バタフィー王子は一度野営を張ることにした。

「くそっ……。もう少しであの魔女を追い詰められると思ったが、まさかこれほどまでに強い雨が降るとはな」

 天幕の中で休みながら、バタフィー王子は悔しさに顔を歪めていた。

「まったくでございます。魔法使いどもに確認したところ、この雨はまだ当分降り続くとのことでございます。これは、一度城に戻って時期を見た方がよろしいのではないでしょうか」

 同行している側近からも、撤退が相当との声をかけられてしまう。
 これにはバタフィー王子も強く唇をかみしめてしまう。

「くっ……、確かにその通りだな。いくら俺の剣が優れているとはいえ、危険な魔物相手ではあの視界の悪さは分が悪すぎる。俺が生きていたとしても、お前たちをむざむざ殺させることになりかねんからな。……やむを得まい」

 バタフィー王子は、戦況の悪さを自覚しているようだった。
 確かにバタフィー王子はスチールアントは物ともしていないし、それ以外の魔物に対しても強い。
 だが、それは視界があることと、気配を察知することができているからだ。多少の雨ならば問題としないが、土砂崩れすらも引き起こすような大雨となれば、そのどちらも機能しなくなってしまう。そうなれば、バタフィー王子でも分が悪いというわけなのだ。
 魔女と化したクロナを放ってはおけないが、パタフィー王子は王子としての責務を果たさなければならない。その板挟みにあい、苦渋の選択をしたというわけである。

「付け焼き刃の戦力増強など、この自然の前では無力だ。やむをえん、このまま城に戻って更なる増強を行う。あの魔女は放ってはおけぬからな」

「はっ! では、全軍に通達を出しておきます」

 側近はバタフィー王子の判断を全員に伝えるために、王子の天幕から外へと出ていった。
 一人となったバタフィー王子は、国境の山脈の方へと視線を向けて、強く唇をかんでいる。

「魔女が……。天候すらも味方につけて、俺たちから逃げおおせようというのか……。だが、そうはいかんからな。必ずその命、もらい受けるぞ!」

 バタフィー王子は地面に拳を叩きつけて、実に悔しそうにつぶやいたのだった。

「あの、すみませんです、殿下」

「なんだ?」

 そこへ、今回の作戦で生き残った傭兵であるディックとビーの二人が入ってきた。

「なんだ、命拾いをした運のいいやつらか。一体、俺に何の用なんだ」

 ぎろりと睨みながら、バタフィー王子は話をしている。その眼光の鋭さに、ディックとビーの二人は震え上がってしまう。
 だが、話があってやって来たのだから、ここですごすごと引き下がるわけにはいかなかった。二人はバタフィー王子の雰囲気に負けないように、お腹に力を入れて天幕の中に一歩踏み入れる。

「殿下に頼みがあるんです」

「ほう、頼みとな?」

 ディックが頭を下げて話を始めると、バタフィー王子は見下すような視線を向けて反応をしている。

「ホッパーたちがまったく戻ってこないところを見ると、おそらくは魔族に全員やられたとみていいと思うわけでね。そこで、あたいらも殿下のところで鍛えようって思っているわけなのよ」

「王国を内部から潰そうとしていただけじゃなくて、有力者たちまで葬り始めた現状を見て、さすがに私どもも黙っているわけにはいきませんからね」

「ふむ……」

 ディックとビーの話を聞いて、バタフィー王子は少し考え始めたようだ。
 確かに、バタフィー王子の友人であるシュヴァルツ・コークロッチヌスとそのシュヴァルツの婚約者であるメープル・ホーネットが、若くしてその命を散らしてしまった。才能あふれる二人の若者の死は、王国に大きな衝撃を与えたのだ。
 そのことからして、魔女クロナの討伐は最優先課題だ。
 それ以外にも、魔族でありながら、聖女や王子である自分の婚約者という立場を手に入れようとしたことは大罪なのだ。バタフィー王子は真剣に考え込んでいる。

「よし」

 バタフィー王子は自分の膝を叩いている。

「お前たちの王国騎士団への一時的な入隊を認めよう。あのにっくき魔女を討伐するまでの期間だけだがな。その間、俺たちがみっちりと鍛え上げてやる」

「ありがとうございます」

「あたいらも舐められっぱなしじゃいられないからね。精一杯強くなれるように努力をさせてもらうわ」

「ふん、せいぜい途中で逃げ出さいないことだな。それと、所属する間は俺の指揮下に入ってもらうから、その気でいろよ?」

「合点ですとも」

 バタフィー王子に入隊を認められ、ディックとビーの二人はやる気を見せている。
 王国にある傭兵ギルドに所属している二人なのだ。王国が滅べば、自分たちも行き場を失いかねない。背に腹は代えられぬと、相応の覚悟を決めているのだ。

 その後、一夜を過ごした王国軍は、再び王都へと向けて撤退を始める。
 バタフィー王子は、次こそクロナを仕留めると強い決意を秘め、悔しさをにじませながら王都へと引き揚げたのだった。


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 バタフィー王子は雨が降り続く中、隣国の国境へと続く街道へと脱出していた。この視界を悪くする大雨の中、魔物のうろつく森の中を動くわけにはいかなかったからだ。
 街道まで出て少し外れたところで、バタフィー王子は一度野営を張ることにした。
「くそっ……。もう少しであの魔女を追い詰められると思ったが、まさかこれほどまでに強い雨が降るとはな」
 天幕の中で休みながら、バタフィー王子は悔しさに顔を歪めていた。
「まったくでございます。魔法使いどもに確認したところ、この雨はまだ当分降り続くとのことでございます。これは、一度城に戻って時期を見た方がよろしいのではないでしょうか」
 同行している側近からも、撤退が相当との声をかけられてしまう。
 これにはバタフィー王子も強く唇をかみしめてしまう。
「くっ……、確かにその通りだな。いくら俺の剣が優れているとはいえ、危険な魔物相手ではあの視界の悪さは分が悪すぎる。俺が生きていたとしても、お前たちをむざむざ殺させることになりかねんからな。……やむを得まい」
 バタフィー王子は、戦況の悪さを自覚しているようだった。
 確かにバタフィー王子はスチールアントは物ともしていないし、それ以外の魔物に対しても強い。
 だが、それは視界があることと、気配を察知することができているからだ。多少の雨ならば問題としないが、土砂崩れすらも引き起こすような大雨となれば、そのどちらも機能しなくなってしまう。そうなれば、バタフィー王子でも分が悪いというわけなのだ。
 魔女と化したクロナを放ってはおけないが、パタフィー王子は王子としての責務を果たさなければならない。その板挟みにあい、苦渋の選択をしたというわけである。
「付け焼き刃の戦力増強など、この自然の前では無力だ。やむをえん、このまま城に戻って更なる増強を行う。あの魔女は放ってはおけぬからな」
「はっ! では、全軍に通達を出しておきます」
 側近はバタフィー王子の判断を全員に伝えるために、王子の天幕から外へと出ていった。
 一人となったバタフィー王子は、国境の山脈の方へと視線を向けて、強く唇をかんでいる。
「魔女が……。天候すらも味方につけて、俺たちから逃げおおせようというのか……。だが、そうはいかんからな。必ずその命、もらい受けるぞ!」
 バタフィー王子は地面に拳を叩きつけて、実に悔しそうにつぶやいたのだった。
「あの、すみませんです、殿下」
「なんだ?」
 そこへ、今回の作戦で生き残った傭兵であるディックとビーの二人が入ってきた。
「なんだ、命拾いをした運のいいやつらか。一体、俺に何の用なんだ」
 ぎろりと睨みながら、バタフィー王子は話をしている。その眼光の鋭さに、ディックとビーの二人は震え上がってしまう。
 だが、話があってやって来たのだから、ここですごすごと引き下がるわけにはいかなかった。二人はバタフィー王子の雰囲気に負けないように、お腹に力を入れて天幕の中に一歩踏み入れる。
「殿下に頼みがあるんです」
「ほう、頼みとな?」
 ディックが頭を下げて話を始めると、バタフィー王子は見下すような視線を向けて反応をしている。
「ホッパーたちがまったく戻ってこないところを見ると、おそらくは魔族に全員やられたとみていいと思うわけでね。そこで、あたいらも殿下のところで鍛えようって思っているわけなのよ」
「王国を内部から潰そうとしていただけじゃなくて、有力者たちまで葬り始めた現状を見て、さすがに私どもも黙っているわけにはいきませんからね」
「ふむ……」
 ディックとビーの話を聞いて、バタフィー王子は少し考え始めたようだ。
 確かに、バタフィー王子の友人であるシュヴァルツ・コークロッチヌスとそのシュヴァルツの婚約者であるメープル・ホーネットが、若くしてその命を散らしてしまった。才能あふれる二人の若者の死は、王国に大きな衝撃を与えたのだ。
 そのことからして、魔女クロナの討伐は最優先課題だ。
 それ以外にも、魔族でありながら、聖女や王子である自分の婚約者という立場を手に入れようとしたことは大罪なのだ。バタフィー王子は真剣に考え込んでいる。
「よし」
 バタフィー王子は自分の膝を叩いている。
「お前たちの王国騎士団への一時的な入隊を認めよう。あのにっくき魔女を討伐するまでの期間だけだがな。その間、俺たちがみっちりと鍛え上げてやる」
「ありがとうございます」
「あたいらも舐められっぱなしじゃいられないからね。精一杯強くなれるように努力をさせてもらうわ」
「ふん、せいぜい途中で逃げ出さいないことだな。それと、所属する間は俺の指揮下に入ってもらうから、その気でいろよ?」
「合点ですとも」
 バタフィー王子に入隊を認められ、ディックとビーの二人はやる気を見せている。
 王国にある傭兵ギルドに所属している二人なのだ。王国が滅べば、自分たちも行き場を失いかねない。背に腹は代えられぬと、相応の覚悟を決めているのだ。
 その後、一夜を過ごした王国軍は、再び王都へと向けて撤退を始める。
 バタフィー王子は、次こそクロナを仕留めると強い決意を秘め、悔しさをにじませながら王都へと引き揚げたのだった。