表示設定
表示設定
目次 目次




第三百四十七話

ー/ー




 翌日のこと。礼安とエヴァは何も言えないもどかしさを抱えながら、英雄学園を休むことにした。それに、嘘が吐けない、あるいは嘘が嫌いな二人だからこそ、察されてしまうことを考えた結果の行動であった。学園長である父親に、直々に長期間の休みを貰うことを言い伝えると、信一郎は特に理由を聞くことなくそれを承諾した。

「ぱ、パパ……理由聞かなくていいの?」

『無論だとも。基本的にそういった事案には理由が必要だが……きっと礼安のことだ、何かしら『厄介ごと』に首を突っ込んでしまった結果、どう身を振るべきかを考えた結果だろう?』

 まさに図星。エヴァも礼安も言い淀んでしまう。察する力とそれを咀嚼し理解する力が、これまでの経験によりかなり培われてきた信一郎であるため、詮索も追及も無意味であることを知っている。
 それに、相手は年端もいかぬ子供であり異性。こういった存在の対応に悩まされるはずの『父親』は、辛い経験から全てにおいての正解を知っているのだ。

『ま、事が終わったら関わったこと、あるいは関わってしまったこと……全て聞かせてよ。多少なり心の負担は軽くしてあげられるかもしれないからね』

「――学園長」

 何かに気付いた信一郎は明石に目配せをすると、そこに保持していたのは……以前にも世話になった『救助証明書』を取り出したのだ。そこに一か月ほどの長期スパンにて課外活動を行う、その間の授業の欠席に関しては一切不問とする旨が記されているため、言い方と現在置かれている状況に対しては不適切であるかもしれないが、合法でのサボりが許可された瞬間である。

『頑張っておいで、お二人さん。何があろうと、私は真面目な生徒の味方だよ』

 そう微笑した信一郎は、自らテレビ通話を切ったのだった。


「――良かったんですか、学園長」

「本来なら良い訳ないさ。埼玉の一件含め、これでずる休み予備軍二度目だ」

 信一郎は椅子の背もたれに深く身を預けながら、深い溜息を吐く。以前の埼玉での一件は、結果的に『天音透と子供たちの無事を確保できた』と言う具体的な『結果』が存在するまでは、基本的に因果関係が成立しない。救助証明書も、そこまで長期スパンになるような案件を一年次に任せるだなんてことは通常有り得ない。
 しかし、嘘のつけない礼安とエヴァの表情を見る限り、埼玉の一件よりも大きな『ヤマ』にぶつかってしまった結果、学園祭を捨ててそちらに立ち向かうしかなくなった、何よりもの証拠。基本的に冷静な信一郎であったが、多少なり親としての情が湧いてしまった。
 だが、その先に待つものが信じがたいほどの莫大な得物であるならば、その可能性に欠けるのもやぶさかではない。実の娘と許嫁(いいなずけ)のような存在を一人、そこに向かわせるのは非情かもしれないが、エヴァの隠されたサインを信一郎は見逃さなかった。
 それは、救助証明書を提示する少し前のタイミング。エヴァはメモに走り書きのようなもので、モールス信号を記していたのだ。それをほんの一瞬、卓越した動体視力を保有する信一郎ならば分かるほどの一瞬のみ画面に映したのだ。あれだけ勘の鋭い礼安であっても気づけなかったほどに、一瞬だけ映したのだ。
 そこに記されていたのは――『ふたりだけ これがじょうけん』。実に拙い文章であったが、それだけでも充分。彼女らが首を突っ込んでいる案件が、ほんの一瞬だけで理解できたのだ。

「恐らくだけど……何かしら『人質を取られている』可能性がある。その犯人に『二人だけで学園祭時どこかに集まれ』とでも言われているんだ。ま、戦力の分散を考えているのだろうけど……そんなこと考えそうなのは――」

「カルマ、と言うことですか」

その通り(That's right)。策は基本的に相手の嫌がる行動をするのが鉄則だからね、学園祭の時に大勢のVIPが集まるこの英雄学園を――襲撃しようとでもしているんだろうね」

「敵としてみなす計算の中に、一年次最強の存在たる礼安さん、そして二年次武器(ウエポン)科最強たるエヴァさんを入れさせないために、何かを企んでいるんですか」

 ほんの一瞬にて理解できた内容で、二人の置かれている状況の考察を進める信一郎たち。それがある程度完全的中しているのが、二人の末恐ろしいコンビネーションの賜物である。

「だが、カルマのことだ。アイツはやると決めたら『やる』。仮に二人が出向かないなんて選択を取ったら……その瞬間にアイツは予期せぬ行動に出る。だから、あの二人が取った行動としては……最適解に近いものだったんだ」

 救助証明書に署名しつつ、それを明石に何気なしに手渡す信一郎。その隅に記されていたのは、丸の中に『教』の文字。英雄学園内において、『教会が関わっている案件に出向く』という、簡易な秘密の暗号であった。

「マルキョウ案件……前回もしれっと記しておいたから、先生方の追及を振り切ることが出来たからさ、今回も擦ってみようと思って」

「でも、実際にそうなんですから、大丈夫ですよ。何を言われようと正しいことをしているんですから、我々は」



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第三百四十八話


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…




 翌日のこと。礼安とエヴァは何も言えないもどかしさを抱えながら、英雄学園を休むことにした。それに、嘘が吐けない、あるいは嘘が嫌いな二人だからこそ、察されてしまうことを考えた結果の行動であった。学園長である父親に、直々に長期間の休みを貰うことを言い伝えると、信一郎は特に理由を聞くことなくそれを承諾した。
「ぱ、パパ……理由聞かなくていいの?」
『無論だとも。基本的にそういった事案には理由が必要だが……きっと礼安のことだ、何かしら『厄介ごと』に首を突っ込んでしまった結果、どう身を振るべきかを考えた結果だろう?』
 まさに図星。エヴァも礼安も言い淀んでしまう。察する力とそれを咀嚼し理解する力が、これまでの経験によりかなり培われてきた信一郎であるため、詮索も追及も無意味であることを知っている。
 それに、相手は年端もいかぬ子供であり異性。こういった存在の対応に悩まされるはずの『父親』は、辛い経験から全てにおいての正解を知っているのだ。
『ま、事が終わったら関わったこと、あるいは関わってしまったこと……全て聞かせてよ。多少なり心の負担は軽くしてあげられるかもしれないからね』
「――学園長」
 何かに気付いた信一郎は明石に目配せをすると、そこに保持していたのは……以前にも世話になった『救助証明書』を取り出したのだ。そこに一か月ほどの長期スパンにて課外活動を行う、その間の授業の欠席に関しては一切不問とする旨が記されているため、言い方と現在置かれている状況に対しては不適切であるかもしれないが、合法でのサボりが許可された瞬間である。
『頑張っておいで、お二人さん。何があろうと、私は真面目な生徒の味方だよ』
 そう微笑した信一郎は、自らテレビ通話を切ったのだった。
「――良かったんですか、学園長」
「本来なら良い訳ないさ。埼玉の一件含め、これでずる休み予備軍二度目だ」
 信一郎は椅子の背もたれに深く身を預けながら、深い溜息を吐く。以前の埼玉での一件は、結果的に『天音透と子供たちの無事を確保できた』と言う具体的な『結果』が存在するまでは、基本的に因果関係が成立しない。救助証明書も、そこまで長期スパンになるような案件を一年次に任せるだなんてことは通常有り得ない。
 しかし、嘘のつけない礼安とエヴァの表情を見る限り、埼玉の一件よりも大きな『ヤマ』にぶつかってしまった結果、学園祭を捨ててそちらに立ち向かうしかなくなった、何よりもの証拠。基本的に冷静な信一郎であったが、多少なり親としての情が湧いてしまった。
 だが、その先に待つものが信じがたいほどの莫大な得物であるならば、その可能性に欠けるのもやぶさかではない。実の娘と|許嫁《いいなずけ》のような存在を一人、そこに向かわせるのは非情かもしれないが、エヴァの隠されたサインを信一郎は見逃さなかった。
 それは、救助証明書を提示する少し前のタイミング。エヴァはメモに走り書きのようなもので、モールス信号を記していたのだ。それをほんの一瞬、卓越した動体視力を保有する信一郎ならば分かるほどの一瞬のみ画面に映したのだ。あれだけ勘の鋭い礼安であっても気づけなかったほどに、一瞬だけ映したのだ。
 そこに記されていたのは――『ふたりだけ これがじょうけん』。実に拙い文章であったが、それだけでも充分。彼女らが首を突っ込んでいる案件が、ほんの一瞬だけで理解できたのだ。
「恐らくだけど……何かしら『人質を取られている』可能性がある。その犯人に『二人だけで学園祭時どこかに集まれ』とでも言われているんだ。ま、戦力の分散を考えているのだろうけど……そんなこと考えそうなのは――」
「カルマ、と言うことですか」
「|その通り《That's right》。策は基本的に相手の嫌がる行動をするのが鉄則だからね、学園祭の時に大勢のVIPが集まるこの英雄学園を――襲撃しようとでもしているんだろうね」
「敵としてみなす計算の中に、一年次最強の存在たる礼安さん、そして二年次|武器《ウエポン》科最強たるエヴァさんを入れさせないために、何かを企んでいるんですか」
 ほんの一瞬にて理解できた内容で、二人の置かれている状況の考察を進める信一郎たち。それがある程度完全的中しているのが、二人の末恐ろしいコンビネーションの賜物である。
「だが、カルマのことだ。アイツはやると決めたら『やる』。仮に二人が出向かないなんて選択を取ったら……その瞬間にアイツは予期せぬ行動に出る。だから、あの二人が取った行動としては……最適解に近いものだったんだ」
 救助証明書に署名しつつ、それを明石に何気なしに手渡す信一郎。その隅に記されていたのは、丸の中に『教』の文字。英雄学園内において、『教会が関わっている案件に出向く』という、簡易な秘密の暗号であった。
「マルキョウ案件……前回もしれっと記しておいたから、先生方の追及を振り切ることが出来たからさ、今回も擦ってみようと思って」
「でも、実際にそうなんですから、大丈夫ですよ。何を言われようと正しいことをしているんですから、我々は」