その日の夜。灰崎と千尋は学園都市内のファミリーレストランにて食事の予定があるといって、二人きりになりたいという小さな願いを告げて、暗に院たちがそのファミレスによって欲しくないことを示していた。恋する男女が表にする表情をあまり見られたくないのだろうが、誰だって大体似たような表情であるため、そこまで気にすることは無かった。
それを気にして、自分よりも十歳年下の女子にそれを告げるあたり、色恋に関する経験が一切そこにないことが分かってしまったくらいだろうか。要らない
被弾を気にするがあまり、別角度からの
被弾に気付いていない大人という物は、こうも滑稽なのだ。
院と透は、その日「用事がある」と告げ二人と別れた、上田と渡部のことを少し気にしながらも、連絡橋を渡って夜の東京に繰り出そうとしていた。目的は、千葉の一件以来やきもきしながらもようやく成就した二人に対して、何かしらの贈り物を渡そうとしていたのだ。
ベタに二人で楽しめる長編ドラマであったり、口から砂糖が出てしまいそうなほど歯の浮く台詞のオンパレードである現代ラブソングのアルバムであったり。未だ二人は十八歳未満であるため、『別角度』の贈り物を渡せないために、そういった既定路線の物を探すべく東京に繰り出していたのだ。
「しっかし……ようやくあの二人もデキたな。こりゃあ明日から大人の恋愛がどうとかって同クラスの連中が騒ぐぞ?」
「そうですわね。そういう話題に関しては非常に伝達速度が速いですものね、思春期の男女という物は色恋の話を主食とする部分があるので」
そこで二人の間に巡るは、同じく色恋の話。もちろん、灰崎と千尋に関する話ではなく、お互いの物である。
「――そう言えば、院はどうなんだ? お前もお前で浮いた話ねェけど」
「それはそうですわ、私が気を預けても構わないという存在はまだ数少ないのですから。それにお父様がまず当人を認めてくれるか、と言う最難関の課題が存在する中で、そもそもそんな存在はそうそう居ない訳でして……そういう透は、どうなんですの?」
「俺は……礼安が気になってはいるけれどよ。でも……正直エヴァ先輩に敵わねェんだよな。最近、何の事情抱えてるかは知らねェけど会えてねェし。……避けられてんのかな」
実際、様々な事情を抱えている二人のことを、院と透は一切知らされていない。信一郎が奇跡的に察知できたというだけで、他の面子には一切知らされていないのだ。男性・女性陣問わず。血縁関係者である院も同じであるため、表面だけを撫でるような言葉しか出てこないのが事実。長い間会えていない事実に、どうも気が滅入ってしまう。
「――何か、悪ィな。こんな時に礼安のこと話題に出しちまって」
「いえ、透のせいと言うわけではありませんわ。それに……案外わかりやすいですし、透は」
「は、ハァアァァァァァッ?? そっそそそそそそそんなことねェしィ??」
「いえ随分分かりやすいですわ、透は。礼安と話している時、妙に頬が毎度の如く紅潮しているというか、鼻先がほんの少し赤らんでいるというか……」
「えッ嘘だろそんなになってるか!?」
墓穴を掘った透のことを、三日月を三つ並べたかのような笑みで見つめる院。思わず、顔を最高潮にまで真っ赤にしながら院の肩を黙ったまま殴るのみ。
しかし、そんな二人の暢気していた空気感が、突如として引き締まる。英雄の物に切り替わるまで、ほんの一瞬であった。
どこからともなく、女性の叫び声が聞こえてきたのだ。事件性を感じた二人は顔を見合せたうえで同時に頷き、その声の方へ駆けるのだった。
結果として、二人はその現場に辿り着くも、一番乗りと言うわけではなかった。その場に転がる多くの存在の傍には、二人。一人は院が見覚えのある黒ジャージ姿の女性であり、もう一人は二人の仲間である丙良であったのだ。
「――大丈夫、ですか」
「え、ええ大丈夫だけど……顔色悪いけれど、貴方こそ大丈夫?」
二人で寄ってたかる暴漢を倒したらしいが、丙良の様子がどうもおかしかったのだ。陰から様子を見つめる院と透だったが、入学時、あるいは入学前から彼を知っているからこそ、明らかに変であったのだ。
何かに思い詰めている様子、あるいは愛用の服だけでなく、それらが台無しになるほどの多くの傷跡の様子から、どこか別の場所へ向かっていたか。どちらにせよ、どうも気になって仕方がなかった院と透の二人は、すぐさま二人の元へ駆けよるのだった。
「丙良先輩!! どうなさいましたの!?」
「貴女は、この間の……! って、この男の子の知り合いかな!」
「まあ、そんな所だ! アンタが誰かは知らねェが、ちょっと近くにデカい病院があるんで、一緒について来てくれ! 事情を知りたい!」
高梨はほんの一瞬迷っていたものの、その透の咄嗟の提案に頷く。未だ透に対しては正体を明かしていないため、大きな騒ぎになることはないと判断した上での行動だった。
三人で何とか丙良を安全に運ぼうとするも、丙良の体は異様に熱を持っており、すぐさま額に手を当てる院。体感で、およそ四十度の熱を出していることが理解できたため、急を要するものであると理解できたのだった。