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第三百六十話

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 学園都市内の附属病院に運び込まれた丙良は、医者の診断を受けると――すぐにその医者の表情に陰りが現れる。多くの医者たちに囲まれた丙良は、そのまま別の場所へ運び込まれてしまったのだった。

「――一体、どういうことですの!? 丙良先輩は……」

「何か……良からぬことに巻き込まれた、ってのかよ」

 その院と透の疑問に、医者は苦虫を噛み潰したかのような表情で、診察結果を伝えるのだった。

「――丙良慎介(ヘイラ シンスケ)君は……教会の騒ぎに巻き込まれたと見て、間違いないだろうね。現状関東地方の支部に関しては粗方壊滅傾向にあって、関東地方は安全であると思い込んでいたが……そこを突かれたんだろうね」

 丙良の体には、多くの傷跡が刻まれていた。そのため、一対一と言うよりは一体多と言う状況に見舞われた結果、堅固な装甲(アーマー)を持ち合わせている丙良ですらあれほどのダメージを負ったのだ。

「でも、直近でそんな話題になるほど、教会に関する騒動があったわけではないはずですわ! 神奈川支部、埼玉支部、茨城支部、山梨支部は壊滅、千葉支部は穏健派であるっていうのに……!」

「まだ残ってんだろ、武闘派の支部が。それが……栃木支部って事だろ」

 腕を組んで医者の言葉を聞いていた透は、静かに言葉を紡ぎ出した。

「確か、新生山梨支部とのドンパチの時に、援護してくれたのが群馬支部。俺らもその恩恵に与った上で、戦場に馳せ参じた訳だ。元々、知識として入れてはいたが、群馬支部は本来の山梨支部、そして昨今の千葉支部と同様穏健派の支部長が頂点にいるからこそ、ある程度武闘派が悪さしすぎないようなバランスが取れていたんだ、よな」

「……教会」

「一般人であるアンタにはちょっと荒っぽい話にはなるが……俺らは基本的にテロリストじみたそいつらを鎮静、悪事(わるさ)が過ぎれば壊滅させてる。ニュースとかでよく見るだろ? それが俺らと教会の確執、って訳だ」

 サングラス越しでも分かるほどに、神妙な面持ちの高梨。院はほんの少し平静を取り戻しながら、その場の二人に告げるのだった。

「――このことは、お父様に伝えましょう。まだ学園長室にいるかもしれませんわ」

「……ま、妥当だわな。けど、何でこの一般人まで連れて行くんだ?」

「――他でもない、関係者ですから」


 すぐさま病院を飛び出して、学園長室の扉を開け放つ院と透。そこには案の定仕事終わりの信一郎が存在し、優雅に夜の空を眺めながらのコーヒーブレイクと洒落込んでいた。

「お父様、実は今凄く厄介なことになっていまして……」

「――知っているよ、丙良くんが病院に担ぎ込まれた。先ほど病院の方から連絡が掛かってきたよ」

 それでも平静を崩さない信一郎に、多少の疑問を抱く透。思わず、疑うような言葉が口を突いて出てしまう。

「……そこまで冷静なのは……丙良先輩の動向に何かしらアンタの作為が加わっているからか?」

「えッ……?」

「――と、言うと?」

「……基本的に学生ファーストでいてくれるアンタに、こんなこと言いたかねェけどよ。丙良先輩、千葉の一件から大分気を引きずってた。他でもねェ、信玄先輩をああなるまで止められなかったからだ。「強くなるには」なんて言葉で、単身突撃させたわけじゃあねえだろ……?」

 その透の疑心に溢れた一言に、息を一つつくとこちらの方に椅子を向けてコーヒーカップをテーブルの上に置く信一郎。その表情は今まで分からなかったものの、大分重苦しいものであった。

「――そんなこと言うはずないだろう。メンタルケアも教師の役目、私は真なる意味では教師ではないが……彼がずっと『救えなかったこと、未然に防げなかったこと』を悔いているのは重々理解していた。今度は私が……彼の行動を『未然に防げなかった』んだよ」



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 学園都市内の附属病院に運び込まれた丙良は、医者の診断を受けると――すぐにその医者の表情に陰りが現れる。多くの医者たちに囲まれた丙良は、そのまま別の場所へ運び込まれてしまったのだった。
「――一体、どういうことですの!? 丙良先輩は……」
「何か……良からぬことに巻き込まれた、ってのかよ」
 その院と透の疑問に、医者は苦虫を噛み潰したかのような表情で、診察結果を伝えるのだった。
「――|丙良慎介《ヘイラ シンスケ》君は……教会の騒ぎに巻き込まれたと見て、間違いないだろうね。現状関東地方の支部に関しては粗方壊滅傾向にあって、関東地方は安全であると思い込んでいたが……そこを突かれたんだろうね」
 丙良の体には、多くの傷跡が刻まれていた。そのため、一対一と言うよりは一体多と言う状況に見舞われた結果、堅固な|装甲《アーマー》を持ち合わせている丙良ですらあれほどのダメージを負ったのだ。
「でも、直近でそんな話題になるほど、教会に関する騒動があったわけではないはずですわ! 神奈川支部、埼玉支部、茨城支部、山梨支部は壊滅、千葉支部は穏健派であるっていうのに……!」
「まだ残ってんだろ、武闘派の支部が。それが……栃木支部って事だろ」
 腕を組んで医者の言葉を聞いていた透は、静かに言葉を紡ぎ出した。
「確か、新生山梨支部とのドンパチの時に、援護してくれたのが群馬支部。俺らもその恩恵に与った上で、戦場に馳せ参じた訳だ。元々、知識として入れてはいたが、群馬支部は本来の山梨支部、そして昨今の千葉支部と同様穏健派の支部長が頂点にいるからこそ、ある程度武闘派が悪さしすぎないようなバランスが取れていたんだ、よな」
「……教会」
「一般人であるアンタにはちょっと荒っぽい話にはなるが……俺らは基本的にテロリストじみたそいつらを鎮静、|悪事《わるさ》が過ぎれば壊滅させてる。ニュースとかでよく見るだろ? それが俺らと教会の確執、って訳だ」
 サングラス越しでも分かるほどに、神妙な面持ちの高梨。院はほんの少し平静を取り戻しながら、その場の二人に告げるのだった。
「――このことは、お父様に伝えましょう。まだ学園長室にいるかもしれませんわ」
「……ま、妥当だわな。けど、何でこの一般人まで連れて行くんだ?」
「――他でもない、関係者ですから」
 すぐさま病院を飛び出して、学園長室の扉を開け放つ院と透。そこには案の定仕事終わりの信一郎が存在し、優雅に夜の空を眺めながらのコーヒーブレイクと洒落込んでいた。
「お父様、実は今凄く厄介なことになっていまして……」
「――知っているよ、丙良くんが病院に担ぎ込まれた。先ほど病院の方から連絡が掛かってきたよ」
 それでも平静を崩さない信一郎に、多少の疑問を抱く透。思わず、疑うような言葉が口を突いて出てしまう。
「……そこまで冷静なのは……丙良先輩の動向に何かしらアンタの作為が加わっているからか?」
「えッ……?」
「――と、言うと?」
「……基本的に学生ファーストでいてくれるアンタに、こんなこと言いたかねェけどよ。丙良先輩、千葉の一件から大分気を引きずってた。他でもねェ、信玄先輩をああなるまで止められなかったからだ。「強くなるには」なんて言葉で、単身突撃させたわけじゃあねえだろ……?」
 その透の疑心に溢れた一言に、息を一つつくとこちらの方に椅子を向けてコーヒーカップをテーブルの上に置く信一郎。その表情は今まで分からなかったものの、大分重苦しいものであった。
「――そんなこと言うはずないだろう。メンタルケアも教師の役目、私は真なる意味では教師ではないが……彼がずっと『救えなかったこと、未然に防げなかったこと』を悔いているのは重々理解していた。今度は私が……彼の行動を『未然に防げなかった』んだよ」