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第三百五十話

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 昼食後、学園祭準備だったり音楽(ミュージック)フェス参加者準備だったりのために、授業は通常よりも早く切り上げられ、一足早い放課後の時間と相成った。
 院は、多少なり回復した状態にて、上田と行動を共にしていた。彼の提案により、本番で用いる曲の選定を行うべく、東京都にまで向かい数多くの曲を品定め《テイスティング》していた。

「――そういえば、上田先輩はDJ(ディスクジョッキー)の経験がある、とか仰っていましたよね。それは基本的にどんな曲もマッシュアップできる、と言う認識で合っていますか?」

「そうだね、基本的にはどんなのも行けるゼ……♪ まあ忠義のビートを刻む上でどんな難題も些細なものだけどさッ!」

 器用に薔薇を咥えながら桔梗を一輪院に差し出す。よりにもよって店内で。それを冷徹にあしらうと、あるアルバムを手に取る。それは、著名なクラシックがふんだんに詰め込まれたもの。作曲者も編曲家も何もかも違うものの、その多くの可能性を試すことが可能な、煩雑なクラシックアルバムをチョイスしたのだ。

「おー、確かピアノと舞踏会用のダンスレッスンしていた、とか言ってたもんねぇ。こういうクラシック系統の曲の方がお好み?」

「よくご存じですわね、盗み聞きでもしました?」

「サラッと人のこと酷く言い過ぎじゃアないかなぁ!?」

「まさか。その『努力家』な部分、嫌いじゃアないですわ」

 その一言に、複雑な表情を見せる上田。褒められることに慣れていないのか、はたまた別の理由か。その詳しい理由が分からないまま、音楽店を後にする。
 音楽フェスだけではなく、学園祭の準備をするべく他の行き先を思考していた院であったが、上田が何かに気付いた様子で一瞬表情が強張る。

「……上田先輩?」

「あ、院ちゃん! ちょーっと別行動していいかな? サプライズをバラすようで心苦しいけど……君に捧げるプレゼントの準備に取り掛かりたくって」

「そんな物要りませんわ、気持ちだけで十分ですの」

 何かしらの引っ掛かるものを覚えた院であったが、どうも自分がここにいては「邪魔である」と思考した院は、その見え見えの嘘に敢えて乗っかることにした。

「――では、先に私は学園に戻っていますわ。後でサンプリングしながらダンスの大まかな流れを掴みにかかりますわよ」

「……ああ、その注文(オーダー)、承ったよ♪」

 実にちゃらんぽらんな立ち居振る舞いが、どうも張り付いて見えたのだった。その瞬間に、院は少々性格の悪い行動に出ることを決めたのだった。


 これまでの恰好のまま、遠目に見えていたある存在が上田の傍に寄る。それは、上田の中学時代の同級生、男三名であり、模範的な不良そのものであった。しかし上田はそれらの生徒と目を合わせることすらせず、どこか気まずそうな状態のまま接するのだった。

「よお、上田! 久しぶりじゃあねえの」

「そ、そうだな……。それこの間も言われた気がするけど」

「まあまあ細けェことどうでもいいじゃあねえの! 英雄(ヒーロー)の忠実なパートナーさんは俺らなんかよりも十分立場が上だから、俺らも辟易(ブル)ッちまうよ」

 気心の知れた中だろうと、度の超えた嫌味がその言葉の中に入っていることは上田も理解していた。しかし、それを諫めようとはしなかった。

「――そういやさ、俺らこれから飯行くんだけどさ……奢ってくんね? 最近金欠でさァ」

「……分かったよ、そういう『約束』だもんな」

 その場を離れる四人であったが、その後ろ程離れた位置を常時キープし続けながらつけていくは院。様子のおかしい上田を気に掛けての行動であったが、その疑問が解消されそうな中で、周りの男たちに気分を悪くしそうであった。
 会話、雰囲気、立ち居振る舞い。それら全てにおいて、お人よしの礼安ですら気分を害するほどの『悪意』が滲み出ていたのだ。

(――あの生産性の欠片もない不良たち、上田先輩を呼びつけて何するつもりでしょう)

 四人と一人、それらが向かった場所は近所のファミリーレストラン。店内に入り込んだ上田たちは、好き放題に料理を頼み始めたのだった。奢る当の本人に対しての礼儀も何もあったものじゃあない、本人らの胃のキャパシティなど度外視のメニュー選択であった。

「あ、俺らも食うけどこれ食うか?」

「――それ、俺苦手な奴入っているというか……」

「まあまあ。世間で話題の、英雄(ヒーロー)のパートナーさんに苦手とかあっちゃあならねえからな! 問答無用で頼むわ!」

(……何なんですの、あの不良(クソ)たち。人の意思なんて一切関係無し、ただの嫌がらせでしかないですわ)

 多量の注文した品物が届いてからも、その嫌がらせの波状攻撃は続く。上田も精神的に辛くなるのは目に見えているだろうに、その嫌がらせの数々を多少の弱音を吐きながらも受け入れていく。その受け身の体勢が、どこか院のよく知る存在を彷彿とさせ、心を痛ませる。

「――しかしよ、お前『なんかが』英雄学園に入れるとか、スゲェじゃん」

「あ、アハハ……まあね」

「なあなあ、お前のコネで中途入学させてくれよ! 確か最近元ヤクザが入ったって話でもちきりじゃあねえの」

「そ、それに関しては……詳しい話は俺も知らないというか……」

「は? 情弱とか噴飯(ウケ)んだけど」

 普通ならば、英雄(ヒーロー)あるいは武器(ウエポン)と一般人の間には、多少なり尊敬の心が存在する。確かに「守ってもらって当然」と考えるような恩知らずは一定数存在するが、その中でもまた一定数、尊敬と畏怖の念を抱き接する者も自ずと存在する。抽選確率の低い宝くじに当選した人間を目の当たりにするような、そんな感覚である。
 しかし、上田の同級生であるその存在三名は、尊敬でも恩知らずでもない、ただ単純に害する対象として見ているのだ。俗に言う『いじめ』、その現場を院は目の当たりにしているのだった。
 思い返すは、幼少期の頃の記憶。当時の院は、今よりも多少なりふくよかな子供であった。真来財閥の令嬢として、度を越えた寵愛をその一身に受けていたために、今でも恥ずかしく思うほどに自分に甘かった。結果的に、当時姉妹であることを理解していなかった礼安に庇われたものの、その後礼安にいじめの矛先が向かっていったのを知り、幼子ながらに院は激昂した。
 その結果、院は知った。人間は、どこまで行っても誰かを身勝手に害する、欠陥構造の存在する生き物である。無意識下においても、意識した上でも誰かを害し続ける。前者ならまだ多少救いはあるが、後者ならば排他行為を行う存在はもれなく人間の屑同然であることは、これまでの人生経験において重々理解した。
 そして、今まさに上田を詰る存在は――人間の屑である。救いようのない存在である。すぐさま出でて、状況の改善を図ろうとした。しかし、そこである言葉を耳にしてしまうのだった。


「――本当、著名な英雄の因子が眠っているとか言って、『イキった昔のお前』はお笑いもんだったよ」

「『こんな無能』でも、英雄学園に入れるんだ! 俺ら入ったら将来ウハウハ間違いねぇっしょ!!」

「所詮、お前は『人殺し』でしかないんだよ!!」


 それらの言葉を投げかけられた瞬間、上田の心は音を立てて壊れた。だんだんと青ざめていき、次第に過呼吸を起こすようになってしまった。その様子を面白がって写真や動画に収めていた存在に、遂に院の怒りが頂点に達した。
 困った表情のウェイターにある内容の文言を言って聞かせ、店内から客を全員退出させた。店長が院に対し頭を下げる中、次第に拳に熱が籠っていく。
 どんな屑であれ、自身の近くに存在する猛者の気配には敏感に気付く。その大雑把な予測通り、不良三人は院の方を見やる。しかしどうも生物としての生存本能は鈍いようで、あからさま激昂(キレ)ている院を見てもなお、無許可で写真を取ろうとしていた。

「お、あの可愛い女知ってるぜ俺! ちょくちょく有名になる英雄学園一年次の最強格! 結構前からコマしてみたかったんよなァ」

「ねぇねぇそこの女! 俺らとお茶しない? こいつパシリにさせるからさ!」

「アレ、何だか知らねェけどスマホが熱暴走してる気がすっぜ……?」

 院に気付いた上田は、これまで見せたことの無い恐怖の表情を見せていた。取り繕っていた自分の表情以外を見せてしまった気恥ずかしさに、これまでにないほど院が激昂している恐怖。全てひっくるめて、何とか収めようとしていたのだが、院が手を掛けたテーブルが融解し不良等の足元に溶け落ちる。
 咄嗟に足を引っ込めて回避、そして口々に汚い言葉を掛けたものの、そこまでして自分に迫る危険に気づいていない存在には『灸を据える』必要性があった。


「――貴方がたには、これまでにないほどの『熱』を感じさせてあげますわ。大丈夫、殺しはしないのでそこは安心してくださいまし。ただ――『結果的に死んでしまった』のならご安心くださいませ、真来財閥が……如何なる証拠も揉み消して見せますとも」


 その瞬間、あらかじめ超高温によって融解させておいたテーブルの数々を不良等を取り囲むようにして小さなドームを作り上げる。ソファが連鎖的に溶け堕ちた結果、上田を救出しドームの外に去る院。
 内に取り残されたのは、不良三人のみ。時限式で熱は収まるようにしてあるものの、『少なくとも服を脱がなければ』どうしようもないだろう。あらかじめ店主には「変態が三名ほど現れる『かも』知れませんので、わいせつ物陳列罪でも何でも辱めを与えた後しょっ引いてくださいまし」とだけ伝えていた。

「――大丈夫ですの、上田先輩」

「……格好悪いところ、見せちゃったかな」

 後ろでは自らの悪事に対する断末魔が響き渡る中、二人はそのファミリーレストランを後にした。テーブルの弁償代をポケットマネーで支払った上で。



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 昼食後、学園祭準備だったり|音楽《ミュージック》フェス参加者準備だったりのために、授業は通常よりも早く切り上げられ、一足早い放課後の時間と相成った。
 院は、多少なり回復した状態にて、上田と行動を共にしていた。彼の提案により、本番で用いる曲の選定を行うべく、東京都にまで向かい数多くの曲を品定め《テイスティング》していた。
「――そういえば、上田先輩は|DJ《ディスクジョッキー》の経験がある、とか仰っていましたよね。それは基本的にどんな曲もマッシュアップできる、と言う認識で合っていますか?」
「そうだね、基本的にはどんなのも行けるゼ……♪ まあ忠義のビートを刻む上でどんな難題も些細なものだけどさッ!」
 器用に薔薇を咥えながら桔梗を一輪院に差し出す。よりにもよって店内で。それを冷徹にあしらうと、あるアルバムを手に取る。それは、著名なクラシックがふんだんに詰め込まれたもの。作曲者も編曲家も何もかも違うものの、その多くの可能性を試すことが可能な、煩雑なクラシックアルバムをチョイスしたのだ。
「おー、確かピアノと舞踏会用のダンスレッスンしていた、とか言ってたもんねぇ。こういうクラシック系統の曲の方がお好み?」
「よくご存じですわね、盗み聞きでもしました?」
「サラッと人のこと酷く言い過ぎじゃアないかなぁ!?」
「まさか。その『努力家』な部分、嫌いじゃアないですわ」
 その一言に、複雑な表情を見せる上田。褒められることに慣れていないのか、はたまた別の理由か。その詳しい理由が分からないまま、音楽店を後にする。
 音楽フェスだけではなく、学園祭の準備をするべく他の行き先を思考していた院であったが、上田が何かに気付いた様子で一瞬表情が強張る。
「……上田先輩?」
「あ、院ちゃん! ちょーっと別行動していいかな? サプライズをバラすようで心苦しいけど……君に捧げるプレゼントの準備に取り掛かりたくって」
「そんな物要りませんわ、気持ちだけで十分ですの」
 何かしらの引っ掛かるものを覚えた院であったが、どうも自分がここにいては「邪魔である」と思考した院は、その見え見えの嘘に敢えて乗っかることにした。
「――では、先に私は学園に戻っていますわ。後でサンプリングしながらダンスの大まかな流れを掴みにかかりますわよ」
「……ああ、その|注文《オーダー》、承ったよ♪」
 実にちゃらんぽらんな立ち居振る舞いが、どうも張り付いて見えたのだった。その瞬間に、院は少々性格の悪い行動に出ることを決めたのだった。
 これまでの恰好のまま、遠目に見えていたある存在が上田の傍に寄る。それは、上田の中学時代の同級生、男三名であり、模範的な不良そのものであった。しかし上田はそれらの生徒と目を合わせることすらせず、どこか気まずそうな状態のまま接するのだった。
「よお、上田! 久しぶりじゃあねえの」
「そ、そうだな……。それこの間も言われた気がするけど」
「まあまあ細けェことどうでもいいじゃあねえの! |英雄《ヒーロー》の忠実なパートナーさんは俺らなんかよりも十分立場が上だから、俺らも|辟易《ブル》ッちまうよ」
 気心の知れた中だろうと、度の超えた嫌味がその言葉の中に入っていることは上田も理解していた。しかし、それを諫めようとはしなかった。
「――そういやさ、俺らこれから飯行くんだけどさ……奢ってくんね? 最近金欠でさァ」
「……分かったよ、そういう『約束』だもんな」
 その場を離れる四人であったが、その後ろ程離れた位置を常時キープし続けながらつけていくは院。様子のおかしい上田を気に掛けての行動であったが、その疑問が解消されそうな中で、周りの男たちに気分を悪くしそうであった。
 会話、雰囲気、立ち居振る舞い。それら全てにおいて、お人よしの礼安ですら気分を害するほどの『悪意』が滲み出ていたのだ。
(――あの生産性の欠片もない不良たち、上田先輩を呼びつけて何するつもりでしょう)
 四人と一人、それらが向かった場所は近所のファミリーレストラン。店内に入り込んだ上田たちは、好き放題に料理を頼み始めたのだった。奢る当の本人に対しての礼儀も何もあったものじゃあない、本人らの胃のキャパシティなど度外視のメニュー選択であった。
「あ、俺らも食うけどこれ食うか?」
「――それ、俺苦手な奴入っているというか……」
「まあまあ。世間で話題の、|英雄《ヒーロー》のパートナーさんに苦手とかあっちゃあならねえからな! 問答無用で頼むわ!」
(……何なんですの、あの|不良《クソ》たち。人の意思なんて一切関係無し、ただの嫌がらせでしかないですわ)
 多量の注文した品物が届いてからも、その嫌がらせの波状攻撃は続く。上田も精神的に辛くなるのは目に見えているだろうに、その嫌がらせの数々を多少の弱音を吐きながらも受け入れていく。その受け身の体勢が、どこか院のよく知る存在を彷彿とさせ、心を痛ませる。
「――しかしよ、お前『なんかが』英雄学園に入れるとか、スゲェじゃん」
「あ、アハハ……まあね」
「なあなあ、お前のコネで中途入学させてくれよ! 確か最近元ヤクザが入ったって話でもちきりじゃあねえの」
「そ、それに関しては……詳しい話は俺も知らないというか……」
「は? 情弱とか|噴飯《ウケ》んだけど」
 普通ならば、|英雄《ヒーロー》あるいは|武器《ウエポン》と一般人の間には、多少なり尊敬の心が存在する。確かに「守ってもらって当然」と考えるような恩知らずは一定数存在するが、その中でもまた一定数、尊敬と畏怖の念を抱き接する者も自ずと存在する。抽選確率の低い宝くじに当選した人間を目の当たりにするような、そんな感覚である。
 しかし、上田の同級生であるその存在三名は、尊敬でも恩知らずでもない、ただ単純に害する対象として見ているのだ。俗に言う『いじめ』、その現場を院は目の当たりにしているのだった。
 思い返すは、幼少期の頃の記憶。当時の院は、今よりも多少なりふくよかな子供であった。真来財閥の令嬢として、度を越えた寵愛をその一身に受けていたために、今でも恥ずかしく思うほどに自分に甘かった。結果的に、当時姉妹であることを理解していなかった礼安に庇われたものの、その後礼安にいじめの矛先が向かっていったのを知り、幼子ながらに院は激昂した。
 その結果、院は知った。人間は、どこまで行っても誰かを身勝手に害する、欠陥構造の存在する生き物である。無意識下においても、意識した上でも誰かを害し続ける。前者ならまだ多少救いはあるが、後者ならば排他行為を行う存在はもれなく人間の屑同然であることは、これまでの人生経験において重々理解した。
 そして、今まさに上田を詰る存在は――人間の屑である。救いようのない存在である。すぐさま出でて、状況の改善を図ろうとした。しかし、そこである言葉を耳にしてしまうのだった。
「――本当、著名な英雄の因子が眠っているとか言って、『イキった昔のお前』はお笑いもんだったよ」
「『こんな無能』でも、英雄学園に入れるんだ! 俺ら入ったら将来ウハウハ間違いねぇっしょ!!」
「所詮、お前は『人殺し』でしかないんだよ!!」
 それらの言葉を投げかけられた瞬間、上田の心は音を立てて壊れた。だんだんと青ざめていき、次第に過呼吸を起こすようになってしまった。その様子を面白がって写真や動画に収めていた存在に、遂に院の怒りが頂点に達した。
 困った表情のウェイターにある内容の文言を言って聞かせ、店内から客を全員退出させた。店長が院に対し頭を下げる中、次第に拳に熱が籠っていく。
 どんな屑であれ、自身の近くに存在する猛者の気配には敏感に気付く。その大雑把な予測通り、不良三人は院の方を見やる。しかしどうも生物としての生存本能は鈍いようで、あからさま|激昂《キレ》ている院を見てもなお、無許可で写真を取ろうとしていた。
「お、あの可愛い女知ってるぜ俺! ちょくちょく有名になる英雄学園一年次の最強格! 結構前からコマしてみたかったんよなァ」
「ねぇねぇそこの女! 俺らとお茶しない? こいつパシリにさせるからさ!」
「アレ、何だか知らねェけどスマホが熱暴走してる気がすっぜ……?」
 院に気付いた上田は、これまで見せたことの無い恐怖の表情を見せていた。取り繕っていた自分の表情以外を見せてしまった気恥ずかしさに、これまでにないほど院が激昂している恐怖。全てひっくるめて、何とか収めようとしていたのだが、院が手を掛けたテーブルが融解し不良等の足元に溶け落ちる。
 咄嗟に足を引っ込めて回避、そして口々に汚い言葉を掛けたものの、そこまでして自分に迫る危険に気づいていない存在には『灸を据える』必要性があった。
「――貴方がたには、これまでにないほどの『熱』を感じさせてあげますわ。大丈夫、殺しはしないのでそこは安心してくださいまし。ただ――『結果的に死んでしまった』のならご安心くださいませ、真来財閥が……如何なる証拠も揉み消して見せますとも」
 その瞬間、あらかじめ超高温によって融解させておいたテーブルの数々を不良等を取り囲むようにして小さなドームを作り上げる。ソファが連鎖的に溶け堕ちた結果、上田を救出しドームの外に去る院。
 内に取り残されたのは、不良三人のみ。時限式で熱は収まるようにしてあるものの、『少なくとも服を脱がなければ』どうしようもないだろう。あらかじめ店主には「変態が三名ほど現れる『かも』知れませんので、わいせつ物陳列罪でも何でも辱めを与えた後しょっ引いてくださいまし」とだけ伝えていた。
「――大丈夫ですの、上田先輩」
「……格好悪いところ、見せちゃったかな」
 後ろでは自らの悪事に対する断末魔が響き渡る中、二人はそのファミリーレストランを後にした。テーブルの弁償代をポケットマネーで支払った上で。