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第三百四十五話

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 そしてその暢気した雰囲気を切り裂くように、同時進行的にある物事が動いていたのだった。
 他でもなく、灰崎に喧嘩を売った元英雄科一年二組、現英雄科一年六組の男は――栃木に渡っていたのだった。その理由は、他でもなくこの場に出向くよう教会構成員に伝えられたためである。元々栃木の出である男は、音楽(ミュージック)フェスに向けてのチームを組むなど悠長なことをするわけではなく、今後のために出向いていたのだ。
 そして、とある場に存在する栃木支部、複数ある入り口の一つから地下道に入り込む。道中が複雑な迷路となっている中で辿り着くは、とある巨大な温泉施設。複数の一般客でごった返す中、裏道を通って行った結果少数精鋭の構成員が存在する基地フロアに辿り着く。
 緊張している様子の男を嘲笑うのは、支部長の席に座る男。口元がビタミン不足なのか多少デキモノによって荒れているものの、それ以外は権力者として最低限の高価な装飾品を身に纏った、得体の知れない男であった。

「――それで、英雄学園の長にバレて、今こうしている……と」

「申し訳ありません……和氣さん」

 和氣和弘(ワキ カズヒロ)。この名で知るものは片手で数えるほどしか居ないのだが、もう一つの名を知れば、誰もがその存在に驚愕する。元々、それほどの存在であったのだが、自分自身でその名を捨てた。偽りの名であり、本名で教会の支部にて活躍している。

「まあいいさ、そろそろ『半年』になるお前にも……コレ渡しといた方が良いだろうと思ってな」

 男に手渡すは、チーティングドライバー。元々デバイスドライバーにて変身資格のある存在であるため、暴走の可能性は限りなく低い。それに、当人の力に対する執着心、そして現状の英雄学園内にいて育まれた劣等感を見込み、新たな異形(じぶん)になれる力を渡したのだ。

「ああ……! 有難うございます、和氣さん……!」

「なあに。あと少しで様子見がてら攻め入る用事があってな。その時のための景気付けだ。お前は怪人の姿のまま攻め入れば、直接的な裏切りに見える確率は低いだろ」

 深く座り込んだ椅子から立ち上がり、テーブルの上に存在した巨大なトマホークステーキを片手に握りしめ、すぐさま骨ごと噛み砕く。

「そろそろ、栃木支部の地位を上げにかかるぞ、お前ら。軟弱かつ保守的な精神なぞ要らない……社会的弱者による革命の狼煙を挙げてやろうじゃあないか」

 和氣に賛同するは、四名の幹部。しかし四名の幹部全員がその意見に賛同しきっている訳ではなかった。
 それもそのはず、茨城支部同様栃木支部は比較的設立が新しい支部であり、結束力はそこまで無い。それこそ、関東地方に存在する支部内において、二番目に新しい支部であるために、神奈川支部ほどの結託力は無い。
 各々が持ち合わせた主義主張が弱いわけではない。しかし、こうまでして叶えたいものがあるのか、と思い込んでしまうほどにはカルマの呪縛は存在しないのだ。

「――何躊躇(ひよ)ってんだ手前(テメェ)等! 俺らは俺らを害し、排他した『上』に存在する連中を引きずりおろすために動いてんだろうが!! これまで好きにされた怒りを、苦しみを、全て『害する』ことに費やすべきだろうが!!」

 それでも煮え切らない態度の幹部一人に対して、手を上げようとした和氣。しかし、その手を何者かが掴む。咄嗟に払おうとするも、女の手であるはずなのに尋常でないほどの膂力で引き戻される。まるで複数の腕に掴まれているような、得体の知れない薄気味悪い感覚であった。
 和氣の背後には、フードを目深に被った教会の祖たる存在――カルマがある存在を引き連れやってきていたのだ。

『こらこら、暴力による支配は何も生まないって、再三言っているだろうに。君は随分怒りん坊さんだねェ』

「――カルマ、さん」

 毒気を抜かれた和氣を除く、幹部四名がその場に跪く。その信心深さに心からの礼を返すと、皆和氣ではなくカルマの方に視線が行く。

『何、今回私がこうして出向いたのは他でもなくね……和氣君とか言ったかな、ようやく君に力が渡される目途がついてね。せっかくの機会だし……このタイミングで戴冠式(たいかんしき)と洒落込もうかなと思ってね』

「……やっとかよ。随分遅かったじゃあねえの、教祖サマ」

『もー、結構本部からここ来るの面倒なんだからね? きちんと有難がって力を振るうように、ね?』

 手渡された魔力の塊が、和氣の体内にアメーバのように流動し、そのまま吸い込まれていく。感じられる力の奔流、その名も……『暴食』。しかし、それだけではないように感じられたのだ。何かしらの不純物、と言うほどではないものの、化合物と形容した方が正しいような別物質が、巧妙に入り込んでいるような感覚であった。

『今回、ちょーっと時間が掛かっちゃってね。そのお詫びと言っては何だけど、君も多少なり知る存在から力をほんの少しだけ拝借したのさ。後々返す予定ではあるけれど、ね』

「――この気味悪く渦巻く感覚……もしかして」

『そ。恐らく君の推察通り……私が思う関東地方最弱の支部長、『グラトニー』から『強欲』の力を担えるエッセンスを頂戴したのさ。今現在おとなしく刑務所に収監されている彼から、力の三割を貰って来たんだ。どうせ獄中で使う当てもないだろうし、って』

 三割を「ほんの少しだけ」と語ったカルマに内心驚愕するも、その力を体中に巡らせる。これまでチーティングドライバーを使役するだけでは得られなかった、『それ以上』の気迫が和氣をさらに漲らせる。

『君の望みは……確かテレビ業界への復讐だったかな。入信した時に熱弁していたのを思い出したよ。今の君は……十分やり返せるほどにちゃんとしているんじゃあないかな』

「だろうな。だがよ……新生山梨支部が少し前に英雄学園の少数精鋭の部隊に潰された、って聞いたぜ。どうやら一年坊にライセンス三枚持ちのバケモノが現れた、とかよ」

『ああ、超過能力(オーバースペック)の存在に関しては私に策がある。なんせ、『この子』がそれに大いに寄与してくれるだろうからね』

 カルマの背後から現れた存在は、その場の人間すべて、一切の面識のない存在。しかし醸し出すオーラは、カルマに似たようなものであった。薄気味悪い笑みを浮かべながら、カルマを除くその場の全員に、大会前の選手宣誓の如く、高い声でありながら底冷えのする声で言い放つのだった。


「私に任せてもらえれば――あれだけの馬鹿力を持った瀧本礼安(タキモト ライア)は……どうとでもなりますよ」



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 そしてその暢気した雰囲気を切り裂くように、同時進行的にある物事が動いていたのだった。
 他でもなく、灰崎に喧嘩を売った元英雄科一年二組、現英雄科一年六組の男は――栃木に渡っていたのだった。その理由は、他でもなくこの場に出向くよう教会構成員に伝えられたためである。元々栃木の出である男は、|音楽《ミュージック》フェスに向けてのチームを組むなど悠長なことをするわけではなく、今後のために出向いていたのだ。
 そして、とある場に存在する栃木支部、複数ある入り口の一つから地下道に入り込む。道中が複雑な迷路となっている中で辿り着くは、とある巨大な温泉施設。複数の一般客でごった返す中、裏道を通って行った結果少数精鋭の構成員が存在する基地フロアに辿り着く。
 緊張している様子の男を嘲笑うのは、支部長の席に座る男。口元がビタミン不足なのか多少デキモノによって荒れているものの、それ以外は権力者として最低限の高価な装飾品を身に纏った、得体の知れない男であった。
「――それで、英雄学園の長にバレて、今こうしている……と」
「申し訳ありません……和氣さん」
 |和氣和弘《ワキ カズヒロ》。この名で知るものは片手で数えるほどしか居ないのだが、もう一つの名を知れば、誰もがその存在に驚愕する。元々、それほどの存在であったのだが、自分自身でその名を捨てた。偽りの名であり、本名で教会の支部にて活躍している。
「まあいいさ、そろそろ『半年』になるお前にも……コレ渡しといた方が良いだろうと思ってな」
 男に手渡すは、チーティングドライバー。元々デバイスドライバーにて変身資格のある存在であるため、暴走の可能性は限りなく低い。それに、当人の力に対する執着心、そして現状の英雄学園内にいて育まれた劣等感を見込み、新たな|異形《じぶん》になれる力を渡したのだ。
「ああ……! 有難うございます、和氣さん……!」
「なあに。あと少しで様子見がてら攻め入る用事があってな。その時のための景気付けだ。お前は怪人の姿のまま攻め入れば、直接的な裏切りに見える確率は低いだろ」
 深く座り込んだ椅子から立ち上がり、テーブルの上に存在した巨大なトマホークステーキを片手に握りしめ、すぐさま骨ごと噛み砕く。
「そろそろ、栃木支部の地位を上げにかかるぞ、お前ら。軟弱かつ保守的な精神なぞ要らない……社会的弱者による革命の狼煙を挙げてやろうじゃあないか」
 和氣に賛同するは、四名の幹部。しかし四名の幹部全員がその意見に賛同しきっている訳ではなかった。
 それもそのはず、茨城支部同様栃木支部は比較的設立が新しい支部であり、結束力はそこまで無い。それこそ、関東地方に存在する支部内において、二番目に新しい支部であるために、神奈川支部ほどの結託力は無い。
 各々が持ち合わせた主義主張が弱いわけではない。しかし、こうまでして叶えたいものがあるのか、と思い込んでしまうほどにはカルマの呪縛は存在しないのだ。
「――何|躊躇《ひよ》ってんだ|手前《テメェ》等! 俺らは俺らを害し、排他した『上』に存在する連中を引きずりおろすために動いてんだろうが!! これまで好きにされた怒りを、苦しみを、全て『害する』ことに費やすべきだろうが!!」
 それでも煮え切らない態度の幹部一人に対して、手を上げようとした和氣。しかし、その手を何者かが掴む。咄嗟に払おうとするも、女の手であるはずなのに尋常でないほどの膂力で引き戻される。まるで複数の腕に掴まれているような、得体の知れない薄気味悪い感覚であった。
 和氣の背後には、フードを目深に被った教会の祖たる存在――カルマがある存在を引き連れやってきていたのだ。
『こらこら、暴力による支配は何も生まないって、再三言っているだろうに。君は随分怒りん坊さんだねェ』
「――カルマ、さん」
 毒気を抜かれた和氣を除く、幹部四名がその場に跪く。その信心深さに心からの礼を返すと、皆和氣ではなくカルマの方に視線が行く。
『何、今回私がこうして出向いたのは他でもなくね……和氣君とか言ったかな、ようやく君に力が渡される目途がついてね。せっかくの機会だし……このタイミングで|戴冠式《たいかんしき》と洒落込もうかなと思ってね』
「……やっとかよ。随分遅かったじゃあねえの、教祖サマ」
『もー、結構本部からここ来るの面倒なんだからね? きちんと有難がって力を振るうように、ね?』
 手渡された魔力の塊が、和氣の体内にアメーバのように流動し、そのまま吸い込まれていく。感じられる力の奔流、その名も……『暴食』。しかし、それだけではないように感じられたのだ。何かしらの不純物、と言うほどではないものの、化合物と形容した方が正しいような別物質が、巧妙に入り込んでいるような感覚であった。
『今回、ちょーっと時間が掛かっちゃってね。そのお詫びと言っては何だけど、君も多少なり知る存在から力をほんの少しだけ拝借したのさ。後々返す予定ではあるけれど、ね』
「――この気味悪く渦巻く感覚……もしかして」
『そ。恐らく君の推察通り……私が思う関東地方最弱の支部長、『グラトニー』から『強欲』の力を担えるエッセンスを頂戴したのさ。今現在おとなしく刑務所に収監されている彼から、力の三割を貰って来たんだ。どうせ獄中で使う当てもないだろうし、って』
 三割を「ほんの少しだけ」と語ったカルマに内心驚愕するも、その力を体中に巡らせる。これまでチーティングドライバーを使役するだけでは得られなかった、『それ以上』の気迫が和氣をさらに漲らせる。
『君の望みは……確かテレビ業界への復讐だったかな。入信した時に熱弁していたのを思い出したよ。今の君は……十分やり返せるほどにちゃんとしているんじゃあないかな』
「だろうな。だがよ……新生山梨支部が少し前に英雄学園の少数精鋭の部隊に潰された、って聞いたぜ。どうやら一年坊にライセンス三枚持ちのバケモノが現れた、とかよ」
『ああ、|超過能力《オーバースペック》の存在に関しては私に策がある。なんせ、『この子』がそれに大いに寄与してくれるだろうからね』
 カルマの背後から現れた存在は、その場の人間すべて、一切の面識のない存在。しかし醸し出すオーラは、カルマに似たようなものであった。薄気味悪い笑みを浮かべながら、カルマを除くその場の全員に、大会前の選手宣誓の如く、高い声でありながら底冷えのする声で言い放つのだった。
「私に任せてもらえれば――あれだけの馬鹿力を持った|瀧本礼安《タキモト ライア》は……どうとでもなりますよ」