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第三百四十六話

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 同じ音楽の才無しであるエヴァと組んでいた礼安。あまりにもこれまでと勝手の違う催し事、その準備に四苦八苦しながら、やっと一息付けたために二人で休憩時間にありついた。

「――エヴァちゃん、『ちありーでぃんぐ』ってこんなに難しいんだね……」

「一応アメリカ式なので、本場ではあるんですが……いかんせん私が経験ないもので映像資料から覚えることしかできず……」

 音楽と多少なりかけ離れている気がしないでもないのだが、礼安とエヴァに残された道は、礼安は体をある程度動かしながら出来るもので、エヴァはそれの補助(サポート)、と言う分かりやすいもの。しかし、二人とも律動(リズム)感の欠片も無いためそもそもが壊滅的。学業の成績に関わらない、とはいえ、どうも居心地が悪い。
 しかし、戦いに関してだったらあれだけ動ける二人であるのにも拘らず、音楽がそこに関わってしまうと途端に駄目になってしまう。不思議なものであり、似た者同士である。

「あと一か月弱残されているとはいえ……どう身を振るかっていうのは困り果てました。ここまで地盤が整っていないとなると……学園祭方面に全振りしていった方が……」

 もはや諦めムードな中、礼安がネットの海を彷徨って上達法を探ろうとしている中――ある宛先から着信が入る。電話番号は記されておらず、非通知設定の状態で掛かってきていた。二人は静かに頷き合い、礼安がその電話に出ることに。エヴァは同時進行的に逆探知を目論んだ。

「――誰?」

『やあやあ、私はカルマ。今丁度栃木県にいるんだ。丁度良い遊園地もあることだし……礼安と付き添い一名までだったら一緒に遊ぼうよ。そこでなら、どんなことだって聞いていいよ』

 思わぬ人物からの思わぬ誘いに、礼安は驚愕の表情でエヴァを見つめる。彼女は位置情報の逆探知を試みながらも、「絶対にその誘いには乗ってはいけない」と神妙な面持ちで首を横に振った。

「……私たち、忙しいんだ。色々やるべき事があるし」

『ま、そうだよねぇ。急な連絡だった、ってのもあるし……そうだなあ、じゃあ学園祭当日――その日に集合って形ならどうだい?』

(――礼安さん、電話代わっても宜しいでしょうか)

 そう静かに語り掛けるエヴァの手元では、しっかり逆探知が成功していた。宣言通り、栃木県の観光名所の一つ、『那須ハイランドパーク』が現在地として記されている。礼安はほんの少しの逡巡の後、電話をスピーカー状態にしてエヴァに渡した。

「――電話を代わりました、エヴァですが……貴女のその提案に乗ることは残念ながらできません。何しろ、こっちは割と学園祭が楽しみなので。数少ない友人との交流の機会を邪魔してほしくないんですよ」

『そっかぁ……それは残念。もしこの誘いに乗ってくれれば――学園祭時に『なぜか』兵隊が押し寄せることは無いだろうに』

「……それは、私たちを脅している、と捉えて良いんですね?」

『あ、そういう風に受け取ってしまったかい? それはそれは……大正解だよ。だけど、その裏側にはもう一つ、私の意図が隠されていること……ご存じかな』

「――私たちがその時に那須ハイランドパークに行けば……想定以上の被害が生まれることは無い、と」

 電話越しでも理解できるほどの、薄気味悪い笑み。礼安とエヴァは、助け船など見込めない東京から程離れた土地に、人質として出向く以外に道は無かったのだ。二人も、要らぬ被害は与えたくない、自己犠牲の精神を持ち合わせていたために、渋々二人は頷いた。

『あ、ちなみにこの電話内容を誰かに伝えようとしても、それは約束を反故(ほご)にされた……って事で当日の兵隊は『なぜか』増えることになる。あと数日後にそちらに栃木支部の連中が顔見せにやってくるだろうけど……その時に手出しした瞬間、それも同様の扱いを取るよ』

 この一件において、学園祭当日の被害を甚大にしないためにも、二人は人質として出向くことが確定事項となった。誰に喋ってもアウト、数日後の顔見せにも手出し無用。多少なり不信感を煽るにも、そして行き場のない鬱屈した感情を演出するうえでも、これ以上にないほどの脚本(シナリオ)であった。

『その代わり……そっちが約束を守ってくれて、那須ハイランドパークで共に遊んでくれるのなら……私とある一名は約束をしっかり守る。それに、仕向ける予定の兵隊も向かわせないし、私が話せる範囲内で全ての『真実』を話してあげようじゃあないか。何かの偶然を装って襲撃、だなんて(こす)い真似もしない、文字通りの人質であり、私が支払うべき代償さ。『善吉君』なら、きっと兵隊を仕向けただろうけどねェ』

 二人が思い返すは、千葉での一件。最後の最後、信玄と殴り合いによる一騎打ちを果たした後、謎に消失してしまった来栖善吉。その後の行方を、礼安たちは知らない。その行方だったり、これまでの行動の理由だったり、聞きたいことは山ほど存在する。
 そこでその靄を提案するために、エヴァに断りを入れ電話を代わる礼安。

「――じゃあ、私達も色々と聞きたいことがあるんだ。それを聞いても……そして答えてもらっても構わないかな」

『無論だよ。今の一年次、二年次の最強の二人がそのタイミングで戦場から居なくなってくれるのなら、飛車角行(にまい)落ちの状況としては実に素晴らしいものだ。そんな状況に自ら陥ってくれるんだ、その礼として……いくらでも受け付けよう、そして答えようじゃあないか』

 言質を取った二人は静かに頷き、その『遊びの誘い』に対し、礼安が早急に返答するのだった。

「――なら、その約束……受けるよ。でも勘違いしないで欲しい、貴女のためじゃあない、皆のために私たちは人質になりに行くよ」

『人質だなんて人聞きが悪いなあ。でも……ありがとう――『私の礼安』』


 その時から、二人の中で共通の隠し事が出来たのだった。



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 同じ音楽の才無しであるエヴァと組んでいた礼安。あまりにもこれまでと勝手の違う催し事、その準備に四苦八苦しながら、やっと一息付けたために二人で休憩時間にありついた。
「――エヴァちゃん、『ちありーでぃんぐ』ってこんなに難しいんだね……」
「一応アメリカ式なので、本場ではあるんですが……いかんせん私が経験ないもので映像資料から覚えることしかできず……」
 音楽と多少なりかけ離れている気がしないでもないのだが、礼安とエヴァに残された道は、礼安は体をある程度動かしながら出来るもので、エヴァはそれの|補助《サポート》、と言う分かりやすいもの。しかし、二人とも|律動《リズム》感の欠片も無いためそもそもが壊滅的。学業の成績に関わらない、とはいえ、どうも居心地が悪い。
 しかし、戦いに関してだったらあれだけ動ける二人であるのにも拘らず、音楽がそこに関わってしまうと途端に駄目になってしまう。不思議なものであり、似た者同士である。
「あと一か月弱残されているとはいえ……どう身を振るかっていうのは困り果てました。ここまで地盤が整っていないとなると……学園祭方面に全振りしていった方が……」
 もはや諦めムードな中、礼安がネットの海を彷徨って上達法を探ろうとしている中――ある宛先から着信が入る。電話番号は記されておらず、非通知設定の状態で掛かってきていた。二人は静かに頷き合い、礼安がその電話に出ることに。エヴァは同時進行的に逆探知を目論んだ。
「――誰?」
『やあやあ、私はカルマ。今丁度栃木県にいるんだ。丁度良い遊園地もあることだし……礼安と付き添い一名までだったら一緒に遊ぼうよ。そこでなら、どんなことだって聞いていいよ』
 思わぬ人物からの思わぬ誘いに、礼安は驚愕の表情でエヴァを見つめる。彼女は位置情報の逆探知を試みながらも、「絶対にその誘いには乗ってはいけない」と神妙な面持ちで首を横に振った。
「……私たち、忙しいんだ。色々やるべき事があるし」
『ま、そうだよねぇ。急な連絡だった、ってのもあるし……そうだなあ、じゃあ学園祭当日――その日に集合って形ならどうだい?』
(――礼安さん、電話代わっても宜しいでしょうか)
 そう静かに語り掛けるエヴァの手元では、しっかり逆探知が成功していた。宣言通り、栃木県の観光名所の一つ、『那須ハイランドパーク』が現在地として記されている。礼安はほんの少しの逡巡の後、電話をスピーカー状態にしてエヴァに渡した。
「――電話を代わりました、エヴァですが……貴女のその提案に乗ることは残念ながらできません。何しろ、こっちは割と学園祭が楽しみなので。数少ない友人との交流の機会を邪魔してほしくないんですよ」
『そっかぁ……それは残念。もしこの誘いに乗ってくれれば――学園祭時に『なぜか』兵隊が押し寄せることは無いだろうに』
「……それは、私たちを脅している、と捉えて良いんですね?」
『あ、そういう風に受け取ってしまったかい? それはそれは……大正解だよ。だけど、その裏側にはもう一つ、私の意図が隠されていること……ご存じかな』
「――私たちがその時に那須ハイランドパークに行けば……想定以上の被害が生まれることは無い、と」
 電話越しでも理解できるほどの、薄気味悪い笑み。礼安とエヴァは、助け船など見込めない東京から程離れた土地に、人質として出向く以外に道は無かったのだ。二人も、要らぬ被害は与えたくない、自己犠牲の精神を持ち合わせていたために、渋々二人は頷いた。
『あ、ちなみにこの電話内容を誰かに伝えようとしても、それは約束を|反故《ほご》にされた……って事で当日の兵隊は『なぜか』増えることになる。あと数日後にそちらに栃木支部の連中が顔見せにやってくるだろうけど……その時に手出しした瞬間、それも同様の扱いを取るよ』
 この一件において、学園祭当日の被害を甚大にしないためにも、二人は人質として出向くことが確定事項となった。誰に喋ってもアウト、数日後の顔見せにも手出し無用。多少なり不信感を煽るにも、そして行き場のない鬱屈した感情を演出するうえでも、これ以上にないほどの|脚本《シナリオ》であった。
『その代わり……そっちが約束を守ってくれて、那須ハイランドパークで共に遊んでくれるのなら……私とある一名は約束をしっかり守る。それに、仕向ける予定の兵隊も向かわせないし、私が話せる範囲内で全ての『真実』を話してあげようじゃあないか。何かの偶然を装って襲撃、だなんて|狡《こす》い真似もしない、文字通りの人質であり、私が支払うべき代償さ。『善吉君』なら、きっと兵隊を仕向けただろうけどねェ』
 二人が思い返すは、千葉での一件。最後の最後、信玄と殴り合いによる一騎打ちを果たした後、謎に消失してしまった来栖善吉。その後の行方を、礼安たちは知らない。その行方だったり、これまでの行動の理由だったり、聞きたいことは山ほど存在する。
 そこでその靄を提案するために、エヴァに断りを入れ電話を代わる礼安。
「――じゃあ、私達も色々と聞きたいことがあるんだ。それを聞いても……そして答えてもらっても構わないかな」
『無論だよ。今の一年次、二年次の最強の二人がそのタイミングで戦場から居なくなってくれるのなら、|飛車角行《にまい》落ちの状況としては実に素晴らしいものだ。そんな状況に自ら陥ってくれるんだ、その礼として……いくらでも受け付けよう、そして答えようじゃあないか』
 言質を取った二人は静かに頷き、その『遊びの誘い』に対し、礼安が早急に返答するのだった。
「――なら、その約束……受けるよ。でも勘違いしないで欲しい、貴女のためじゃあない、皆のために私たちは人質になりに行くよ」
『人質だなんて人聞きが悪いなあ。でも……ありがとう――『私の礼安』』
 その時から、二人の中で共通の隠し事が出来たのだった。