第三百六十二話
ー/ー
その衝撃的な暴露に、透の方が驚いていた。自分が助け舟を出した存在が、近い将来この学園にやってくる超がつくほどのビッグネームであり、さらに『因子持ち』であった時の衝撃は計り知れないだろう。
「――実は、今回彼女をブッキングさせてもらったのも、それが理由なんだ。英雄学園の入学希望者を増やすだなんて、実に大人の私情に塗れたやらしい意味合いもあるけれど、こういった存在でも世の中は門戸を広げ明るい未来を見せてくれる、それを示したかったんだ」
基本的に、力の無い者や将来性の無い者は、往々にしてこの学園内では下の組に渡ってしまう。しかし、そんな存在でも優先的に門戸を開く界隈こそ、芸能界であるのだ。
何せ、『元英雄学園所属』と言うだけで、大いにネームバリューのある存在。因子と言う選ばれた存在にしか目覚めないものを保有しており、かつそこである程度生き残れたフィジカルやメンタルも加味され、ありとあらゆる分野に羽ばたける、最高の戦場。ある意味、本来の夢が叶わないとしても、良い意味で諦めがつく場である。
実際、芸能人やアイドルになった存在はかなり多い。専門職に就く者は相当数いるが、それ程に出身者が多い。非常に厳しい『卒業』の門戸を開けるものは数少ないために、低い可能性に賭け将来が中途半端に閉ざされるよりも、そういった輝かしい業界に羽ばたき新たな経験を得ることこそ、意義があるのだ。
例え、英雄学園を中退したとしても、『英雄学園に入学、及び在籍していた』事実は履歴書にもかけるほどのバリューとなるために、今まで誰も卒業できない、と言うマイナス面が、日本の中での有名名門大学卒業よりも価値があるのだ。
「でも……私も私で諦めきれなくって。芸能人である以上、お仕事=ギャランティの話が付きまとってくる訳だけど、こちらが実費を出させてもらうから、来年の入学試験に普通枠で出願させてほしい、って条件で仕事を受けたの。今はノーギャラだけど、私の経験には絶対に繋がる。女優業の幅を広げるためにも、私自身が望んだことなの」
ある程度の合点がいった院と透は、そのまま今後についての話に切り替える。
「――じゃあ、今後はどうしましょうか、お父様。基本的に、やられっぱなしと言うのは癪に障るのですが」
「……俺からもそれは言わせてもらうぜ。合同演習会では世話になったんだ、その借りを返してェ」
「私も、出来る限りのことをさせて下さい。丙良くんは芸能界でもファンの多い人、そんな人を傷付けただなんてことは由々しき事態ですから」
覚悟を決める女子陣であったが、信一郎の反応は芳しくなかった。少しでも判断材料が欲しいと、その病院の医者に直通の電話を掛ける。少し多めのコールの後、応答した。
『――どうしましたか、学園長さん』
「……丙良くんの受けた傷から、判別できる限りの魔力反応を探知してほしい。それで――丙良くんが誰と戦ってそこまで傷ついたのかを知りたい。少々、気になる事があるんだ」
少しの無言の後、電話の向こう側にて疑問符を浮かべる医者の声が聞こえた。
『――何と言えば良いでしょうか。複雑な魔力が絡み合って、ベース能力が『闇』の反応を見せる時もあれば、全く別の魔力反応を見せる時もあるというか……』
「……ありがとう、今の言質で『全て』理解したよ」
一方的に電話を切る信一郎。きっと向こうは困惑しているだろうが、信一郎の中で一つの結論を見つけ出した。酷く冷徹な声で、意気込んでいる皆を制止するように言い放つのだった。
「――丙良くんは、『カルマに傷つけられた』。栃木支部の誰でもない、現時点において私以外到底敵うはずのない戦いを挑んだ、って事だね」
「嘘、カルマに……!?」
信一郎が仕入れてきたデータは、栃木支部とカルマの関わり。何やら昨今妙な動きをしていることは既にこの渡された予告状によって示しがついている。その中で、独自に調査を続けた結果、今回の作戦行動に深くかかわっていることも理解していたのだった。
「一応アイツがどこにいるか、っていうのは基本的に地方警察やら何やら、多くの人員に常時調査させてる。基本的にアイツは今実態を持たない存在に他ならないから、以前よりは脅威度が落ちているけれど……もし自分を害そうとする存在が現れたのなら――問答無用で『殺す』くらいのことはやる。証拠云々なんて一切関係なし、ただ自分が気に食わないからこそ殺められる。そんな相手がいる場に――むざむざ生徒たちを殺させるために送り込みたくはないね」
実に冷静沈着。状況判断能力も正確。それに、教育者としての意思も確かと言えるために、今全力で引き留めていたのだ。彼女らを多少なり威圧する目的で語る中でも、傍らのノートパソコンを操作しながら、どこかへ連絡を取る信一郎。他でもなく、丙良が傷ついたことを知ったのなら、報復を行う関係性の深い人物は一人存在する。正しく、森信玄であった。相手が『そう』であることを伝えるのと、同じような被害をこれ以上出したくない、信一郎の心遣いであったのだ。
同性であるからこそ、気持ちは痛いほど理解できる。復讐したい気持ちも理解できる。ただでさえ、来栖善吉に自分の弟を殺害されてから、信玄は静かに壊れ始めていた。いくら彼に関する記憶が一時完全に消え失せていたとしても、様子が明らかにおかしくなっていたのだ。
信一郎は、その時に自分の「一時静観する」と言う選択を悔いた。だからこそ、非情ではあるものの、たった今全ての被害状況を説明したのだ。
「――悪いが、今栃木に向かうことは私が許さない。君らの命を最優先に考えるためだ。ただでさえ、君らは以前合同演習会で……礼安の体を操ったアイツに手も足も出なかったろう」
至極真っ当な言葉に、ぐうの音も出ない院達。
「正直、アイツの強さを考えると、丙良くんを弄んだ結果、遊びや気まぐれで生かしているようなものだ。それほどに、アイツは異次元のような存在なんだ。私が唯一――たった一回限りの『全力』を出した相手でもあるからね」
「じゃあ……じゃあ俺らはどうすればいいんだよ……! 大事な仲間傷つけられて、このままでいていいのかよ……!!」
「――何、私がこれまで何もしていなかった訳じゃあない。集会以降、皆の前に姿を現さなかったのにはある程度の理由が存在するのさ」
そう語り手にしていたのは――あろうことか約三週間後の学園祭兼音楽フェス、そのパンフレットであった。なぜ今、そのパンフレットの原本を持っているのかが理解できなかった三人であったが、その場に駆けてやってくる存在が新たに一人いた。先ほど連絡を行った、信玄であった。
「――どういう意味だよ、学園長。慎ちゃんの仇を討てる、って」
その理想的ともいえる言葉を、俄かに信じがたい様子であったため、信一郎はすぐさま解説を始めた。ある意味自白、ともとれるような内容であったのだが。
「……まず、現状の関東地方に存在する教会の支部の中で、次に何かしらの妨害工作を行ってくるであろう存在に思考を巡らせたんだ。他でもなく、栃木県に置かれている栃木支部だ。『現状の奴ら』は、基本的にカルマがバックにいる状態で、意気揚々と英雄学園に攻め立て来るだろう。だが、その中で奴らのほとんどは……元々穏健派、と言うか非常に憶病な存在なんだよ」
「――一体、どういうことだよ……? 臆病だとか、何だとかって」
「基本的に、彼らのバックボーンにその理由が隠されているんだ。これに関しては基本的に私が話すようなことではない、と考えている。理由は非常にシンプル、プライベートかつデリケートな問題だから、詳しいことが『話せない』」
しかし信一郎は、話せない代わりに莫大なヒントを与えるために、そのパンフレットを開き、招致したVIPを彼女らに見せつける。どれもこれも、一般人が知る由も無いようなテレビ局内の権力者やら、音楽業界や映像業界の重鎮ばかり。院たちも何かしらの縁があったら接する機会もあるだろうが、一般には触れることはおろか会話することもできないような存在ばかり。
「――今回、ただ学園祭であるから、と言う理由だけでは呼べないような存在まで招致した。昨年の学園祭を理解している信玄くんも、それは十分理解しているよね?」
「あ、あァまあ……やたら去年より豪華だなとは思ったけれどよ……」
「そう、そこね。高梨さん本人の前で語るようなことではないけれど……今回はそのゲスト自体が――意気揚々と現れるであろう栃木支部をおびき寄せる、『盛大な撒き餌』なんだよね」
その言葉と見せられたパンフレットだけでは、いまいち理解しきれていない様子の一年次二人であったが、信玄は理解した瞬間に信一郎を辛辣な目で睨む。
「……本当、えげつねぇな」
「ま、基本的には栃木支部全体を狙い撃ち、と言うよりは……最近同行が怪しくなってきた『和氣和弘』、と言う問題行動を最近重ねている男を狙い撃つ目的しかないね。当人以外は基本的に、降参したら特に後のことは考えていないからね」
心優しい高梨の心配そうな視線に感化されてか、その後の処分を思わず口にした信一郎。流石に、英雄であるのにも拘らず酷い行いを敵に振舞うだなんてことは許されないためである。
「基本的に、栃木支部の面子は総じて『芸能界に恨みを持つ』、あるいは『芸能界に全てを喰らわれた存在』ばかりで構成されている。それの現状の権力者が『暴食』の力を保有しているのも、どうも皮肉めいたものを感じて仕方ない。カルマのやることだ、性根の悪いことだったら無限にやれるんだろうな」
だからこそ、恨み辛みの対象を一点に集めた上で、襲撃の場所を分かりやすくした上で英雄たちがそれを叩く。悪事を働こうとするのなら、問答無用で倒す以外に道は無い。
「だからこそ、仇を討てるタイミングは……およそ三か月後。その時には礼安とエヴァちゃんは所用があって学園から居なくなってしまうが……我々で事態の解決を行おう。私に関しては丙良くんの治療の手助けのために、今日から長期間病院の手伝いに入るけれど……君らは奴らに察されないよう、至って普通の学園生活を送ってくれたまえよ。これは無策の耐えじゃあない、『有策の耐え』だよ」
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「――実は、今回彼女をブッキングさせてもらったのも、それが理由なんだ。英雄学園の入学希望者を増やすだなんて、実に大人の私情に塗れたやらしい意味合いもあるけれど、こういった存在でも世の中は門戸を広げ明るい未来を見せてくれる、それを示したかったんだ」
基本的に、力の無い者や将来性の無い者は、往々にしてこの学園内では下の組に渡ってしまう。しかし、そんな存在でも優先的に門戸を開く界隈こそ、芸能界であるのだ。
何せ、『元英雄学園所属』と言うだけで、大いにネームバリューのある存在。因子と言う選ばれた存在にしか目覚めないものを保有しており、かつそこである程度生き残れたフィジカルやメンタルも加味され、ありとあらゆる分野に羽ばたける、最高の|戦場《フィールド》。ある意味、本来の夢が叶わないとしても、良い意味で諦めがつく場である。
実際、芸能人やアイドルになった存在はかなり多い。専門職に就く者は相当数いるが、それ程に出身者が多い。非常に厳しい『卒業』の門戸を開けるものは数少ないために、低い可能性に賭け将来が中途半端に閉ざされるよりも、そういった輝かしい業界に羽ばたき新たな経験を得ることこそ、意義があるのだ。
例え、英雄学園を中退したとしても、『英雄学園に入学、及び在籍していた』事実は履歴書にもかけるほどのバリューとなるために、今まで誰も卒業できない、と言うマイナス面が、日本の中での有名名門大学卒業よりも価値があるのだ。
「でも……私も私で諦めきれなくって。芸能人である以上、お仕事=ギャランティの話が付きまとってくる訳だけど、こちらが実費を出させてもらうから、来年の入学試験に普通枠で出願させてほしい、って条件で仕事を受けたの。今はノーギャラだけど、私の経験には絶対に繋がる。女優業の幅を広げるためにも、私自身が望んだことなの」
ある程度の合点がいった院と透は、そのまま今後についての話に切り替える。
「――じゃあ、今後はどうしましょうか、お父様。基本的に、やられっぱなしと言うのは癪に障るのですが」
「……俺からもそれは言わせてもらうぜ。合同演習会では世話になったんだ、その借りを返してェ」
「私も、出来る限りのことをさせて下さい。丙良くんは芸能界でもファンの多い人、そんな人を傷付けただなんてことは由々しき事態ですから」
覚悟を決める女子陣であったが、信一郎の反応は芳しくなかった。少しでも判断材料が欲しいと、その病院の医者に直通の電話を掛ける。少し多めのコールの後、応答した。
『――どうしましたか、学園長さん』
「……丙良くんの受けた傷から、判別できる限りの魔力反応を|探知《サーチ》してほしい。それで――丙良くんが誰と戦ってそこまで傷ついたのかを知りたい。少々、気になる事があるんだ」
少しの無言の後、電話の向こう側にて疑問符を浮かべる医者の声が聞こえた。
『――何と言えば良いでしょうか。複雑な魔力が絡み合って、ベース能力が『闇』の反応を見せる時もあれば、全く別の魔力反応を見せる時もあるというか……』
「……ありがとう、今の言質で『全て』理解したよ」
一方的に電話を切る信一郎。きっと向こうは困惑しているだろうが、信一郎の中で一つの結論を見つけ出した。酷く冷徹な声で、意気込んでいる皆を制止するように言い放つのだった。
「――丙良くんは、『カルマに傷つけられた』。栃木支部の誰でもない、現時点において私以外到底敵うはずのない戦いを挑んだ、って事だね」
「嘘、カルマに……!?」
信一郎が仕入れてきたデータは、栃木支部とカルマの関わり。何やら昨今妙な動きをしていることは既にこの渡された予告状によって示しがついている。その中で、独自に調査を続けた結果、今回の作戦行動に深くかかわっていることも理解していたのだった。
「一応アイツがどこにいるか、っていうのは基本的に地方警察やら何やら、多くの人員に常時調査させてる。基本的にアイツは今実態を持たない存在に他ならないから、以前よりは脅威度が落ちているけれど……もし自分を害そうとする存在が現れたのなら――問答無用で『殺す』くらいのことはやる。証拠云々なんて一切関係なし、ただ自分が気に食わないからこそ殺められる。そんな相手がいる場に――むざむざ生徒たちを殺させるために送り込みたくはないね」
実に冷静沈着。状況判断能力も正確。それに、教育者としての意思も確かと言えるために、今全力で引き留めていたのだ。彼女らを多少なり威圧する目的で語る中でも、傍らのノートパソコンを操作しながら、どこかへ連絡を取る信一郎。他でもなく、丙良が傷ついたことを知ったのなら、報復を行う関係性の深い人物は一人存在する。正しく、森信玄であった。相手が『そう』であることを伝えるのと、同じような被害をこれ以上出したくない、信一郎の心遣いであったのだ。
同性であるからこそ、気持ちは痛いほど理解できる。復讐したい気持ちも理解できる。ただでさえ、来栖善吉に自分の弟を殺害されてから、信玄は静かに壊れ始めていた。いくら彼に関する記憶が一時完全に消え失せていたとしても、様子が明らかにおかしくなっていたのだ。
信一郎は、その時に自分の「一時静観する」と言う選択を悔いた。だからこそ、非情ではあるものの、たった今全ての被害状況を説明したのだ。
「――悪いが、今栃木に向かうことは私が許さない。君らの命を最優先に考えるためだ。ただでさえ、君らは以前合同演習会で……礼安の体を操ったアイツに手も足も出なかったろう」
至極真っ当な言葉に、ぐうの音も出ない院達。
「正直、アイツの強さを考えると、丙良くんを弄んだ結果、遊びや気まぐれで生かしているようなものだ。それほどに、アイツは異次元のような存在なんだ。私が唯一――たった一回限りの『全力』を出した相手でもあるからね」
「じゃあ……じゃあ俺らはどうすればいいんだよ……! 大事な仲間傷つけられて、このままでいていいのかよ……!!」
「――何、私がこれまで何もしていなかった訳じゃあない。集会以降、皆の前に姿を現さなかったのにはある程度の理由が存在するのさ」
そう語り手にしていたのは――あろうことか約三週間後の学園祭兼音楽フェス、そのパンフレットであった。なぜ今、そのパンフレットの原本を持っているのかが理解できなかった三人であったが、その場に駆けてやってくる存在が新たに一人いた。先ほど連絡を行った、信玄であった。
「――どういう意味だよ、学園長。慎ちゃんの仇を討てる、って」
その理想的ともいえる言葉を、俄かに信じがたい様子であったため、信一郎はすぐさま解説を始めた。ある意味自白、ともとれるような内容であったのだが。
「……まず、現状の関東地方に存在する教会の支部の中で、次に何かしらの妨害工作を行ってくるであろう存在に思考を巡らせたんだ。他でもなく、栃木県に置かれている栃木支部だ。『現状の奴ら』は、基本的にカルマがバックにいる状態で、意気揚々と英雄学園に攻め立て来るだろう。だが、その中で奴らのほとんどは……元々穏健派、と言うか非常に憶病な存在なんだよ」
「――一体、どういうことだよ……? 臆病だとか、何だとかって」
「基本的に、彼らのバックボーンにその理由が隠されているんだ。これに関しては基本的に私が話すようなことではない、と考えている。理由は非常にシンプル、プライベートかつデリケートな問題だから、詳しいことが『話せない』」
しかし信一郎は、話せない代わりに莫大なヒントを与えるために、そのパンフレットを開き、招致したVIPを彼女らに見せつける。どれもこれも、一般人が知る由も無いようなテレビ局内の権力者やら、音楽業界や映像業界の重鎮ばかり。院たちも何かしらの縁があったら接する機会もあるだろうが、一般には触れることはおろか会話することもできないような存在ばかり。
「――今回、ただ学園祭であるから、と言う理由だけでは呼べないような存在まで招致した。昨年の学園祭を理解している信玄くんも、それは十分理解しているよね?」
「あ、あァまあ……やたら去年より豪華だなとは思ったけれどよ……」
「そう、そこね。高梨さん本人の前で語るようなことではないけれど……今回はそのゲスト自体が――意気揚々と現れるであろう栃木支部をおびき寄せる、『盛大な|撒き餌《チャム》』なんだよね」
その言葉と見せられたパンフレットだけでは、いまいち理解しきれていない様子の一年次二人であったが、信玄は理解した瞬間に信一郎を辛辣な目で睨む。
「……本当、えげつねぇな」
「ま、基本的には栃木支部全体を狙い撃ち、と言うよりは……最近同行が怪しくなってきた『|和氣和弘《ワキ カズヒロ》』、と言う問題行動を最近重ねている男を狙い撃つ目的しかないね。当人以外は基本的に、降参したら特に後のことは考えていないからね」
心優しい高梨の心配そうな視線に感化されてか、その後の処分を思わず口にした信一郎。流石に、英雄であるのにも拘らず酷い行いを敵に振舞うだなんてことは許されないためである。
「基本的に、栃木支部の面子は総じて『芸能界に恨みを持つ』、あるいは『芸能界に全てを喰らわれた存在』ばかりで構成されている。それの現状の権力者が『暴食』の力を保有しているのも、どうも皮肉めいたものを感じて仕方ない。カルマのやることだ、性根の悪いことだったら無限にやれるんだろうな」
だからこそ、恨み辛みの対象を一点に集めた上で、襲撃の場所を分かりやすくした上で英雄たちがそれを叩く。悪事を働こうとするのなら、問答無用で倒す以外に道は無い。
「だからこそ、仇を討てるタイミングは……およそ三か月後。その時には礼安とエヴァちゃんは所用があって学園から居なくなってしまうが……我々で事態の解決を行おう。私に関しては丙良くんの治療の手助けのために、今日から長期間病院の手伝いに入るけれど……君らは奴らに察されないよう、至って普通の学園生活を送ってくれたまえよ。これは無策の耐えじゃあない、『有策の耐え』だよ」