第三百六十七話
ー/ー 学園祭まで、残り二週間を切った。その中で、各学生たちは早々に学園祭における各クラスの催し事の準備を終わらせ、下の組の生徒たちがより張り切った状況で、音楽フェスの準備に本腰を入れていた。
そこかしこで異なる音楽ジャンルの音が鳴り響き、もはやちょっとしたお祭り状態ではあったのだが、まだ本祭ではない。それぞれが、音楽に合わせ踊るかボーカルを担当するか、人によって千差万別であるために、見ていて大分華やかであった。
未だ拙い部分もあるものの、物作りの技能が基本的に優れている武器科と、何かしらの突出した才能を活かす英雄科、それぞれの色が出る面白い状態にあった。信一郎自体は非常に先見の明に優れているため、こうなることもお見通しであったのかもしれない。
そして、現在進行形で努力を重ねるペアが、ここに一組。それこそ、院・上田ペアであった。
上田のリミックスしたテクノ・クラシックミュージックに乗せ、院が優雅に舞って見せる。上田自体に踊りの才能がないため、基本的に院の一人劇場のようなスタイルであった。
バレエのようなストーリー性を持たせながら、社交ダンスのような優雅さの中に存在する自由さを以って、オリジナルの物語を表現していくその姿は、まさに主役そのものである。
一通りの合わせが終了した後、意見を交換し合う二人。基本的には「ここが駄目」と言うよりは、「このタイミングでの振り付けはどうだ」、だとか「音の大きさやタイミングがどうだ」だとか、そういった物がほとんど。なんせ、もう音楽フェスまで二週間を切っているのだから、それほどの低次元なやり取りをしているだけで、周りよりも遅れていることは明確である。
何も、見栄でこんなやり取りをしている訳ではない。実際に他のタッグがそのようなやり取りを交わしている中で、院・上田ペアと透・渡部ペアが抜きんでているために、余計に目立っていたのだ。
「――とまあ、私から出せる意見はこの位でしょうか。何かしら、上田先輩からの意見はあるでしょうか」
「そうだね、俺は基本的にダンスに関しては門外漢だから、細部には突っ込まないけれど……思ったことは『ストーリーの浅さ』かな。以前勉強で見させてもらったバレエの映像の数々を見る限り、かなり細部まで作り込まれているな、とは思ってね」
「……それに関しては、私の表現力不足もありますわね。真来家で習っていた、とはいえ……かなりブランクはある上でのこのフェスですからね……戦うのと舞うのとでは話が別なんですよね……」
改めて合わせの作業が終了したために、二人でもう一度バレエの映像を食い入るように見つめる時間が始まる。基本的に、そこから発想の発展を受けることが多いため、二人ともその時間を必要としていた。
「我々は、基本的に我々二人しか仲間がいません。そのため演目『ジゼル』の内に存在する群舞、それを火のベース能力での『陽炎』に似た能力を用いない限り不可能。私の力を向上させれば話は変わってくるでしょうが……」
「その時に付きまとってくるのは、院ちゃんの能力による機材の熱暴走なんだよね……だから初っ端から論外だった」
それに、問題はもう一つ存在する。それが、『壮大な演目は実行不可能』と言う、実にバレエ・ダンスを行う上で苦しい部分であった。
基本的に、バレエの演目上演時間という物は、休憩時間含め一時間から三時間ほど。一幕、二幕構成かつ幕間、と言う構成かつ休憩時間含めで平均二時間ほど。そのため、重厚な物語をぶつけるには用意された時間が短すぎるのだ。今回の一組当たりの演目時間は、最長六分。そもそもの土台が、院の予定しているものと相性が悪いのだ。
「――私に、透のような異なるダンスの能力が備わっていたら、上田先輩ももう少し楽でしょうね。元々備わっているDJの能力をフルに活かせるでしょう」
「まあそれは言いっこなしよ。誰にだって得手不得手はあるんだし、俺が踊れない代わりに音楽をリミックスして……あ」
何かに気付いた様子の上田は、音楽を聴きながら楽譜に雑な文字で記していく。これまでの不安点をある程度解消できる道筋が、自分自身が担える要素であると気付いたのだ。
「……さっき言ったよね、ストーリー性に関して。時間を貰えればちゃんとした演目が出来るだろうが、既存の物の模倣は俺も院ちゃんも嫌った。だからこそオリジナルを突き詰めて新たなダンスコンテンツを生み出したわけだけど……俺がここに『DJ兼ボーカル』で参戦すれば……?」
「――成程。でも……それは上田先輩の負担が大きくなるのでは……?」
「それに関しては、体を張らせてくれ。ただでさえ、色々……君は頑張りすぎている節がある」
上田がどれほどレディーファースト精神を発揮し気を使おうと、元々実力者であるために様々な場所に出向く機会が多い院。この準備期間の間も、事あるごとに些細な事件の解決を東京都内で行っていた。礼安とエヴァは未だ皆の前に姿を現さない辺り、院も自分でやるべきなのだろうと抱え込んでいたのだ。
その結果、大分顔色が悪くなっていた。そもそも、姉妹の絆という物は大分色濃く太いものであることは重々承知しているのだが、ここまで影響が大きいと、今後の練習や本番に支障が出そうだった。
「――そうですか、では……そちらの方面はお任せします。私はそこまで歌うことに長けている訳ではないので……」
その言葉と共に、院は青ざめた表情のままその場を去ろうとする。何とも嫌な予感がした上田は、ふらつき倒れそうになる彼女の肩をしっかりと支える。
「……ぁ」
「ここの所、根の詰め過ぎだ。先輩としては見過ごせないね」
院の傍では素の彼で居る、そんな条件を課したために、どこか本来感じたことのない頼もしさを胸中に抱く。それの正体が何なのか、知る由は無かったのだが。
「ベッドに寝かせるために、横抱きの体勢になっていいかな」
「――構いませんわ」
その返答に、すぐさま練習室から院の部屋に直行する上田。邪な感情が一切ないからこそ、院はそうすることを許したのだ。徐々に院の中で熱が高まっていく中、何とかして寝かせるのだった。
「これから、買い出しに行くけれど……何か欲しいものあるかい? スポドリとか冷感シートとか買ってくるけど」
「……では、簡易栄養食を。カロリーメイトのメープル味ならなお良し、ですわ」
「分かった。でも、基本的には俺がうどんでもおかゆでも作ってあげるから、それ食べてね。消化にはそっちの方が良いだろうし」
自分の財布を持って、上田はすぐさま寮を出る。一人きりになった院は、パソコンに映されたバレエの映像を横目で見ながら、ぽっかりと穴の開いたような喪失感に苛まれていた。
(私は――本当に一人きりでは何もできないような……弱い存在ですわ。主役を張るどころか、群舞の内にすら入ることは……本来ならば許されないのでしょうね)
そこかしこで異なる音楽ジャンルの音が鳴り響き、もはやちょっとしたお祭り状態ではあったのだが、まだ本祭ではない。それぞれが、音楽に合わせ踊るかボーカルを担当するか、人によって千差万別であるために、見ていて大分華やかであった。
未だ拙い部分もあるものの、物作りの技能が基本的に優れている武器科と、何かしらの突出した才能を活かす英雄科、それぞれの色が出る面白い状態にあった。信一郎自体は非常に先見の明に優れているため、こうなることもお見通しであったのかもしれない。
そして、現在進行形で努力を重ねるペアが、ここに一組。それこそ、院・上田ペアであった。
上田のリミックスしたテクノ・クラシックミュージックに乗せ、院が優雅に舞って見せる。上田自体に踊りの才能がないため、基本的に院の一人劇場のようなスタイルであった。
バレエのようなストーリー性を持たせながら、社交ダンスのような優雅さの中に存在する自由さを以って、オリジナルの物語を表現していくその姿は、まさに主役そのものである。
一通りの合わせが終了した後、意見を交換し合う二人。基本的には「ここが駄目」と言うよりは、「このタイミングでの振り付けはどうだ」、だとか「音の大きさやタイミングがどうだ」だとか、そういった物がほとんど。なんせ、もう音楽フェスまで二週間を切っているのだから、それほどの低次元なやり取りをしているだけで、周りよりも遅れていることは明確である。
何も、見栄でこんなやり取りをしている訳ではない。実際に他のタッグがそのようなやり取りを交わしている中で、院・上田ペアと透・渡部ペアが抜きんでているために、余計に目立っていたのだ。
「――とまあ、私から出せる意見はこの位でしょうか。何かしら、上田先輩からの意見はあるでしょうか」
「そうだね、俺は基本的にダンスに関しては門外漢だから、細部には突っ込まないけれど……思ったことは『ストーリーの浅さ』かな。以前勉強で見させてもらったバレエの映像の数々を見る限り、かなり細部まで作り込まれているな、とは思ってね」
「……それに関しては、私の表現力不足もありますわね。真来家で習っていた、とはいえ……かなりブランクはある上でのこのフェスですからね……戦うのと舞うのとでは話が別なんですよね……」
改めて合わせの作業が終了したために、二人でもう一度バレエの映像を食い入るように見つめる時間が始まる。基本的に、そこから発想の発展を受けることが多いため、二人ともその時間を必要としていた。
「我々は、基本的に我々二人しか仲間がいません。そのため演目『ジゼル』の内に存在する群舞、それを火のベース能力での『陽炎』に似た能力を用いない限り不可能。私の力を向上させれば話は変わってくるでしょうが……」
「その時に付きまとってくるのは、院ちゃんの能力による機材の熱暴走なんだよね……だから初っ端から論外だった」
それに、問題はもう一つ存在する。それが、『壮大な演目は実行不可能』と言う、実にバレエ・ダンスを行う上で苦しい部分であった。
基本的に、バレエの演目上演時間という物は、休憩時間含め一時間から三時間ほど。一幕、二幕構成かつ幕間、と言う構成かつ休憩時間含めで平均二時間ほど。そのため、重厚な物語をぶつけるには用意された時間が短すぎるのだ。今回の一組当たりの演目時間は、最長六分。そもそもの土台が、院の予定しているものと相性が悪いのだ。
「――私に、透のような異なるダンスの能力が備わっていたら、上田先輩ももう少し楽でしょうね。元々備わっているDJの能力をフルに活かせるでしょう」
「まあそれは言いっこなしよ。誰にだって得手不得手はあるんだし、俺が踊れない代わりに音楽をリミックスして……あ」
何かに気付いた様子の上田は、音楽を聴きながら楽譜に雑な文字で記していく。これまでの不安点をある程度解消できる道筋が、自分自身が担える要素であると気付いたのだ。
「……さっき言ったよね、ストーリー性に関して。時間を貰えればちゃんとした演目が出来るだろうが、既存の物の模倣は俺も院ちゃんも嫌った。だからこそオリジナルを突き詰めて新たなダンスコンテンツを生み出したわけだけど……俺がここに『DJ兼ボーカル』で参戦すれば……?」
「――成程。でも……それは上田先輩の負担が大きくなるのでは……?」
「それに関しては、体を張らせてくれ。ただでさえ、色々……君は頑張りすぎている節がある」
上田がどれほどレディーファースト精神を発揮し気を使おうと、元々実力者であるために様々な場所に出向く機会が多い院。この準備期間の間も、事あるごとに些細な事件の解決を東京都内で行っていた。礼安とエヴァは未だ皆の前に姿を現さない辺り、院も自分でやるべきなのだろうと抱え込んでいたのだ。
その結果、大分顔色が悪くなっていた。そもそも、姉妹の絆という物は大分色濃く太いものであることは重々承知しているのだが、ここまで影響が大きいと、今後の練習や本番に支障が出そうだった。
「――そうですか、では……そちらの方面はお任せします。私はそこまで歌うことに長けている訳ではないので……」
その言葉と共に、院は青ざめた表情のままその場を去ろうとする。何とも嫌な予感がした上田は、ふらつき倒れそうになる彼女の肩をしっかりと支える。
「……ぁ」
「ここの所、根の詰め過ぎだ。先輩としては見過ごせないね」
院の傍では素の彼で居る、そんな条件を課したために、どこか本来感じたことのない頼もしさを胸中に抱く。それの正体が何なのか、知る由は無かったのだが。
「ベッドに寝かせるために、横抱きの体勢になっていいかな」
「――構いませんわ」
その返答に、すぐさま練習室から院の部屋に直行する上田。邪な感情が一切ないからこそ、院はそうすることを許したのだ。徐々に院の中で熱が高まっていく中、何とかして寝かせるのだった。
「これから、買い出しに行くけれど……何か欲しいものあるかい? スポドリとか冷感シートとか買ってくるけど」
「……では、簡易栄養食を。カロリーメイトのメープル味ならなお良し、ですわ」
「分かった。でも、基本的には俺がうどんでもおかゆでも作ってあげるから、それ食べてね。消化にはそっちの方が良いだろうし」
自分の財布を持って、上田はすぐさま寮を出る。一人きりになった院は、パソコンに映されたバレエの映像を横目で見ながら、ぽっかりと穴の開いたような喪失感に苛まれていた。
(私は――本当に一人きりでは何もできないような……弱い存在ですわ。主役を張るどころか、群舞の内にすら入ることは……本来ならば許されないのでしょうね)
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