第三百六十八話
ー/ー 透やエヴァ、丙良や信玄――果てには礼安。彼女らが居ないと、自分は所詮この程度。他の生徒よりも優れた能力であるのは重々理解しているが、時折それだけでは『足りない』と実感することが多くなっていた。
透の方は基本的に言伝に聞くことがほとんどであるが、礼安に対しこっ酷く敗北してから、地力を徹底的に高め続ける修行を行っていた。授業だけではなく、プライベートでも渡部のサポートを受け着実に強くなっていた。今一対一でやり合ったのなら……院は負ける自信だけは人一倍あるだろう。
今回の透・渡部の演目に関しては、先ほど決まったようなものをストリート・ブレイクダンス込みで行う、文字通りの二人一組のデュエット。それぞれの特色を活かす、最高の形だろう。さらに、それだけではなくあらゆる女性アイドルグループの特徴を考えながら、自分たちに活かせるものを徹底的に喰らい吸収していく『貪欲さ』がある。
対して、院に関してはどうだろうか。確かにあらゆる要素を吸収しようとするチャレンジ精神はある。だが、既存の型に収まっているような気がしてならないのだ。ずっと、自問自答をした結果、ありきたりな結論に行き着くような。
(――私は……『あの日』に誓ったはずなのに。それなのに……どうしてこう空回りするんでしょうか)
思い返すは、自身に因子が目覚めたとき。母親を喪った、『あの時』。礼安に関してはトラウマそのものであるために、未だに記憶に靄のかかっている『あの時』の記憶。
(あんな……あんな悲劇だけは……もう二度と……)
鬱な状況で、さらに熱が上がってしまう院。大量に汗を掻く中で、悪夢のように過ぎっていく過去の出来事。院の表情が苦悶に歪む。
その中で遂に、上田が帰ってくる前に――院は意識を失ってしまった。
上田が帰ってくると、多量の汗を流し、異常なほどの高熱にうなされている院がいた。もはや、あらゆる冷感グッズやらちょっとした薬程度では収まりのつかない、能力の暴走に近い熱量であった。超高性能の頭脳の熱暴走、はたまたそれ以上の圧倒的熱量が、彼女自身から漏れ出していたのだ。
荷物を思わず取り落とし、すぐさま近づく。上田の因子上、ベース能力が『火』であるためにある程度平静を保っていられるが……少なくともちゃんとした本格派サウナほどの熱であった。常人が服など着て接することなど、自殺行為だと言われるほどに――室温は上がっていく。
(これ……俺でどうにかできる訳がない……! 学園長に伝えなきゃ――)
しかし、その瞬間に、熱暴走を起こしていた傍のノートパソコンが、ひとりでに動き始める。ノイズが大量にかかっていたが、その奥に何者かの存在を感じ取ることが出来た。
普通ならば、こんな現実を超越したような現象が起こるはずはない。しかし、内に眠る英雄が、そのノートパソコンに手を伸ばしていたのだ。自分が何をできるのか、何をしてやれるかなんて関係なし、以前のトラウマを振り払って、ただひたすらに相棒を救うために体が動いていたのだ。
(……ここで、ここで怖気づいてどうする! 彼女の因子と俺の因子は非常に近しい存在……! それに……俺だからこそ『出来る』事があるかもしれない……!)
すぐさまノートパソコンの画面に向き合う上田。そこには、顔にノイズが掛かった存在が複数存在。語り掛けることなんてできやしない、まずそんな思考に至ること自体が無かったために――そのパソコンからの断末魔に素っ頓狂な声を上げてしまう。
どんなボタンを押そうと、その断末魔が止むことはない。泣き叫ぶ声も聞こえるだろうか。どれほどの悲痛な状況にあれば、これほど人は声を上げることが出来るのだろう、どれほど人生に絶望することができるだろう、そう思考欲を否が応でも掻き立てられてしまう、女の声であった。
『だめ なかないで』
「!? そ、そこに居るのは誰なんだ!?」
思わず、声を荒らげる上田。その声に反応してか、ノイズのかかった何者かは、後ろで起こっている惨劇から顔を背けながら、画面の向こう側に存在する彼の方へ向き直る。
『わたし、しんでるの。しょうじき、こうしてだれかとはなせているのもびっくりなんだけど。みずしらずではあるけれど、きみには『そういう』いんしがやどっているんだね
「――貴方は、一体誰なんですか」
画面に映る謎の人物は、表情など一切窺い知ることは出来ないものの、酷く辛そうな声で正体を明かす。
『しんら。しんら――――』
肝心な部分はノイズが掛かり聞こえなかったものの、『しんら』とだけ聞こえた上田は、すぐさま後ろにてうなされている彼女を見やる。もしこの発言が本当ならば、『しんら』は間違いなく『真来』と言うことになるのだが――今の上田には確認のしようがない。
『――かこいは、なやみすぎるやさしいこ。だから……しんわせいのたかいあなたが……いきているあなたが、たすけてあげて。わたしは……いまはなにもしてあげられないから』
「――俺が、助ける……」
過ぎるは、過去の記憶。自分のせいで、片思いしていた女が目の前で惨殺されたこと。己が内で目覚めたこの因子を、一時期酷く恨んだ。しかし、こうして謎の高熱にうなされている彼女を救える状況にあるのは、上田ただ一人。ここで動かなければ、彼女が死ぬかもしれない。
「……どうすれば、院ちゃんは助かるんですか!」
『それは――って、まさか……このはんのう……』
真来姓を名乗る何者かは、画面に近づいてその向こう側にて横たわっている院を見つめる。絶句した後に帰ってきた言葉は、予想だにしないものであった。
『――『あのこ』と、いっしょ……ちからのこんげんをこわさないかぎり、へいおんはおとずれないのかも』
透の方は基本的に言伝に聞くことがほとんどであるが、礼安に対しこっ酷く敗北してから、地力を徹底的に高め続ける修行を行っていた。授業だけではなく、プライベートでも渡部のサポートを受け着実に強くなっていた。今一対一でやり合ったのなら……院は負ける自信だけは人一倍あるだろう。
今回の透・渡部の演目に関しては、先ほど決まったようなものをストリート・ブレイクダンス込みで行う、文字通りの二人一組のデュエット。それぞれの特色を活かす、最高の形だろう。さらに、それだけではなくあらゆる女性アイドルグループの特徴を考えながら、自分たちに活かせるものを徹底的に喰らい吸収していく『貪欲さ』がある。
対して、院に関してはどうだろうか。確かにあらゆる要素を吸収しようとするチャレンジ精神はある。だが、既存の型に収まっているような気がしてならないのだ。ずっと、自問自答をした結果、ありきたりな結論に行き着くような。
(――私は……『あの日』に誓ったはずなのに。それなのに……どうしてこう空回りするんでしょうか)
思い返すは、自身に因子が目覚めたとき。母親を喪った、『あの時』。礼安に関してはトラウマそのものであるために、未だに記憶に靄のかかっている『あの時』の記憶。
(あんな……あんな悲劇だけは……もう二度と……)
鬱な状況で、さらに熱が上がってしまう院。大量に汗を掻く中で、悪夢のように過ぎっていく過去の出来事。院の表情が苦悶に歪む。
その中で遂に、上田が帰ってくる前に――院は意識を失ってしまった。
上田が帰ってくると、多量の汗を流し、異常なほどの高熱にうなされている院がいた。もはや、あらゆる冷感グッズやらちょっとした薬程度では収まりのつかない、能力の暴走に近い熱量であった。超高性能の頭脳の熱暴走、はたまたそれ以上の圧倒的熱量が、彼女自身から漏れ出していたのだ。
荷物を思わず取り落とし、すぐさま近づく。上田の因子上、ベース能力が『火』であるためにある程度平静を保っていられるが……少なくともちゃんとした本格派サウナほどの熱であった。常人が服など着て接することなど、自殺行為だと言われるほどに――室温は上がっていく。
(これ……俺でどうにかできる訳がない……! 学園長に伝えなきゃ――)
しかし、その瞬間に、熱暴走を起こしていた傍のノートパソコンが、ひとりでに動き始める。ノイズが大量にかかっていたが、その奥に何者かの存在を感じ取ることが出来た。
普通ならば、こんな現実を超越したような現象が起こるはずはない。しかし、内に眠る英雄が、そのノートパソコンに手を伸ばしていたのだ。自分が何をできるのか、何をしてやれるかなんて関係なし、以前のトラウマを振り払って、ただひたすらに相棒を救うために体が動いていたのだ。
(……ここで、ここで怖気づいてどうする! 彼女の因子と俺の因子は非常に近しい存在……! それに……俺だからこそ『出来る』事があるかもしれない……!)
すぐさまノートパソコンの画面に向き合う上田。そこには、顔にノイズが掛かった存在が複数存在。語り掛けることなんてできやしない、まずそんな思考に至ること自体が無かったために――そのパソコンからの断末魔に素っ頓狂な声を上げてしまう。
どんなボタンを押そうと、その断末魔が止むことはない。泣き叫ぶ声も聞こえるだろうか。どれほどの悲痛な状況にあれば、これほど人は声を上げることが出来るのだろう、どれほど人生に絶望することができるだろう、そう思考欲を否が応でも掻き立てられてしまう、女の声であった。
『だめ なかないで』
「!? そ、そこに居るのは誰なんだ!?」
思わず、声を荒らげる上田。その声に反応してか、ノイズのかかった何者かは、後ろで起こっている惨劇から顔を背けながら、画面の向こう側に存在する彼の方へ向き直る。
『わたし、しんでるの。しょうじき、こうしてだれかとはなせているのもびっくりなんだけど。みずしらずではあるけれど、きみには『そういう』いんしがやどっているんだね
「――貴方は、一体誰なんですか」
画面に映る謎の人物は、表情など一切窺い知ることは出来ないものの、酷く辛そうな声で正体を明かす。
『しんら。しんら――――』
肝心な部分はノイズが掛かり聞こえなかったものの、『しんら』とだけ聞こえた上田は、すぐさま後ろにてうなされている彼女を見やる。もしこの発言が本当ならば、『しんら』は間違いなく『真来』と言うことになるのだが――今の上田には確認のしようがない。
『――かこいは、なやみすぎるやさしいこ。だから……しんわせいのたかいあなたが……いきているあなたが、たすけてあげて。わたしは……いまはなにもしてあげられないから』
「――俺が、助ける……」
過ぎるは、過去の記憶。自分のせいで、片思いしていた女が目の前で惨殺されたこと。己が内で目覚めたこの因子を、一時期酷く恨んだ。しかし、こうして謎の高熱にうなされている彼女を救える状況にあるのは、上田ただ一人。ここで動かなければ、彼女が死ぬかもしれない。
「……どうすれば、院ちゃんは助かるんですか!」
『それは――って、まさか……このはんのう……』
真来姓を名乗る何者かは、画面に近づいてその向こう側にて横たわっている院を見つめる。絶句した後に帰ってきた言葉は、予想だにしないものであった。
『――『あのこ』と、いっしょ……ちからのこんげんをこわさないかぎり、へいおんはおとずれないのかも』
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